イスラムアート紀行

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キルギスの不思議な湖と岩絵博物館(?)

●「ずいぶん会ってないけど無事なのか」という感じでブログを見て頂いている方もあるようです。一種の「消息記」でもあるので、ある程度の頻度で書きたいと思っているのですが、そうもいかない時があります。

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●最近はとくに、スタディができていないので残念、、。そんな気持ちで写真を見ていたら、岩がゴロゴロしている写真に目がとまりました。キルギスの「チョルポン・アタの岩絵野外博物館」です。博物館とありますが、野ざらしの、そのまんま。なんというか絵に描いたような荒涼感が、逆に見事という気がします。

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動物の絵はクッキリと見え、素朴な線ですが、大きくノビノビと描いています。

●岩絵の彼方に見えるもの、それは「イシククル湖」。「熱い(イシク)湖(クル)」という意味を持ち、数少ない古代湖のひとつなんだそうです。周囲には多数の鉱山があり、ソビエト時代には外国人の湖畔への立ち入りは禁じられていました。井上靖さんが憧れた湖としても知られていますね。

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●湖にはいろんな不思議があり、冬は厳寒の気候にもかかわらず湖面は凍らないといいます。また多数の遺跡が水没していることが確認されているそうです。遺跡がここに?山の中ですよ。湖畔に陶器など湖底の遺跡のものが打ち寄せることがある、、見てみたいです〜!

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●大きさは琵琶湖の9倍。水深は世界第4位。
透明度は第2位。船でクルーズしましたが、湖面の青色は、前回触れたラピスラズリのようなクリアな濃い青。しかも彼方には真っ白な天山の連山が連なります。晴天に恵まれたこともあり、水色の空と白の天山山脈と真っ青な湖面を堪能することができました。

●、、タイルも、もう少しじっくりスタディしたいです。サクサクのネタで失礼しました。ではまた〜♪

*** ヨロンに行ってきます。お返事等遅れるかもしれませんが、コメントどうぞよろしく〜♪ ネットはできます。では〜! *** 
by orientlibrary | 2007-11-29 18:34 | 中央アジア5カ国

イスラムの青。コバルトとターコイズ

●先日、「“イスラム”と言っただけで一歩引かれた」という話を聞きました。ニュースに出てくる“イスラム”を見れば、きな臭い話題ばかりですから、そういう印象になるのも仕方のないことなのかもしれません。でも残念、、。

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チョガザンビルの青/神殿都市/イラン/紀元前13世紀頃)

●きれいなものがたくさんあるのになあ、、。とくに西アジア〜中央アジアで見る「青」には、心惹きつけられます。旅行した方々からも、「青がすごく綺麗だった」という感想を聞きます。

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(イラン国立博物館にて撮影)

●紺碧の空に負けないくらいの燦めきを放つ青のドームや、建造物の壁面を埋め尽くす青のタイル。博物館で圧倒的な存在感を示す青の陶器やガラスイスラムの青は格別な気がします。

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(イラン国立博物館にて撮影)

●これまでもタイルやレンガや陶器の青について、何度か書いてきました。
「天空への憧れ、聖なる青(ウズベキスタン装飾タイル)」  
「施釉タイル、輝く青はこうして作られる(イランでの施釉の工程)」  
「紀元前13世紀の施釉レンガ(チョガザンビル)」   
「15世紀タイル装飾の傑作・ブルーモスク(イラン・タブリーズ)」  
「天然釉薬イシクール(ウズベキスタンの陶芸産地リシタンの青)」    などです。

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青の都サマルカンドの廟・ビビハニム(1399-1406)の青/初期建造の煉瓦ではないと思いますが味わい有り!こういうものにグッと惹かれてしまいます)

●振り返ってみると、その他でも建築や陶芸など、結局は青の魅力について書いていることが多いのに気づきました。もしかして、別名「青紀行」かも、、。

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「アフマド・ヤサヴィー廟」のタイル/トゥルケスタン/カザフスタン/1397-99/ティムール朝初期の代表的建造物/コバルトとターコイズの組み合わせはティムール朝の美意識を反映。花模様も何とも可愛らしい)

