フェルガナのマザール 信仰のなかの青

以前ご紹介した「シャーヒ・ジンダ墓廟群」(サマルカンド)、「アフマド・ヤサヴィー廟」(カザフスタン・トルケスタン)、「ビービー・シャビンディー」(パキスタン・ウッチュ)なども聖者廟です。私は豪壮な建築物よりも、むしろ趣きのある聖者廟のタイルにより惹かれる傾向があるのでは、と思うことがあります。 (墓廟建築については「サーマーン廟とソルタニエ」。豪華な廟については「シーア派聖地・ゴム」)に書いています。)

◆ 「マザール」って何? ◆
最近、「マザール」という言葉を聞くようになりました。研究者の国際会議もありました。このとき発表された研究の成果と思われる『中央アジアのイスラーム聖地〜フェルガナ盆地とカシュガル地方』(「シルクロード学研究28」)を先日発見。さっそく購入しました。
マザールとは? ・・・「アラビア語で<訪れるべき場所>を意味し、そこから通例、参詣の対象となる聖者の墓、聖者廟をさすようになった」(『中央ユーラシアを知る事典』/平凡社)。やや広く「聖地」のことを指すときもあるようです。


◆ 冥界と現世をつなぐマザール ◆
祀られる聖者って? ・・・「イスラーム世界で聖者とみなされるのは、預言者とその血筋に連なる者、預言者の教友や歴史上の偉人、スーフィー教団のシャイフ(導師)、そしてイスラーム以前の預言者や英雄などで、理想的な人格をそなえ特別な力によって人びとに恩恵をほどこしてくれる存在であった。そうした聖者が葬られた場所であるマザールは、いわば冥界と現世をつなぐ窓口であった」(『中央ユーラシアを知る事典』)・・・。
民間信仰との関係は? ・・・「マザールは、参詣者の願いをかなえてくれるものであったから、民衆の願望を具現化する表現とも言え、イスラーム化以前からの信仰の対象となっていた物や場所が、マザールとして参詣地となる場合もあった」(『中央ユーラシアを知る事典』)。何か素朴な強さを感じるのは、そのせいなのかな?

◆ フェルガナのマザール ◆
マザールの規模は? ・・・「聖地には、単に墓地のなかの墓、もしくは廟ひとつからなっている単独型から礼拝所、修道場、儀式室などを備え、樹木や泉池をともなう、日本の神社の境内のような大きな敷地を持つ複合型まで、大小さまざまなヴァリエーションがある」(「シルクロード学研究28」)・・・。日本の寺社と同じ感じですね。
フェルガナでは復興機運も ・・・「ソ連時代にはマザールはモスクと並んで弾圧の対象とされたため、必要な修復が行われず、多くのマザールが崩壊を免れなかった。しかし一方で、村や町のマハッラ(街区)の中でのみ知られる小さなマザールも無数に存在し、一部は現在、修復、建て直しなどが行われ始め、復興の兆しもある」(『中央ユーラシアを知る事典』)。

フェルガナ地方は、イスラムの信仰の篤い地域。経済的には豊かとは言えないかもしれませんが、マザールやモスクを美しく修復する姿のなかにも、強く、かつ自然なかたちで息づく信仰を感じます。そして修復をおこなうのが、中世からの伝統を受け継ぐ陶芸の職人さんたちであること、従来の文様だけでなく現代の表現に挑戦していることが、強く私の心に響きます。