イスラムアート紀行

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中世のディテールの美。東トルコ・勝手にコラボ第2弾

ディテールに惹かれます。もちろんタイルが一番好き。でも石、木、漆喰などに施された装飾を美しいと思います。写真の上から3点は、前々回のアニ遺跡、崩れ落ちたアルメニア教会に残る石彫りの細工。アルメニアのディテールは、繊細でありながらも強い求心力があるように思います。

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(アニ遺跡・アルメニア教会ディテール)

さて今回も、前回のヴァン編に引き続き "勝手にコラボレーション"with村上春樹!「」内は著書『雨天炎天』からの引用です。

「旅行というのは本質的には、空気を吸い込むことなんだろう」「おそらく記録は消えるだろう。絵はがきは色褪せるだろう。でも空気は残る」「トルコの空気の不思議さは、どこの空気の質とも違っていた」。

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(アニ遺跡・アルメニア教会ディテール)

「我々は“トルコ”“トルコ人”という時、それを普通単一の国家、単一の民族として捉えているわけだが、実際に回ってみると、その地域ごとの差の大きさに驚かされることになる。トルコは地域的にはっきりといくつかの顔に分かれている」。

村上さんは感触として、次の5つの部分に分けています。
 1:ヨーロッパ側トルコ=トラキア地方 
 2:イスタンブール 
 3:ソ連・イラン・イラク国境方面=東部アナトリア 
 4:シリア国境から地中海にかけて=中部アナトリア 
 5:地中海・エーゲ海沿岸   

「トルコのそういったいくつかの地域のどこがいちばん面白かったか?もちろんいちばんひどい東部アナトリアだ」「毎日朝から晩まで我々は頭にきたり、消耗したり、毒づいたり、冷や汗を流したりしていた」=今回ご紹介している東トルコの一部です。個人で回れば、いろんなことが起きそうだということは、私にも容易に想像できます。

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(アニ遺跡・アルメニア教会ディテール)

けれども、「そこには独特の空気があり、手応えがあった。人々には存在感があり、彼らの目はいきいきとした光を放っていた。それはヨーロッパや日本ではまずお目にかかれない鮮やかで暴力的な光だった。ややこしい留保事項のない、そこにあるものそのまま全部という目だった」「早く言えば出鱈目だった。でもそこには旅行の醍醐味というものがあった」。

イスラム圏や中東に惹かれる人には、上のくだりが親しみを持って読めるかもしれません。きれいなところはいくらでもあるのに、わざわざ大変な思いをして出かけていく。楽しいことばかりではない。でも、光景や人々の存在感が圧倒的に強く、重い。そんななかでは、よくも悪くも自分の輪郭を感じられる気がします。

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(エルズルムのタイル)

タイルはあまり見ることができませんでした。上の写真は数少ないエルズルムのタイル。13〜14世紀のメドレセや霊廟が立ち並ぶ一角があり、その装飾の一部です。濃い茶色にターコイズブルーがくっきりとしています。素朴ですが、タイル装飾が開花し始めた時期ならではの力強さを感じます。

ちなみに、これだけ引用しておいてなんですが、私は村上春樹さんの大ファンというのではありません。遠い昔、『ノルウエイの森』を読んで、私の本ではない、と思いました。『アンダーグラウンド』は5分の1くらいで挫折。ただ、東トルコから帰って、関連の本を読みたいと思って調べましたが、超少なくて、、。『雨天炎天』は臨場感があり、文庫本(新潮文庫)なのもうれしいです。
by orientlibrary | 2006-04-02 20:01 | 中東/西アジア

部族絨毯を愛する会、イラクの絨毯に会いに行く

●愛する絨毯を求めてどこまでも、「部族絨毯を愛する会」、今回はイスラム美術〜西アジアの服飾文化の専門家D先生のお宅にうかがいました。建築雑誌に登場しそうな素敵なお家に、デーツ(なつめやし)やらカンボジアンデザートやらを携えて、どやどやとお邪魔したのです。年末の忙しい時期、迎え入れてくださった先生に感謝! どうもありがとうございました。

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●メンバーは、【トルクメンに魅せられた紳士な化学者、M氏】【M氏をあたたかく(時にはきびしく?)見守るM夫人】【アジアの布コレクター(夏にみんなで押しかけて拝見した素晴らしいコレクション)、刺繍家のMMさん】【元サーファー転じて、西アジアの砂漠を絨毯求め駆け巡るサンダー(雷じゃないです、砂乗りの意)Sさん】【イタリアで絨毯修復を学んだ才色兼備、絨毯界のマドンナSさん】【西南アジアの音楽と図像を探し求めて山岳地帯から孤島まで、スカラーMさん】【絨毯好きが嵩じて自らも織り手に転じ難解な模様にも果敢に挑戦する絨毯エンシュージアスト(夢中人)Tさん】という濃い面々。

