イスラムアート紀行

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モンゴル系王朝が拓き、輝かせた、装飾タイルの世界

世界史、弱いです。現在の国境が先入観として消えず、ダイナミックな王朝の興亡の歴史(時間)と広さ(空間)の関係は、長い間、霞がかかったようにぼんやりとしたままでした。このところ中央ユーラシアについては、ほんの少〜し、霞が晴れてきた部分があります。が、遠い道のりであることには変わり有りません。

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◆ モンゴルは破壊した? ◆
私の先入観のひとつに、「モンゴルは都市文化の破壊者」というものがありました。あのサマルカンドを、憧れのヘラートを、そして多くの美しいイスラムの都市を無惨に破壊したというイメージを持っていました。日本史では「元寇」も習いましたから、それも頭のどこかにありますよね。

大帝国モンゴルは、装飾タイル史には登場しません。また、私の愛する「ゲル」(移動式住居、天幕)以外は、建築の言及もほとんどありません。だから、長い間、建築や文化という視点でモンゴルを捉えるという発想はありませんでした。

一方、実際のモンゴルに行ってみると、星空や草原など大自然に感動し、遊牧生活の知恵に脱帽し、大ファンになりました。つまり、相反するような気持ち、両方があったのです。

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◆ パクス・モンゴリカの時代 ◆
装飾タイルは、そんな私に教えてくれました。モンゴル系の王朝が装飾タイルの歴史を拓き発展させたことを。破壊するだけではなく、支配した土地の文化を尊重し、学び、新たな建造物を造ったことを。

さらには、「パクス・モンゴリカ」(モンゴルの平和)といわれる繁栄のなかで、ユーラシア大陸は陸路も海路も人々が自由に行き交い、交易や商業は活発化しました。ユーラシアを攪拌し、東西文化を交流させた・・モンゴルはまさにそんな役割を担ったんですね。


◆ イルハーン朝の建築とタイル ◆
装飾タイル史では、モンゴル系の王朝・イルハーン朝が大きな役割を果たしています。現在のイラン北西部にある「ソルタニエ・ドーム」(オルジェイトゥーの廟/1307〜13)で、古雅の香りあふれるタイルを見たときの気持ちは忘れられません。

イスラム建築の専門家、深見奈緒子さんは『イスラーム建築の見かた』のなかで、イルハーン朝の建築について、次のように記しています(要旨)。
・ 10世紀以来のペルシア文化の復興が土台になっている
・ 組み込まれた新たな変化は、第1に、建築に巨大趣味が適応されたこと
・ 第2に、垂直性に比重を置いた点
・ 内部空間のドームを高くし、中庭の面積に対して回廊部の高さを高くした
・ ペルシアに根ざしたドーム技術を用いてダブルドームを完成

そしてタイル!
・ 第3に、釉薬タイルに紺色が現れたこと
・青を主体として建築の外装に着彩する点は新たな傾向
・ それまでは外観は煉瓦色で、釉薬タイルとしては、いわゆるトルコ石の青しか使われなかった

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◆ タイルがきれいなモンゴル系王朝 ◆
今回は、以前から気になっていた装飾タイルとモンゴル系王朝の関係を、一度整理してみようと思います。

●まずは、正統モンゴル系王朝から。
1:イルハーン朝/1258-1353年/チンギス・ハーンの孫・フレグによるウルス(国)。首都タブリーズには、イラン人ばかりでなく中国人、インド人、ヨーロッパ人の学者も招かれ学芸の一大センターが出現した。タイル史では、イランの技法であるラスター彩で中国の龍や鳳凰が表現されています。東西文化の融合に感動!

●さらに、モンゴル帝国の継承政権〜子孫による政権がスゴいんです!
1:ティムール朝/1370-1507/ティムールは、モンゴル部族の一分枝バルラス部族の出身。チンギス・ハーンによる世界帝国の夢を理想としていたといわれる。イルハーン朝のレンガ建築の伝統に基づくティムール期の建築は15世紀前半に爆発的に発展。俗に「チンギス・ハーンは破壊し、ティムールは建設した」とも言われる。タイルの素晴らしさについては何度も書いてきたとおりです。

2:シャイバーニー朝/1428-1466・1500-1599/チンギス・ハーンの長男・ジョチによるキプチャク・ハン国(ジョチ・ウルス)。そのジョチの子孫が建国した。1561年に首都をブハラに移しブハラ・ハン国と呼ばれるようになった。16世紀サマルカンド、ブハラのタイルもいいですよね〜!

3:ムガル帝国/1526-1858/始祖バーブルの父はティムール朝フェルガナ領国の君主。母はチンギス・ハーンの血をひくといわれている。ムガルという国名は、モンゴルがなまったもの。民族的にはトルコ化しているが、バーブルはティムール帝国、さらにはモンゴル帝国の復活を夢見ていた。石造建築が主流のインドでは、タイルはラホールなどをのぞきあまり見られません。でも美意識の高さから絶対入れたい!

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◆ タイルがきれいなその他の王朝 民族出自別 ◆
装飾タイル(煉瓦含む)の元祖はテュルク系!もう〜、めちゃめちゃカッコイイです〜!!
1:ガズナ朝
2:カラハーン朝
3:ルーム・セルジューク朝
4:トゥグルグ朝(デリーサルタナット朝)
5:アクコユンル朝(トルクメン系ですが便宜的に?ここに入れます)
6:オスマン帝国

独特の濃〜い世界。魅惑のイラン系!
1:ゴール朝(?謎のゴール朝ですが、、)
2:サーマーン廟
3:ローディ朝(デリーサルタナット朝/アフガン系ですが便宜的に?ここに入れます)
4:サファビー朝

(間違いがあったら教えてください。*アッバース朝やマグレブ等は今回は入れていません)

おっと、また長くなりました。今年もタイルオタクです。写真のタイルはすべて「ソルタニエドーム」の内部壁面を飾る14世紀の装飾タイルです。

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by orientlibrary | 2008-01-18 19:28 | タイルのデザインと技法