イスラムアート紀行

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カテゴリ:美術/音楽/映画( 46 )

春のイラン・トピック 〜映画「別離」、ポロック展作品貸出〜

連休ノープラン、、ウロウロヨロヨロしているうちにゴールデンウイークになってしまいました。日がたつスピードが年々早くなり、行動がついていけていません。トルコに行く計画もありましたが、またの機会に落ち着いて行こうと思いました。塞翁が馬。それはそれで良し。一日一日大事にすごしたいなと思います。

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(イラン香炉/12世紀/gorgan/「CERAMIK OF JORJAN 」GLASSWARE AND CERAMICS MUSEUM OF IRANより)

先日観たのは、話題のイラン映画「別離」。第61回ベルリン国際映画祭では最高賞である金熊賞、女優賞、男優賞の2つの銀熊賞の計3部門で受賞。第84回アカデミー賞では外国語映画賞を受賞し、脚本賞にもノミネート!イラン映画がアメリカ文化の象徴的なアカデミーの賞、、いいですね〜!せめて文化では仲良くいきましょう!

映画について書くのは難しい。ストーリーなど、どこまで書いていいか迷います。公開されている範囲を意識しつつ、印象を書いてみたいと思います。

まず、今回のアカデミー賞受賞は非常に納得できました。イラン映画といいうと、キアロスタミやマフマルバフのイメージが強くあります。子どもや素人を起用し、重厚さや透明感を打ち出す独特の手法や展開。そこが魅力。なので、アカデミー賞受賞作品ってどうなの?という思いも正直ありました。

印象は、ローカルでありながらユニバーサル。イランの事情、現実を描き込みながら、どの国にも共通する問いを投げかけています。そこに新しさを感じました。
介護、失業、教育、格差など、どの国、地域でも見られる社会問題。そこに、イランの宗教、女性の問題も絡み、展開はサスペンスのようです。

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(イラン/12世紀の青/gorgan/同)

登場人物はそれぞれに人間味があり強さも温かさもある人たちなのですが、様々な事情から嘘や保身が幾重にも渦巻き、状況は複雑に絡み合って展開。が、ストーリー展開についていけるように脚本はよく練られていると思いました。

わかりにくかったイランの事情は、帰宅後にこれを見て解決! →公式サイトには、映画『別離』を理解するためのワンポイントがあり、よく理解できました。

話の発端である、主人公の父親の介護問題。自宅では無理では?施設は?と思いますが、「イランでは老人介護の施設が非常に少ない。それは、介護は家族の役割であり、施設に入れられた老人は大変不幸であるという社会通念が強いためであるという」との説明がありました。

介護費用やお給料の感覚も、解説で掴むことができました。痴呆症のお父さんがなぜ外に出て行くかも。
解説のトップが「スカーフ」であるのも、納得です。映画、スカーフの印象が強烈です。とくに信心深いラジエー、家事にはキツいですよ、、いろんな考えがあるでしょうが、着用が義務ではなく選択、あるいはTPO次第だったら、と思ってしまいます。

失業や結婚契約、結婚資金など、男性も大変。裁判所での審議や進め方も、もう少しなんとかならないかと気をもみました。

画面に入り込み、ハラハラしたり戸惑ったり、自分ならどうするか考えたり、そして映像からいろんなことを学んだり、、映画らしい映画を観ることができたと思います。


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もうひとつ、イラン関連のトピック。

絵画より工芸好きなので、あまり絵画を見に行かないのですが、ジャクソン・ポロック(アメリカ/アクション・ペインティングの代表的な画家)は見たことがあります。
いま、東京国立近代美術館でジャクソン・ポロック展(〜5月6日)開催中ですが、展示の目玉は、「インディアンレッドの地の壁画」。「ポロックの最高傑作で、約200億円の評価額を得ている絵」。この持ち主が、テヘラン現代美術館。

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(インディアンレッドの地の壁画/1950年/テヘラン現代美術館、Tehran Museum of Contemporary Art)

「76年にイランのパーレビ国王のファラ王妃が購入、テヘラン現代美術館の所蔵に。79年、イラン革命で国王一族は国外に脱出。王妃が収集した絵画類は「米欧の腐敗した文化」として一時期、倉庫にしまわれたままになった。世界の美術界にとっては垂涎の的。もちろん「インディアンレッドの地の壁画」が国外に出るのは初めて」(饗宴外交の舞台裏/西川恵さん より引用)

イラン側は国立近代美術館に借用料無料で貸し出してくれたばかりか、貸出しに際しては一貫して協力的だったとか。

「展覧会に合わせ来日したテヘラン現代美術館のシャルエイ館長は「イランと日本とは長い信頼関係があり、日本には作品保全の高い技術もあるので大事な作品をお貸しした。欧米でも作品保全の保証があれば出品します」と語った。核開発問題での強硬姿勢とは異なり文化交流ではイランは柔軟だ。核開発の原則は譲れないが、それ以外では国際社会と協力するとのシグナルでもあった」(饗宴外交の舞台裏)

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(ラスター彩皿/12世紀後半〜13世紀前半/同)

先日、海外送金の書類を書いていたとき、但し書きに「北朝鮮とイランには送らない」ような一項目があり、チェックを入れましたが、この二つの国が同じ線上ですかね、、??核開発が問題なら、他にも「制裁」の対象となる国はあるのでは?
「別離」の登場人物も靴屋を解雇され、借金に苦しんでいましたが、経済制裁は生活に影響しているのではと思いました。

また、「イランは美術品を外に出した経験がほとんどないため、梱包や通関手続きをする代行業者がおらず手間取りましたが、イラン文化省は予定通り絵の国外搬出にOKを出してくれ、ホッとしました」(饗宴外交の舞台裏)という国立近代美術館担当者のコメントを読んで、この点も、しみじみと安堵しました。

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(イランのアーティストはセンスがいいです。絵本「ネシャーニー」(絵:シャラーレ・ホスラヴァニーさん)表紙より部分)

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*「別離」上映時の予告編で、アキ・カウリスマキの新作上映(「ル・アーヴルの靴みがき」/2011)があるのを知りました!^^「街のあかり」以来、5年ぶり。
もちろん、いつもの面々がいました!年を取ったけど、いい感じ。ますます個性に深みが出た感じです。これは観ます!楽しみです。

「心をみがけば、奇跡はおこる」、映画のキャッチフレーズ。そうなのかもしれませんね。精進しなくては、、「イスラムアート紀行」もペースを少しアップしていこうと思っています。

楽しい連休をお過ごしください。

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(GLASSWARE AND CERAMICS MUSEUM OF IRANにて)
by orientlibrary | 2012-04-28 00:32 | 美術/音楽/映画

Coke Studio、心地良い衝撃と波動。捨てよ学問、Aik Alif アリフの一文字

「Coke Studio tokyo 世界が熱狂したパキスタン発音楽TVショウ」、待ってました!

