イスラムアート紀行

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タイル愛溢れる『装飾タイル研究』&圧巻・タイルのような?絨緞

『装飾タイル研究』、20年のときを経て再会!

ブログ更新がなかなかできません。書きたいトピックはたくさんあるのですが、、どんどん溜まっていっています(汗)。けれども、今日は古いタイル研究誌に刺激をもらい、レッツ更新!

『装飾タイル研究 The World of Tiles』(発行:志野陶石出版部)、全6巻、入手できました。感慨があります。日本では数少ない装飾タイルの研究書。第1巻の発行は1977年、第6巻は1982年。第1巻から、なんと37年も経っています。

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(幻の書だった『装飾タイル研究』、全6巻、ゲット!/第1巻:タイルとイスラム建築/第2巻:アール・ヌーヴォーとタイル/第3巻:陶壁造型の世界/第4巻:戦後建築に現れたタイル/第5巻:東洋が生んだタイル“塼(せん)”/第6巻:オランダタイルの流れと影響)

第6巻のあとがきには、こう書かれています。「本シリーズは全10巻から成るわが国唯一のタイル研究書です。次回の第7巻では、“日本のタイルのあけぼの”をテーマに特集いたします」。けれども、7巻は出なかったようです。背景はわかりません。

この研究書を見たのは、たぶん1990年代前半。タイルに興味を持ち始めた頃だったと思います。場所は、乃木坂にあったTOTOのライブラリーだったと思う。その頃から、興味はひたすらイスラムのタイルだったので、第1巻の「タイルとイスラム建築」のコピーを大量に取ったのは覚えています。

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(イスラームのタイル、イメージ写真。サマルカンド。ミナレット、れんがとタイルで文字を描く、ムカルナス装飾、幾何学模様、植物文様など)

たった一度、出会っただけの書。でも、INAXブックレットのタイル本(『聖なる青 イスラームのタイル』など)、TOTO出版の『タイルの美』と並んで、私のイスラムタイル入門のバイブルであり、いつかまた出会えたらと思っていました。

が、日本の(日本語の)タイル関連の書籍は限定されており、タイル本を集めている図書館でも、本の顔ぶれはだいたい同じです。『装飾タイル研究』は、いわば「幻の書」。その後、目にする機会はありませんでした。それが、たまたまネットの古書で全巻揃って購入できたのです。

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(イスラームのタイル、イメージ写真。サマルカンド。浮彫り、青、円柱形)

時は流れましたが、日本の装飾タイル事情、変化もあるでしょう(この数年、タイルの動きが様々にあると感じています)が、変わらない状況もある。最初の文章から、ガツンです。

第1巻「タイルとイスラム建築」、「出版の意図 タイルの興味によせて」(芝辻政彦)より、要旨。
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< “やきもの”というおなじ序列のなかで、“タイル”は継子である。したがって“認識改め”がしたい。 >
(日本は世界に冠たるやきものの国といわれており、日本人のやきもの愛はとどまるところをしらないが)、タイルの興味はとなると、まるで台なしだ。タイルの魅惑と言っても一向に通じない。トイレなど不浄な印象しかもつことができないのではないか。それはタイルの面白さ、教養、知識について知られておらず、これに関係したインフォメーションが欠落しているからなのである。残念至極だ。とりあえず急いでタイルの“認識改め”の作業に挑戦する。これが出版の理由だ。タイルがやきものとおなじように、面白く興味ある愛され方がされるように祈りながら。

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惚れ惚れします。3ページ半に及ぶタイルへの強い思い。全文書き写したいほどです。感銘を受けると同時に、40年近く経って“認識改め”の状況はどうなのだろうという気持ちも。最近本当に、タイルに興味があるという若い層がいるんですよ。いろんな動きもあるんです。ただ、“認識”となった場合、どうだろう。

「どうかわたくしどもの出版物がこの後のタイル研究の礎となり、やきものとおなじように、タイルが広い範囲のひとびとから親しまれ、愛される対象になればと、ささやかなこの出版を通じてひたすら願っています」

泣けてきます。さらに、巻頭座談会のタイトルが「タイルはイスラムを抜きにしては考えられない」ですから。

そして第1巻あとがき=「タイルに限らず、イスラム世界の全貌は、今日まだ隠されたままだ。幾多の都市群が沙漠に埋もれているように。本書がその方面の専門の方はもとより、一般の方々にも、少しでも手がかりとなることを願ってやまない」。号泣ですよ、もう。また落着いた頃に、、。

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(イメージ写真。イスラームのタイル。ブハラにてモスク渡り廊下天井。宇宙のよう)

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トーハク、謎のサファヴィー朝絨緞!


