イスラムアート紀行

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”ジャナワール”のいる湖、そしてクルドの村の暮らし

以前、東トルコのヴァン(ワン)湖について書いたことがあります。ワン湖〜ワンという街についての資料が見つけられず、村上春樹さんの『雨天炎天』をナビゲーターにするという奇策(!?)を用いました。村上さんも書いているように、ワン湖の水は独特のターコイズブルーで、トルコのタイルのように深みのある色合い。アララット山を背景に、雄大かつ優美な姿で見るものを魅了します。そんなワン湖を舞台にした『怪獣記』(講談社)が今回のテーマです。

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◆ トルコの未知生物・ジャナワール! ◆
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ワン湖(琵琶湖の5倍の大きさ)には、「ジャナワール」というUMA(未確認不思議生物=ネッシーみたいなもの)がいるのだそうです!ジャナは体長10メートルで鯨のように潮を噴き上げるんだそうです!世界のUMAファンが注目するジャナワール!(目撃証言の絵を見ると、ジャンプ中の大型イモムシ!)

そして、あまりにベタ(見え見えのヤラセ)な「証拠映像」に、逆に好奇心のツボを刺激されて、東トルコに乗り込んでいったのがノンフィクション作家の高野秀行さんです。私は、社会派的テーマを爆笑系の筆致で巧みに描く高野ワールドのファン。『西南シルクロードは密林に消える』はドキドキの一冊でした。


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そんな高野さんのジャナワール探しを知ったのは、じつは本の出版される前。このエキサイトブログでリンクさせてもらっている「イスタンブログ〜末澤寧史のイスタンブル流学記」で06年に「高野さんとワン湖に取材に行く」という記事があったのです(カテゴリ・「ワン湖のジャナワール」)。末澤さん(ブログでしか知らない方です)は高野さんの知人で、ジャナ探索行に重要な役割を果たします。

そんなこともあって気になっていたジャナ探索紀行『怪獣記』、先日一気に読みました。次々登場する目撃者や関係者(すべて実在)が皆、人間くさいというか怪しいというか、個性全開、とにかく濃い〜!そればかりか、クルド独立運動、イスラム復興主義、極右など、東トルコの複雑な政治状況が、ジャナ探しにどーっとかぶさってきます。このあたりがキモです。高野ワールドですね〜。


◆ ワン湖の畔の美しいクルドの村々 ◆
あらすじを書くのも興ざめなのでやめますが、私がいちばん好きな部分を少しご紹介したいと思います。それは、目撃証言を求めて湖周辺の小さな村々を回る場面。それらはみなクルドの村なのです。描かれたクルドの暮らしや光景こそ私が求めるものでした。

クルドという民族になぜか惹かれてきた私、でも日本で知る情報は難民やテロのニュースばかりです。もっとふつうの暮らしのことが知りたかったのです。以下は『怪獣記』より引用、一部省略している部分もあります。

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(ワンで購入したクルドのキリムの模様。90-100years old)

 「相変わらず、車内ではクルド音楽が鳴り続けている。もの悲しさがなつかしさにもつながるクルドの調べを聞きながら、木立のつくる緑のトンネルをくぐっていくとその美しさに涙が出そうなくらいだった。湖をずっと眺め続けているわけだからふつうならだんだん美景にも飽きてくるはずなのに、いっこうに飽きない。それどころか、前の美景を超える美景が登場する」

 「風が涼やかだ。人々はすでに冬支度をはじめていた。羊から刈り取ったばかりのウールを洗っている人もいれば、干し草を積み上げている人もいる。ある村では、葦を大量に刈り入れていた。リンゴ、杏、トマト、パブリカを庭に敷いたゴザの上に敷き詰めている家もあった。冬場には家畜だけではなく人間の食料もなくなるので、今のうちから干しておくのだ。近寄ってみれば、トマトやパブリカはすっかり乾燥しながらも鮮やかな赤やオレンジの色を残している。かじってみると甘い」

 「三つ目の村はまるで桃源郷のようだった。エメラルドグリーンの静かな入り江にひっそりと村がある。車を止め、水際まで下りてみた。至近距離で見ても淡いエメラルドグリーンが日差しにゆらめく。南の島だってこんな綺麗なビーチはなかなかないだろう。私は見たことがない」

面白冒険譚的側面もある本のなかで、にじみでてくるように描かれた光景。あのワン湖の畔の村々は、こんなに豊かな美しさを有していたんですね!さらに、食についても書かれています。


◆ 食い倒れ、美食のクルド! ◆
e0063212_12231069.jpg 「運ばれてきたのは極上のクルド料理だった。ふつう、辺境では食文化があまり発達していない。ところがクルド人は例外である。薄焼きピザ「ラフマジュン」や牛肉ハンバーグ「チーキョフテ」、鶏肉の炊き込みご飯など、クルドにしかない料理がぞこぞこある。トルコ東部には「食い倒れの町」と呼ばれる町がいくつかあるが、いずれもクルドの町だ。クルドの宿主は「私たちクルドは、お金があれば、みんな食べ物に使っちまうんだ」と誇らしげに語っていた。さすが世界最大の少数民族なだけはある」

食い倒れなんだ!これまでクルドを描いた映画に涙をふりしぼってきた私には、意外な一面でした。でも、うれしくなってきました。いい感じですね〜!


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正直、UMAにはあまり興味がない私。でもふだんあまり紹介されることのない東トルコ、とくにクルドの暮らしに触れることができて、とてもうれしい本でした。UMAも予想外の展開を見せ、高野さんたちはなんとジャナに遭遇するんですよ!

今回もまた長くなってきました。構想(大げさ?)では、同じ東トルコのカルスという町を舞台にしたオルハン・パムクの『雪』、それと関連してトルコのスカーフ問題にまでいこうとしていました。次の機会にしたいと思います。(*写真の人や子どもは東トルコで撮ったものですが、クルドの人かどうかはわかりません)

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◆ タイルでバレンタイン ◆
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最後に、先日タイルみたいなチョコレートを見つけたので、バレンタイン記念に写真を撮ってみました。モロッコとウズベキスタンのタイルに囲まれたまんなかのふたつがチョコ(「sadaharu AOKI」)。☆ミルフィーユとローズです。良きバレンタインを!☆


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by orientlibrary | 2008-02-14 12:46 | 中東/西アジア