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パキスタンの音楽番組「Coke Studio」(2008年〜2011年)を紹介するイベント(「 Coke Studio tokyo」公式サイト)。大きな画面で見て、ライブハウスのいい音響で聴けるという、うれしい企画。うちでYouTubeで見て(聴いて)はいても、もっと聴きたい、知りたいという気持ちが募ります。

イベントは、パキスタンの芸能や音楽に詳しく「Coke Studio」を早くから紹介してくれていた村山和之さんと、インドのA.R.ラフマーンはじめインド全般に詳しい矢萩多聞さんがナビゲーター。これはもう本当にワクワクです。

「パキスタン人が自ら企画し、パキスタン人ミュージシャンたちが伝統(古典・地域)音楽と現代音楽をコラボレーションさせる。新しいパキスタン音楽の創造を目指したこの番組は、昨今、彼らが世界に向けて発信したもののなかでも、最高の無形文化輸出良品である」(『Coke Studioの歩き方』より/村山和之さん)

「しかも、この輸出品、無料かつ無税というところが、彼らの心意気だ。従来の市場原理とは異なり、ダウンロードされて流通することを前提に制作されている」(同)。パキスタンのCDショップには、正規ディスクはないにも関わらず、たくさんのDVDやCDーRが販売されているそうです。日本にいても、YouTubeでいつでも見たいだけ見られます。まだ見ていませんが、メイキング映像もfacebookにアップされているそうです。今度見てみよう。

「Coke Studio」、見ながら、聴きながら、いろいろ感じ、考えた。

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今回のイベント、最初の曲にふさわしい一曲「Aik Alif(アリフの一文字)」から。ガツン!

"Aik Alif, Noori & Saieen Zahoor, Coke Studio, Season 2"






↑ *村山和之さん和訳字幕入りバージョンに変更!!*「コークスタジオ第二季より、サーイーン・ザフールとヌーリー(バンド)。パンジャービー語とウルドゥー語の歌詞。パンジャービーはバーバー・ブッレー・シャーの詩片」だそうです。

この曲が一番良かったという観客(知り合い)が多かった。
「莫迦たれ。捨てよ学問。アリフ一字でこと足る」。すごい歌詞、すばらしい歌詞。素晴しい歌唱、堂々たる朗唱。村山さんの和訳が字幕としてつき、合わせて聞くと、この歌のすごさがゾクゾクと伝わります。
数分の間に走馬灯のように、人生を、来し方を、今を、これからを考えていました。音楽とは、そのようなものなのだと思います。脳の中の何かに作用して、時を、自分を旅するのです。


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"Nar Bait HD, Akhtar Chanal Zahri, Coke Studio, Season 4"







アフタル・チャナールの「バローチ族のバラード」。「Coke Studio」とYouTubeがなかったら、知り得なかっただろう世界。バローチ族の誇りを歌いあげている。「アジュラック」(肩にかけている木版捺染の布)も、いいですね〜。

「生きよ永遠に!/先駆け自慢の我が友、山の猛き息子よ/狂い酔うさま愛ゆえに、熱く誰にも止められぬ/生きるも死ぬも構いなし、この世に恐るものはなし/一人ゆく鷹、ハヤブサか、高き山の尊き人よ(後略)・・・」(村山和之さん和訳)

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"Daanah Pah Daanah HD, Akhtar Chanal Zahri & Komal Rizvi, Coke Studio, Season 4"







アフタル・チャナールがクマル・リズヴィとバローチスタンを高らかに唄う。地名や名所が出てくるのが親しみやすい。バローチスタンに行きたくなる!
歌というより朗詠(ラップ?!)のような部分が多いけれど、声だけで存分に聴かせるのは叙事詩語りの伝統から?コーランの朗唱など、朗唱が自然に体に入っているのかな。美声というわけではないけれど、魅力がある声、谷間に響き山肌に沁み入るような声。

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"Rona Chod Diya, Zeb & Haniya and Javed Bashir, Coke Studio"






重量級の歌が多い中で、女性が入るせいか、軽快さもあり、楽しめる。北インドの音階の連写のような表現がすごい。この組み合わせ、、プロデューサー、素晴しい。

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これは、イベントでは紹介されなかった曲。Noori(「Aik Alif」の後半を歌っている)があまりにいいので、ブログでアップ。ロックと北インド音楽が好き、なので、、ものすごく好み。YouTubeで、この原曲らしき曲を発見。相当に土着的、民謡的。それもいいけど、ここまでの曲に作り込む、歌い込む、そのことにさらに驚きました。

"Hor Vi Neevan Ho, Noori, Coke Studio, Season 3"







ロックバンドNooriは、公式サイトなどを見ると、ポップで、なんだかアイドル的な感じ。が、この上手さ、魂のヴォーカル、素晴しい。

ちなみに、英訳詩のサイトにこの歌がありました。

Bow your head even further down (in humility) (Repeat。畏みて頭を深く垂れよ。これが何度も何度も繰り返されている)
Fakir, bow your even head further down (in humility)
There is great pleasure in holding the head high in arrogance
But, that pleasure will never be fulfilling
One day you will be bestowed with His presence
Lord, if only someone could understand the deliberations of my heart
I am a seeker who seeks nothing
I am a wanderer, roaming from one land to another
No one can unravel the secrets within me
I am a wanderer
Come along, come with me

*さらにYouTubeコメントより発見。(ちなみにYouTubeコメントは絶賛&絶賛。とくにインドからのメッセージが多い)
”very deep message share in this video . this is poetry or Kalam of Baba Bully Shah in Punjabi Language. he says. u should become more humble if u want to get some thing in this world. if you have some knowlege u will represent it with ur attitude . trees with full of fruit branches always down”

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総合プロデューサーは、ロハイル・ハヤートとアンバール夫人。

「映像の中では輝いている音楽家たちも、日々の生活は貧しく、社会的地位も低い。ロハイルは愛と情熱で最高の作品をつくり、その立役者である音楽家の再評価をも社会に促そうと必死に走っている。Coke Studioは単なる娯楽的文化祭ではないのだ」(『Coke Studioの歩き方』より/村山和之さん)

小さなスタジオで生まれた番組は、テレビやインターネットを通して、パキスタンだけでなく世界の音楽ファンから熱狂的な支持を受けました。中には600万回もアクセスがある曲もあるそうです。

「この番組が、南アジアのフュージョン音楽発信大国としてのパキスタンを、全世界の音楽ファンに知らしめた功績は限りなく大きい。(略)イスラーム原理主義、テロの温床、インド側の先入観や知識で固まったまま、パキスタンを見ぬように。莫迦になって、愛のまなざしで、ありのままに向き合ってごらん。音楽を受け入れてごらん。そこではじめてわたしたちは対等の地平に立つのです」(『Coke Studioの歩き方』より/村山和之さん)

音楽を聴き、映像を見ながら、感じたこと、考えたことは、たくさんあって、書ききれない。
伝統と新しさというテーマは、音楽だけでなく、工芸、私の好きなやきものや染織にも共通するテーマ。そして、宗教を持つ人生・生き方と、生産と消費を基軸とした価値観のこと。

音楽は、触発する。五感に届く。音楽や舞踊を禁じている人たちは、そのすごさをわかりすぎているから?それとも、そのような経験をする前に聴くことをやめたから?

