イスラムアート紀行

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土の建築、左官の仕事、その深くて熱い世界

「土の建築の素材と形 1000年の壁」という魅力的なタイトル、語るのは淡路のカリスマ左官・久住章さん。先日開催された「左官的塾の会 公開講座」は、一言も聞き逃せないくらい興味深く楽しいもの。「こういうことが知りたかった〜!」と土族感涙でした。

◆ 世界各地の土の建築 ◆  
考え方をあらためたのは、土の建築世界の奥行きについてです。西アジア〜中央ユーラシアを集中的に考えていた私ですが、ヨーロッパ、アフリカ、南米、そして日本と、世界各地の多彩な土の建築の写真に、自分の視点の狭さを感じました。

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(ウズベキスタン・フェルガナ地方の土壁。今も土だんごで仕上げていました/orientlibrary)

古い土の建築についても、日干し煉瓦大好きでその印象が強かった私ですが、「木の小枝を編んで土を塗ったもの」「土だんご、練り土」などの歴史の古さにはガツンときました。

西アジア、中央ユーラシアは土が主な建築材料。権力者の大規模な建造物も宗教施設も土を使って作られており、土という身近な素材でここまで美しく表現できるのか、というところが私の興味と敬意の基本であり、装飾タイルはその最たるものです。

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(タフテ・スレイマーン(イラン/ササン朝の遺跡)の日干し煉瓦/orientlibrary)

けれども世界に視野を広げると、古今東西、庶民はどの地でもおおいに土を使ってきたし、今も土作りの家で暮らしています。版築工法(板などで枠を作り土を入れて突き固めたものを重ねていく技法)で作られたフランスの農家。練り土を積み上げただけの素朴な工法のイギリスの農家。ともにどっしりしてオブジェのよう。存在感がありました。

スペインやニューメキシコでは、日干し煉瓦や土を高く盛っていった下地に漆喰やペンキを塗り、防水しつつ清潔でおしゃれな仕上がりにしています。

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(Wikipediaより引用/マリのジェンネのモスク)

アフリカのマリ、有名な泥のモスク(ジェンネのモスク)。雨期には激しい雨が降るらしく、修理修繕は必須、毎年地元の人が何百人何千人と参加して手で泥を塗っているとのこと。突き出たたくさんの棒は、泥の塗り替えのための足場だそうです。実用のものですが、意匠としても生きていますよね。

日本も素晴らしい土の建築文化があります。例としてあげられたのは、三十三間堂の版築土塀(版築に水を切るため漆喰を挟む。意匠的にも美しい)、京都御所の辻塀(練った土を積み上げ化粧に漆喰を塗る。聚楽土は権威の象徴)、東大寺土塀(瓦、粘土、土だんごを積み上げる)、法隆寺土塀(版築を積み重ねる。きっちりと手間をかけて作られた)や民家など多数。日本の塀、壁、屋根、深いです!

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(Wikipediaより引用/法隆寺土塀)


◆ 日本の繊細な左官の技術は世界遺産 ◆
お話は縦横無尽で、「え〜!?」というエピソードも多く、書きたいことは山のようにあるのですが、もう一点、左官職人さんのことに話題を絞りたいと思います。そもそもこの講座は「左官的塾」という会の主催。

左官的塾の会の主宰者でもある久住章さんは、「日本の左官の技術は世界遺産」と言います。ドイツのある街で土壁の修理をしようとしたけれど、すでに道具がない。日本の鏝(こて)がいちばん優れていると日本から輸入したそうです。

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(INAXライブミュージアムの一角にある「土・どろんこ館」の壁は版築でできています/orientlibrary)

驚いたのは、日本の左官道具はなんと1500種類もあるということ。道具、まさに「道」の具、道の深み厚みが道具の深み厚みにつながるのかもしれません。「日本は仕上げが繊細で、仕上げの種類も多い。土を繊細に使える技術は日本の特許。日本のもの作りの特色、誇れる文化」。

さらに、「ヨーロッパでも土の建築物が見直されているし、ペルー、インド、マリなどは土の建物がとても多い。ニューメキシコには日干し煉瓦のメーカーだけで478あり400万個作っている。しかも年々増えている」「土を扱う職業は世界的に最もメジャーで将来性のある職業」。聞いているこちらも熱い気持ちになってきます。

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(イラン/チョガザンビールの近くで・壁塗り/orientlibrary)

新しい動きもあります。『左官教室』・・塗り壁を文化としてとらえ左官仕事を追求、文化誌の趣があってファンに愛されていたこの雑誌が昨年秋、休刊となりました。しかし、、さすが左官界!!つい先日、『月刊さかん』が創刊に。早〜い!版も大きくなってオシャレなデザインです☆♪(左官的塾のサイトで紹介されています)

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(左官職人さん手作りのチリボーキ。美しい!!勝手に写真を撮ってすいませんでした!)

輪島での土蔵修復のエピソード(修復の報告レポートはこちら)や、独創的な構造体(=竹ゴマイ・この上に荒壁を塗れば千年持つ)のお話も印象的。これがタイトルの「1000年の壁」とつながっていたんですね。ひたすらメモを取りまくり、刺激を受けまくりの3時間でした。会の皆さん、久住さん、どうもありがとうございました。

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(千年持つ壁の中にはこれ!竹ゴマイ。縄の結び方や縄になる植物も強度と関係あるそうです)
by orientlibrary | 2008-04-01 17:27 | タイルのデザインと技法