イスラムアート紀行

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ホラズムの青いタイルに憧れて

トルクメニスタンに行ってきます。いちばん楽しみにしているのは、ホラズム王国のオアシス都市として栄えた「クニャ(古)・ウルゲンチ」の建造物。

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(カザフスタン/2007)

円錐屋根の「テキシュ廟」(1200年)、鉛筆屋根のような「イル・アルスラン廟」(1172年)の青いタイル(〜施釉煉瓦)に長く憧れていました。修復されすぎていないことを願っています。

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(キルギス/2007)

「テュラベク・ハヌム廟」(14世紀)の華麗な装飾タイル、中央アジア最大の煉瓦造ミナレット「クトルグ・ティムールのミナレット」(14世紀)も、実際に見てみたかったものです。

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(ウズベキスタン/2007)

中央アジアの風を感じてきます。

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(ホラズム王国の版図1190-1220/wikipediaより引用)
by orientlibrary | 2008-04-28 21:40 | 中央アジア5カ国

途上国でかわいいモノづくり。そのパワーとセンスを学ぶ

心地良い空間、心地良い時間、人それぞれに違いますよね。美しいビーチリゾートやラグジュアリーなホテルで最高のサービスを受けるのがいちばんという方も多いと思いますが、私は、どうも苦手。高級なところや優雅さと縁のないことバレバレです。

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(インド・ラジャスターン・ナワーブの邸宅を一部使用したプチホテル。客室も居間も全体がひとりの女性デザイナーの布で統一されています。すべて花柄。組み合わせてもうるさくないのが不思議です)

◆ インドのインテリア  ◆
そんな私が宿泊先で心地いいと思うのは、清潔でこじんまりとして簡素。でもセンスの良さと気配りが各所から伝わってくるところ。ホテルなどはあまり写真を撮らないので残念ながら写真がないのですが、ウイグルの小さなホテルでは、ポットとコップの絶妙な配置に美的感性の高さを感じました。そういうのが好きなんです。

写真でご紹介しているのは、インド・ラジャスターンのナワーブ(イスラム藩主)の邸宅を一部使用したプチホテル。同・マハラジャホテル。インド・ヒマーチャルプラディーシュ州・プラグプルの旧家を改造したゲストハウス。そして、ラジャスターンのブロックプリントの工房です。使われている布の素材感がなんともいいんです☆

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(ナワーブのプチホテル。使い古した布を椅子のカバリングに利用。よくこなれていい心地になっています)

インドの布(繊細な木版捺染)やインテリアと出会ったのは95年頃。当時、インドの製品というとチープな雑貨や安価な衣料が大半で、イコール安物という印象が強く、「品質とセンスが抜群にいいものがあります」と言っても、実際に見せても、流通関係の方々にはいい反応がありませんでした(一般の人たちは「きれいね〜!」と高く評価してくれましたが、、)。「残念だけど仕方がない」、私も早々とあきらめました。

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(ラジャスターンのマハラジャホテル「サマードパレス」。ロールカーテンとすだれをミックスしたようなもの。蒸し暑い気候に最適。布は木版捺染。透けるように薄い木綿だから、こんなことも可能に)

◆ バングラディシュでかわいいバッグを作る ◆
バングラディシュで特産のジュートを使って「途上国発ブランド」のバッグを開発製造し日本で販売している山口さん。(本の内容と著者の紹介は、書くと長くなるので、ご興味のある方はamazonのこちらをごらんください。3月にテレビの『情熱大陸』でも紹介されたそうです)。読後、予感通り、ちょっとピシッとしました。

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(インド・ヒマーチャルプラディーシュ州・プラグプルの旧家を改造したゲストハウスの寝室部分=これはサブでメインはもっと広いですが私はここが好き。簡素で心地良い。ラジャスターンの木版捺染が各所に使われており、すだれロールカーテンも同じ。ヒマラヤと沙漠?でも距離的に近いんですよね、意外と)