この番組の視覚、演出もすごい。パキスタンの激ハデな車のデコや聖者廟の電飾を連想させつつ、より洗練されている。70年代のサイケデリックも彷彿とさせるが、よりデジタルで広がりがある。パキスタン、すごい、、

この革新的な番組が、映画大国であり音楽でも有名なインド発ではなく(インド版のCoke Studioもありますが)、音楽的にはあまり知られていないパキスタン発であったこと。プロデューサーや周辺の人たちの熱が、数倍高かったということでしょうか。「思い」は状況を超えて行く。
国境を軽々と越えるインターネットの浸透力もすごい。

そして、このようなイベントを企画し実現してくれた村山さん、矢萩さん、その熱い思いと行動力に、心からのお礼を。ありがとうございました。村山さんの訳詩が映像にあったことで、歌の入り方が全然違いました。要所要所で入るトークも楽しかった。感謝します。

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** イスラムアート紀行・過去記事より **
 去年秋、矢萩さんと村山さんのトークイベント『「A.R.ラフマーンを語る」vol.3 イスラームとラフマーン』「インド、イラン、ギリシア、秋に響く詩の響宴」

 今年夏、「Coke Studio」から数曲紹介。ハマりました。「ジプシーを追いかけて。バローチスタン&パンジャーブ」

 こういう場には、いつも野上君がいるような気がする。きっといるんだと思う。「哀悼 野上郁哉さん / 自らの両足で立ち上がる 何度でも」
by orientlibrary | 2011-12-21 02:10 | 美術/音楽/映画

ジプシーを追いかけて。バローチスタン&パンジャーブ

311からほぼ4ヶ月たった7月10日、久々にあるモードのスイッチが入りました。しばらく封印していたというか、別の回路で必死だったというか。とにかく、久しぶりに懐かしいところに帰って来たという気持ちになりました。

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(ラホール/Lahore Fortの幾何学模様タイル。黄色とターコイズブルーの八角星。ジャハンギールが好きだったデザインか/『THE MAJESTY OF MUGHAL DECORATION』より引用)

パンジャーブ、ムルタン、ラホールという地名に心が熱くなり、カッワーリーやバローチーのフォーク音楽、ジプシーたちの歌声に心が揺れました。

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(ラホール/Lahore Fort/黄色をセンターに青が印象的な六角星/『THE MAJESTY OF MUGHAL DECORATION』より引用)

「ジプシーを追いかけて」という映像イベント、2005年からスタートして、今回で26回目だそうです。長く続けるってすごいことです。主催者でありイベントの進行役でもある関口義人さんの「熱」に拍手です。

パンジャーブとは「5つの河」の意味。州都はラホール。イスラム王朝の都として千年の歴史があります。

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(ムルタンのタイル。どの青も強い色合い。コバルトというより濃紺といったイメージの青も)

ムルタンやウッチュなど、私の好きなタイルのある地でもあります。デリーサルタナット王朝、トウグルグ朝、ローディ朝などのタイルは、独特の青色とインド的なテイストを感じさせる濃いデザインが最高です。

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(この空の青があるからより映える強い青ですね。文様もおおらかで強い感じです)

「ジプシーを追いかけて」、関口さんは1985年にパリでジプシーに会って興味を持って以来、98年から世界のジプシーに会いに行っているそうです。
ジプシーは、現在世界60カ国に1300万人くらい。決まった住所がない人たちなので、出会うまでが大変とのこと。
世界にジプシー研究者は500名ほどいるとも言われており、その拠点はイギリスのリバプール(リバプール大学)なんだそうです。

ジプシーはどこから来たのか、その「原郷」は諸説ありましたが、最近では遺伝子研究(ヒトゲノム計画)などの成果もあり、北インドとの説が有力なようです。「染色体から考えて、北インドのグループに所属していたことがはっきりした」と関口さん。
トニー・ガトロフのジプシーフィルムを愛する私には、もちろんその説がもっともすんなりきます。

今回は、その原郷に近いエリアである、バローチスタンやパンジャーブの楽士(職能音楽家)に焦点を当てた企画でした。
そしてこの地域といえば、「バローチの恋人」村山和之さん。ブラーフィー語などを現地の言葉を学び、地域を歩いている人ならではの視点に、いつも大変触発されます。
今回も、バローチスタンの説明として「学生を客人としてもてなしながら連れ回した」(数年前に報道された大学生誘拐事件)など、いかに彼らが節度と義侠心のある人たちかを強調。その言葉、待ってました!

今回、圧巻だったのはバローチスタンの楽士の映像。Azim Jahnさん、聴き入りました。

そして村山さんや音楽好き大絶賛の「Coke Studio」からの音像。パキスタンの音楽番組「Coke Studio」は、とにかくすごい。ローカルで土着的な歌を取り上げても、ものすごく洗練されています。

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("Nar Bait "/ Akhtar Chanal Zahri/Coke Studio, Season 4)

超土着なゲスト、とくにフォークの歌い手は「聖者廟にすくう歌うたい、あるいは乞食とも」。一方、バックをつとめるミュージシャンたちは、まさに「バークレー出た感じ」。このミックスがたまらない。フュージョンってこういうものなんだね。中途半端にならず、互いに高め合って新たな世界を創っている。誰もがいい顔で演奏し歌っている。

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("Nar Bait "/ Akhtar Chanal Zahri/Coke Studio, Season 4/Zahriさんのアジュラック〜ストールがいいですね〜!ターバンの巻き方もナイス!)

元々ロック好きなところに北インド音楽が最も波長の合う私には、心地よく、かつ血が騒ぐような音楽世界なのでした。

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("Nar Bait "/ Akhtar Chanal Zahri/Coke Studio, Season 4/黒のベストの模様が気になりました。バローチ男子、粋ですな〜☆)

音楽に興味のある方は、こちら↓をどうぞ。「セバ(美しい)、バローチスターン」という言葉が聞こえます。YouTubeより、"Nar Bait "/ Akhtar Chanal Zahri(Coke Studio, Season 4)







トークは2部に分かれ、途中、アフガン音楽ユニット「ちゃるぱーさ」さんとバンスリの寺原太郎さんのライブもあり、盛りだくさんで大満足でした。
こうなると、アフガンのタイルも見たいですよね。

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(ヘラート/MAUSORLEUM OF GOHAR SHAD 1447/「太陽が輝くように光るタイル」/『COLOUR AND SYMBOLISM IN ISLAMIC ARCHITECTURE』より引用 )

マザリシャリフのモスク(1480)↓。手前の茶碗の青色が気になります。

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(『COLOUR AND SYMBOLISM IN ISLAMIC ARCHITECTURE』より引用 )

好きな夏、いろんなテーマを私も追いかけてみたい。当面はやはり、「青のタイルを追いかけて」かな!?
by orientlibrary | 2011-07-12 22:37 | 美術/音楽/映画

ふわっと花を見ている(vegetation therapy)

またまた時間があっという間にすぎてしまいました。気がついたら、4月も最終週なのですね。連休はナイスなところに旅行の友人も多いのですが、私は旅行のテンションにならないままで、、普通に時間がすぎていきそうです。

後半に、短期間ですが東北に行く予定です。工芸と産品を見たいと思っています。いつか何かお知らせすることがあるかもしれませんが、もっと東北の風土と文化を知りたいという気持ちが高まり、ささやかなことを始めてみようかと思っています。

ブログもなかなか書けないままですが、今回はiphotoを見ながら、植物の写真を選んでいました。脈絡なくピンときたものを選んだ、そのままですが、花シリーズにしたいと思います。

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(カザフスタンにて。一面の芥子の花。単体だと愛らしいけれど、群生していると独特の空気感があると思います。赤が強いですね)

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(ブハラ。ウズベキスタンの5月は薔薇が盛り。子どもたちがさりげなくプレゼントしてくれる一輪の薔薇にクラクラです)

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(いろんな植物の写真があったのに、こういうものを選ぶんだなあ。カラカルパクの砂漠の夕暮れ。砂漠の植物です。砂漠の夕暮れは一面の金色で、夢か現実かわからないような、映像の中に入ったような、不思議な感覚になります。清浄を感じます)

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(インドのヨガの聖地、リシケシはヒマラヤの山深い地ですが、ブーゲンビリアが咲き乱れていました。意外と寒さにも強いんですね。リシケシの朝日、ガンジス源流の朝日の景は忘れられません)

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(中央アジアの芥子。中央アジアを出自とするムガル、更紗のモチーフには真っ赤な芥子がよく使われます/敷物 花卉模様/インド更紗、手描き/インド北部/ムガル17世紀/3mを超える大型の敷物。大輪を咲かせた芥子のような花を整然と配した清楚な模様。花は中央が正面向き、左右が側面から見た姿であらわされており、同様な花のはムガル王朝の立木手と呼ばれる花模様に類しており、同じ製作地を示唆するものであろう/東京国立博物館にて)