いろいろとトピックがあるのですが、勢いでコレにします。東博で出会った、超インパクトの絨緞。常設のなかで、何か展示替えのものはないかなと東洋館の地下1階に寄ったところ、ドカーンとあったのです、「サファヴィー朝、17世紀、個人蔵」とだけ書いてあったこのどでかい絨緞が。

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(展示ケースいっぱいの迫力絨緞!)

写真だとわかりにくいですが、大きいです。展示ケースいっぱいというか、入りきらず下が巻いてありました。なんだ、これは!?テンションが上がり、写真撮りまくり。(トーハクは一部を除き撮影OK。常設は人が少なく、東洋館の地下はさらに少なめ)。

最初は自分が何にドキドキワクワクしているのか、よくわかりませんでした。そのうちに、この文様、どこかで見たことあるんだなあ、だから親しみがあるような気がする、でも絨緞で見たのではないかも。何だろう、あれ?タイル??

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(自由奔放。右の花模様、オスマン朝絵付けタイルで見るものと似ている気が、、)

まだわかりません。絨緞ファンに聞いてみると、「いわゆるシャーアッバース、パロメットのデザイン。でもなんとなくトルコ的」とのこと。

絨緞を見るときは、だいたいトライバル系のもの。ペルシア絨緞はあまり知らず、宮廷系ではないグループ(都市工房系)はさらに知りません。どうも、そのあたりのもののようなんですが、すっごく生き生きしてる。構図が大胆で、植物文様が飛び出しそうに元気。

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花びらなどを組み合わせた大きな文様、隙間を埋める花や草、これ、タイルでも同じような構成のものを見たような、、とくにオスマン朝の絵付けタイル。ハターイ、イスリミ(ルーミー、アラベスク)などの古典装飾様式。文様としては中央アジアやイランもあるのだと思うけれど、オスマン朝タイルは絵付けなので、この絨緞の図柄とよけいに近く感じるのかな。

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(オスマン朝タイル。イスタンブルのリュステムパシャモスクなどにて。イズニックで製作されたものがほとんど。花や葉がうねるように伸び上がり、複雑な構成の大きな花模様が印象強く主役を演ずる。青のなかにトマト赤が盛り上がる)

当時のタイルや絨緞、デザイナーが共通していたのでしょうね。流行もあったのかも。私にとっては、まだまだ謎ですが、今まで見た絨緞のなかでも、相当に好みでした。また見に行きたい。(展示替えがありそうだし、、)。

しつこいようですが、トピックはいろいろあったんですが、、ひとまず、この(私にとっては)ヘビーな情報で今回は一区切りにしたいと思います。あ〜、まだまだ知らないことばかり。20年もタイル好きなのに、この速度では、、、。加速しなくては、、。
by orientlibrary | 2014-10-30 22:15 | タイルのデザインと技法

優美洗練!九谷焼美術館、超絶豪奢!横浜真葛焼

伝統ある産地、洗練の美意識と匠を伝える 「石川県九谷焼美術館」

イスラームの装飾タイル偏愛紀行ではありますが、日本の陶芸、工芸も、とても好きです。年々惹かれています。日本の陶芸産地には地元の陶芸をテーマにした博物館、美術館も多くあり、総合的かつ深く見られてありがたい存在。先日は、絵付けで有名な九谷焼を専門に展示紹介する「石川県九谷焼美術館」を訪ねました。

石川県九谷焼美術館は2002年開館。加賀市「古九谷の杜親水公園」内にあり、周囲の自然と一体化した心地よい美術館でした。設計は富田玲子さん(象設計集団)。公園と一体になったくつろぎ感、細部まで心配りされた素材使いや色使いなど、建築というものに久々に感動しました。行ってよかった。