彼女のガッツと行動力はすごいというか、すさまじい。イジメ、非行、男子柔道部でのド根性の日々、3ヶ月猛勉強で慶応大学入学、ワシントンの国際機関でのインターン、とにかく現場へと渡ったバングラディシュ、腐敗、格差、途上国ブランドという発想、ジュートとの出会い、工場での苦闘、日本での販路開拓。

ワシントンの国際機関の様子には驚きましたが、現実なんでしょうか。「途上国なんて行ったことないし、行きたいとも思わない」という職員たちの優雅なオフィスライフ。「国際機関はいつだってトップに存在する。僕たちトップは頭を使う」という職員に、彼女は「ものすごい違和感と現場との乖離」を感じ、1週間後にバングラ行きのチケットを取ります。

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(ラジャスターン・バグルーの工房。天井がサンプルのようになっていておもしろいです)

エピローグから一部、抜き出してみたいと思います。

 「バングラディシュで見てきた現実の中で自分の人生に最も影響を与えたものは、明日に向かって必死に生きる人たちの姿だった。食べ物が十分でない。きれいな服もない。家族もいない。約束された将来もない。そして生活はいつも政治により阻害され、きれいな水を飲むにも何キロも歩かなければならない。そんな人たちが毎日必死に生きていた。ただただ生きるために、生きていた」
 「そんな姿を毎日見ていたら、バングラディシュの人たちが自分に問いかけているような気がした。“君はなんでそんなに幸せな環境にいるのに、やりたいことをやらないんだ?”って」
 「他人にどう言われようが、他人にどう見られ評価されようが、たとえ裸になっても自分が信じた道を歩く。それがバングラディシュのみんなが教えてくれたことに対する私なりの答えだ」

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(ラジャスターン・サンガネールのブロックプリントの工房。ホワイトonホワイトの木版捺染です。私も作ってもらいました)

彼女が「本気でやりたいこと」は「バングラディシュでかわいいバッグをつくる」こと。しかもフェアトレードという方法ではなく、あくまでもデザインや品質で勝負する。この感じ、すごくすごくわかります。名を知られていない国のものでも、商品力で直球勝負をする。そして「かわいい」こと。軽い言葉のようですが、これがいちばん難しいと思います。「かわいい」という感覚的なものを、価値観や風土の違う国で形にすることの大変さは想像に難くありません。(山口さんたちのブランド「マザーハウス」サイトはこちら

25歳のガッツと行動力、号泣しながらも走り続ける一本気。現場や体験からにじみ出る素直な言葉の強さ。刺激を受けました。「本気」、ですね。

*補足* 「本気でやりたいこと」の部分について書籍紹介より引用==「バングラデシュで彼女を待ち受けていたものは、開発学の教科書には載っていない、すさまじい腐敗と格差でした。役所に水道を通してもらうのも賄賂、交通事故で警官に救急車を呼んでもらうことまで賄賂。この衝撃に彼女は怒り、そして誰も思いつかなかったアイデアをつかみます。必要なのは途上国への施しではない。貧しい国で作られたものを欲しくもないのに「かわいそうだから」という理由で高い値段で先進国のバイヤーが買っていくフェアトレードという発想じゃダメ、先進国の消費者が本当に「これカワイイ!」と思うものを、このアジア最貧国で作ろう。
こうして23歳のときにバングラデシュで起業を決意、特産のジュート(麻)を使った高品質バッグを現地で生産し輸入販売するマザーハウスを設立します。その後、現地での工場探し、物づくりに対する根本的な考え方の違い、嘘や裏切りなど、日本ではあり得ないような苦難の連続を次々と乗り越えていきます」 

** ブログ内関連記事 **
「インド・ラジャスターンに咲く サンガネールの優雅なブロックプリント」
「手工芸への熱き思い ”インドの職人”」
「職人とは、建造神ヴィシュヴァカルマーの継承者である」
by orientlibrary | 2008-04-25 00:04 | インド/パキスタン

