イスラムアート紀行

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インド、イラン、ギリシア、秋に響く詩の響宴

秋のイベントシーズン、(ウズベキスタンより暑い)残暑にめげていられません。この間、見たこと感じたことなどを、ざくざくっと書いてみます。

◆ イスラームとラフマーン ◆






『「A.R.ラフマーンを語る」vol.3 イスラームとラフマーン』(@UPLINK FACTORY)は、この音像からスタートしました=「Chaiyya Chaiyya」。なぜにダージリン鉄道の車両の「上で」歌い踊るんですか〜!?とにかく一気にテンション上がります。

歌と踊りを見ているだけならば、楽しい恋の歌かなあと思うんですが、この日の眼目のひとつはパキスタン文化研究者村山さんの「歌える和訳詩」。

慈愛の影あまねく方の 足下すなわち楽土となる
ゆけ影よ 影よ 影よ 影よ 愛でみな照らしゆけ 影よ 影よ
甘き香りたつそのからだ 語り美わしウルドゥーのよう
ころがる霧の粒をかりて 楽土の扉ひらいてる
枝に葉末に風の中にも あなたの影がそこかしこ
さがすはあなたの影かたち 陽がさすどこにも立つしるし
色は匂えどまだみえぬ 一目みたさに恋い狂ひ
ころがる霧の粒をかりて 楽土の扉ひらいてる
枝に葉末に風の中にも あなたの影がそこかしこ
(「Chaiyaa Chaiyaa」村山和之氏訳。その一部を抜粋させていただきました)

麗しく凛としつつ、あたたかいリズムがあります。日本の言葉の情感があります。
Chaiyyaっていうのは「影」なんだそうです。日差しの強いインドでは木陰など影は良いもの。そしてこの影は「クリシュナの歩いたあと」という比喩でもあるとか(真っ暗な中でのメモなので書き間違っていたらごめんなさい!)。深い歌。さすがインド!LOVE!

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(インド・ハリドワール)

この会は「アジア随一の作曲家A.R.ラフマーンとイスラームの密なる関係」がテーマ。「スラムドック$ミリオネア」でオスカー、グラミー賞などを総なめしたインドを代表する作曲家A.R.ラフマーン。ヒンドゥー教徒だったラフマーンが、なぜイスラーム教に改宗したのか。「Chaiyaa Chaiyaa」にひそむスーフィー的叙情など、彼の人生に深い影響を与えてきた「イスラーム」を軸にその魅力を探る、というイベントなのでした。ラフマーンのカッワーリ、私は好きですね〜☆

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(インド・ラジャスターン、石のスクリーン)


◆ イランの絵と詩と音楽と ◆

詩と言えば、イラン。ペルシア語の流麗さは詩のためにあるのでは、と思えるくらいです。ペルシア語での詩の朗読、聴き逃せません。

イランの絵と詩と音楽と〜音楽とペルシャ語でのポエトリー・リーディング』(@ロゴスギャラリー)。「詩は、絵や音楽といったアートとも密接な関わりを持ってきました。絵や絵本の題材になってきたことはもちろん、イラン古典音楽も詩をなくして語ることはできません。
今回は、その詩の伝統の先にたつ現代のアーティストの作品と共に、絵と詩と音楽のつながりを感じて頂く展覧会です」。

会場にはたくさんの人が集まり、ポエトリー・リーディングと絵と音楽のコラボレーションに聴き入っていました。
前半は、詩と絵と音楽の本『黒いチューリップのうた』よりヴァヒード・シャリーフィヤーン(Vahid Sharifian)の詩の朗読。後半は、絵楽譜「Song of Persia」の作者レザ・ラハバさんによる朗読と、これを聴きながらの即興演奏。

麗しい大地よ。
風と岩と花畑と、砂ぼこりさえも。
草木の育む音 刻々と 草木の育む音
かごでさえずるやさしい小鳥 広げた翼で風にのる
心は庭先の梢を行ったりきたり 背後には深いみどり
宝石の目をしたもう一羽が 秘かに待ちわびている、なにか。
(「鳥」レザ・ラハバ氏より一部引用させていただきました)

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(ウズベキスタン・リシタン陶壁/鳥のモチーフ)

流麗優美、心を甘く溶かすスパイスのような言葉のつらなり。イランのタイルを思わせます。
ペルシア語、憧れますね〜。そして、こういう詩を見ると私も詩を書いてみたいと思います。一瞬ですが、、。

イランではホームパーティが盛んで、そういう機会には誰かが詩を読むのだとか。中には必ず古典楽器(サントゥールやネイなど)を演奏できる人がいて音楽とともに楽しむ、というお話もありました。ハーフェズの詩は占いにもなるので(その解釈によって)、盛り上がるんだそうです。こういう趣きのある遊びができる人たちっていいなあ〜と思います。

会場には、絵楽譜のきれいな陶板やイランのタイルもあり、土族うっとりでした。

ちなみに、主催者の「salamx2」さんも、絵楽譜のレザ・ラハバさんもエキサイトブログなんですよ。
「salamx2の雑談」
「カフェペルシア」


◆ イリアス ◆

次はギリシアです。英雄叙事詩『イリアス』(@ル テアトル銀座 by PARCO)へ行きましょう。

「紀元前8世紀頃にギリシア最大の詩人、ホメロスによってまとめあげられたと言われているこの『イリアス』は、のちに文字に記されて読み継がれ、口承文学史上に燦然と輝く傑作となりました」。
「もともとは文字ではなく口承によって伝えられてきたもので、中世日本において琵琶法師たちが、『平家物語』を演じたような格好で歌われていた」(wikipedia)。

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(トルクメニスタンのメルブ遺跡)

この壮大な物語が口承で伝えられてきたとは驚きです。今回は栗山民也氏演出による日本初の舞台化。ですが3時間を超える舞台であっても、壮大な物語を語り尽くすには短いようでした。その中で、平幹二朗さん(トロイア王プリアモス役)は、立っているだけでも存在感がありました。どんな時代にも共通する親子の情愛を切々と語る場面は、まさに圧巻。芝居は、単にセリフを言うのではない、空気を作れるような力、精進、積み重ねが大事なんだなあと感じました。
by orientlibrary | 2010-09-12 13:20 | 美術/音楽/映画

夏映画その2/「ペルシャ猫を誰も知らない」&ペルシャ工芸

前回「夏映画その1/「ソウル・パワー」&クバ王国の布」と一緒に書いていましたが、長くなったので分けました。だから、その2です!)