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(小雨模様の天気でしたが、緑がしっとりとして気持ちも落着きます。やきものもまた雨に一層映えますから、雨もまた良しです)

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(公園内のなんらかの施設。何かはわからなくても、青をめざとく見つけ近寄ります。濃淡がやさしい日本の青。イスラームの紺碧の青を求めて旅をしていますが、こういう青も本当に好きなのです。九谷五彩、それぞれに何て魅惑なのでしょう)

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(公園内からも、次々と現れる五彩のやきもの。床に柱に壁面に。大きさを変えたり、表情を付けたり、見て歩くのが楽しい)

館内の常設展示は、
* 青手  (緑・黄・紺青・紫の4色を使い大胆な筆づかいで独自の世界を築きあげた青手古九谷、そして青手の伝統を受け継ついだ吉田屋窯、松山窯などの名品を紹介)
* 色絵・五彩  (「九谷五彩」と呼ばれる緑・黄・紺青・紫・赤の色絵の具で、山水や花鳥風月、人物などのモチーフを、大胆に繊細に描き出した色絵の名品を紹介)
* 赤絵・金襴  (宮本屋窯の飯田屋八郎右衛門によってスタイルが確立した赤絵細描の作品や、京都の名工永楽和全が伝えた金襴手の技法による九谷焼など、赤と金のコントラストで表現された作品を紹介)
など。見応えありました。

そして企画展示は現代作家の作品を多数展示。九谷と聞くと、ちょっと作風が古いのでは?というイメージの方もあるのでは?が、この現代作品が作風も多彩で、細密かつ力強く、圧倒的に素晴らしかったです。産地の底力!!!(展示作品が撮影不可なのは仕方ないことですが、アップできないことが非常に残念)

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(館内。直線曲線の変化、見え隠れする九谷カラー、ガラスだったり陶だったり。床や柱も陶の魅力をさまざまに伝える)

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(中庭には水琴窟。写真左上の青い椅子、なぜ斜めに置いてあるのかと思って座ってみると、ここから中庭がちょうど良く見えるのです。視線が低く、落着きます。展示室外の目立たないところに石のモザイクが。九谷カラーも使いシックです。右下は陶器破片を利用した飾り。大きな美術館ではないけれど、視線や素材の変化があるので飽きさせません)

2階の喫茶室も、作家さんの作品を使ってのセッティングが、とても洒落てました。庭を見ながら外のテラスで風に吹かれて、がおすすめです。

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(喫茶室にて。右下は青が美しい陶板)


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横浜のやきもの・真葛焼 「宮川香山真葛ミュージアム」


数年前からでしょうか、「横浜のやきもの」ということと、「明治工芸の超絶技巧」という2点から、ずっと気になっていた横浜真葛焼と、その専門博物館である「宮川香山真葛ミュージアム」。今回、横浜のアートイベントの一環として館でもイベントがあることを知り、良い機会と出かけてきました。

豪奢な細工や幽玄の色彩が特色の真葛焼、九谷焼とはかなり趣きが異なりますが、圧巻の匠の技で見る者を魅了するのは同じ。明治を代表する陶芸家、宮川香山の世界に浸りました。

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(横浜駅から徒歩でも10分かからない立地。ビルの1階。HPを見るとお菓子の会社がスポンサーのようなのですが、地元の真葛焼を紹介しようとするエネルギーと意思がすごい。施設の維持は大変なことでしょう。拍手/館内の展示。広くはないけれど作品がきちんと見えるように気配り/下の中と右=イベントの「真葛焼鑑定会」の様子)

まず真葛焼について。あまり情報が見当たらないこともあり、館のチラシから引用します。

「世界を驚愕させた横浜真葛焼 〜 1842年、初代宮川香山は、京都真葛が原の代々やきものを生業とする家庭に生まれました。29歳のとき、輸出向けの陶磁器を製造するため、横浜大田村字富士山下に真葛焼を開窯します。1876年(明治9年)、フィラデルフィア万国博覧会に出品された真葛焼は絶賛され、その名は世界に知れ渡ります。その後、フランス、アメリカ、イギリスなど各地の万国博覧会で輝かしい受賞を重ねました。真葛焼は初代から、二代、三代へと引き継がれますが、1945年横浜大空襲で壊滅的な被害を受け、閉窯。四代目香山の復興努力もむなしく、その歴史は閉じられ、今では「幻のやきもの」と言われています」