●西アジア、中央アジアの陶器やタイルに青が多い理由としては、釉薬の原料となるコバルト酸化物や呈色剤である銅など、青の原料が豊富だったことが一因のようです。また、高い温度で焼くことのできる粘土や高火度焼成に必要な油の多い木材が少ないことから、低い温度で焼ける釉薬を利用。青、黄、緑が多くなりました。

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タブリーズのブルーモスク(1462-65年)/カラコユンル朝/コバルトブルーの地にターコイズの茎。白い蓮の花。これがモザイクタイルだなんて、、。圧倒されました)

イスラムタイルの青、コバルトとターコイズ。どちらも貴石、宝石を連想させる青です。そう、ラピスラズリとトルコ石。古代より権力者の装飾品を豪華に彩ってきた石です。コバルトとターコイズは、神秘的な魅力を持つ石の青を再現しようとして作られた色なのかもしれません。

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ウズベキスタンの陶芸産地・リシタンの現在の作品・茶碗/青が鮮烈、手描きの絵付けは丁寧かつ自在で一つとして同じものがありません)

●イスラムの美の魅力のひとつは凝縮力ではないかと思います。稠密で集中していて、優美でありながらテンションの高さを感じます。色彩に乏しい乾燥地帯であることが、逆に色への強烈な感性を育んだでのは、、イスラムの青を見ていると、そんな思いが強まります。
by orientlibrary | 2007-11-23 00:40 | タイルのデザインと技法

木の装飾、木の住まい、中央アジアの木のある暮らし

●タイルに憧れて訪れた「アフマド・ヤサヴィー廟」(トゥルケスタン/カザフスタン/15世紀初頭/ブログ内関連記事はこちら「待望の訪問」「サファヴィー建築とムガル建築の母」)。久しぶりに写真を見ていたら、木の扉の写真に目が止まりました。精緻な細工です。

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●中央アジアは内陸の乾燥地帯ということから「土一色」という印象があるかもしれませんが、フェルガナやキルギスは緑にあふれ、樹木が勢いよく茂っていました。
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●「土族」な私は、タイルで描かれるアラビア文字や花模様に感動しましたが、木による装飾も見事なものでした。
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●↓は、たしか「清心寺」(モスク)だったと思います。強い色の使い方が印象的ですが、木の細工も凝っていますね。
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キルギスの住宅は、可愛い三角屋根や水色などの窓枠の色使いが爽やかで、どの家も個性的。たくさん写真を撮りました。木を材料に使っているせいか、親しみやすい感じです。全体の雰囲気は、極東シベリアの村の住宅と似ているなと思いました。
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●↓は、ウズベクの陶芸家の工房です。このコーナーがあることで、ウズベクらしい感じがします。陶器ともよく合いますね。
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●湯を沸かしたり調理にも、薪を使っていました。肉類が苦手な私が、生まれて初めて美味しいと思ったのも、フェルガナでいただいた薪の火で丹念に焼いたバーベキューの羊肉でした。
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●↓は、リシタン(フェルガナにある陶芸の町)のモスクの天井です。木の特性を生かして、立体的な造形を作っています。赤と緑を使った色調は強すぎる感じがするのですが、ほの暗い室内では違和感なく、安らかな気持ちになってくるのが不思議です。(ブログ内関連記事は「ウズベキスタンのペインティング
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●木、いいですね。とってもなごむのは日本人だからかなあ。土地の自然から、住まいや宗教建築や美術ができていくんだなあという基本を、あらためて感じました。
by orientlibrary | 2007-11-16 12:16 | 中央アジア5カ国

「リッチスタン」から、富のゆくえを考える

●いくつになっても、素朴な疑問ってあります。そのひとつに「現代の超大国・アメリカを代表するモニュメンタルな建築物って何だろう。もしかして、ないのでは?」があります。摩天楼の超高層ビル群、工場やオフィスなど産業系の建築物、、建築史の中では意味があるのでしょうが、歴史に残るようなものとも思えません。