柿右衛門と鍋島。色絵が生きる情感ある白地の魅力

『柿右衛門と鍋島 —肥前磁器の精華—』展(出光美術館)を見ました。とても良い展覧会でした。出光コレクションの蒐集はこのあたりのもの(古九谷、柿右衛門、鍋島、古伊万里など)が充実しており、時代の流れや様々な比較など切り口が明快で、わかりやすく見応えがあり、たいへん触発されました。

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(展覧会チラシより引用。左上は「色絵花鳥八角共蓋壷 柿右衛門」(江戸時代前期)、右下は「色絵栗樹文大皿 鍋島」(江戸時代中期))

図録の解説もほんの一部しか読んでおらず、もともと知識もないのですが、自分の好きなもの、感じたことを中心に少し書いてみたいと思います。


◆ 17世紀はやきもの、奇跡の時代 ◆

「17世紀という江戸時代の前期の百年間は、肥前の陶磁において、いや日本のやきもの史において、“奇跡の時代”と呼ぶに相応しい」。「17世紀後半は実り多き時代であった。色絵技術が完成し、絵画的な装飾性さえも獲得するのは、まさにこの時代である」(展覧会図録・解説より。以下、この解説を引用、あるいは参考にしています)。

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(「薄瑠璃釉色絵唐花文皿 鍋島」/展覧会図録より引用/唐花を皿の回りの部分に展開する「湾曲構図」、唐花文は染付で輪郭をとり古九谷様式に近い濃い緑、黄色の二色で彩色)

「16世紀後半まで日本はやきもの後進国」で、素朴な焼きしめ陶器が主流でした。しかし、桃山時代に鉄絵の技法が開始され、室町時代後期には備前や信楽など詫びた味わいのある茶道具が作られていました。磁器や施釉陶器は中国から輸入すればよく、あえて自前で作る必要がなかったのだそうです。

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(「薄瑠璃釉色絵唐花文皿 鍋島」底部/花唐草を三方に記す/展覧会図録より引用) 

日本で初めて磁器生産に成功したのは肥前で、1610年代頃。中国に遅れること千年余です。しかし1640年代、中国では明から清への王朝の交替に伴う内乱から中国磁器は輸出が激減。その代役になるべく肥前は技術革新に邁進し、17世紀中期には薄手の白さが際立つ高品質の素地が完成しました。そして、その白地を生かして当時の世界最高の品質を誇る色絵磁器が誕生するのです。


◆ 色絵が生きる白地、柿右衛門の優雅 ◆

私は華美な色絵にはあまり惹かれません。古伊万里などは、きれいと思いますが、惹かれません。また柿右衛門は世界に誇る日本の美ですが、私はあの赤、茶系の入った赤がどうも苦手なんです。

けれども今回気がついたのは、柿右衛門の白地の美しさです。「初代柿右衛門の目標は磁器製作の技術全般にわたる高邁なもので、ことのほか素地作りに力点が置かれていた」「初期伊万里といわれる磁胎には満足せず数段技術レベルの高い磁胎をめざしていた」。余白の多い優雅な構図は、美しい白の素地を生かすものだったんですね。

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(「春秋遊楽図屏風」(江戸時代中期)/展覧会図録より引用/「元禄期前後の江戸の巷の雰囲気を伝える屏風で、この太平の世に生きる人々の熱気が肥前磁器の精華である柿右衛門や鍋島、そして古伊万里というきらびやかな色絵を誕生させた」(解説より)/吉原遊郭の秋景色。当時のインテリアが垣間見られて興味深いです。注目したいのは段通(絨毯)。鍋島は「鍋島段通」でも有名。鍋島様式磁器の幾何学文様との類似点が多いそうです。段通に人は座っておらず楽器が置かれたり「一段上」の感じです)

17世紀後期は、世界最高の水準を誇る柿右衛門様式を擁するまでに急成長をとげた日本のやきもの。世界各地に輸出され一世を風靡しますし、国内でも什器が木(漆器など)からやきものに変わっていきます。野々村仁清、尾形乾山が活躍し、「土という素材を生かして自己の理想美を表現しようとする本格的な芸術活動が開始された」。土が芸術になったんですね!


