イスラムアート紀行

土壁、土の屋根。土の建築伝統が生きるイラン

●「5000年前の日干し煉瓦に勝るものは作れない」、前回記事でご紹介した久住章さんが遺跡の修復に関しておっしゃっていたことです。「作り方が違うようだが、専門家の間でも明らかになっていない」とも。

(日干し煉瓦の例ではありませんが面白い形状の壁。イラン北部地方。土壁の段にふくらみを持たせているのはなぜ?きっと何か合理的な理由があるのでしょうね/『IRAN jewel of jewels』・gooyabooksより引用)

●日干し煉瓦といえば、土に水と藁などを加え枠に入れて成形し天日で固めるもの、もっともシンプルな建築素材、という印象を持っていましたが、様々な工夫が必要なのかもしれません。というわけで、今回も土の話題、ちょっと地味ですが(汗)、、「地の味わい」ということで、よろしく〜☆

◆ 日干し煉瓦の作り方 ◆
●日干し煉瓦について調べたい。土の建築伝統を体現する国・イランを見てみることにしました。こんなとき頼りになるのは、『ペルシアの伝統芸術〜風土・歴史・職人』(平凡社)。建築技術やタイル製作などが詳細に書かれている秀逸本です。期待通り日干し煉瓦製作の工程がくわしく書かれていました。(以下は同書より。読みやすいように書き直している部分があります)

*土の入手=家を建てるときに掘り下げる土を材料として用いる。不足分は近くの採土穴から入手する
* 調整=土は十分な水で細かいものと粗いものを分け余分なものを除去する
* 混ぜ土作り=その土に切り藁を加え足で踏んで混ぜ合わせる。鍬でさらによく混ぜる
* 型置き=煉瓦の型作り職人が地面に切り藁を薄く敷き、木製の煉瓦の型を平らに置く
* 型に入れる=土と切り藁の混ぜ土を型に投げ入れ素手でたたいて隅々までいきわたらせ余分な土をまっすぐな板で掻き取る
* 抜く=素早く型を持ち上げると煉瓦が地面に残る
* 次の煉瓦=型をその隣に置く。こうして煉瓦を型作りし1時間に約250個の煉瓦を作る
* 乾燥=よく乾くように煉瓦を立てて3〜5時間、1〜2日間、日なたで乾燥させる
* 製作時期=空に一片の雲もない暑い夏の数ヶ月のみおこなう

(イラン北部の景色。雪の中の土の家々/orientlibrary)

●なるほどお、、工程としては今も変わらないのでは、と思うのですが、細部に微妙な経験則などがあるのでしょうか。神殿や宮殿などではより良い土が選ばれたりするのでしょうか。このあたり私にはわかりません(残念)。煉瓦のサイズについても書かれています。

* 現代の煉瓦=20㎝×20㎝×4㎝
* バビロン=40㎝×40㎝×10㎝
* ペルセポリス=33㎝×33㎝×13㎝
* ササン朝=38〜50㎝×38〜50㎝×9〜13㎝
* 初期イスラム建築=23㎝×23㎝×5㎝

(タフテ・スレイマーン。雪に覆われた日干し煉瓦の建物/orientlibrary)

●日干し煉瓦はモルタルで接着して、壁やヴォールトなど曲面にも用いられます。イランの暑さに対処するため外壁の厚さは60〜90㎝必要なのだそうです。厚いですね〜!箱状の空洞を作ることもあるそうです。そして仕上げです。

* 土と切り藁の混ぜ土で下塗りするが、少量の石灰を加えて耐水性を持たせることが多い
* 鋼鉄製の鏝(こて)で下塗りしたあと、木製の鏝で滑らかに仕上げる

(イラン北部にて。どうして藁を積んでいるのかと謎でしたが、もしかして雨や雪を防ぐため?単に藁の乾燥〜保存のため?/orientlibrary)

