イスラムアート紀行

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星が光り花が咲く、墓廟のタイル装飾

「イスラーム地域の墓廟はモスクやマドラサなどほかの建物に付随することもあるが、独立して立てられるときは多くの場合、方形または正方角形の集中式プランを基本とし、その上に大きなドームを架ける。埋葬方向と密接に関連するため、内部にはミフラーブが設けられる。むろん、地域や時代によって建築用材、ドームの構造や形、装飾様式は異なる」(『イスラームの美術 建築・写本芸術・工芸』より/桝谷友子/東京美術)

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(シャーヒズインダ墓廟/浮彫りのポタポタ滴るようなターコイズブルーの釉薬が魅力的。多角星(あるいは花?)の中心のラピスラズリ色が効いてますね)

中央アジア周辺のタイルが好きな私、好きなタイルは「墓廟」に多くあります。中央アジアには有名な墓廟が多いですもんね。

装飾タイルの萌芽が見られる「ソルタニエ」(イルハーン朝/オルジャイトゥの墓廟)、内部壁面のタイルは素朴ながら古雅の香りに満ちてドキドキするくらいに魅力的です。

ブハラの「サーマーン廟」(サーマーン朝/王族の墓廟)は、焼成煉瓦の組み合わせだけで宝石箱のような華麗な美を表現しています。

トルケスタン(現在のカザフスタン)にあり人気の巡礼地となっている「アフマド・ヤサヴィー廟」(ティムール朝/スーフィー指導者の墓廟)は、堂々とした建築の壁面にタイルが軽やかな模様を描きます。内部のタイルはティムール朝初期の生命感があります。

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(アフマド・ヤサヴィー廟/室内のタイル。撮影禁止なのでピンぼけ、でもいかにもティムール朝初期の可愛さがあるタイルなので何度もアップしてます)

そして「シャーヒ・ズインダ墓廟群」(ティムール朝/11世紀創建の聖人クサムの墓を核にティムール朝王族の墓廟が立ち並ぶ)は、タイル装飾の博物館と言われるほどで、多彩なタイルの美にクラクラします。

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(シャーヒズインダ/ディテールも可愛い。パルメットふう。ティムール朝)

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(シャーシズインダ/コーナーも楽しい。色味の違いもいいですね)

「トラベク・ハニム廟」(ホラズムシャー朝/ホラズム総督クトルグ・ティムール夫人の廟)のドーム内部の宇宙のようなタイルの世界は、タイル装飾の傑作中の傑作です。なぜあのタイルが無名なのか不思議です。

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(トラベク・ハニム廟ファサード壁面/八角星の中に植物模様や星が煌めく。力強い。シャーヒ・ズインダやアフマド・ヤサヴィー廟と同時代。14世紀頃のタイルが最高!!)

パキスタンのムルタンやウッチュのタイル。「シャー・ルクネ・アーラム」や「ビービー・シャビンディー」も聖者廟です。蒼のタイルが本当に魅力的です。こちらも同時代。ベースは中央アジア的なのですが、やはり西のイスラムとはどこか違う気がします。

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(ムルタン/六角星と六角形。じつは複雑な構成。青のバリエと白の組み合わせがリズミカルです)

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(ムルタン/なんだかかわいくて好きです。こういうのは、いいですね〜)

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(シャーヒズインダ/トランプを連想してしまう。黒が効果的。なんだか上のムルタンと同じ匂いを感じてしまいました)

と、墓廟のことを書いているのも、、風邪気味のぼーっとする頭で写真を選んでいて、選んだもの、気がついたらみんな墓廟のものだったからでした。

上に書いた墓廟やそのタイルのこと、これまで何度も書いてきました。まだ知らないことばかり。何度も見てみたいです。なかなか行けませんが、、。

今回は地味なディテールのものを選びました。でも、傾向がありました。八角星や多角星のモチーフ、パルメットや花模様。ティムール朝の特徴ですね。

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(シャーヒズインダ/LOVE!)