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(イラン・タブリーズ/ブルーモスクのタイル)


「酔っぱらった馬の時間」で泣き、「亀も空を飛ぶ」で泣きました。そのバフマン・ゴバディ監督の最新作「ペルシャ猫を誰も知らない」・・これがテヘラン?とびっくりするようなストリート感やスピード感があふれる映画なんですが、だからこそラストシーンが重い。声高に言わないからこそ、制作者や若者たちの思いに共振しました。

〜〜〜〜〜
あなたと歩いていきたい 霧の街を抜けて 緑の枯れない国へ
あなたと家にいたい そこには窓があって海が見えるの
庭には木を植えブランコを置きたい
大きな椅子に二人で座り 一緒にくだらない番組をテレビで見るの
ベッドでぐっすり眠りたい 太陽が出るまでもう一度
幸福がいっぱいのグラスに食べ物がいっぱいの皿
手巻きの時計は壊れて動かない 毎日が今日のままで明日が恐くないように
〜〜〜〜〜

最後に流れる歌です。若い女の子が夢見る光景。他愛もないようなささやかなシーンだからこそ、それがかなわない現実を思います。

「好きな音楽をやりたいだけ」。そんな若者たちが人目を避け、街の死角のような場所を必死で探しながら音楽を続けています。コンサートをおこなったりCDを出したりするには、「イスラム文化指導省」の許可が必要なのだそうです。

出演者の大半は実在のミュージシャン。彼らは何度も逮捕されながら音楽を続けています。といっても、反体制活動家といった気配はまったくなく、上流階級の育ちのいい若者たちといった感じ。たぶん音楽ってものが、とにかく好きなんです。
ストーリーもほとんど実際の経験に基づいており、主役の二人は撮影が終了した4時間後にイランを離れイギリスへ渡りました。

撮影自体、当局の許可がおりないなか、小さなカメラでゲリラ的に撮影。なんと17日間で撮影したといいます。(うち2日間は警察に連行され撮影できず)。小気味良いくらいのスピード感は、そのせいもありそうです。現実的にホントに必死だったんですね。
(*イランでは映画製作は指導省に脚本を提出して許可を得た後、当局帰属の35ミリカメラが使用できるという流れだそうです。ゲリラ的手法に至る経緯は傲慢な「ザ・コーブ」と根本的に違います)。

書きたいこと、たくさんあるんですが、、作品については公式サイトの「作品紹介」を。

ミュージシャンがたくさん登場。シンプルなロックからフュージョン、ラップまで多彩。イランの音楽シーン、アンダーグラウンドにありながらしっかりと息づいています。公式サイトの「キャスト」で出演ミュージシャンたちを紹介しています。
出演者中唯一のプロ俳優である「ナデル」役のハメッド、最高!映画のビートを刻んでます。
好きな音楽がたくさんありました!ナジャフィヤーン、ダールクープ、ミルザー、ヒッチキャス、so cool!!

ゴバディ監督は現在イランを離れており、6月の来日もかなわず

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(東京国立博物館展示品/イラン色絵人物文鉢/12〜13世紀/ミーナーイ手/楽器を演奏する人の姿)

音楽や踊りや人々の表現活動を規制しないで欲しい。
イスラムの名の下に、規制するのはやめて欲しい。

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(テヘランのガラス博物館展示品/12〜13世紀)

他国のことをとやかく言うべきではないかもしれませんが、イスラムの名の下にそれがなされていることは、イスラムのタイルや工芸に心底惹かれている私には、とてもとても残念だし、悲しい。音楽も好きだから、シンプルに「音楽したい!」という若者の気持ちもストレートに伝わる。

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(タブリーズにあるアゼルバイジャン博物館展示品/ラスター彩皿)

詩の国イラン、アートの感性が突き抜けて素晴らしいイラン。
イスラムと音楽は相反しないはず。
イスラムは個々人の表現を包容する大きなもののはず。
今はイランの悠久の歴史の中のひとつの時期なのかもしれないけれど、次のステージになりますように、と日本の片隅で願っています。かの地で、ゆたかで艶やかな芸術の花が咲き誇りますように。


*追記:主役の二人、アシュカンとネガルは、現在ロンドンで音楽活動をしているようです。彼らのfacebookには多くの人が訪れ、youtubeには演奏光景もアップされています。イラクのクルド人自治区にいるゴバディ監督はskypeでインタビューに答えています。止めようとしても止められないものがある、隠そうとしても情報を巡る環境が以前とは違う。そのことは確かだと思う。WikiLeaksなるものも登場しています。工夫と知恵とチャレンジで表現の自由がいい方向にいって欲しいなと思うし、自分も情報への理解力やスキルを高めなくてはと思う2010年の夏なのでした。
by orientlibrary | 2010-08-10 12:16 | 美術/音楽/映画

夏映画その1/「ソウル・パワー」&クバ王国の布

◎梅酒と煎茶

冷んやり、という言葉が魅力的に感じるこの頃。常滑(愛知県)の酒文化、急須文化を楽しもうという会がありました。そこにあったのがこの瓶。「水」がテーマのイベントだけに、中には旨い酒を生み出す常滑の水がなみなみと入っていました。ガラスも涼しげで、冷んやり気分です。