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(同じ更紗でもインドネシアは独特の濃厚さがありますね。たおやかそうでいて、ピンクと赤のインパクトがすごいと思います/腰布サロン白地花鳥獣模様更紗 ジャワ島20C/東京国立博物館にて)

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(オスマン朝トルコのテキスタイル。豪奢)

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(同じくオスマン朝トルコの刺繍。可憐です。花瓶に入った花模様はムガルやペルシアでも定番ですね)

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(ウズベキスタンのスザニ刺繍。花びらの色を変え、遠目にも動きがあり可愛らしいです。くるんくるんした茎や蔦が中央アジアテイストを感じさせます。話は変わりますが、このところ日本のファッションでウズ柄が流行していますね。にじんだ絣風、大柄な花模様がウズ風。やっと来たね、と思いますが、柄が中途半端な感じもして、意外にうれしさを感じません。ディープさがないよね〜。違うんだよなあ〜、、、)

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(ウズの青のお皿を見ると落ち着きます。この花の描き方が面白い。描き込むデザインが多い中、白の余白が多いのも、ちょっとアートな感じ。工房の樹々の緑が揺れ、爽やかです)

連休に入ると少し落ち着きそうです。ブログも更新していきたいです。

地震後、心の余裕がなく、なんとなくコメントのお返事を書けずにいました。これももう落ち着いてきたように思います。皆様のコメントに励まされてきたのに、しばらくコメント欄を閉じていて失礼しました。m(_ _)m
by orientlibrary | 2011-04-25 23:17 | 美術/音楽/映画

100年単位で熟成していくアフガンの楽器「ラバーブ」を聴く (@rabab gig)

音楽との出会いから、新しい扉が開くことがあります。
イスラムタイルに熱中する伏線としては(何度か書いていますが)、<カッワーリー>(スーフィズムの宗教儀礼で歌われる陶酔の音楽)とその代表的歌い手である<ヌスラット・ファテ・アリ・ハーン>のコンサートがあります。

また、「世界の手仕事プロジェクト」のきっかけは、アフガニスタンの民族楽器ラバーブ奏者<アミール・ジャン>のコンサートと、<メヘル・アーリー&シェール・アーリーのカッワーリー>コンサートが伏線にありました。

元々はハードロック、その後はいわゆるワールドミュージック、なかでも北インド音楽の系譜が好きなのですが、ライフワークや関心ジャンルにおいては、アフガニスタン、パキスタンなどの音楽に影響を受けているようです。

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(アフガニスタンの民族衣装、刺繍布が飾られたラバーブ演奏会会場。華やかで奥深い。このような演出があるとないとでは印象がずいぶん違います。感謝)

今もなお強い印象が残るアミール・ジャン。その名が記されたラバーブを持つ演奏家の演奏とお話の会がありました。「前世はアフガン人」と語る鈴木ひろしさん、アフガンの衣装でにこやかにたたずむその姿は、本当にアフガンのハザラ族(モンゴル系)のよう?!

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手に持つラバーブにはアミール・ジャンのサインと、元の持ち主であるショカットさん(ジャンと一緒に来日したラバーブ奏者)のサインが。とても美しいラバーブ、アミール・ジャンやショカットの来日時に入手したそうです。
高円寺のライブ、私も行きましたが、まさかその後、演奏使用のラバーブが日本人の手に渡っていたなんて!好きのエネルギーは通じるものですね。ホントに好きなことは、ホントに好きな人には伝わる、そう思います。

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(アミール・ジャンのサイン。わお!)

ラバーブは、「アフガニスタンを代表するリュート属の撥弦(はつげん)楽器。3本の旋律弦、3~5本のドローン(持続音)を演奏する弦、および15本ほどの共鳴弦が、クワ製の胴に張られている。声楽の伴奏をする器楽合奏で用いられるだけでなく、独奏楽器としても演奏される。北インドの古典音楽で演奏されるサロッドは、このラバーブが原型」(国立民俗学博物館サイトより)。

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(胴部分の象嵌装飾。工芸品のようです。装飾がある楽器にはみとれます。視覚も大事ですよね〜)

鈴木さんの演奏、とても良かったです!哀愁と激しさのある撥弦楽器の音色、独特の音階とリズムに引込まれます。卓越した技術はもちろんのこと、全体に温かい印象。人柄なのかな。
「男性の深い勘違い(女性への片思いなど)の歌を男たちが涙を流しながら聴いている。それがアフガン音楽の真骨頂」なのだそうです。

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(胴裏部分の装飾)

加えてナイスなのは、ほのぼのとした笑いを誘いつつ高速で進行する語り。「ラバーブ漫談」という言葉が頭に浮かんだほどです。
穏やかに炸裂する語りの合間も、じつは楽器をケアし、様子を見ています。「湿気に弱い。音が全然違ってきます。会場の温度や湿度の変化に合わせて微妙に調弦します」。ラバーブ、デリケートな楽器なのです。

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(かわいい花のようなナット?で調弦)

「ラバーブは一本の桑の木をくり抜いて作ります。中は空洞。職人が手彫りのみですべてを5ミリの厚さに揃えます。彫るだけで半年かかるんですよ」。
しかも、その前の準備期間が長い!「良さそうな木を見つけてきて、8年間雨ざらしにする。倉庫で1年半乾燥。半年かけて削る」。
さらに、「白木のものが飴色になるまでに30年、黒くなるのにその後50年。代々家に伝わり使い続けるスパンの長い楽器です。元々中世の楽器で今も形が変わっていない。古楽器だが現役。アフガニスタンにあったために生き残ったのかもしれません」

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(ネックにかけられた鈴が哀愁のリズムを刻む)

基本的に時間の感覚が違う。また譜面とか規格とかはなくて、なんとなくいい加減のようでありながら、全体は絶妙にうまく合う。「熟成」という言葉が浮かびました。
若さ、新しさ、スピード、変化、このような日々とは対極にあるような趣きや態度。昨今の価値観や感覚とはかなり異なる世界ですが、だからこそ、ときには浸りたくなるのだと思いました。

企画してくださったアフガン研究会の皆様、貴重な経験をどうもありがとうございました。

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(民族衣装胸当て刺繍部分)
by orientlibrary | 2011-01-30 21:13 | 美術/音楽/映画

ハーブ&ドロシー、ものを選ぶちから (movie:[herb&dorothy])

新しい年となりました。今年もどうぞよろしくおつきあいくださいませ。

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あるドキュメンタリー映画のお話から始めたいと思います。タイトルは、「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」。

数年前の「美しい世界の手仕事プロジェクト」以来、日本にも数多くの「コレクター」がいらっしゃることを知り、その情熱に触れる機会が増えてきました。そして市井のコレクターが長い年月をかけて蒐集されたコレクションの行方にも関心を持つようになりました。

コレクターの方々の子供世代孫世代にとって、思い入れの詰まった膨大なコレクションを引き継いでいくのは大変なことだと思います。博物館や美術館で保管されるのが最も良いのですが、館でも収蔵場所や予算に限界があり、運良く所蔵されても展示機会もそう多くはないでしょう。
遠い国々から日本にやってきた素晴らしい手仕事の数々を見せていただくにつけ、何かいい方法はないかなあと思いを巡らせるのですが、、。

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(公式サイトより)

「ハーブ&ドロシー」のヴォーゲルご夫妻〜ハーブさん(1922年生まれ)、ドロシーさん(1935年生まれ)〜は、ニューヨークに住む稀代の現代アートコレクターです。
現代アートというだけで少し引いてしまう私には、そのコレクターならば「お金持ちで、ちょっとスノッブ」というような先入観がありました。