タイルの世界で少し遊んでいっていただければ幸いです。
私はちょっとだけウズベキスタンに行ってきます。零下の寒さから少し気温が上がってきたようです。
日本も早くあたたかくなって欲しいですね〜!☆

 タイルに関してはこちらのタグ「タイル」に過去記事全部載ってます!
by orientlibrary | 2010-02-22 23:47 | ウズベキスタンのタイルと陶芸

聖者の宮廷講 イスラーム、スーフィズム、ジュヌーン

「伝説のスーフィーロックバンド“ジュヌーン”以降パキスタン大衆音楽はいかに発展してきたか?音楽と詩の力で“愛と平和”を実現するために?若き音楽研究者の声を聞き逃してはならない」との硬派で魅力的な呼びかけに参集した音楽好き、70名弱。

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(サラームさんツアーがアミール・フスラウの墓廟を訪ねたときに購入した布。カリグラフィーがびっしり)

当ブログでも何回かご紹介してきた「聖者の宮廷講」、今回は22歳の大学生・野上郁哉君(ウルドウー語専攻)が一癖も二癖もある大人たちを前に語ります。内容は、「パキスターニー・ポップ・ミュージック 〜イスラームとスーフィズムのパースペクティブから見たジュヌーン(junoon)登場以降の発展とその課題〜」。

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(野上氏企画編集の音楽雑誌創刊号。現在3号に向け始動中とか)

野上君は、数年前から自分で企画取材原稿営業まですべておこなう音楽雑誌「oar」を発刊してきたツワモノ。発表後には、ワールド音楽評論やDJで大活躍のサラーム海上さん、パキスタン音楽研究の堀江弘道さん、南西アジア文化研究の村山和之さんなど、これまた濃い〜人たちがコメンテーターとして待ち構えています。

発表は、『HEAVY METAL ISLAM 』という本(中東6カ国のヘビメタをはじめとする音楽事情が書かれている)のパキスタンの章「愛と平和を実現するために」の紹介からスタート。貧困と暴力と宗教的過激主義が混在するラーホールで育ったジュヌーン(1990年にデビューしたパキスタン伝説のスーフィーロックバンド)のメンバーは、自由、愛、希望への熱望を歌に託しました。その際に取り入れたのがスーフィーの歌詞や考え方です。

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(『HEAVY METAL ISRLAM 』)

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(『HEAVY METAL ISRLAM 』の中の写真を映しました。モスクの前の広場のようですね)

「ジュヌーンは社会批判をずいぶんしたバンド。政治的社会的批判を歌詞に取り込みました。スーフィーの詩の持っている力や民話のストーリーを借りて、暴力を使わない魂の平和を求め伝えたのです。それをロックに合わせてやったのが新しかったしカッコ良かった」(BY野上君/速記のメモなので細かい部分はちょっと違うかも)。

パキスタンの音楽の歴史も。アミール・フスラウ(カッワーリーを作ったとされるスーフィー詩人、政治家)、大衆的なガザル歌謡、カッワーリー(宗教儀礼で歌われる陶酔の音楽)、カーフィー(音韻叙情短詩)、フォークミュージック、1940年代頃からの映画と融合したポピュラーソングからジュヌーンやMEKAAL HASSAN BAND(ジャズと南アジア音楽のフュージョン)に代表されるスーフィー伝統を取り入れたバンドの登場までを概観します。

そして野上君のテーマである「イスラームにおける音楽の是非」に移ります。なぜイスラームにおいて音楽は否定されるのか、その根拠は?クルアーンやハディースにおけるその記載を探しますが、厳密には「ない」ようです。ハディースに無益なものと書かれた部分があるくらいで、結局よくわからない。そしてわからないままCDショップの爆破などが起きています。「イスラームの名の下に、パキスタンではこの3年間で800軒の音楽店が焼かれ、楽士が殺された」とチラシにも書かれています。未解決の問題のようです。本当に本当に残念なことだと思います。