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日本酒の古酒で作った「梅酒」は、深みがありまろやかで、とっても美味でした〜!急須で煎れる煎茶もいただいたのですが、そのテーブルにあったのがこの茶碗(の部分)。800年前のものだそうです。土味がいいですね〜。飾りとはいえ、実際に使っていることに魅力を感じました。
常滑は日本六古窯の一つであり、その中でも最古で最大。焼き物・・良き土と水と火が生み出した日本の美ですね。

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◎ ソウル・パワー

熱い映画でした。「ソウル・パワー」。1974年、アフリカのザイールで開催された伝説の音楽祭の映像。2009年に34年の時を経て公開されました。若きモハメド・アリのインタビューから始まり、コンサート開催までのドキュメンタリー、実際のライブの映像など、最後までテンション高く盛り上がります。

時代を考えると、黒人解放運動のこと、自分たちのルーツであるアフリカで演奏することの誇りと喜び、「ブラックネス」に誇りを持ち価値を発見してゆく様子、当時の興業のこと(チャレンジングなこのコンサートに投資したのはリベリアの投資家(だったと思う))など、細部も興味深いものがありました。

そして、ジェームス・ブラウンなどアフリカ系アメリカ人ミュージシャンたちのライブが、とにかく素晴らしかった。何よりミュージシャンたちの表情が良かった。歓喜、高揚、充足感が伝わってきました。晴れ晴れとした健やかなパフォーマンスという印象でした。アフリカの大地と観衆の力なのかな。

ザイールと聞いて思い出したのが、「ラフィア布」(椰子科の植物ラフィアの若芽を糸にして織り上げた布)のこと。ザイールって、現在のコンゴ民主主義共和国ですよね。

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(ラフィアを使った「草ビロード」と呼ばれる儀礼用の布。ビロードに見えるとことからその名がついている)

そのコンゴには、モダンアートを思わせる多彩なテキスタイルがあり、クレーやマチスなどヨーロッパのアーティストたちも触発されています。それを知ったのが、2年前の「美しい世界の手仕事プロジェクト アフリカの布展」のときでした。

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(ラフィア布。アップリケの色合いやデザインが楽しい。躍動感)

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(100枚以上のコレクションの展示準備。目眩のするようなラフィアの海でした。というか、本当に目眩がして船酔い状態に)

コンゴといえば、首都キンシャサの路上音楽集団の映画「ベンダ・ビリリ!〜もう一つのキンシャサの奇跡」も9月公開。こちらも楽しみです。

クバ王国の布については、「コンゴクバ王国の布」(部族の絨毯と布 caffetribe)でも紹介されています。ご参照ください。
by orientlibrary | 2010-08-10 11:46 | 美術/音楽/映画

桜舞う夜のアフガニスタン伝統音楽コンサート

「ウスタード」(マスター)の称号を持つアフガニスタンの国民的歌手グルザマンさんと日本の音楽家(チャルパーサ)のコラボレーションによるコンサートが、東京中野の包(PAO)でおこなわれました。(国際交流基金の文化招へいプログラムによる音楽交流会の一環)

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(グルザマンさんとチャルパーサのおふたり。パーカッションの女性の衣装がキレイでお人形みたいにかわいかった。バックのキリムがいいですよね〜!床にはアフガントルクメンの赤い絨緞。こうでなくちゃ!!)

まず第一に大きな拍手を送りたいのは会場演出です。会場全体に赤い絨緞を敷き詰めての座るスタイル。ステージには大きなキリムが飾られています。シンプルな縞模様がとっても粋でした。観客も感触の良い絨緞に腰をおろし、リラックスして音楽を楽しめます。

音楽にとって、演出はとっても大事だと思います。コンクリートの壁と織物が一枚ある壁では全然違う。安物のカーペットと本物の絨緞では全然違う。華美な演出というより、音楽が生きる空間を、と願うことが多いです。だから今回は大正解で、うれしかった!

比較して、先日ひょんなことからボブ・ディラン(アメリカのフォークシンガー、今年68歳)のライブに行くことになったのですが、会場はクラブで、しかもオールスタンディング。見えないかもとは思っていましたが、前の人たちの身長が高く一切何も見えませんでした。なので1500人くらいいた会場で、私だけ床に座って聴いていました。苦行。シニアファンも多いんですから、みんなキツいですよ。アメリカ的立つ文化発想なのかな。でもコンサートって、今はみんな立ちますよね。どうしてああなってしまったんでしょう。インドやアフガン音楽のように、演奏家も観客も座してくつろいでゆっくりとしたペースで音楽を楽しみたいと思うのは私だけ?プラス踊るスペースがあればいい。もっと好きに聴きたい。(ロックだってしみじみ聴いてもいいと思う。オーディエンスの表情が印象的なこのライブ映像「Janis Joplin -Maybe」☆) 

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(楽士たちをお出迎え)

座して聴くグルザマンさんの歌、ラブソングと平和への想い。「ぼくの村の泉に瓶を持って水汲みに来ておくれ」とか「彼女のお母さん、ぼくの想いを娘さんに伝えてください」とか、素朴なラブソングを丸みのあるやわらかい声で披露。平和を願う歌のときには、奥行きのある力強い声で、人生経験の深さを感じました。

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(緑のスカーフがよく似合うグルザマンさん。スカーフはアフガンイベントでおなじみの「渋谷のパパ」アミンさん(シルクロードの占い師)からのプレゼント☆)

イスラムの旗のもとに、音楽や踊りを禁止する人たちがいますが、音楽や踊りは人生に寄り添うようにあるものだと思います。音楽を禁ずるのは人生を奪うに近いのではないかと思います。今回のコンサートでいっそうその思いを強くしました。

国家からウスタードの称号を授与されているグルザマンさんであっても、かの国にあって順風満帆な人生を歩んだとは思えません。60代くらいかとお見受けしましたが、体制の変化や内戦に辛い思いをされたことも多々あったでしょう。

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(MAZAR-E- SHARIF/MOSQUE/1480 AND 1963/1963は修復でしょうか。王制の時代ですね/『COLOUR AND SYMBOLISM OF ISLAMIC ARCHITECTURE』よりトリミングして引用)

平和の歌の紹介のとき、通訳の方(在日アフガンの方?)が「国外にあっても平和を願う気持ちは、、」と言ったあとが続かず、こみあげるように目を真っ赤にされていました。今だ混迷するアフガニスタンを思うと、胸に迫るものがありました。

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(楽器。グルザマンさんの弾き語り)

会場には、宝塚・アフガニスタン友好協会の西垣さんの姿も。「先日帰って来たところなの」と、さらっとおっしゃっていましたが、タイル見たい、行きたい、でも行けないよね、という私と大違いで、西垣さんは即行動。かつ上品で知的。かっこいいです!