●歴史のなかで、繁栄を謳歌した王朝には、時代を代表するモニュメンタルな建造物(〜都市)があります。エジプト、ローマ、ティムール朝のサマルカンド、イスファハーンの王の広場、ムガルの美・タージマハル、オスマンの華・トプカプ宮殿、ルイ14世のヴェルサイユ宮殿等々、あげればきりがありません。帝国や王朝の権威を示し、外交の舞台にもなり、今もたくさんの観光客を集めています。でも、数百年後のアメリカを訪れた旅行者は、いったいどこへ行くんでしょうか

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(トプカプ宮殿)

◆ リッチスタンという国 ◆
●そんな疑問を通底音にしながら、最近読んだ本があります。面白くて一気読みした『ザ・ニューリッチ』(ロバート・フランク著/ダイヤモンド社)。原題は『Richstan』。そう、「〜スタン」を国という意味で使っているんです。イケてます〜!

●そしてこのRichstanは、カギを握る言葉でもあります。アメリカの新しい富裕層(ニューリッチ)は、「自分たちだけのバーチャル国家を形成している」と著者は指摘します。そして「事実、並の国より金持ちである」とも。

●景気減退が伝えられるアメリカ。ITバブル崩壊、不況、911などもありました。けれどもこの間もアメリカは百万長者を生み出し続けてきました。しかも、IT起業家や金融関係者だけでなく、「全国のあらゆる年齢層、ほとんどの全業種で資産は急増」していたのです。

資産100万ドル以上の世帯は、95年から2004年までに倍増し、なんと900万世帯を突破。歴史上初めてヨーロッパを上回りました。しかも、それより上の1000万ドル、2000万ドル、5000万ドルの数も軒並み倍増しているといいます。

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(インド・サマードパレス)

●「これほど多くのアメリカ人が、これほど短期間に、これほど豊かになったのは前代未聞」。背景として、筆者は「金融市場の上昇、新技術、製品・情報の国際的な流通の自由化の複合」をあげていますが、ここでは詳細を割愛します。

●著者(ウオールストリート・ジャーナル紙の記者)がリポートする金持ちの世界、その過剰な誇示的消費には、ただただ唖然とするばかりです。アメリカの豪邸というと、広い芝生の庭とプールくらいしか浮かんでいなかった私は、原始人でした。リッチスタンは、2桁〜3桁の数の寝室とバスルーム、ジム、テニスコート、美容室、屋内プール、スケートリンク、シアター、(買い漁った)美術品展示室、屋内プール、人を驚かす(バカバカしい)仕掛けなどを競っています。

●これじゃあ、京都議定書も渋るワケですよ。しかし、もともと中流出身者が多いため、執事のいる生活や大かがりで複雑化した豪邸の管理に疲れ果ててもいるようです

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(ウズベキスタンの古写真より)

◆ 贅沢と文化の差 ◆
●「アメリカにはあんなにお金があるのに歴史的な建造物がない。どうして?」、、この答えは、自分なりになんとなく見えてきました。ひとつは、お金を持っているのが、絶対的な権力を持つ王朝ではなく「庶民」だから。国家間の外交や軍事にお金を使う必要もなく、ひたすら「豪邸やクルーザーやジェット機や車や腕時計やパーティ」など、自分のために消費しています。

●ヴェルサイユ宮殿も顔負けの邸宅が、競うように立ち並ぶリッチスタン。でも、その100年後はどうなっているんでしょう。贅沢なだけで文化がなければ、消費された後の廃墟が残るだけ。

●歴史の中の王朝だって、贅沢でばかげた消費をし、権力を誇示するために建築したでしょう。でもそこには「文化も力」という矜持があったのではと思うのは、ひいきめなんでしょうか。そうでないと、たとえばイスファハーンなどの美しさは説明できない気がします。リッチスタンの中だけで完結していると、文化も建築も磨かれないのでは?

