9月下旬から10月上旬にかけて、「
中央アジア+日本」対話 第9回東京対話ウィークリーイベント 「知られざる中央アジア:その魅力と日本との絆」(外務省主催,独立行政法人国際交流基金,筑波大学,東京大学,東京外国語大学の共催)が開催されています。
音楽祭やシンポジウムは、なぜか平日の日中という多くの人にとっては行きにくい日程ですが、「中央アジアミニ映画祭」は夜間開催。「明りを灯す人」(キルギス)、「True Noon」(タジキスタン)は以前観ており、今回観たかったのはキルギス映画「山嶺の女王クルマンジャン」(2014年)、「アンダー・ヘヴン」(2015年)。東京・駒場会場にて観ることができました。ずっしり見応えがありましたよ〜。内容を忘れないうちに、備忘録的なブログアップにて失礼します。

(キルギスにて。クルマンジャンでも、馬と人は常に一体だった/orientlibrary)
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<重厚!キルギス歴史スペクタクル 「山嶺の女王クルマンジャン」>
・・・・・ 19世紀、中央アジアにおいてキルギス人の誇りを貫いた高地民族の女王クルマンジャン。山岳地帯に生まれ育ち、「神と長が決めた」男と結婚するも婚家の男達の情けなさ、酷さに我慢ならず脱出。運命の出会いからクルグズタン南部アライ地方のダトカ(部族長)、温厚で聡明なアルムベクと結婚。しかし部族間抗争は絶え間なく、コーカンド・ハン国によりアルムベクが暗殺される。指導力と人望のあったクルマンジャンがダトカになる。ロシアは中央アジアに南下、やがてアライを支配する。これに抵抗する部族民の抗争が続くなか、クルマンジャンは二人の息子を喪う。それでもなお、キルギスの部族の誇りを守り抜き、96歳で逝去。その波乱万丈の一生を実話を基に製作した映画。
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アジアフォーカス・福岡国際映画祭上映後のQ&Aより
・国家的プロジェクトで政府の支援もあり、キルギス社会全体の後押しがあって出来た作品
・予算は150万ドルあり、メインプロデューサーを務めたのは現役の女性国会議員
・クルマンジャン生誕200周年に向けて、彼女にちなんだ映画をつくろうと社会的に影響のある文化人の間で動きがあった
・91年の独立後、あまり映画は製作されていなかったので、今作は大きな挑戦だった
・監督は以前、キルギスの首相だった人物。しかし、監督のプロではないのでロシアの映画学校で一から勉強した
・19世紀の中央アジアの女性の地位は男性よりもはるかに低く、周辺の国々もそうだった
・キルギス国民なら誰でも知っている女王クルマンジャンはキルギス南部で生まれた初の女王
・キルギスでは昔から男性は息子を教育する、女性は国民を教育する、と言われている。クルマンジャンはまさにその一例
・ドキュメンタリーではなく実話を基に製作されたものであり、映画化にあたっては脚色もあるが抽象的な表現も見てほしい
・激動の時代を生きたクルマンジャンダトカの肖像はキルギスの紙幣にもなっている

(映画の中でのコーカンド・ハン国は衰亡期。写真は現在のコカンド/orientlibrary)
■イスラムアート紀行 感想
* 2時間超、緊張感が高いまま、ドキドキハラハラ。濃厚な歴史スペクタクル。国をあげての総力製作、守り抜いたキルギスの誇り、美しくも峻険な自然の景、役者さんたちの渾身の役作り。見応え。次回機会があれば、天幕や生活用品などじっくりと見たい。もう一度見たい!
*映画中、 唯一ホッとできたのは、天幕の中でのコムズ(キルギスの弦楽器)の演奏シーン。それだけ。想像するに、クルマンジャン、というよりも当時のかの地の人々の暮らしは、同様に緊張感の高いものだったのでは。部族間抗争は絶え間なく、周辺のハン国、大国の影も常にある。戦と隣り合わせの日々は、さぞやきびしいものだったでしょう。
* 「男の子を授けてください」と夫婦がシャーマン(?)に願う冒頭シーン。続いて、でっち上げの姦通を名目に女性への石打刑あわやという場面では「女の証言など当てにならん」。「女は家畜じゃない!」というクルマンジャンの叫び。部族社会での女性の地位の低さ、というか、男達のやりたい放題。いい加減にしろよ!と怒鳴り込みたくなります。イスラームは女性を差別する、と言われますが、元々の部族社会の慣習という面は大きいと感じます。
* ハラハラの合間には、画面の中のフェルトや山岳民族の衣装を楽しみました。青のスッキリした衣服がカッコいいと思ったらブハラからの使者、赤のチャバンはブハラのアミールでした。ブハラの衣服が都会的?でカッコ良く映りました。&口琴の響きはなぜか崖のシーンに合う。ウエスタン映画連想?
* 激動の日々を生き抜き、96歳という長寿を全うしたクルマンジャン。まさにキルギスの母ですね。女性も活躍する市民社会、民主主義の国をうたう現在のキルギス。英雄の中でも女性をテーマにすることは、内外へのメッセージなのかなとも感じました。

(タイル主役のブログなので、こちらを。コカンドのパレス、ファサードのタイル装飾/orientlibrary)
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<キルギスの自然の中、息詰る心理劇 「アンダー・ヘヴン」>
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SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016WEBサイトより(下記のあらすじ↓)
・・・・・ 中央アジアの荒涼とした大地を舞台に描く、キルギス版「カインとアベル」。反抗的なケリムと良心的なアマンの二人の兄弟は、石工の仕事をしながら母と暮らしている。父親はケリムの借金のため、出稼ぎに出ていた。二人が一人の少女サルタナに恋をしたことから、悲劇が起こる。『エデンの東』のモチーフにもなったと言われている、旧約聖書「創世記」に登場する人類最初の殺人の加害者と被害者とされるカインとアベルのストーリーを、キルギスの広大な地で墓石の採石をする兄弟の物語に置き換えた、女性監督ダルミラ・チレプベルゲノワの野心作。

(映画でも重要なモチーフであった石人、映画にも登場したイシククル湖/orientlibrary)
■東京・駒場での上映後のQ&Aより
・石人とは=戦で負けた人を讃えるために作られるもの。映画のラストでは善と悪という意味ではないか。
・旧約聖書のカインとアベルがモチーフとのことだが=キルギスにもキリスト教徒(ロシア正教)はいる。 (*イスラムアート紀行思うに、普遍的なテーマであり、採石場という光景と合ったのかな?)
■イスラムアート紀行 感想
* 心理劇は苦手と思いましたが、最後まで緊張感を持って観ました。石人について、鉱物資源、冠婚葬祭の慣習、地方と都会の格差、ロシアへの出稼ぎなど、ストーリーの中で臨場感を持って伝わりました。
* 民族衣装は多くないけれど、フェルト、キリム、葦の工芸、石彫りなどを、たっぷり見ることができました。
* イスラムアート紀行のテーマである「タイル」が、かの地では富裕層向けの商品であり、ケリムが「街に行ってタイルを作れるように稼いで来る(お父さんにタイルの仕事をさせてあげたい)」というようなことを言っていたのが印象的。

(映画では荒涼とした採石場の景色が多かったけれど、自然がゆたかなキルギス/orientlibrary)
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中央アジア関連イベント、この間、グッと増えてきました。「中央アジア文化祭」をおこなった2年半前はまだまだ、なかった。検索しても「中央アジア文化祭」(イベント及びfacebookページ=現在非公開=)がトップに出てきてしまって、、複雑でした。今はいろいろあります!!状況、変わりましたね!!
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(コカンドのタイル/orientlibrary)