*宝塚・アフガニスタン友好協会=2006年に毎日国際交流賞受賞=受賞理由「日本で大きく取り上げられることがほとんどない時代から支援を続けた。タリバン政権時代にも、政治と距離を置いて人道支援に徹する活動が評価され、入国が許されていた。「難民に毛布を」キャンペーン、ミシンを使った女性の自立プロジェクト、隠れ学校、孤児院の整備、「片足の少女に義足を」キャンペーンなど、その活動は常に現地の思いをくみ取り、成果を上げてきた。アフガン戦争後も、女性たちの学問への思いを受け止め、女子トイレや寮などの建設に取り組む。さらに内戦時代は望むべくもなかったスポーツ環境の向上にもいち早く着手し、サッカー場を整備。若者の交流の場を提供した」/その後も東部のジャララバードにあるナンガルハル大学教育学部女子寮を建設。専門書や辞書などの備品を届ける活動などを続けている。ホームページはこちら

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(HERAT/FRIDAY MOSQUE/1200-1498-1964/ヘラート、行きたい!!『COLOUR AND SYMBOLISM OF ISLAMIC ARCHITECTURE』よりトリミングして引用)
by orientlibrary | 2010-04-03 00:28 | ウイグル/アフガン

聖者の宮廷講 イスラーム、スーフィズム、ジュヌーン

「伝説のスーフィーロックバンド“ジュヌーン”以降パキスタン大衆音楽はいかに発展してきたか?音楽と詩の力で“愛と平和”を実現するために?若き音楽研究者の声を聞き逃してはならない」との硬派で魅力的な呼びかけに参集した音楽好き、70名弱。

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(サラームさんツアーがアミール・フスラウの墓廟を訪ねたときに購入した布。カリグラフィーがびっしり)

当ブログでも何回かご紹介してきた「聖者の宮廷講」、今回は22歳の大学生・野上郁哉君(ウルドウー語専攻)が一癖も二癖もある大人たちを前に語ります。内容は、「パキスターニー・ポップ・ミュージック 〜イスラームとスーフィズムのパースペクティブから見たジュヌーン(junoon)登場以降の発展とその課題〜」。

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(野上氏企画編集の音楽雑誌創刊号。現在3号に向け始動中とか)

野上君は、数年前から自分で企画取材原稿営業まですべておこなう音楽雑誌「oar」を発刊してきたツワモノ。発表後には、ワールド音楽評論やDJで大活躍のサラーム海上さん、パキスタン音楽研究の堀江弘道さん、南西アジア文化研究の村山和之さんなど、これまた濃い〜人たちがコメンテーターとして待ち構えています。

発表は、『HEAVY METAL ISLAM 』という本(中東6カ国のヘビメタをはじめとする音楽事情が書かれている)のパキスタンの章「愛と平和を実現するために」の紹介からスタート。貧困と暴力と宗教的過激主義が混在するラーホールで育ったジュヌーン(1990年にデビューしたパキスタン伝説のスーフィーロックバンド)のメンバーは、自由、愛、希望への熱望を歌に託しました。その際に取り入れたのがスーフィーの歌詞や考え方です。

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(『HEAVY METAL ISRLAM 』)

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(『HEAVY METAL ISRLAM 』の中の写真を映しました。モスクの前の広場のようですね)

「ジュヌーンは社会批判をずいぶんしたバンド。政治的社会的批判を歌詞に取り込みました。スーフィーの詩の持っている力や民話のストーリーを借りて、暴力を使わない魂の平和を求め伝えたのです。それをロックに合わせてやったのが新しかったしカッコ良かった」(BY野上君/速記のメモなので細かい部分はちょっと違うかも)。

パキスタンの音楽の歴史も。アミール・フスラウ(カッワーリーを作ったとされるスーフィー詩人、政治家)、大衆的なガザル歌謡、カッワーリー(宗教儀礼で歌われる陶酔の音楽)、カーフィー(音韻叙情短詩)、フォークミュージック、1940年代頃からの映画と融合したポピュラーソングからジュヌーンやMEKAAL HASSAN BAND(ジャズと南アジア音楽のフュージョン)に代表されるスーフィー伝統を取り入れたバンドの登場までを概観します。

そして野上君のテーマである「イスラームにおける音楽の是非」に移ります。なぜイスラームにおいて音楽は否定されるのか、その根拠は?クルアーンやハディースにおけるその記載を探しますが、厳密には「ない」ようです。ハディースに無益なものと書かれた部分があるくらいで、結局よくわからない。そしてわからないままCDショップの爆破などが起きています。「イスラームの名の下に、パキスタンではこの3年間で800軒の音楽店が焼かれ、楽士が殺された」とチラシにも書かれています。未解決の問題のようです。本当に本当に残念なことだと思います。

90分、映像も取り入れながらの発表が無事終了。堂々としていて良かったですよ。コメントも各人の経験や視点が光ってました☆

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(村山さんが蒐集した80〜90年代のパキスタンのカセット。そういわれてみれば、私もつい買ってましたね、カセット)

その後、村山さんによる「パキスタン・非CD音楽の旅」。村山さんが蒐集した1980〜90年代のパキスタン音楽のカセットテープを聴かせてもらいました。カセットが今も生きるパキスタン。2009年8月時点でも63%の人がカセットで音楽を聴いているそうです。(数字細かいですけど、、こういう調査があるってことも不思議でおもしろい)

「当時ジャケ買いしたカセットを今取り出してみたら、最近ずっと探していた貴重な音源が入っていたりして驚いた。CDにできない、ならない音源は現地ならではの臨場感があり、深い。今になって価値がわかった」と村山さん。

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(カセットを聴きながらphotobooth〜プロジェクターでジャケを見る。頭いい〜!)