19世紀の万博と日本の明治工芸については、薩摩焼の細工や漆の超絶技巧で関心を持つようになりました。真葛焼も「高浮彫」という精緻な彫刻を施した技法が特徴です。じつは好みとしては、豪華絢爛で派手なものは、いくら美しくても苦手。真葛焼の「高浮彫」も引いてしまう面もあります。今回もトークなどで熱の入ったお話を聞かなければ、派手だったなあ、と帰ったかもしれません。が、エピソードなども聞き、あらためてじっくり見ると、やはりすごい!と見入ります。

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(初代香山の作品。右上=蟹が施されている作品は遺作だそうです。土で作られた蟹、生きているようです/右下の彫刻=TV番組の「鑑定団」に出た作品で、「いい仕事してますね〜」の絶賛賛辞が。傷がなければ1千万円の価値とか。縁あってこちらに寄贈されたとのことです)

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(香山は当初薩摩焼を研究していくつもの作品を制作、輸出していましたが、金を多量に使うため多額の資金が必要。そこで金のかわりに、身近な動物や植物を精密な彫刻で彫りり込む「高浮彫」を生み出します。より細密な表現のために、庭に鷹や熊を飼うまでしたそうです。鳥の表情がすごい。細かい!)

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(ここまでゴテゴテすると(失礼!)、苦手を通り越して興味が。細工に気を取られるけれど絵付け部分の描き込み密度もすごい。もちろん元々の成形や焼成も。しかし高浮彫は完成まで何年もの時間が必要なため、香山は後に作風を一変し清朝磁器を元に釉薬の研究したり釉下彩の研究に没頭。美しい作品を残しており館内にも展示されています)

精緻な細工を特色としていた初期真葛焼も、写実的な作品がしだいに減少。二代目香山はのちに、「外国人が濃厚な作風に飽き、日本本来の趣味である清楚淡白なものを好むようになってきたからであった」と語っているそうです。マーケティング!

また二代目による初代への、次のような回想も。「故人は西洋向けのけばけばしいものよりも、日本向けの沈んだ雅致に富んだ物の方が得手のようでした」。実際、晩年の作品は滋味あふれ、伝統的な情緒あふれる作品が多いとのこと。
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(植物も細工と絵付けを重ね、独特の世界。ときはアールヌーヴォーの時代。時代の気分、共時性というのもあるのかも? 館内での解説などによると、窯には200名もの職人がいたこともあり、誰がどの部分をおこなったというのはわからないそうです。香山作品であり真葛焼窯全体の作品でもあるのでしょう)

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(今回の企画展示は、稀少で貴重な高浮彫を展示室に満載。多彩な作品を見られる貴重な機会だったようです。こちらの虫の表現、花や鳥に気を取られて最初は目につきませんでしたが、長時間見ているうちに、ささやかな表現もすごいなあと気づきました)

京都の腕の良い職人が、海外との交易盛んな時代に輸出に都合が良い横浜で窯を開き、薩摩焼に彫刻的要素を加えた華やかな作風をもって流行の世界万博で一世を風靡、そのために渾身の努力をする。けれども晩年は滋味あふれる雅な作品を制作。しかしその後、窯は、横浜の大空襲により三代香山が亡くなり、多くの資料も失われ、閉窯に。

美しい陶磁器群のなかに、時代が刻々と流れている。ときには華やかに、ときには辛く悲しく。さまざまに思いが巡ると同時に、超絶技巧と淡白な美を両立し得る日本陶芸の深さに、あらためて感慨をおぼえました。


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これからも、たくさんの陶芸を見ていきたいと思います。今回ご紹介できなかった「河井寛次郎記念館」、機会があれば何かとまとめて書きたいと思います。

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(京都五条坂の河井寛次郎記念館。大好きな世界。河井さんの文章がまたいいですよね〜。。)


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&このところ、日本のタイルの動きがすごいです。ほんとにびっくり。個人ができる範囲ですが、取材などもおこないつつ、こちらも書きたいと思っています。
by orientlibrary | 2014-10-13 21:22 | 日本のタイル、やきもの