◆ 傾(かぶ)くデザイン、鍋島 ◆

鍋島には見惚れました。骨太で自由で古雅の魅力に満ちていて好きです。「(鍋島藩は)国内最高の磁器を創造しようとする高い志と美意識により、日本の磁器のなかでもっとも典雅優麗なうつわを創造したのである」。

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(「銹釉染付茄子文皿 鍋島」/展覧会図録より引用/京茄子を画面いっぱいに配する。傾(かぶ)く美意識)

e0063212_0361275.jpg(←「銹釉染付茄子文皿 鍋島」底部/花唐草/展覧会図録より引用)

「鍋島様式のデザインの特徴は、モチーフをできる限り絞り込み、余分な要素をそぎ落としていくことにある」「主なモチーフはゆとりのある空間のなかでインパクトをもって大きくゆったりと描かれている」。江戸初期の粋な「傾(かぶ)く」センスも特徴だそうです。陶磁器を見ると、心がなごみます。良い時間でした。
by orientlibrary | 2008-04-18 00:43 | 日本のタイル、やきもの

土壁、土の屋根。土の建築伝統が生きるイラン

「5000年前の日干し煉瓦に勝るものは作れない」、前回記事でご紹介した久住章さんが遺跡の修復に関しておっしゃっていたことです。「作り方が違うようだが、専門家の間でも明らかになっていない」とも。
日干し煉瓦といえば、土に水と藁などを加え枠に入れて成形し天日で固めるもの、もっともシンプルな建築素材、という印象を持っていましたが、様々な工夫が必要なのかもしれません。

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(日干し煉瓦の例ではありませんが面白い形状の壁。イラン北部地方。土壁の段にふくらみを持たせているのはなぜ?きっと何か合理的な理由があるのでしょうね/『IRAN jewel of jewels』・gooyabooksより引用)

◆ 日干し煉瓦の作り方 ◆
●日干し煉瓦について調べたい。土の建築伝統を体現する国・イランを見てみることにしました。こんなとき頼りになるのは、『ペルシアの伝統芸術〜風土・歴史・職人』(平凡社)。建築技術やタイル製作などが詳細に書かれている秀逸本です。期待通り日干し煉瓦製作の工程がくわしく書かれていました。(以下は同書より。読みやすいように書き直している部分があります)

*土の入手=家を建てるときに掘り下げる土を材料として用いる。不足分は近くの採土穴から入手する
* 調整=土は十分な水で細かいものと粗いものを分け余分なものを除去する
* 混ぜ土作り=その土に切り藁を加え足で踏んで混ぜ合わせる。鍬でさらによく混ぜる
* 型置き=煉瓦の型作り職人が地面に切り藁を薄く敷き、木製の煉瓦の型を平らに置く
* 型に入れる=土と切り藁の混ぜ土を型に投げ入れ素手でたたいて隅々までいきわたらせ余分な土をまっすぐな板で掻き取る
* 抜く=素早く型を持ち上げると煉瓦が地面に残る
* 次の煉瓦=型をその隣に置く。こうして煉瓦を型作りし1時間に約250個の煉瓦を作る
* 乾燥=よく乾くように煉瓦を立てて3〜5時間、1〜2日間、日なたで乾燥させる
* 製作時期=空に一片の雲もない暑い夏の数ヶ月のみおこなう

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(イラン北部の景色。雪の中の土の家々/orientlibrary)

工程としては今も変わらないのでは、と思うのですが、細部に微妙な経験則などがあるのでしょうか。神殿や宮殿などではより良い土が選ばれたりするのでしょうか。このあたり私にはわかりません。煉瓦のサイズについても書かれています。