ところが、このご夫妻は結婚以来住み続けている1LDKのアパート暮らし。ハーブは郵便局員を勤め上げ、ドロシーも図書館司書を定年退職。現在は年金で暮らしています。このお二人の行動がスゴいのです。

「二人は1962年に結婚。アートに関心の高かったハーブは独学で美術を学び、アートには興味がなかったドロシーも実務面でハーブをサポートしながら二人で共にミニマル、コンセプチュアリズムを中心とした現代アートの作品をコレクションしてきた。毎日、いくつもの展覧会に出かけては、アーティストと友人のように交流しながら、新しい作家を精力的に発掘。ドロシーの収入を生活費にあて、ハーブのお給料を全て使って作品を購入する生活を40年にわたって続けた」
「やがてマンハッタンの1LDKのアパートが“楊枝1本の隙もない”ほどとなり、最終的に4000点ものコレクションを築き上げる。1992年、コレクションの全てをアメリカ国立美術館ナショナルギャラリーに寄贈することを決意。1000点余りは同美術館の永久保存に、そして残りの作品群は、アメリカ史上でも最大規模のアート寄贈プロジェクト『ハーバート&ドロシー・ヴォーゲル・コレクション 50×50』として全米50州の美術館に50点ずつ、合計2500点寄贈された。その類まれなるコレクターとしての資質とアートに対する真摯な生き方は全世界で多くのメディアに紹介され、話題を呼んだ」(公式サイト)

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(公式サイトより)

とにかく仲の良い二人。コレクションが生活空間のほとんどを占める(本当に“楊枝1本の隙もない”ほどの空間!)アパートの小さなテーブルに向かい合って慎ましく暮らし、互いを尊敬し、慈しみ、高齢となった今は文字通り手を取り合い支え合い、なお精力的にギャラリーに足を運び、鋭い眼差しで作品を見つめ、作家と温かい交流を続けています。このお二人の様子、会話、笑顔が本当にいいのです。

「二人は狭いアパートに集めた4千数百点ものアートを売ったことがない。アートバブルも暴落も無縁だった。多くの美術館から譲渡の申し込みがあったコレクションを寄贈されたナショナルギャラリーは、“緊急時に二人が作品を売らなくてもいいように”謝礼を支払ったが、夫妻はギャラリーに還元すべくその金でも作品を買ったという」(朝日新聞)

コレクションを選ぶ基準はふたつ。「自分たちのお給料で買える値段であること」、「1LDKのアパートに収まるサイズであること」。地下鉄で持って帰れないものは買わない二人。
作家の内面や作品の変化に迫った膨大なコレクションは、ニューヨークの現代アートの歴史をつなぐ貴重な資料となっているそうです。

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(公式サイトより)

もうひとつの驚きは、この映画の監督が日本女性だということです。
「この現代のおとぎ話に衝撃を受けた佐々木芽生監督はふたりの姿を追ううちに、これは現代アートについての映画ではなく、豊かな人生を考える映画になると確信。ニューヨークでは口コミで感動が感動を呼び、17週のロングランを記録、その後、世界の映画祭で賞賛され大きな注目を集めた」(公式サイト)

「彼らのもとには、それまでに何人もの著名な監督が訪ねていた。「二人はいちども撮影依頼を断ってないそうです。でも『お金ができたらまた来る』と言って、戻ってきた人がいなかった。私はまったくの素人だから、お金を作ってから撮るという発想がなかっただけ」」「制作途中でハーブの健康状態が悪化、助成金や個人の寄付のほか制作費の足りないぶんは自宅を抵当に借り4年かけて完成させた」(朝日新聞)

佐々木監督、素晴らしい!!純粋に好きなことをやり通すハーブとドロシー、そして細やかで大胆な仕事を成し遂げた日本人女性・佐々木さんに大きな大きな拍手を贈りたいです。新年にこの映画と出会えたことに感謝します。

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(ウズベキスタンの刺繍布スザニ。力強い構成と明るさ。今年も元気にいきたいですね!)

自分ではうまく書けないので、長いですが松浦弥太郎
さんのメッセージ(公式サイト)を引用したいと思います。この映画の本質が伝わる骨太のメッセージだと感じました。↓

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「ニューヨークで暮らすには、何が必要ですか?」
ある日の朗読会にて、絵本作家のジェイムズ・スティーブンソンに、こう訊いたことがあります。
すると、「ニューヨークでは、お金が絶対に必要と言う人がたくさんいるけれど、決してそうではない。この街で必要なのは、何よりも友だちを作るちから。友だちを作るちからがあれば、世界中どこに暮らしても、きっとしあわせになれるだろう」と答えてくれました。

友だちを作るちから。
『ハーブ&ドロシー』を観て、僕はこの忘れかけていた言葉を思い出しました。そう、暮らしに大切なのは、何よりも友だちを作るちからだと。
友だちを作るちからとは、よいところを見つけるちからです。ここで言う友だちとは、人だけではなく、動物や植物はもちろんのこと、道具やモノ、自然など、身の回りにあるものすべてです。

よいところを見つけたとき、人は誰でも感動をする。感動すれば、人はそれを隠すことはできません。言葉や表情、行動で、その嬉しさが湧いて出る。湧いて出るものは、言葉で表すことのできない魔法のような、まわりをしあわせにするあたたかい何か。
たとえば、人と出会ったとき、相手のよいところを見つけることができれば、よいところは自分の好きでもあるから、そんな魔法があれこれと作用して、きっとすぐに仲良くなれるでしょう。人間でも動物でも植物でも、コップでもやかんでも、シャツでも帽子でも、毎日、それらのよいところを見つけてあげれば、そのすべては自分にとってのよき友だちになるでしょう。

よいところを見つけるちからとは、ものを選ぶちからでもあります。
現代の情報化社会にて、すでに誰かが選んだもののなかから何かを選ぶのではなく、それこそ自分だけの友だちをつくるように、自分の目で、本質を見極めて、ほんとうによいものを選ぶこと。そのためには、どんなものでも食い入るように、しっかりと見ることが必要であり、よいところの最初の発見者でありたい。そうして友だちへの道はできるのです。

ハーブとドロシーの暮らしは、アーティストとその作品という、友だちとの強いきずなで作られています。
毎日のように、よいところを見つけ、選び、彼らはどんどん友だちを増やしていきます。あるときは喧嘩もするでしょうし、失敗もあるでしょう。そうやって、お互いの成長を分かち合っていく。また、友だちだからこそ、よくないところはきちんと言葉にし、よいところは褒める。あるときは欲張りにもなる。そのかわり一度友だちになったら、自分がされて嫌なことや、裏切ることは決してせず、一生、友だちでいつづける。それがほんとうの友だちです。

幼いころ、初めて子どもたちの集団のなかに入っていったとき、胸をどきどきさせながら、その誰かを選んで、お互いの心を少しずつ開きながら、友だちになっていったわくわくした気分を思い出します。僕はあの頃の友だちを作るちからという魔法を今でも忘れられません。
しあわせで豊かな暮らしとは、お金が必要なのではなく、友だちを作るちからが授けてくれるもの。
『ハーブ&ドロシー』は、ニューヨークで暮らす夫婦の、一生をかけた友だち作りの記録です。
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今年も、タイル、青、陶器、中央アジアの人と暮らしなどについて書いていきたいと思います。
よろしければまたお立ち寄りくださいませ!^^