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(トルコ東部・アニ遺跡)

◆ 慈善競争、社会起業家 ◆
●「アメリカにはあんなにお金があるのに歴史的な建造物がない。どうして?」、、もうひとつ考えたのは、宇宙やエンタテイメント、情報など、いわゆる「ソフト」にお金をつぎ込んでいるから。そのあたりは、イマドキの「帝国」の姿かもしれません。

●興味深い動きもあります。史上最大規模の財団を作ったビル・ゲイツに象徴されるように、リッチスタンが「慈善」に向かっています。慈善競争も激化しており、「慈善でも一番になりたがる」のだとか。また、「ビジネス原則を用いて社会問題に取り組む」社会起業家と言われる人たちの活動では、エチオピアの貧困緩和など具体的な成果をあげているものもあるそうです。

●長短所ありつつ、アメリカはダイナミック。「少数の人びとの有り余る富が、人類の進歩にとってはるかに役立つような理想的状態」(カーネギー)という志向もあります。対イスラムという面が目立ちますが、大学などではイスラム建築や美術の研究もされており、私も時々ウエブサイトを参考にさせてもらっています。リッチスタン、せっかく「スタン」なんですから、仲良くしていきたいですね!(ヘンな締めです、、)
by orientlibrary | 2007-11-10 21:29 | 社会/文化/人

世界のタイル、日本のものづくり

●97年の開館から10周年を迎えた「世界のタイル博物館」(愛知県常滑市/運営(株)INAX/INAXライブミュージアムの中の施設。ライブミュージアムには、他に「窯のある広場」「土・どろんこ館」「陶楽工房」「ものづくり工房」がある)。これを記念して展示内容の大幅なリニューアルをおこない、今月よりリフレッシュ・オープンしました。

●タイルを核とした博物館というのは、世界でも稀なのでは?「タイルオタクの土族」にとっては、まさにタイル界のメッカ。これまでに何回か訪問していますが、今回のリニューアルでは大変身した1階部分が印象的でした。

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◆ メソポタミアのクレイペグ◆
●タイル装飾の大きなゲートから中に入ると、まず出会うのは「クレイペグの壁」です。紀元前35世紀、メソポタミアのウルクの神殿を飾ったクレイペグは粘土を円錐形にして焼いたもの。壁に嵌め込むと、モザイクのような模様を表現できます。
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(館のメーキングビデオより)
●このクレイペグは、モザイク文様の起源ともいわれ、タイルや壁面装飾の原点です。展示にも力が入りますよね。忠実に複刻しようと制作したクレイペグの数は6万本。すべて手作り。社員の家族や地元の子どもたちも参加して一本一本作りました。そしてこれをコツコツと積み上げていったのです。ほの暗い照明のなかで、ふっと古代メソポタミアの神殿にいるような気分になる空間です。
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(館のメーキングビデオより)

◆ エジプトの青のタイル ◆
●「世界最古のタイル」として知られるタイルは、エジプトのサッカラにある「ジェセル王のステップピラミッド」の地下廊下のファイアンス(粘土ではなく石英を原料とする/紀元前2650年頃)です。神秘的な青が魅力的。「ものづくり工房」で制作しました。
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◆ イスラムのドーム ◆
●タイル装飾の精華といえば、中世イスラムのタイルです。栄えなるイスラム代表に選ばれたのは、、イランをイメージさせるモスクのドーム。実際の3分の2の縮尺で作っています。光を重視するイスラムの精神から、24時間の光の変化を照明を使って表現しているのも見所です。
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●青いタイルと幾何学模様が綺麗。タイルのドーム制作の歴史のない日本で、これを制作施工されることは、相当に大変だったと思います。そしてあらためて、イスラム建築を飾るタイル装飾というものが、並大抵の時間と費用と技術ではできないこと、ものすごいものなんだということを感じました。

◆ ヨーロッパのタイル ◆
●舞台は近世ヨーロッパに移ります。古代王族の神殿などを飾ったタイル装飾は、中世イスラム王朝において権力と文化力の象徴となり、宗教施設や宮殿をきらびやかに彩りました。その後、ヨーロッパでは住まいや商業施設にタイルを使用するようになります。タイルは、市民にも身近な素材になってきました。