◆ 土の建物のメンテナンス ◆
●乾燥しているといっても雨も降ります。気になるのは耐水性ですよね。壁はまだしも屋根や天井はどうなっているのでしょう。

* 天井板などの上に藁で編んだマットを敷き、土と切り藁と少量の石灰の混ぜ土を何層にも分けて敷いていく
* 各層を十分に乾燥させ石製のローラーで固める
* 切り藁の割合が高いアゼルバイジャン地方では50〜63㎝に達する
雨が降ったらそのつど屋根をローラーで固める必要がある。そうしないと乾くときにひび割れてしまう。溶けかけの雪は雨よりも早く浸みこむためすぐに取り除く。ローラーは常に屋根の上に置いておく
* シロアリや木喰い虫を防ぐために十分な量の塩をマットに蒔き混ぜ土にも混ぜておく

(イラン北部にて/orientlibrary)

きめ細かいメンテナンスが必要なんですね〜。でも、土製の屋根は夏に涼しく冬には暖かく部屋を保ってくれるそうです。

●同書の著者ハンス・E・ヴルフ氏はこう書きます。「驚くことに、粗末な農家ですら多くの建築資材や技術が用いられている」。日本でもイランでも、そして世界各地で、心地よい住まい作りとその維持のための工夫と努力が続けられてきたんですね。

(ソルタニエにて/orientlibrary)


by orientlibrary | 2008-04-10 11:46 | タイル技法・世界土もの | Comments(12)
Commented by 薬作り職人 at 2008-04-12 10:19 x
日干しの煉瓦って、中東の自然に良く合うようになっているのですね。
地震のニュースなんかで、こういう家々が壊れやすいという話もよくききますが、それでもこういう材料をずっと使っている、、体に刷り込まれているのでしょうね。
Commented by miriyun at 2008-04-12 14:17
どこの国においても、本来こうした自然素材で、住いのための工夫をしていたんですね~。
 屋根のワラ・石灰・土を使うことはきいていましたが、ローラーをかけるとははじめて知りました。なるほど~、乾く時にすきま!わかります。おかげ様でよくわかりました。
 家の維持はどこも本当に大変なことですね。これをしないと長持ちしませんし、土はとくにメンテナンスしないと大変ですよね
 こうした技術がすたれないことを祈ります。ただ、地震多発のところは厳しいので、地元の材料を使いながら、耐震性があるような新しい方式を考えるべき時だとも思います。
Commented by orientlibrary at 2008-04-12 21:09
◆薬作り職人さま コメントありがとうございました。プラハをブハラと読んでしまう私、テーマもあって「藁(わら)作り職人」さんと読んでいました。藁をつくる専門家!?、、いえいえ、お薬なんですね。私もかなりきてますよね〜、、(^_^;)
イランの人の土に対する思いは特別なものがあると読んだことがあります。でも耐震は必要ではないかと思います。土の町で有名なバムも地震にあってしまいました。安全であることが、まず第一ですよね。

Commented by orientlibrary at 2008-04-12 21:11
◆miriさま この本はシャーの時代に工芸伝統の重要性を認識して作られた本のようです。著者はオーストラリアの学者さんで、職人さんたちは一生懸命協力して技術を伝えてくれたのだそうです。すごい本だと思います。
地震等災害のことは私も気になっていて、以前、建築家の方の関連するテーマの講座で質問したことがあります。「私は土の住まいが大好きですばらしいと思うんですが、地震などに弱いのではないですか?何か対応はできないんでしょうか」と。すると「自然に還っていくのはいいことだ」というようなお答えで、、そういうことを聞いたのではないのですが、、
そういう意味でも、「左官的塾」で紹介されているように(輪島での地震のあとの蔵の修復)、こまいを工夫(縄をたらすとさらに強度が増すそうです)するなど、土の家を災害に強くする日本の技術や工夫は貴重だと思います。海外でもぜひ紹介されるといいですよね!!