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(タイル教室、さぶ先生が六角形タイル絵付け&カリグラフィーの試作を制作中。私も今年は多角星と十字の絵付けからスタートです☆)
by orientlibrary | 2011-01-04 23:06 | 美術/音楽/映画

流麗なペルシア書道にうっとり〜☆&カリグラフィーの写真など

イスラム圏の装飾タイルを見るとき、煌めく青や華麗な植物文様に魅せられると同時に、モザイクなどで描かれたカリグラフィー(文字を美しく見せる手法、書道)の見事さにため息が出ます。

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(サマルカンド・グルエミル/ドームのドラム部分、クーフィー体。施釉レンガと無釉レンガの組み合わせ)

最初の頃は、それが文字だとも気づかないことが多かったと思います。今だに読み方もさっぱりわかりません。流麗優美な文字をタイルで表現していることに、ただただ圧倒されています。

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(サマルカンド・シャーヒズインダ墓廟群/幾何学模様とカリグラフィーの組み合わせ)

絵付け教室のさぶ先生は、じつはペルシア書道の巧者。タイルにも様々な書体を美しくサラサラと書いていきます。書道と陶芸の実験的な試みの展示(「イランと日本の書で感じる、ペルシャのことわざ」)も。興味深かったです。

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(さぶ先生、書道と陶芸/「空」という文字の書。「どこに行っても空は青色」の詩が添えられている)

カリグラフィー、もちろん興味はありますが、習うとことろにまではなかなか踏み切れません。そんな私に絶好の機会が。ペルシア書道の教室をもっていらっしゃる角田ひさ子さんの「ペルシア書道のあれこれ」というお話の会があり、体験もできる、とのこと。大喜びでおじゃましてきました。とても興味深く、楽しいひとときでした。

今回は、教わったお話の一部、そしてカリグラフィーのタイルや陶器などの写真も合わせてご紹介したいと思います。

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<まず、気になる「ペルシア書道の特徴、アラビア書道との違い」などについて>

・ 縦の直線が長いのがイランの特徴
・ 源はアラビア書道。中国と日本の書道の関係に似ている。アラビア文字が借用され、さまざまなアラビア書体を介してイラン独自の書体を作り出している
・ ナスフとソルスの2書体はアラビア書道としてイランへ伝わった。イランではアラビーの書と呼ばれ、師のお手本の文はアラビア語
・ ナスタアリーグとシェキャステの2書体は、イランで独自に作られた。特にナスタアリーグは楷書にあたり、学校教育の手書き文字や習字のお手本とされ、まず習うべき第一の書体

(書体の資料を頂いたのですが、勝手にアップしていいものかわからないので、wikipediaの該当項目をリンクしておきます)

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(タブリーズ・ブルーモスク/解説本よりアップ写真。モザイクで表現していることに感嘆)

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(上写真右手中あたりにこの左端が見えます/これは何体でしょうか=コメント欄より教えて頂きました。クーフィー体だそうです。多謝!=。カリグラフィーに植物模様をからませてモザイクタイルにしているのですから気が遠くなりそう/ブルーモスク解説本(上のものとは異なります)より。素晴らしい本なのに白黒で紙がペラペラ。裏が透けています。惜しい!)

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<書体について(建築物で見るのはソルス体。イランらしいシェキャステがカッコいい)>

・ クーフィー体=書道というよりはデザイン。建物の壁面モザイク模様、ポスター、本の題字など。古いコーランを書く書体。イラクのクーファで広まった。水平、垂直を巧みに使った直線的な特徴を持つ書体は、総称しクーフィー書体と呼ばれている
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(出所wikipedia)

・ ナスフ=読みやすく書きやすい。イラン、アラブ世界の活字印刷用文字。

・ ソルス=幾層にも複雑に入り組んだ線は力強く壮麗。雄大で美しい。モスクのタイル、本の見出しやポスター。クルアーンや宗教的な文書などに使用。長く引き伸ばした縦線のアルファベット、比較的浅く開いた円、複雑に重なる全体構成が特徴。文字は大胆に折り畳むように重なり合う。アラブ諸国で書かれているアラビア書道では、スルス書体と呼ばれ力強い壮麗な書の代表
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(ブハラ)

・ ナスタアリーグ=柔らかく清楚で気品。ペルシア書道の楷書。イランで生まれたイラン独自の書体。15世紀頃、ナスフとターリーグを編纂し変化を加えて創り出す
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(出所wikipedia)

・ シェキャステ=シェキャステイェ・ナスタリーグ。崩し字。草書。流麗だが複雑な文字のつながり。現代イランではカード、ポスター、絵と書道が組み合わさった書絵画など装飾的なデザインに利用。幾重にも重ね乗せる。詩はイランで生まれたナスタアリーグとシェキャステでよく書かれる

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<道具(実際に見せて頂きました。没食子、生まれて初めて聞いた言葉。薔薇水を使うのもペルシアらしいなあ。紙の流行のお話も面白かった)>

・ 筆=先の固い「葦」や「竹」から作る。こげ茶がかった赤、葦の先をカットし削り先端を右肩上がり斜めに鋭利にカットする
・ 葦ペンはフーゼスターン州のデスフールが産地。赤茶色のものが質が良いと言われる
・ 日本では竹ペンを作る
・ 墨=主原料は煤、没食子(もっしょくし。イランや小アジア地方に産するブナ科植物の若芽に蜂が刺して生じた直径2センチほどの虫こぶ)、アラビアゴム、明晩。溶液の墨と固形の墨(細かく砕かれている)。沸騰させて水を冷まし墨を適量加え完全に溶けてから布などを使って漉す。蒸留水、薔薇水を使う。濃さを調節できる
・ リーゲ、絹糸。書道専用。ボタつきを防ぐ
・ 紙、ゲラーセ。白いつるつるした紙。最近は古びたテイストのものが流行

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カリグラフィーは様々なものの装飾に使われます。

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(モロッコのカリグラフィー装飾。大理石の例。道具も紹介されている優れ本=「TRADITIONAL ISLAMIC CRAFT IN MOROCCAN ARCHITECTURE」より)

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(大理石に刻まれたカリグラフィー。硬い大理石、ミスは許されない。職人技がすごい/同)

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(絨緞にもこんな文字が。物語的ないわれがあるということで写真を撮ったのですが、違っていたら困るのでやめておきます)

道具の写真などもありますが、長くなるのでいつかまた機会があれば。タイル絵付けでもカリグラフィーは登場しそうですので。

体験で書いたもの? 沈没しました。線引くだけでもむつかしかった。何事も道は長く険しいです。^^
by orientlibrary | 2010-12-16 16:45 | 美術/音楽/映画

もっと楽しくミニアチュール!(タイルもあるよ☆)

先日、タイル教室に持って行ったもの、ミニアチュール(細密画)2枚。ミニアチュールにはタイルが描かれていることが多く、それも私が細密画に興味を持つ理由のひとつです。

2枚のうち1枚は、イランのお土産にいただいたもの。「バザールで買った。安かった」と聞いていました。
モスクのような建物にはタイルが描かれており、絵の回りにはペルシア語で何やら文章が。ニシャプール生まれの「さぶ先生」に何が書いてあるのか聞いてみたかったのです。
物語のようで、絵が描かれたのは40〜50年前とのことでした。教室では、紙質のことなどで盛り上がり、楽しみました。

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が、帰って、再度じっくり見るにつけ、なんだか不思議な絵だなあと思い始めました。
これまで見てきたミニアチュールには王様や貴族や美女たちが華麗に描かれていました。