90分、映像も取り入れながらの発表が無事終了。堂々としていて良かったですよ。コメントも各人の経験や視点が光ってました☆

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(村山さんが蒐集した80〜90年代のパキスタンのカセット。そういわれてみれば、私もつい買ってましたね、カセット)

その後、村山さんによる「パキスタン・非CD音楽の旅」。村山さんが蒐集した1980〜90年代のパキスタン音楽のカセットテープを聴かせてもらいました。カセットが今も生きるパキスタン。2009年8月時点でも63%の人がカセットで音楽を聴いているそうです。(数字細かいですけど、、こういう調査があるってことも不思議でおもしろい)

「当時ジャケ買いしたカセットを今取り出してみたら、最近ずっと探していた貴重な音源が入っていたりして驚いた。CDにできない、ならない音源は現地ならではの臨場感があり、深い。今になって価値がわかった」と村山さん。

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(カセットを聴きながらphotobooth〜プロジェクターでジャケを見る。頭いい〜!)

みんなでカセットを聴いているうちに、サラームさんがMacのPhotoBooth通しでスクリーンにジャケットを映してくれました(なるほど〜!これは便利!)。個性満開のミュージシャンのビジュアルを見ながらの、村山さんの深くて味のある語り。こういう音楽の聴き方もいいですね〜。

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(ワールド音楽熱中人たち)

さらにサラーム海上さんの、「ラジャスターン 伝統音楽舞踊10日間の旅」(昨年末〜年始。サラームさん企画&添乗。独自のコンサート3つ。私も行きたかったな〜!)の写真や音像紹介。サラームさんのグイグイと惹き付ける語り口、豊富な知識、シャープな視点に感心しているうちに、時間があっという間にたってしまいました。

音楽家のコロニー(芸術家村のようなところ)の写真も良かったし、その場で盛り上がって歌ってくれたようなノリの「Allah Hoo」が最高でした!!リラックスした楽士たちの表情も良かった!現地で聴けた皆さん、良かったですね。ホント、こういうの、PRICELESSです。

この時点で4時間半ほどが経過。その後、恒例の「宴」。実際に音楽をやっている人も多く、音楽やインド、パキスタン、中東の話で夜は更けていくのでした。

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(宴会。手前のトルコものに注目!いちじく、ヴァクラヴァ、甘くないバナナチップ、オリーブ、そしてイランのバムの最高級半生デーツ。ダンディMさん、ごちそうさま〜☆)

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(こんなカセット集も展示されていました。トルクメンのフォークソング。模様がいいですね)
by orientlibrary | 2010-02-09 02:23 | 美術/音楽/映画

タイルとうた、陶器とことば

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(タブリーズ・ブルーモスク)

一年で最も寒い時期、いかがおすごしでしょうか。休止中の「イスラムアート紀行」、この間、イスラム工芸やタイルの本をじっくり読むつもりでしたが、困ったことになんと何の進化もなくすぎてしまいました。読むことに集中したいと思っていましたが、追い込まれたときしか集中できないという自分の性癖を忘れていました。困ったものです。

この間も、こんなブログにたくさんの方がご訪問くださいました。ありがとうございます。再開に向けて助走しようかなと思っています。かなりゆっくりなりペースだと思いますが、、。

今回は、イスラムアートとはまったく違う話題なのですが、このところ興味を持っていて、ちょっと書いてみたくなりました。言葉のこと、です。
「星野しずる」という作家をご存知ですか?短歌を作っています。たとえばこんな作品があります。

  真っ暗なふたりの星に隠された絵画をなぞる世俗のうねり
  真夜中の北極星を見てみたい何も言わない川を導き
  風の果て 冬の匂いを追いかけて渦の図形を見つめていたら


独特の言葉の世界。ちょっと不思議で透明感もあって。作者は女性?男性?若い人?