みんなでカセットを聴いているうちに、サラームさんがMacのPhotoBooth通しでスクリーンにジャケットを映してくれました(なるほど〜!これは便利!)。個性満開のミュージシャンのビジュアルを見ながらの、村山さんの深くて味のある語り。こういう音楽の聴き方もいいですね〜。

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(ワールド音楽熱中人たち)

さらにサラーム海上さんの、「ラジャスターン 伝統音楽舞踊10日間の旅」(昨年末〜年始。サラームさん企画&添乗。独自のコンサート3つ。私も行きたかったな〜!)の写真や音像紹介。サラームさんのグイグイと惹き付ける語り口、豊富な知識、シャープな視点に感心しているうちに、時間があっという間にたってしまいました。

音楽家のコロニー(芸術家村のようなところ)の写真も良かったし、その場で盛り上がって歌ってくれたようなノリの「Allah Hoo」が最高でした!!リラックスした楽士たちの表情も良かった!現地で聴けた皆さん、良かったですね。ホント、こういうの、PRICELESSです。

この時点で4時間半ほどが経過。その後、恒例の「宴」。実際に音楽をやっている人も多く、音楽やインド、パキスタン、中東の話で夜は更けていくのでした。

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(宴会。手前のトルコものに注目!いちじく、ヴァクラヴァ、甘くないバナナチップ、オリーブ、そしてイランのバムの最高級半生デーツ。ダンディMさん、ごちそうさま〜☆)

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(こんなカセット集も展示されていました。トルクメンのフォークソング。模様がいいですね)
by orientlibrary | 2010-02-09 02:23 | 美術/音楽/映画

a happy new year!

● 休止中の当ブログにご訪問いただき、ありがたく思います。どうもありがとうございます。結局資料もちゃんと読まないまま日が経っています、、何かないと読まない、、これも問題。どうしよう、、
● サマルカンドの浮彫りタイルを。コバルトブルーはくっきりと深みがありターコイズブルーは若々しい感じ。白が効いています。パルメットなどの植物模様は安定感のなかに動きも感じます。

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* (ひとつ前の記事でも書いていますが)「イスラムアート紀行」は、しばらくお休みしリフレッシュして再開したいと思います。気まぐれで本当に申し訳ありません。ご訪問くださった皆様には、心からのお礼を申し上げます。どうぞまたお会いできますように。

* もうひとつのブログ「美しい世界の手仕事プロジェクト」は、ゆるゆるぼちぼちとやっております。
* 新規更新(01.08)は、「スーパーテクのポップな工芸を楽しむ@工芸館」です
* 新規更新(01.15)は、「陶、そのふところ深さに酔いしれる」です。
* 新規更新(01.19)は、「ボタンレポート(1) ボタンの歴史を調べてみたら、、」です。
* 新規更新(01.31)は、「食の手仕事。なべしき、とちぼた、いもぼた。」です。


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(ウズベキスタン 今年も”I love tiles!” )


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「牛」の映画を見ました。


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皆様の2010年のご多幸をお祈りしております。
by orientlibrary | 2009-12-27 22:18 | ウズベキスタンのタイルと陶芸

広尾でスーフィー音楽を聴く

●このところ、「部族の赤い世界」の展示を見たり関連のトークを聞いたりする機会が多く、赤を意識することが多い日々でした。そして先日、展示会場で、赤い絨緞の王様的なトルクメン絨緞をカットした小さなラグが椅子にディスプレーされていたので座ってみたところ、なんだか身体がぽかぽかと暖かくなってきました。あったかくていいわ〜と、いくつか違う柄のものに座ってみましたが、なぜかぽかぽかするのはその柄のときだけ。この柄と相性が合うのかも、と購入。パソコン前の椅子に置いて座布団がわりに使っています。

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(部族の赤い世界)

●その後におきたちょっと不思議な現象、、別に気持ちの悪いことではなく、ちょこっと不思議な体験なのですが、このラグと関係しているのかも!?トルクメンのギュル(文様)、、強いです。良い気をもらってパワーアップしたいです。

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(塗りの赤も)

●部族の織物にはたしかに赤が多いと感じます。一方、私が見ることの多いのはいわゆる「イスラムの青」。建築物は青の世界です。「赤い織物」と「青いタイル」、対照的なのですが、エリアとしては西アジアや中央アジアなど、同じ地域にあります。基本的には材料の要因が大だと思いますが(赤い染料としての茜やコチニール、青い釉薬としてのアルカリ釉や呈色剤としての銅)、暮らしの中の色と権力者の色、部族的嗜好と宗教的な象徴性、などが、もしかしてあるのかもしれません。そのあたりを調べるのもおもしろそうです。

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(パキスタン・ムルタンのタイル。異なる青の組み合わせが魅力的。黄色、茶色、白なども使いますが、やはりタイルは青が主役)

●といいつつ、ほとんどスタディできておらず、、でも本は見ると買ってしまうので、読むべき陶芸関係の本がたまる一方。中身をご紹介できないので、写真で表紙を、という苦肉の策を弄する私です。

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(スタディ要!陶芸関連の本)

●そんななか、パキスタン大使館でおこなわれたパキスタン&日本文化祭に行ってきました。パキスタン大使館は広尾の有栖川公園近くにあり、コンクリート打ちっぱなしのシャープな建物です。土着的、あるいはイスラム的な建築を予想していくと意外な感じがしますが、スッキリ感もいいなと思います。南麻布のイラン大使館もとってもキレイ。大使館の印象って、国のイメージに影響を与えると思いますし、カッコいいのは大歓迎!