それに対して、この中の人たちは、どうみても庶民ですよね。
画題的には、パッと見たときは、植物に親しむ村人、という感じかと思っていましたが、手の動き、指先が不思議。この画家の癖なのか、妙にどこかを指し示しています。
そして、わからないのが壺のような瓶のような、茶色のもの(左下で男性が見ている、一番左の男性は手に持っている)、これは何??
そして、たくさん人がいるのに、皆バラバラの動きをしていて、しかも山の方には怪しい3人組。天眼鏡で見ると、軽いタッチのアニメ調です。

建物も、左から見た構図、かと思えば、その他は正面から見た構図。煉瓦の柵の隙間から伸びている大きな木。ありえない、、。
細密画というより、民画というか、挿絵(イラスト)というべきものなのかな。でもなんだか、独特の味わいがありますよね。いいですね。

一方、もう1枚は、私がイスラマバードのホテルのアンティークショップで買ったもの。いわゆる、まっとうな絵、です。

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が、さぶ先生曰く、「紙って古くするのは簡単なんだよね」(静かにやわらかく)。ほう、、。
「でも、けっこう高かったんですよ、、」
陶芸のK先生、「10ドルくらいだったんですか」(にこやかに淡々と)。のー、、。
「アンティークショップなんで、、」

たしかに細密度はそれほど高くないかも。
(以前一度アップしましたが)こちらと較べると。

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(なんて流麗、優美。インドが誇る目利きB氏にいただいたもの。額装の上から撮っているのでボケボケですが、、実物はキレイです!)

博物館収蔵品だと、このようなものが。

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(東京国立博物館にて撮影/ジャハンギール立像/インド ビカネール派/紙に水彩、金彩/解説=ジャハンギールはムガル帝国の第4代皇帝(在位1605〜27年)。本図は時代的に下ったもので、表情などは同帝の他の作例と比して安定している)

現在のインドで。観光地のちょっと高級なお土産物屋さんの奥には、細密画のコーナーが。

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(あまり気合いが入っていない印象。画題も好みじゃない)

比較するなら、こちらも。ウワサのプチ美術本『民族衣装』(マール社)。

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(細密な図版を再現した文庫本サイズで、驚異の291円。このシリーズ、『世界装飾図』なども291円。マール社さん、エラい!)

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(元がフランスの豪華本だけに、インドなんだけどどこかヨーロッパの香り?「ジハン・カーン」「ラジャプート族」の表記が新鮮/『民族衣装』(マール社)より引用)

そうこうしているうちに、youtubeで、本当に偶然に、これを発見!!「現代アートに負けるな、イランの「伝統美術」」(せっかくyoutubeの埋め込み方がわかったのに、こちらは埋め込み無効。残念。細密画、ものすごくキレイ!)。

<内容>=「(この人は)数々の賞を受けた細密画作家だが、長い間作品は売れていない。「生活費や家族のことを考えるが、、作品を前にするとすべて忘れるんです」と語る。毎日8時間作業して4か月かかった作品は8000ユーロ。蒐集家は現代アートを好み買い手はほとんどない。細密画はほぼ消滅しかけたが、ヨーロッパなどの新たな買い手がある。20世紀初頭に欧米の東洋学者や蒐集家や学芸員が来て、本を書き図録を作った。彼らが細密画の再発見を助けた。レザ・アバン博物館が所蔵している最古の細密画は10世紀のもの。歴史を学ぼうとするイランの学生らが訪れている。数少ない現役の細密画家は生活のため教室を開く。唯一の市場は海外。イランの文化遺産に興味を持つ外国人だ」

そうなんだ、イランでは現役の細密画家が少ないんですか。
ウズのお土産物屋さん、細密画のアトリエと兼ねたものがけっこう多いけどなあ。たくさんの作品を販売しています。ただやはり、買うかというと考えてしまう。小物は買うけれど、大作となると難しい。でも、ウズの職人さんは、上手いですよ。今も職能が生きてる。ウズだなあ。

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(イランの細密画家に敬意を表して。シャー・アッバースの息子の肖像だそうです/『民族衣装』(マール社)より引用)

タイル絵付け物語は、続行中。
ブログで書きたい大きなテーマも考え中。
でも、現実はなかなか、、
イスラムアート紀行、がんばります。
by orientlibrary | 2010-10-06 23:12 | 美術/音楽/映画

インド、イラン、ギリシア、秋に響く詩の響宴

秋のイベントシーズン、(ウズベキスタンより暑い)残暑にめげていられません。この間、見たこと感じたことなどを、ざくざくっと書いてみます。

◆ イスラームとラフマーン ◆






『「A.R.ラフマーンを語る」vol.3 イスラームとラフマーン』(@UPLINK FACTORY)は、この音像からスタートしました=「Chaiyya Chaiyya」。なぜにダージリン鉄道の車両の「上で」歌い踊るんですか〜!?とにかく一気にテンション上がります。

歌と踊りを見ているだけならば、楽しい恋の歌かなあと思うんですが、この日の眼目のひとつはパキスタン文化研究者村山さんの「歌える和訳詩」。

慈愛の影あまねく方の 足下すなわち楽土となる
ゆけ影よ 影よ 影よ 影よ 愛でみな照らしゆけ 影よ 影よ
甘き香りたつそのからだ 語り美わしウルドゥーのよう
ころがる霧の粒をかりて 楽土の扉ひらいてる
枝に葉末に風の中にも あなたの影がそこかしこ
さがすはあなたの影かたち 陽がさすどこにも立つしるし
色は匂えどまだみえぬ 一目みたさに恋い狂ひ
ころがる霧の粒をかりて 楽土の扉ひらいてる
枝に葉末に風の中にも あなたの影がそこかしこ
(「Chaiyaa Chaiyaa」村山和之氏訳。その一部を抜粋させていただきました)

麗しく凛としつつ、あたたかいリズムがあります。日本の言葉の情感があります。
Chaiyyaっていうのは「影」なんだそうです。日差しの強いインドでは木陰など影は良いもの。そしてこの影は「クリシュナの歩いたあと」という比喩でもあるとか(真っ暗な中でのメモなので書き間違っていたらごめんなさい!)。深い歌。さすがインド!LOVE!

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(インド・ハリドワール)

この会は「アジア随一の作曲家A.R.ラフマーンとイスラームの密なる関係」がテーマ。「スラムドック$ミリオネア」でオスカー、グラミー賞などを総なめしたインドを代表する作曲家A.R.ラフマーン。ヒンドゥー教徒だったラフマーンが、なぜイスラーム教に改宗したのか。「Chaiyaa Chaiyaa」にひそむスーフィー的叙情など、彼の人生に深い影響を与えてきた「イスラーム」を軸にその魅力を探る、というイベントなのでした。ラフマーンのカッワーリ、私は好きですね〜☆

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(インド・ラジャスターン、石のスクリーン)


◆ イランの絵と詩と音楽と ◆

詩と言えば、イラン。ペルシア語の流麗さは詩のためにあるのでは、と思えるくらいです。ペルシア語での詩の朗読、聴き逃せません。

イランの絵と詩と音楽と〜音楽とペルシャ語でのポエトリー・リーディング』(@ロゴスギャラリー)。「詩は、絵や音楽といったアートとも密接な関わりを持ってきました。絵や絵本の題材になってきたことはもちろん、イラン古典音楽も詩をなくして語ることはできません。
今回は、その詩の伝統の先にたつ現代のアーティストの作品と共に、絵と詩と音楽のつながりを感じて頂く展覧会です」。

会場にはたくさんの人が集まり、ポエトリー・リーディングと絵と音楽のコラボレーションに聴き入っていました。
前半は、詩と絵と音楽の本『黒いチューリップのうた』よりヴァヒード・シャリーフィヤーン(Vahid Sharifian)の詩の朗読。後半は、絵楽譜「Song of Persia」の作者レザ・ラハバさんによる朗読と、これを聴きながらの即興演奏。