「作者」は、「星野しずるです。一心不乱に犬猿短歌をつくり続けます。」とTWITTERで自己紹介しています。TWEETS(つぶやき)が現在3500ほど。ということは、その数の「短歌」があるということです。しかも星野さん、1日に100首以上も間断なく作り続けているのです。

これらの短歌は、「“二物衝撃”によって詩的飛躍を感じさせる短歌を自動生成するスクリプト」により作られているそうです。つまり、、コンピュータが作っているのです。
生成の仕組みや文芸の手法としての“二物衝撃”、語彙選択や短歌らしいフォルムの作成(レシピ)、コンピュータによる作品作りの例や、もともとの意図など、要約するのもむつかしいので、こちら「犬猿短歌 Q&A」をご参照ください。

爆発的なスピードでアップされ続けている星野しずるの短歌。もう少し見てみませんか?

  約束が好きだ 言葉の沈黙を集めて淡い空間の中
  引力のはざまで浮かぶたましいは路面電車の図形を語る
  運命をなぞる短歌をあきらめて空一面の夏の直線
  夢のないとがった群れの中心をおそれて海の四月をめぐる
  引力を忘れ大地を確かめて色とりどりの空のカプセル


好きなうたがけっこうあります。言葉選択のセンスや確かなレシピがなど、影の(どちらが!?)作者が実力があるのでしょう。影の作者のセンスの良さの証明に、「タイル」も語彙に入ってるんですよ〜!☆ (よくわからない出来上がりですが→)「漆黒の写真を見ても夢のないタイルの裏が好きです メール」「誇張した理想主義者を忘れてもさめたタイルより大切な都市」

影の作者は「もともと雰囲気や気分だけでつくられているかのような短歌に対して批判的」でしたが、「読み手の解釈力が高ければ、わりとどんな詩的飛躍でも「あるかも」と受けとめられるはず。その考えが正しいのかどうか、検証したかった」そうです。

そして、「星野しずるの短歌をたくさん読んでいくと、何首かに一首、はっとさせられる短歌を見つけることができると思います。人間ではつくれないような新鮮な暗喩をつかったり、時には逆に、まるで人間がつくったかのような深淵な意味が読み取れてしまう短歌も出てきます。まずはそのおもしろさを楽しんでほしいですね」。

「その上で、人間の持つ「理解しようとしてしまう力」の潜在的な高さについて驚いたり、読み手依存型の創作の怖さに気づいたり、創造性がほんとうに発揮されねばならない場所とはどこなのか再考したりしていただければ幸いです。」(管理人の佐々木あららさん)

「理解しようとしてしまう力」、、たしかにありますね。創造性を発揮すべき場所というのも、なるほどと思いました。
ここまで来たら、ノリでこんなのはいかが?写真を選び、それに「うた」を合わせてみました。


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<浮彫りタイルパネル(イラン)> × <民族よ 寄するおもひは冷えながら並木に生るる花のしづけさ (岡井隆)>


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<サーマーン廟(ブハラ)> × <家々に釘の芽しずみ神御衣のごとくひろがる桜花かな (大滝和子)>


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<施釉された青緑(イラン)> × <いそのかみ古る埃及(エジプト)の古枕その窪に載る何の古夢 (高橋睦郎)>


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<シャーヒズインダのタイル(サマルカンド)> × <画家が絵を手放すように春は暮れ林のなかの坂をのぼりぬ (吉川宏志)>


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<タイル(クニャウルゲンチ)> × <夕星(ゆふつつ)も通ふ天道(あまじ)を何時までか仰ぎて待たむ月人壮士 (万葉集)> 


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<リシタン古陶器(ウズベキスタン)> × <春近し時計の下に眠るかな (細見綾子)>


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<リシタン古陶器(ウズベキスタン)>  × <くれないの露にあさ日を映してもあたりまで照るなでしこの花 (藤原定家)>


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<リシタン陶芸(ウズベキスタン)> × <四万十に光の粒をまきながら川面をなでる風の手のひら(俵万智)>


やってみると、けっこうむつかしかった。ノリでサクサクというわけにもいきませんでした。中央ユーラシアの土ものと、日本語のうたの世界とを合わせるのは意外とむつかしかったです。
by orientlibrary | 2010-02-03 00:31 | タイルのデザインと技法