イスラムアート紀行

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柿右衛門と鍋島。色絵が生きる情感ある白地の魅力

『柿右衛門と鍋島 —肥前磁器の精華—』展(出光美術館)を見ました。とても良い展覧会でした。出光コレクションの蒐集はこのあたりのもの(古九谷、柿右衛門、鍋島、古伊万里など)が充実しており、時代の流れや様々な比較など切り口が明快で、わかりやすく見応えがあり、たいへん触発されました。

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(展覧会チラシより引用。左上は「色絵花鳥八角共蓋壷 柿右衛門」(江戸時代前期)、右下は「色絵栗樹文大皿 鍋島」(江戸時代中期))

図録の解説もほんの一部しか読んでおらず、もともと知識もないのですが、自分の好きなもの、感じたことを中心に少し書いてみたいと思います。


◆ 17世紀はやきもの、奇跡の時代 ◆

「17世紀という江戸時代の前期の百年間は、肥前の陶磁において、いや日本のやきもの史において、“奇跡の時代”と呼ぶに相応しい」。「17世紀後半は実り多き時代であった。色絵技術が完成し、絵画的な装飾性さえも獲得するのは、まさにこの時代である」(展覧会図録・解説より。以下、この解説を引用、あるいは参考にしています)。

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(「薄瑠璃釉色絵唐花文皿 鍋島」/展覧会図録より引用/唐花を皿の回りの部分に展開する「湾曲構図」、唐花文は染付で輪郭をとり古九谷様式に近い濃い緑、黄色の二色で彩色)

「16世紀後半まで日本はやきもの後進国」で、素朴な焼きしめ陶器が主流でした。しかし、桃山時代に鉄絵の技法が開始され、室町時代後期には備前や信楽など詫びた味わいのある茶道具が作られていました。磁器や施釉陶器は中国から輸入すればよく、あえて自前で作る必要がなかったのだそうです。

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(「薄瑠璃釉色絵唐花文皿 鍋島」底部/花唐草を三方に記す/展覧会図録より引用) 

日本で初めて磁器生産に成功したのは肥前で、1610年代頃。中国に遅れること千年余です。しかし1640年代、中国では明から清への王朝の交替に伴う内乱から中国磁器は輸出が激減。その代役になるべく肥前は技術革新に邁進し、17世紀中期には薄手の白さが際立つ高品質の素地が完成しました。そして、その白地を生かして当時の世界最高の品質を誇る色絵磁器が誕生するのです。


◆ 色絵が生きる白地、柿右衛門の優雅 ◆

私は華美な色絵にはあまり惹かれません。古伊万里などは、きれいと思いますが、惹かれません。また柿右衛門は世界に誇る日本の美ですが、私はあの赤、茶系の入った赤がどうも苦手なんです。

けれども今回気がついたのは、柿右衛門の白地の美しさです。「初代柿右衛門の目標は磁器製作の技術全般にわたる高邁なもので、ことのほか素地作りに力点が置かれていた」「初期伊万里といわれる磁胎には満足せず数段技術レベルの高い磁胎をめざしていた」。余白の多い優雅な構図は、美しい白の素地を生かすものだったんですね。

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(「春秋遊楽図屏風」(江戸時代中期)/展覧会図録より引用/「元禄期前後の江戸の巷の雰囲気を伝える屏風で、この太平の世に生きる人々の熱気が肥前磁器の精華である柿右衛門や鍋島、そして古伊万里というきらびやかな色絵を誕生させた」(解説より)/吉原遊郭の秋景色。当時のインテリアが垣間見られて興味深いです。注目したいのは段通(絨毯)。鍋島は「鍋島段通」でも有名。鍋島様式磁器の幾何学文様との類似点が多いそうです。段通に人は座っておらず楽器が置かれたり「一段上」の感じです)

17世紀後期は、世界最高の水準を誇る柿右衛門様式を擁するまでに急成長をとげた日本のやきもの。世界各地に輸出され一世を風靡しますし、国内でも什器が木(漆器など)からやきものに変わっていきます。野々村仁清、尾形乾山が活躍し、「土という素材を生かして自己の理想美を表現しようとする本格的な芸術活動が開始された」。土が芸術になったんですね!


◆ 傾(かぶ)くデザイン、鍋島 ◆

鍋島には見惚れました。骨太で自由で古雅の魅力に満ちていて好きです。「(鍋島藩は)国内最高の磁器を創造しようとする高い志と美意識により、日本の磁器のなかでもっとも典雅優麗なうつわを創造したのである」。

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(「銹釉染付茄子文皿 鍋島」/展覧会図録より引用/京茄子を画面いっぱいに配する。傾(かぶ)く美意識)

e0063212_0361275.jpg(←「銹釉染付茄子文皿 鍋島」底部/花唐草/展覧会図録より引用)

「鍋島様式のデザインの特徴は、モチーフをできる限り絞り込み、余分な要素をそぎ落としていくことにある」「主なモチーフはゆとりのある空間のなかでインパクトをもって大きくゆったりと描かれている」。江戸初期の粋な「傾(かぶ)く」センスも特徴だそうです。陶磁器を見ると、心がなごみます。良い時間でした。
by orientlibrary | 2008-04-18 00:43 | 日本のタイル、やきもの