* 現代の煉瓦=20㎝×20㎝×4㎝
* バビロン=40㎝×40㎝×10㎝
* ペルセポリス=33㎝×33㎝×13㎝
* ササン朝=38〜50㎝×38〜50㎝×9〜13㎝
* 初期イスラム建築=23㎝×23㎝×5㎝

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(タフテ・スレイマーン。雪に覆われた日干し煉瓦の建物/orientlibrary)

日干し煉瓦はモルタルで接着して、壁やヴォールトなど曲面にも用いられます。イランの暑さに対処するため外壁の厚さは60〜90㎝必要なのだそうです。厚いですね〜!箱状の空洞を作ることもあるそうです。そして仕上げです。

* 土と切り藁の混ぜ土で下塗りするが、少量の石灰を加えて耐水性を持たせることが多い
* 鋼鉄製の鏝(こて)で下塗りしたあと、木製の鏝で滑らかに仕上げる

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(イラン北部にて。どうして藁を積んでいるのかと謎でしたが、もしかして雨や雪を防ぐため?単に藁の乾燥〜保存のため?/orientlibrary)

◆ 土の建物のメンテナンス ◆
●乾燥しているといっても雨も降ります。気になるのは耐水性です。壁はまだしも屋根や天井はどうなっているのでしょう。

* 天井板などの上に藁で編んだマットを敷き、土と切り藁と少量の石灰の混ぜ土を何層にも分けて敷いていく
* 各層を十分に乾燥させ石製のローラーで固める
* 切り藁の割合が高いアゼルバイジャン地方では50〜63㎝に達する
* 雨が降ったらそのつど屋根をローラーで固める必要がある。そうしないと乾くときにひび割れてしまう。溶けかけの雪は雨よりも早く浸みこむためすぐに取り除く。ローラーは常に屋根の上に置いておく
* シロアリや木喰い虫を防ぐために十分な量の塩をマットに蒔き混ぜ土にも混ぜておく

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(イラン北部にて/orientlibrary)

きめ細かいメンテナンスが必要なんですね。でも、土製の屋根は夏に涼しく冬には暖かく部屋を保ってくれるそうです。同書の著者ハンス・E・ヴルフ氏はこう書きます。「驚くことに、粗末な農家ですら多くの建築資材や技術が用いられている」。日本でもイランでも、そして世界各地で、心地よい住まい作りとその維持のための工夫と努力が続けられてきたんですね。

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(ソルタニエにて/orientlibrary)
by orientlibrary | 2008-04-10 11:46 | タイルのデザインと技法

土の建築、左官の仕事、その深くて熱い世界

「土の建築の素材と形 1000年の壁」という魅力的なタイトル、語るのは淡路のカリスマ左官・久住章さん。先日開催された「左官的塾の会 公開講座」は、一言も聞き逃せないくらい興味深く楽しいもの。「こういうことが知りたかった〜!」と土族感涙でした。

◆ 世界各地の土の建築 ◆  
考え方をあらためたのは、土の建築世界の奥行きについてです。西アジア〜中央ユーラシアを集中的に考えていた私ですが、ヨーロッパ、アフリカ、南米、そして日本と、世界各地の多彩な土の建築の写真に、自分の視点の狭さを感じました。

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(ウズベキスタン・フェルガナ地方の土壁。今も土だんごで仕上げていました/orientlibrary)

古い土の建築についても、日干し煉瓦大好きでその印象が強かった私ですが、「木の小枝を編んで土を塗ったもの」「土だんご、練り土」などの歴史の古さにはガツンときました。

西アジア、中央ユーラシアは土が主な建築材料。権力者の大規模な建造物も宗教施設も土を使って作られており、土という身近な素材でここまで美しく表現できるのか、というところが私の興味と敬意の基本であり、装飾タイルはその最たるものです。

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(タフテ・スレイマーン(イラン/ササン朝の遺跡)の日干し煉瓦/orientlibrary)