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●まずD先生が見せてくださったのは、イラクの刺繍。明るくカラフルで自由な柄が楽しい。鳥や動物や花がたくさん。見ているとだんだん形が見えてくるのが、こういう柄の面白さ。どういう部族のどんな精神世界が表されているのかな。

●続いて、イラクの絨毯。バラの花模様のキリム(コメント1番めのtribeさんが詳しい説明をしてくださいましたのでご参照ください)は華やかで強い美しさ。一方、縞のキリムはモダンで粋。イラクを巡る報道は暗い気持ちになるものばかり。こんなに手仕事が豊かな人たちなのに。とても悲しく残念。

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●私は絨毯は発展途上人以前の原始段階なので、絨毯好きの面々の行動を見ているのが好き。とにかく触る。裏を見る。織りの構造を読む。土(ツチ)族は土ものを嘗めたりするけど、絨毯はさすがにそこまではしないようだが、人目がない場合は・・・?そんな勢いがあります・・

●続いてM氏のトルクメン絨毯のお話。トルクメンは、印象的な濃い赤色に黒や茶色などの「ギュル」と呼ばれる模様を織り込んだ密度の高い絨毯で有名。ヨーロッパなどにファンが多く市場が形成されており、一部の絨毯は数百万円レベルの価格だとか・・。知的、芸術的な男性が熱狂的に好きになることが多いみたいだ。絨毯原始人の私には、ちょっと読み解くのがむつかしい。もっとたくさん絨毯を見たら、だんだんわかってくるのかもしれない。そんなことを思いながら皆さんの話を聞く。先生のご専門である美術館の展示の話でも盛り上がった。

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●このように人と話をさせてもらうことが、私の勉強。D先生、皆さん、ありがとうございました。日の暮れた海沿いの道を、わいわいと帰った楽しい一日でした。流浪の集まり「部族絨毯を愛する会」、次回はどこへ?!あなたの街へ?!

*写真は、上から順に 1:裏をじっくり見る 2:イラクの刺繍の一部(部族名は不明) 3:バラの花模様のキリム(イランのクルド族ではないかとSさん=下記コメント) 4:絨毯を拝見する面々  
「イランという国で」さんの,12月25日、26日、「カシャーンの絨毯」について詳細に報告されています。大変貴重なレポートだと思います。 
by orientlibrary | 2005-12-26 01:24 | 絨緞/天幕/布/衣装

タイルににじみ出る インド・イスラムのDNA?!?

●今日は超〜!まじめに!研究編です〜!前回、久しぶりにラホールの写真を開いて、ムガル、ムガルと騒いでいた頃の私を思い出しました。<ムガル=インド(国)×イスラム(宗教)×中央アジア(出自)×ペルシャ(文化的影響)=好きなテイスト>って感じで。端正なタージマハル、優雅なムガルガーデン、華麗な植物模様、繊細な更紗、優美な工芸。インド・イスラムには、本当に美しいものがたくさんあります。そう思うと、やはりラホールのタイルだけでは片手落ちのような気がしてきました。

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●写真(上)は、ラジャスターンの宮殿をホテルにした「サマードパレス」の広間〜廊下に描かれた壁画の花模様。壁画には、地面から立ち上がる草花や灌木、風になびく花木、樹木などのさまざまな植物模様、そして鳥、アラベスクなどが、隙間なく描かれています。ムガルです。

●前回記事のラホールのタイルのモチーフはこのような壁画と重なります。しかし、残念ながら色の組み合わせにちぐはぐ感があるのは否めないと思います。

●写真(中)は、タージマハルの優美さを象徴する貴石、色石の象嵌です。真っ白の大理石に刻まれた可憐な花模様やアラベスクこそ、ムガルの工芸の神髄だと思います。

●そして前回気がついたのは、ムガルのタイルはこの象嵌の手法にのっとって作られたのではないかということ。時代的にはタージマハルはラホールの建造物より10〜20年くらい後(1654)なのですが、それ以前からアグラの建造物に象嵌は見られ(1626/イティマード・アッタウラ廟)、それはラホール・フォートのタイル装飾(1631)よりも前になります。

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●インド建築について数々の名著を書いていらっしゃる神谷武夫さんによると、「インドの主要な建築は石造であるにもかかわらず、木造的な原理で建てられている」「インド建築は木造起源であって、中世に石造建築が主流になってもなお、木造的な架構と表現に執着した」「石を木のように使い続けた」と分析(神谷さんHPより)されています。

ラホールのタイルは、ムガルの壁画を象嵌の感覚で作ったように思えます。写真(下)は、ウズベキスタンの「アブドウアリアジズハーン」のマドラサのモザイクタイル装飾(1651)で、ムガルインドの影響を受けて作られたものです。また、ムルタンでもラホールの影響の花模様のタイルが見られます。でも、何か違う。

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●ウズベクのタイルは密度があり精緻で、いかにもタイルモザイクだし、ムルタンのものはいわゆる絵付けタイルで、一枚のタイルに絵を描いたものです。つまり、もともとの花模様をタイルで表現するには、タイルなりの手法があったのではないでしょうか。それをラホールでは、象嵌的なものを引きずっておこなったような気がします。

●そこに、神谷先生が指摘されるような、インドの「体にしみこんだ美感覚の方が重要」というような独自の感性が反映したのか。それともタイルや陶芸の技術や土、焼成温度の限界があったのか??