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(パキスタン大使館で。工芸品の紹介)

●文化祭では、中庭で飲食を楽しむことができ、ホールでは音楽などが紹介されていました。私が参加したのは、パキスタンのスーフィーやスーフィー音楽についての紹介イベント。ダルガー(聖者廟)でのウルス(聖者の命日祭)でのカッワーリー(宗教的儀式で歌われる集団歌謡)の貴重な映像では、ファイズアリーファイズ、メヘルアリー&シェールアリーのパフォーマンスを見ました。命日祭での歌唱ということもあり、テンション高くて迫力です。

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(スーフィー音楽パフォーマンス)

●そして、ラホールでスーフィー音楽家に弟子入りし学んでいるTさんご夫妻(日本人)による歌と演奏がありました。パンジャービー語での歌には心がこもっていました。そして私も大好きな「Allah Hoo」では、途中日本語の歌詞での歌唱もあり、グッとくるものがありました。

●最後に、パキスタンで人気があるという音楽番組「COKE STUDIO」から、スーフィーフォークのSAIN ZAHOORやカッワ-リーのNIAZMAT RAHAT FATEH ALI KHANとロックバンドの共演の映像紹介。

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(「COKE STUDIO」、SAIN ZAHOOR)

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(「COKE STUDIO」、NIAZMAT RAHAT FATEH ALI KHAN)

これがカッコいいんです!テイストのあるロックというか、、。スーフィー音楽もロックも好きな私、相当きます。もっと若かったら一気にのめりこむところですが、さすがに無理(タイルのスタディでもヨレヨレしてる状態です、、残念)。タイルや陶器の話題が書けるように読み込まなくては!
by orientlibrary | 2009-10-20 00:49 | 美術/音楽/映画

ノウルーズ、ハフトスィーンとペルシア伝統音楽を堪能!

イスラムタイルのある地域に惹かれると、その地の文化や暮らしにも興味を持つようになります。メドレセ、マザール、ラマダンなどの単語にも自然に親しむようになり、同じ好みの仲間で話すときには普通に使っています。「ノウルーズ」も、そんな言葉のひとつです。

ペルシア語で「ノウ」は「新しい」、「ルーズ」は「日」。ですからノウルーズは「元旦」。起源は、遡ること3000年の古代ペルシアにあり、ゾロアスター教と関連の深い行事と言われます。昼と夜の時間が同じになる春分の日がノウルーズ。イランだけでなく中央アジアなど広い地域で祝われるそうです。

以前から「ハフトスィーン」(7つのS=頭文字がSで始まる7つのものを飾る。それぞれに意味がある)という独特の習慣に興味があったのですが、今回、イラン大使館でその美しい飾り付けを見ることができました。さらにペルシア伝統音楽の素晴らしいコンサートに感動!古典音楽、いいですね〜!!イランは深いなあ。

写真をメインにご紹介させていただきます。核となった行事「ペルシア絨毯と文化展」開催者の皆様、また様々なプログラムを提供して下さったイラン大使館の皆様に感謝いたします。私もおめでたい新年の気分を味わわせていただきました。皆様にとって良き一年となりますように!


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(↑ハフトスィーン演出。7つのS=↓上より7点の他、さらに素晴らしくなるという様々なものが飾られています)
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(サブゼ/小麦/再生の象徴)
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(サマヌ/小麦の新芽で作った甘いプリン/豊かさ)
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(センジェド/干したグミの実/愛)
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(スィール/にんにく/医学・薬)
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(スィーブ/りんご/美と健康)
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(ソマーグ/薬味の一種/夜明けの空の色)
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(セルケ/酢/長寿と忍耐/7つのSはここまで)
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(マヒダル/金魚/生命)
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(ポルトガルダルアーブ/水に浮かぶオレンジ/宇宙の中の地球)
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(セッケ/コイン/繁栄と富)
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(サブゼ/レンズ豆/再生)
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(シャム/ロウソク/啓蒙と幸福)
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(アーイネ/鏡/光りと創造)(ソンボル/ヒヤシンス/春)
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(サーアト/時計/時)
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(トフメモーグ/色づけした卵/子孫繁栄)
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(コーラン)
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(ディバネ・ハフェズ/ハフェズの詩集)


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(ペルシア伝統音楽の演奏と歌唱「Golrizan」。圧倒的なレベルの音楽を堪能。素晴らしい!最高!)
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(楽器=ネイ)
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(カマンチェ)
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(サントゥール)
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(タール)
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(ダフ)


<ブログ内関連記事>
 「ラマダンの夜に聴く ペルシア音楽の超絶」
by orientlibrary | 2009-03-20 22:51 | 社会/文化/人

『チェチェンへ アレクサンドラの旅』との出会い

正直、チェチェンのこと、最近意識することがなくなっていました。チェチェンをテーマにした映画があると知っても、昨今の現実と合わせ、見た後で気持ちが沈んでしまうのでは、と避ける気持ちがありました。でも、主人公の横顔の写真には、何か惹きつけるものがありました。

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(映画チラシより引用)

久々の渋谷道元坂・ユーロスペース、『チェチェンへ アレクサンドラの旅』との出会い。重く、静かな、でも温度のある、不思議な気持ちが残りました。この思いは、低周波でも長く続くだろうという予感がします。思えば、私がチェチェンに関心を持ったきっかけも、映画(『コーカサスの虜』)でした。

映画のあらすじや内容などを詳細に書くのは、これから見る人に失礼ですね。といっても、じつは書こうにもあらすじというものもないのです。80歳のアレクサンドラが軍人である孫のデニスに会うために、はるばると前線にある駐屯地にやってきたという、それだけの話なのですから。

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(映画チラシより引用)

その地はチェチェンとも明言されず、アレクサンドラがどんな女性なのかの紹介もありません。巨きな体に不釣り合いな小さな足、歩きにくそうな靴を履き、質素なワンピースに身をつつんだ老女が大きな鞄を引きずって汽車に乗り込むシーンから、少し軽くなった鞄を持ちまた汽車に乗って帰路につくシーンまで。