麗しい大地よ。
風と岩と花畑と、砂ぼこりさえも。
草木の育む音 刻々と 草木の育む音
かごでさえずるやさしい小鳥 広げた翼で風にのる
心は庭先の梢を行ったりきたり 背後には深いみどり
宝石の目をしたもう一羽が 秘かに待ちわびている、なにか。
(「鳥」レザ・ラハバ氏より一部引用させていただきました)

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(ウズベキスタン・リシタン陶壁/鳥のモチーフ)

流麗優美、心を甘く溶かすスパイスのような言葉のつらなり。イランのタイルを思わせます。
ペルシア語、憧れますね〜。そして、こういう詩を見ると私も詩を書いてみたいと思います。一瞬ですが、、。

イランではホームパーティが盛んで、そういう機会には誰かが詩を読むのだとか。中には必ず古典楽器(サントゥールやネイなど)を演奏できる人がいて音楽とともに楽しむ、というお話もありました。ハーフェズの詩は占いにもなるので(その解釈によって)、盛り上がるんだそうです。こういう趣きのある遊びができる人たちっていいなあ〜と思います。

会場には、絵楽譜のきれいな陶板やイランのタイルもあり、土族うっとりでした。

ちなみに、主催者の「salamx2」さんも、絵楽譜のレザ・ラハバさんもエキサイトブログなんですよ。
「salamx2の雑談」
「カフェペルシア」


◆ イリアス ◆

次はギリシアです。英雄叙事詩『イリアス』(@ル テアトル銀座 by PARCO)へ行きましょう。

「紀元前8世紀頃にギリシア最大の詩人、ホメロスによってまとめあげられたと言われているこの『イリアス』は、のちに文字に記されて読み継がれ、口承文学史上に燦然と輝く傑作となりました」。
「もともとは文字ではなく口承によって伝えられてきたもので、中世日本において琵琶法師たちが、『平家物語』を演じたような格好で歌われていた」(wikipedia)。

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(トルクメニスタンのメルブ遺跡)

この壮大な物語が口承で伝えられてきたとは驚きです。今回は栗山民也氏演出による日本初の舞台化。ですが3時間を超える舞台であっても、壮大な物語を語り尽くすには短いようでした。その中で、平幹二朗さん(トロイア王プリアモス役)は、立っているだけでも存在感がありました。どんな時代にも共通する親子の情愛を切々と語る場面は、まさに圧巻。芝居は、単にセリフを言うのではない、空気を作れるような力、精進、積み重ねが大事なんだなあと感じました。
by orientlibrary | 2010-09-12 13:20 | 美術/音楽/映画

夏映画その2/「ペルシャ猫を誰も知らない」&ペルシャ工芸

前回「夏映画その1/「ソウル・パワー」&クバ王国の布」と一緒に書いていましたが、長くなったので分けました。だから、その2です!)

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(イラン・タブリーズ/ブルーモスクのタイル)


「酔っぱらった馬の時間」で泣き、「亀も空を飛ぶ」で泣きました。そのバフマン・ゴバディ監督の最新作「ペルシャ猫を誰も知らない」・・これがテヘラン?とびっくりするようなストリート感やスピード感があふれる映画なんですが、だからこそラストシーンが重い。声高に言わないからこそ、制作者や若者たちの思いに共振しました。

〜〜〜〜〜
あなたと歩いていきたい 霧の街を抜けて 緑の枯れない国へ
あなたと家にいたい そこには窓があって海が見えるの
庭には木を植えブランコを置きたい
大きな椅子に二人で座り 一緒にくだらない番組をテレビで見るの
ベッドでぐっすり眠りたい 太陽が出るまでもう一度
幸福がいっぱいのグラスに食べ物がいっぱいの皿
手巻きの時計は壊れて動かない 毎日が今日のままで明日が恐くないように
〜〜〜〜〜

最後に流れる歌です。若い女の子が夢見る光景。他愛もないようなささやかなシーンだからこそ、それがかなわない現実を思います。

「好きな音楽をやりたいだけ」。そんな若者たちが人目を避け、街の死角のような場所を必死で探しながら音楽を続けています。コンサートをおこなったりCDを出したりするには、「イスラム文化指導省」の許可が必要なのだそうです。

出演者の大半は実在のミュージシャン。彼らは何度も逮捕されながら音楽を続けています。といっても、反体制活動家といった気配はまったくなく、上流階級の育ちのいい若者たちといった感じ。たぶん音楽ってものが、とにかく好きなんです。
ストーリーもほとんど実際の経験に基づいており、主役の二人は撮影が終了した4時間後にイランを離れイギリスへ渡りました。

撮影自体、当局の許可がおりないなか、小さなカメラでゲリラ的に撮影。なんと17日間で撮影したといいます。(うち2日間は警察に連行され撮影できず)。小気味良いくらいのスピード感は、そのせいもありそうです。現実的にホントに必死だったんですね。
(*イランでは映画製作は指導省に脚本を提出して許可を得た後、当局帰属の35ミリカメラが使用できるという流れだそうです。ゲリラ的手法に至る経緯は傲慢な「ザ・コーブ」と根本的に違います)。

書きたいこと、たくさんあるんですが、、作品については公式サイトの「作品紹介」を。

ミュージシャンがたくさん登場。シンプルなロックからフュージョン、ラップまで多彩。イランの音楽シーン、アンダーグラウンドにありながらしっかりと息づいています。公式サイトの「キャスト」で出演ミュージシャンたちを紹介しています。
出演者中唯一のプロ俳優である「ナデル」役のハメッド、最高!映画のビートを刻んでます。
好きな音楽がたくさんありました!ナジャフィヤーン、ダールクープ、ミルザー、ヒッチキャス、so cool!!

ゴバディ監督は現在イランを離れており、6月の来日もかなわず

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(東京国立博物館展示品/イラン色絵人物文鉢/12〜13世紀/ミーナーイ手/楽器を演奏する人の姿)

音楽や踊りや人々の表現活動を規制しないで欲しい。
イスラムの名の下に、規制するのはやめて欲しい。

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(テヘランのガラス博物館展示品/12〜13世紀)

他国のことをとやかく言うべきではないかもしれませんが、イスラムの名の下にそれがなされていることは、イスラムのタイルや工芸に心底惹かれている私には、とてもとても残念だし、悲しい。音楽も好きだから、シンプルに「音楽したい!」という若者の気持ちもストレートに伝わる。

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(タブリーズにあるアゼルバイジャン博物館展示品/ラスター彩皿)

詩の国イラン、アートの感性が突き抜けて素晴らしいイラン。
イスラムと音楽は相反しないはず。
イスラムは個々人の表現を包容する大きなもののはず。
今はイランの悠久の歴史の中のひとつの時期なのかもしれないけれど、次のステージになりますように、と日本の片隅で願っています。かの地で、ゆたかで艶やかな芸術の花が咲き誇りますように。


*追記:主役の二人、アシュカンとネガルは、現在ロンドンで音楽活動をしているようです。彼らのfacebookには多くの人が訪れ、youtubeには演奏光景もアップされています。イラクのクルド人自治区にいるゴバディ監督はskypeでインタビューに答えています。止めようとしても止められないものがある、隠そうとしても情報を巡る環境が以前とは違う。そのことは確かだと思う。WikiLeaksなるものも登場しています。工夫と知恵とチャレンジで表現の自由がいい方向にいって欲しいなと思うし、自分も情報への理解力やスキルを高めなくてはと思う2010年の夏なのでした。
by orientlibrary | 2010-08-10 12:16 | 美術/音楽/映画