しかーし!!(正気にかえって)、ド素人の私の浅薄な推測です。学術的裏付けは、いつものようにありません。こういうのって、いつか赤面なんだろうなあ・・・でも、気になって見比べてしまうんですよね。これが「業」ってものでしょうかあ?!かるま。

*写真は、(上)サマードパレス壁画(奥行きがなく、こんな角度でしか撮れなかった)、(中)タージマハルの花模様の象嵌(『TAJMAHAL』/ABBEVILEEPUBLISHINGより引用)、(下)ムガルの影響を受けたウズベキスタンのタイルモザイク例(『The Art of the Islamic Tiles』/Flammarionより引用)
by orientlibrary | 2005-12-15 03:14 | ムルタン・蒼のタイル

聖なるブハラ 太陽に向かう鳥

「ナディル・ディヴァン・ベギのマドラサ」(ブハラ)

「生きている、湧いている、大きな眼である太陽」・・・“ブハラ”という名前をはじめて意識したのは、94年に開催された「中央アジア映画祭」(国際交流基金)で「聖なるブハラ」という映画を観たとき。サディコフというウズベキスタンの監督の、重さのある幻想的な世界にショックを受けました。

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91年にソ連から独立した中央アジア5カ国は、思い起こせば、この頃にようやく語られ始めたと思います。映画祭のパンフレットは「中央アジアの基礎知識」から始まり、チラシには「世界の映画史に急浮上する中央アジア映画群」と記されています。私もまったく白紙の状態で観ただけに、ほんとにドカンときましたね〜・・・

中央アジアの映画は、1920年代から30年代盛んだったソ連の映画製作から学び、「映画という製品を生産する工場」として各共和国に撮影所が設置されていたといいます。サディコフ監督はタルコフスキーやエイゼンシュタインの弟子など大物に師事。しかし検閲はきびしく、幻想的なサディコフ作品は何度も没収や上映禁止の憂き目にあっています。

前置きが長くなりました。今日のタイルはブハラの幻想的な鳥と太陽のタイルです。1622年に建造された「ナディル・ディヴァン・ベギのマドラサ(神学校)」のファサード・アーチの上部を飾る大胆な模様。タイル自体は近年修復されたものでピカピカした印象ですが、図案はオリジナルであり、勢いがあります。

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抽象的な文様しかないと思われているイスラムデザインですが、サマルカンドにはライオンの絵柄もあるし、イランなどには人物を描いたタイルがたくさんあります。このタイルの鳥は架空のもので、左右から太陽に向かっています。コバルトブルーの中の瑞々しい緑色が見事です。そして太陽の中には人間の顔が。太陽、、、そこでフラッシュバックでよみがえった記憶が、「聖なるブハラ」とサディコフ監督でした。

冒頭の一節は、ブハラ生まれのサディコフ監督が「中央アジアでは詩の言葉で語る」として紹介した一千年前のウズベキスタンの詩(映画祭パンフレットより)。

紀元前1世紀からの歴史があると言われているブハラは、7世紀にはイラン系ソグド人の都市国家が成立、その後イスラム化が始まり商業都市として繁栄、イラン文化の中心地に。15世紀にはウズベク族によりブハラ・ハン国の首都となり、またイスラム教学の中心地として多くのイスラム教徒が巡礼に訪れる街として「聖なるブハラ」と呼ばれるようになりました。

19世紀後半には帝政ロシアの植民地に、そして91年にソ連から独立、、、ということになりますが、ブハラでは1920年代まだイラン系のタジク語がウズベク語よりも優位だったというように、イラン的色彩の濃さを感じさせます。

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そこで、タイルでの関連を調べてみると、こんなのがありました。イラン・ケルマンの「金曜モスク」(1359)。エントランス・タイル装飾には2羽の孔雀と花瓶の図柄が。構図に共通点を感じます。

ブハラは、ゾロアスター教、イスラム教などの様々な宗教、文化、民族が交錯し育層にも重なり合う街。タイルを見るたびに、現在の国境の感覚から物事を見てしまう想像力の貧しさを感じています。

*写真は、(上)赤い布に映えるブハラの実り、葡萄、(中)ナディル・ディヴァン・ベギのマドラサ・ファサード、(下)イラン・ケルマン・金曜モスクのタイル装飾(『The Art of the Islamic Tiles』 / Flammarionより引用)
by orientlibrary | 2005-12-07 01:20 | ウズベキスタンのタイルと陶芸