駐屯地とその近くのバザールでの数日間の出来事。デニスとの会話、バザールでのチェチェン人女性たちとの出会い、若いロシア兵とのふれあい、などが淡々と、しかし深々と描かれます。

全編を通して、色といえば乾いた土埃の色だけ、音は金属がきしむような重暗い音だけ。すべては荒涼としています。美しいものは何も出てきません。でも見た後、心が荒むか、落ち込むかというと、そうでもありませんでした。むしろ逆でした。荒涼を浄化していくような何かを感じたのです。

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(映画チラシより引用)

それは、主人公のアレクサンドラの、そしてアレクサンドラを演じたロシアの有名なオペラ歌手であるガリーナ・ヴィシネフスカヤの、凛とした大地のような包容力からくるものかもしれません。それを感じられたことは、映画を見た大きな幸せでした。

パンフレットからの文章を抜粋してつないでいくことで、紹介に代えたいと思います。

 ガリーナ・ヴィシネフスカヤへのインタビューから  「ソクーロフ監督はチェチェンに関するこのような映画を今作ることは大切だと言いました。戦闘シーンがなく、爆弾や砲撃を撮らず、私たち自身の力で戦争を理解しようとする作品を作ることが大切だと。(略)ストレートな映画ではなく、説教じみたところはありませんでした。ただ現実を描き、本物の人生を映像に残しただけなのです」

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(映画パンフレットより引用)

 アレクサンドル・ソクーロフ監督  「戦争のない戦争映画を撮りたいと思っていました。戦争に美学はないと確信するからです。大陸では各民族が個別に独立して平和に暮らすことは、地政学上、大変困難で、しかもこのような政治的状況がずっと続いているのです。(略)ロシアではチェチェンを理想化しすぎているという批判もありました。私は人びとの否定面をあえて探しませんでした。そうでない面を見たいのです。それが芸術だと考えるからです」

 西周成さん  「カフカスの地が19世紀前半以来、優れたロシア人芸術家達の想像力を刺激してきたことも、忘れてはなるまい。ロシアの一般市民が生涯に一度もカフカスを舞台とする彼らの作品に触れないということはあるまい。ヒロインがチェチェン人の老婆と交わす会話に、お互いの民族性を理解しあっているかの如き、哲学的とさえ言える賢明さが感じられるのは、偶然ではない」

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(何かチェチェンの工芸品の写真をと思いましたが見当たらないので、コーカサスの国・タゲスタンの皿棚・19世紀を/『シルクロードのかざり 中央アジアとコーカサスの美術』図録より引用)

 池田香代子さん  「それにしても、あたり一面の荒涼ぶりはどうだ。それを見回すアレクサンドラのため息、つぶやき、眉間の皺。(略)これは戦場にいるしかない人びとの日常をなぞる、希有な戦争映画だ。その人びととは、彼女の孫のような職業軍人であり、幼顔の兵士であり、とりわけふるさとの町を外国軍に破壊された市民だ。ロシア人に敵愾心をむき出しにしながら彼ら相手に商売するしかない市場の若者たちの、暗いまなざし」

 廣瀬陽子さん  「現実のチェチェン戦争の悲惨さは筆舌に尽くしがたい。(略)チェチェンは二度の紛争でこれまでに20万人近くの死者を出したと言われ、人権侵害の問題も大変深刻だ。(略)カフカスの人びとは“家財を売り払ってでもお客を歓待しろ”という文化を今でも守り続けている。実際のチェチェン戦争でも、ただでさえ食べ物もない紛争中にチェチェン人の家で何日もかくまってもらって、命を救われ、“ロシア兵の仲間よりチェチェン人の方がよほど温かかった”と兵士をやめたロシア兵が数多くいる」

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(コーカサスの国・タゲスタンの小麦粉量り・19世紀〜20世紀/『シルクロードのかざり 中央アジアとコーカサスの美術』図録より引用)

 林克明さん  「アレクサンドラが見ず知らずのチェチェン女性と出会い、すぐに自宅に招かれる。敵対しているはずのロシア人とチェチェン女性が瞬時に溶け合うような設定を絵空事と思う人もいるかもしれない。しかしこれは現実に起きていることである。(略)戦争が始まった頃、ロシア兵の母親たちはチェチェンへ押し寄せ、行方不明の息子を探していた。チェチェンの人々は彼女たちに食糧や宿を提供し、車を提供し協力を惜しまなかった。いま目の前で自分たちの町や村を破壊し、家族や友人を殺し拷問しているロシア兵の母親たちを助けていたのである」

蓮見重彦さんが、「(チェチェンの青年に伴われ)、彼女がゆっくりとした足どりで駐屯地へ戻る雑草の生い茂る砂利道のシークエンスが素晴らしい」と書いている場面、私も強く印象に残っています。行けるとしたらメッカとペテルブルグに行ってみたいと言う青年が、暗い瞳で放った一言(ここでは書きません)に、胸がつまりました。

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(映画パンフレットより引用)

そして、映画初出演というガリーナ・ヴィシネフスカヤのあふれ出すような存在感が圧倒的でした。低い声でつぶやくように語る短い台詞は、どれもあまりに率直でとまどうのですが、いつしか引き込まれていきます。声の表現力のせいもあるでしょう。また出演者は、ガリーナと数名をのぞいて、ほぼ全員が素人だということです。

 「『チェチェンへ アレクサンドラの旅』 宣伝日記」というブログ(同じexciteでした)に、ジャーナリスト・常岡浩介さんのトークライブの内容が紹介されていました。常岡さんはチェチェンゲリラの部隊に従軍した経験があるそうです。臨場感のあるる内容。チェチェン人の精神的強さの話には感心しました。

 (久々にチェチェンの記事/朝日新聞090114朝刊)
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 記事より:「戦争で徹底的に破壊された首都グロズヌイは生まれ変わっていた。中心部には昨年10月、欧州最大級のモスク「チェチェンの心」が完成し、その前の道路は「プーチン大通り」と改称されていた」