Commented by yokocan21 at 2008-04-15 05:09
1枚目の写真のおうちは萱葺きでしょうか?何だかとっても東洋的な雰囲気です。
水平な屋根の上に藁を高く積み上げてある光景、トルコの東部地方でもよく見かけました。あれって、冬の家畜の餌用に保存してるのかと思ってましたけど、どうなんでしょうねぇ。やっぱり雪からの保護なんでしょうか。
日干しレンガ作りの家って、とっても簡素に見えるんですけど、実は様々な技術が隠されているんですね。しかもメンテナンスも大変そう。耐震性のお話が↑でも出ていますけど、この貴重なレンガ作りの良さを残しながらも、上手く強度のある家作りをしていって欲しいです。
Commented by orientlibrary at 2008-04-15 22:14
◆yokoさま 地元の植物でしょうか、屋根が帽子みたい!きれいに手入れされていますね〜。壁が不思議な感じがしませんか?どうしてこんなにふくらみがあるのかなあ。理由が知りたい〜!
屋根の上の藁、、トルコでも見られるんですか。どうしてのせているのかなあ??保護だとしたら全部にのせないと変ですよね。、やはり保存なのかな?? 両方を兼ねるとか??、、謎です〜(^_^;)
土の家も日干しレンガの家も。じつは私もシンプルだと思っていたんですが、家の各所で使う素材が違って、基礎もかなりしっかり作っているようです。壁も厚みがあって暑さ寒さをしのげるのがいいですよね。そんな魅力的な居住空間を残していくためにも、日本の左官職人さんの耐震技術、ぜひぜひ世界で広まって欲しいです!1
Commented by さらさ at 2008-04-17 14:12 x
はじめまして。「地球散歩」のさらさです。
土族と称されるだけあり、日干しレンガや左官の仕事など内容が深いですね。
特に下の記事、興味深いです。東大寺の土塀を愛し、またギリシャに住んでいた折りにフレスコ画を少しかじったことがあり、「壁」というものに特別な思いがあります。日本の左官技術は世界遺産といわれるほどなんですね。そして「月間さかん」という雑誌が創刊されるとのこと、どんな雰囲気なのか読んでみたいです。
ところでコメント欄にmiriyunさんやyokocan21さんなど交流のある方のお名前も拝見し、嬉しいです。また来ますね。
Commented by orientlibrary at 2008-04-18 01:41
◆さらささま ようこそ〜!はじめまして。壁に特別な思いをお持ちとは、、とってもうれしいです〜。(*^_^*) 土壁や装飾タイルなど、私も「壁」に惹かれています。
18日(金曜日)のNHK『美の壷」は、テーマが「蔵」のようです。蔵といえば壁はとても重要で、土壁や左官職人さんも登場するようです。この数年、左官の仕事や壁に関心が高まっていることを感じます。自然や手仕事に惹かれるのは、自分をみてもそうですし、忙しい時代の反動というか、なにか希求するものがあるのかもしれませんね。
miriyunさんやyokocanさんは、仲良しブログなんですよ。今後ともよろしくお願いいたします。

Commented by Azuki at 2008-04-20 01:06 x
藁のことを彼(イラン人)に聞いてみたら「あれは餌で乾かしてるんだよ、高いところにおいたほうが乾くからね」でした。他にも意味があるかもしれませんがとりあえずこう言ってました;;;

説明、とても分かりやすくて楽しく読ませていただきました~☆ほんとにうまくやれば日本の技術を合わせてこうした場所も残せていけますよね。
どれも素敵な景色ですね^^こういう色が好きなので行ってみたいです。
Commented by orientlibrary at 2008-04-20 11:39
◆Azuki さま 貴重な情報、どうもありがとうございました!!とてもうれしいです。
乾燥なんですね。風とかで飛んでいかないのでしょうか。風土が違うと暮らしの光景も様々で、それぞれに知恵や工夫がつまっていて、興味深いです。
土の家の良さと安全性を兼ね備えられたら、いいですよね。安全や便利ばかりを追い求めても、それが快適とはいえないこともあるでしょうし、風土の特性と新しい技術をあわせた住まいが日本にもイランにも、世界の国々でできていったらいいなあと思います。
Commented by アレキヨンダー at 2009-02-25 12:20 x
昨日、旅行会社の担当からごめんなさいの連絡が来ました。個人手配も承ります。と言われたのですが、何だか今さらです。 ちょっと、かなり気合が入っていただけに、ショックが大きすぎです。
昨日、とっておき世界遺産で「イスラム建築」をやっていました。 見ると行きたくなるし、何か悲しくなってきたりして。。もっと、色々な事を勉強してから行け!って事なのだろうな。。と反省しています。
Commented by orientlibrary at 2009-02-26 12:17
◆よんだーさま 流れのままに、ご縁ですよ。行けるときには行けるんだと思います。今、このときに、ここで味わえる何かを楽しみたいですね。
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