●館内で再現されているのは、17-18世紀、オランダの商人の館。白地にコバルトブルーで花や風景を描いたタイルが異国情緒のある軽やかな空間を作っています。
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イギリスの空間は、なんとパブ。アールヌーボー様式を取り入れた図柄のタイルが壁を演出。バーカウンターのある洒落た一室です。使われているタイルは、鉛含有の釉薬が日本では使えない関係で、イギリスで作られた複刻品を輸入。飴色や深緑のしっとりとした色合い。イギリスだなあと感じます。床はINAXのタイル。
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◆ 現代日本のタイル ◆
●タイルを巡る旅(タイル・トラベラー!?)のラストシーンは、日本のタイルです。日本でタイルというと風呂場などの水回りを連想する人が多く、タイルが好きというと怪訝な顔をされてきましたが、イマドキの日本のタイル、素敵です!
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●10ミリ角のタイルを、色、形、自在にデザインして、模様を描きます。ここでは桜など日本の四季を表現。色のグラデュエーションが自然で、着物を見ているようです。大きな絵から小さな模様まで描けて、しかも絵画とは違う趣のある質感を愉しむことができます。施工もスムーズにできるようです。タイル、進化してるなあ!!

◆ ものづくりの現場から ◆
2階は、常設のタイル展示室になっています。オリエント、イスラム、スペイン、オランダ、イギリス、中国、日本など多彩。リニューアルを機に、中央アジア・ウズベキスタンのタイルも公開展示されています。2階もスッキリとした見やすい展示に変化していますので、二度目三度目の方も、ぜひどうぞ!

●今回のリニューアルで最も強く感じたのは、「タイルとものづくりの融合」です。私のようなタイルオタクは、タイルの「かけら」で狂喜乱舞してしまいますが、「世界のタイル博物館」の白眉は<タイルを自分たちで作ってしまう>ことにあると思います。

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(「ものづくり工房」)

●古いタイルには時を経た味わいがあり、他に置き換えられない美の世界を有しています。でも、それをそのまま再現複刻することはできません。博物館は、「本物の古いかけら」から想像力を働かせて愉しむこと、そこに魅力があると思います。

●けれども、博物館も今を生きています。ましてや、ものづくりに精魂傾けているメーカーが運営している施設であれば、展示の核であるタイルを「今に生きる」かたちで展示することこそ、本懐でしょう。そしてこのようなことは長く土に関わってきたメーカーにしかできないのです。

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(「土・どろんこ館」のトイレ。モザイクタイルを貼り込んでいる)

●時間が限られるリニューアル工事であり、まだ100%とは言えない部分もあるかもしれません。個人的には、イスラムの多彩なタイルの美をもう少し見せて欲しかったという思いはあります。(モザイクは実際のものを写真などで補足した方がいいと思います。アップにしないとあの凄さは伝わりにくいのです)。でも大丈夫。きっとどんどん「ライブ」に変化していくんだと思います。

●今の日本で作られたクレイペグやタイルから、私は、焼き物としてのタイルの美、建築素材としての素晴らしさ、高度な技術を要する制作工程や施工法を実感し、数千年の歴史に思いを馳せました。そして、そこに生きた人びとを思いました。タイルが、土が、時を超え地を超えて、私たちの美感、共感をつなぎます。
by orientlibrary | 2007-11-06 22:40 | タイルのデザインと技法

堪能!正倉院宝物、美の世界

秋晴れの奈良公園。朝8時半の奈良国立博物館には、すでにたくさんの人が並んでいました。シニア層がメインですが、若い人もちらほら。朝早くからがんばったね!