けれども世界に視野を広げると、古今東西、庶民はどの地でもおおいに土を使ってきたし、今も土作りの家で暮らしています。版築工法(板などで枠を作り土を入れて突き固めたものを重ねていく技法)で作られたフランスの農家。練り土を積み上げただけの素朴な工法のイギリスの農家。ともにどっしりしてオブジェのよう。存在感がありました。

スペインやニューメキシコでは、日干し煉瓦や土を高く盛っていった下地に漆喰やペンキを塗り、防水しつつ清潔でおしゃれな仕上がりにしています。

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(Wikipediaより引用/マリのジェンネのモスク)

アフリカのマリ、有名な泥のモスク(ジェンネのモスク)。雨期には激しい雨が降るらしく、修理修繕は必須、毎年地元の人が何百人何千人と参加して手で泥を塗っているとのこと。突き出たたくさんの棒は、泥の塗り替えのための足場だそうです。実用のものですが、意匠としても生きていますよね。

日本も素晴らしい土の建築文化があります。例としてあげられたのは、三十三間堂の版築土塀(版築に水を切るため漆喰を挟む。意匠的にも美しい)、京都御所の辻塀(練った土を積み上げ化粧に漆喰を塗る。聚楽土は権威の象徴)、東大寺土塀(瓦、粘土、土だんごを積み上げる)、法隆寺土塀(版築を積み重ねる。きっちりと手間をかけて作られた)や民家など多数。日本の塀、壁、屋根、深いです!

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(Wikipediaより引用/法隆寺土塀)


◆ 日本の繊細な左官の技術は世界遺産 ◆
お話は縦横無尽で、「え〜!?」というエピソードも多く、書きたいことは山のようにあるのですが、もう一点、左官職人さんのことに話題を絞りたいと思います。そもそもこの講座は「左官的塾」という会の主催。

左官的塾の会の主宰者でもある久住章さんは、「日本の左官の技術は世界遺産」と言います。ドイツのある街で土壁の修理をしようとしたけれど、すでに道具がない。日本の鏝(こて)がいちばん優れていると日本から輸入したそうです。

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(INAXライブミュージアムの一角にある「土・どろんこ館」の壁は版築でできています/orientlibrary)

驚いたのは、日本の左官道具はなんと1500種類もあるということ。道具、まさに「道」の具、道の深み厚みが道具の深み厚みにつながるのかもしれません。「日本は仕上げが繊細で、仕上げの種類も多い。土を繊細に使える技術は日本の特許。日本のもの作りの特色、誇れる文化」。

さらに、「ヨーロッパでも土の建築物が見直されているし、ペルー、インド、マリなどは土の建物がとても多い。ニューメキシコには日干し煉瓦のメーカーだけで478あり400万個作っている。しかも年々増えている」「土を扱う職業は世界的に最もメジャーで将来性のある職業」。聞いているこちらも熱い気持ちになってきます。

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(イラン/チョガザンビールの近くで・壁塗り/orientlibrary)

新しい動きもあります。『左官教室』・・塗り壁を文化としてとらえ左官仕事を追求、文化誌の趣があってファンに愛されていたこの雑誌が昨年秋、休刊となりました。しかし、、さすが左官界!!つい先日、『月刊さかん』が創刊に。早〜い!版も大きくなってオシャレなデザインです☆♪(左官的塾のサイトで紹介されています)

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(左官職人さん手作りのチリボーキ。美しい!!勝手に写真を撮ってすいませんでした!)

輪島での土蔵修復のエピソード(修復の報告レポートはこちら)や、独創的な構造体(=竹ゴマイ・この上に荒壁を塗れば千年持つ)のお話も印象的。これがタイトルの「1000年の壁」とつながっていたんですね。ひたすらメモを取りまくり、刺激を受けまくりの3時間でした。会の皆さん、久住さん、どうもありがとうございました。

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(千年持つ壁の中にはこれ!竹ゴマイ。縄の結び方や縄になる植物も強度と関係あるそうです)
by orientlibrary | 2008-04-01 17:27 | タイルのデザインと技法