 インタビュー記事=独立派を封じ込め、強権で安定をもたらしたカドイロフ大統領=より:「チェチェンは100%イスラム教の共和国だ。全員がイスラム教を固く信じ、共和国や連邦の憲法を侵さないように万全を尽くす、共和国を建設し、精神的に復活させる。それが重要だ」

 解説より:「18世紀に南下したロシア帝国に激しく抵抗後、1850年に併合された。独ソ戦で独側に協力したとして住民が中央アジアに追放され、共和国が消滅したときもある。ソ連末期の91年11月に独立を宣言。面積は日本の四国ほどだが、石油を産出し、パイプラインが通る要衝で、新生ロシアのエリツイン政権が分離独立の阻止に動いた。人口は100万人」「(第1次、第2次の)チェチェン戦争で、独立は封じ込まれ、産業は崩壊。ロシア軍の残虐行為も指摘された。全体の死者は16万人ともされる」
by orientlibrary | 2009-01-15 23:33 | 社会/文化/人

パキスタンのジプシー楽士(ムルタンのタイルとともに)

ごあいさつが遅くなりました。新しい年、今年も皆様にとって良き一年でありますように!!ゆっくり更新中のブログではありますが、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

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(ムルタンにある聖者廟のタイル&テラコッタ)

映画「ジプシーキャラバン」や「ラッチョドローム」のこと、など、ジプシーやジプシー音楽のことを時々書いています。(ロマと書いたりジプシーと書いたりしていますが、どう書くのが最も良いのか、正直よくわかりません。最近は、またジプシーという表現が多いような気がしています。ジプシー/ロマ、という表記も)。何か惹かれるものがあるのです。

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(ムルタン、タイルの小塔。今回はパキスタンの話であることと、「ジプシーが多様な呼び方をされている理由はおそらくはただひとつ、ジプシーがいろいろな地域からやってきたせいである。トルキスタンでは”ムルターニ”(ムルタン出身の意味)と呼ばれてきた」(松岡正剛の「千夜千冊」より)、、ということもあり、ムルタン〜ウッチュのタイル装飾をご紹介しています)


昨年末に、興味深い催しがありました。「関口義人の『ジプシーを追いかけて』Vol.17/@渋谷UPLINK」です。ジプシー音楽をテーマとしたシリーズ、なんともう17回も開催されているとは。書籍出版も相次ぎ、ジプシーに魅せられている人が少なくないことを実感します。

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今回のゲストは村山和之さん。ということは、パキスタンですね!ジプシーとパキスタン、一瞬ピンときませんが、ラジャスターン地方から出発したともいわれるジプシー。近いです。村山さんならではのパンジャーブのジプシーの芸能やバローチスタンの楽士たちの音像を、たっぷりと見せていただきました。(写真は、上映された映像を撮影したもの)

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(ドール。リクエストして演奏してもらうそうです。後ろの素焼きの壷が気になって、、ついパチリ)

音像は7本。これまでに見せてもらったものもありますが、何度見ても飽きません。今回もっとも感動したのは、「LORIK」(バローチ〜中央アジアでジプシーと呼ばれている人)の演奏。ムハンマドを讃える歌、、耳で聴くよりも心の奥底で聴いた気がします。音楽、なのかな。ジプシーの音楽って、旋律だけではない、歌詞だけではない、身体(人生と言ってもいいかもしれない)で聴く気がする。

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(心に響きしみ込んでいく。言葉で言い表せない、、感動しました)

コメントやお二人のトークは、マニアックかつ洒脱で楽しかった。でもメモは取ったものの、真っ暗な中で書いたので正確さは超あやうい。特に固有名詞やその表記は未確認なので危ない。が、え〜いっ、学術ブログではないので、ざっくりとメモのご紹介。雰囲気を味わってください。

・ パンジャーブ州の南の砂漠地帯、東のタール沙漠とつながるあたり、そこにいるジプシーはバローチスタンの楽士とどう違うかなどを見て欲しい
・「MIRASI」、イスラム教徒のジプシー楽士、伝統音楽の継承者という意味、低カースト、ドーム(ローム)の中でイスラム化している人、ロマ、ロムの源流としてのドマ、ドム
・「ローリー(LORIK?)」、バローチスタンのジプシーの芸能
・ LORIK、バローチ〜中央アジアでジプシーと呼ばれている人、ムハンマドを讃える歌の演奏
・ ドーリー、ドール(太鼓)奏者、ローリーの中でも下層といわれる
・バローチスタン調査旅行の映像紹介も、水辺での食事、牛糞でのナン作り、果物のもてなし、地上の楽園のような庭(バーグ)の夕暮れなど
・ チカップの映像、輪になって踊る、カスタネットの使用、バローチの特徴
・ ドキュメンタリー番組から=大都市のジプシー・ストリートミュージシャンの映像、婚礼会場の外で演奏
・ イランのマクラーン地方のチャバハールでの映像、英雄叙事詩を叙情豊かに歌いあげる楽士

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(ジプシー楽士たちの師匠。風情、風格がありますね)

映像の中で、旅人をテント(というか、枝と布で構成されるシンプルな空間)に招き、土地の果物をたっぷりと提供してもてなす光景が紹介されていました。テント内部にはローカルの絨毯が敷かれています。絨毯文化の地域だから当然とはいうものの、ボロボロながら質感の良い魅力的な絨毯でした。

それに比して、、、メインステージに敷かれていたカーペットは、かなりキツかったです。「せっかく絨毯で有名なバローチの話なのになあ、、」「バローチの絨毯があれば、ものすごくカッコいい時空間になったよね、、」「残念!!」「言ってくれれば持ってきたのに、、」「日本では敷物が軽視されているのでは」と、乾燥地帯〜バローチ好き仲間たちは語り合っていたのでした。

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(ウッチュにある聖者廟のタイル&テラコッタ)
by orientlibrary | 2009-01-07 01:15 | 美術/音楽/映画