秋の「正倉院展」、今回で第59回。長い歴史があるんですね。なかなか見る機会がなかったのですが、今回は関西の用事と時期が合い、初の見学がかないました。人混みを危惧していましたが、人の少ないところを選びながら回ると意外と大丈夫。しっかり見ることができました。
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ポスターのキービジュアルになっている「紫檀金鈿柄香炉」(看板の写真をご参照ください)の花模様もなんともいえず優雅だったのですが、今回は「思わず身を乗り出した度」の高いもの3つをご紹介したいと思います。(展示品の写真は展覧会図録からの引用です。いずれも部分をクローズアップしたものであり全体ではありません)

◆ 花氈 フェルトの敷物 ◆
「花氈(フェルトの敷物)」=舶来品だそうですが、私のイメージする天平って、こういう感じなんです。大きく循環する唐花文の力強さ。どこかエキゾチックで優美かつ大胆。フェルトの質感にも思わず引き込まれました。

「羊や山羊の毛を重ね合わせアルカリ性溶液を加えて巻き締めるなどして圧力をかけ、繊維を絡み合わせて密度を高めてフェルト状にする、縮絨と呼ばれる工程を経て、文様部分にくぼみを付けて色染めの毛を嵌め込んだ後、再度本格的に圧縮したと考えられる」(『展覧会図録』解説より。以下「 」内は同様)。
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◆ 羊木臈纈屏風 ◆
「羊木臈纈屏風」(ろうけつ染めの屏風)=この羊さん、メディアでもよく紹介されていますよね。「(巻いた角を持つ羊の)形はササン朝ペルシアの羊文様に通じ、胴部の三角文はトルファンのアスターナ出土の錦に類例がある」。これ!これですよ〜!ササン朝とか、トルファンとか、正倉院はこれでなくっちゃ!!

樹木、草の緑青色もインパクトがあり、猿・鳥・羊なども配されていて、見ていて楽しいのもいいですね。
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◆ 紫檀木画箱 ◆
華麗な文様や手の込んだ手法が際だつ箱類。私は「紫檀木画箱」(モザイクの箱)の端正さに惹かれました。ツゲを材料に紫檀の薄板を貼り、絵画文木画の文様を表しています。象牙、緑に染めた鹿の角、ツゲなどの材をそれぞれ棒状に組み合わせて作ったブロックを1ミリメートルの厚さに切り離し、これを紫檀地に陥入するのだそうです。

模様が魅力的!「飛鳥(ヤツガシラ)を中心に置いた八花形花文」の回りに、花や雲や鳥が流麗に舞います。ツゲの褐色に角の緑、象牙の白がアクセントになり、優美な曲線の文様がイキイキして見えます。
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◆ 正倉院と東大寺 ◆
正倉院にも行ってみました。校倉作り、高床式の巨大な木造の8世紀中頃の倉庫建築。ずっしりした重量感があります。この中に、夢のような宝物が満載されていたと思うとクラクラしますね!(ここも人が多く、引きがないので写真横が入りませんでした。)
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そして東大寺。東大寺が蔵した財物や什宝類を集めた蔵であった正倉院。このような蔵がいくつもあったとか。奈良時代ってスゴイなあ。勢いがありますね。
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◆ 東アジアの文化の粋、旺盛な文化受容 ◆
e0063212_2045406.jpg「正倉院宝物を見れば、それが当時の世界文化を反映したものであることがわかる」。唐、新羅、ササン朝ペルシア、中央アジア、、。

「染織品や器物には中国や西域起源の器形や装飾モチーフも多く見られ、まさに当時の国際性豊かな文化をかいま見る思いがする」。

図録の解説文はこう締めくくります。「私たちは正倉院宝物を通して、天平期の文物の、そして8世紀の東アジアの文化の粋を目の当たりにすることができる。わが天平人の旺盛な文物受容と再生産、すなわち文化の力がそこには感じられる」。


e0063212_2046192.jpg毎年たくさんの人が訪れる正倉院展。現代人にとっても、何か心が引き寄せられるものがあるのでしょう。自然の材料から創り出す工芸美の極致、遠い異国の文化の香り。時を超えた、輝くような美の世界を見られたことに、感謝したい気持ちです。

(人の絵は「墨絵段弓」より。なんと数センチの弓身に芸人などがぎっしりと描かれています。)
by orientlibrary | 2007-11-02 00:09 | 日本のいいもの・光景