イスラムアート紀行

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中央ユーラシアは今、「タジキスタンの光と陰」

中央アジアのこと、もっと知りたい、といつも思っている私ですが、もっともイメージがわかないのが「タジキスタン」です。タジクという民族名には、多少の聞き覚えもあるのですが、国になるとさっぱりわかりません。

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(鍛冶やの職人)

この間、ご紹介しているシンポジウム「『シルクロード』は、いま 〜中央ユーラシアの現在をさぐる〜」@和光大学から、今回はタジキスタンの現在についてのレクチャーを。「タジキスタンの光と陰」(講師:島田志津夫さん)です。

掲載写真ですが、私はタジクに行ったことがないので写真もなし。そこでひらめいたのが、「Y.Sさん」。いつもうっとりするようなステキな写真を見せてくれるんですが、以前タジクの写真を見せてもらったことを思い出し、掲載の了解を頂きました。キャプションもそのまま使わせて頂きました。「Y.Sさん」、ありがとう〜!

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(ワハーン渓谷)


◆ タジキスタンのプロフィール ◆
さて、まずは、タジキスタンってどんな国?をちょっと整理したみたいと思います。出典は、外務省データ、『中央ユーラシアを知る事典』(平凡社)です。

* 小さな国っていうけど、どのくらいの面積なの?  14万3100平方キロで日本の4割ほど。しかも国土の9割が山岳地帯。耕作可能なのは5.4%。
* 人口は?民族は多様? 06年で690万人。民族はタジク人が約65%、ウズベク人25%。その他ロシア人が3.5%・・・ タジクが多数派。中央アジアで唯一、イラン系民族を主体とする国家ですね。

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(農作業中の女性たち)

* 言葉はどうなってるの?  公用語はタジク語(イラン系言語。イランのペルシア語やアフガニスタンのダリー語などとともにイラン語派の西方方言群に属する。現在タジクで使用されている言葉は、テュルク諸語との接触により文法や語彙の面で大きな影響を受けている)。ロシア語も広く使われている・・・ イラン系の言葉を話す国っていうのがポイント。
* イスラム教ですよね? スンニ派が85%。パミール地方にはシーア派の一派であるイスマーイール派の信者も多い・・・ パキスタン・フンザの記事で書いたイスマーイール派。パミールつながり。

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(ヒッサールの城砦からの眺め)

* 長い歴史を思いっきり短く! アレクサンドロス大王により制圧。クシャーン朝による支配。6世紀〜テュルク系遊牧民侵入、住民のテュルク化始まる。7世紀ソグド人の活動が最盛期に。8世紀以降アラブ勢力の侵入。土着のイラン系住民がイスラム教受容。テュルク系諸民族がこれらイラン系住民をタジクと呼ぶようになる。イラン系のサーマーン朝成立。13世紀モンゴル帝国の支配。14世紀後半-15世紀ティムール帝国の支配。16世紀シャイバーン朝の支配。18-19世紀ブハラ・ハン国、コーカンド・ハン国の支配。1860年代〜大部分がロシア帝国に併合。1924年タジク自治ソヴィエト社会主義共和国。1991年9月「タジキスタン共和国」独立宣言。
* 産業は? 農業従事者が労働人口の約67%。綿花生産、アルミニウム精錬、水力発電・・・ 農業とアルミ、水力。このあたりが現在を知るカギみたいです。


◆ タジキスタンの経済開発プロジェクト ◆
復興後の産業にいってみましょう。(内戦、復興については、前回の「イスラム復興」をご参照ください)。内戦の教訓から政治的な安定を求めたタジキスタンは、ラフモノフ(現在はタジク風に改名してラフモン)政権のもと、復興の道を探り、経済開発に向かいます。

といっても、資源がない、産業もない。となると、経済援助が重要になります。そこで「地政学的な重要性を意識した多面的外交」(島田先生)へ。タジクは中国、アフガニスタンと国境を接しており、また旧ソ連時代には南の前線だったという微妙な位置。911以後の国際情勢も、複雑さに拍車をかけているようです。

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(パンジ川。対岸はアフガニスタン)

そんななか、経済発展の柱として期待されているのが「水力エネルギー資源開発」。なにしろ国土の9割が山。パミール高原は4000メートル級の高地。雪解け水による水資源は豊富。これですね!「ヌレク水力発電所」は1980年竣工、世界一高いところにあるダムなんだそうです。現在、さらにいくつかのダムを建設中。「高圧送電線を整備して電力輸出国へ」。水から電力、なるほどこれも資源利用のありかたですね。

アルミニウム精錬も主要産業。たとえば、「タジク・アルミ工場」は1975年生産開始。アルミ精錬というのは電力を消費するものらしく、ここだけでタジキスタン全土の4割の電力を消費してしまうのだとか。え〜!それは大変。新しいダム、考えますよね。

経済開発第2の柱は、道路整備。「2007年夏にアメリカの援助によりアフガニスタンとの国境のアム河に橋が完成」、「南アジアから中央アジア、ロシア方面を結ぶ南北交通路の整備計画」(アラビア海に通じることが可能)、「国内の南北交通の障害となっている二つの峠にトンネルを建設中」(イランと中国の援助)などが進んでいるとのことです。

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(タジキスタンとキルギスの国境付近)


◆ タジキスタンの外交 ◆
もその資金は?外交での援助取り付けも大事ですね。ロシアとの関係は今も重要。ダム建設への投資もしているとか。でも驚いた数字もありました。ロシアへの出稼ぎは毎年延べ100万人(人口は700万人弱)。送金額約10億ドル(06年)。同年のGDPが28億ドルですから、なんと3分の1以上がロシアへの出稼ぎによるもの。中国は借款を中心に、道路建設などインフラ整備を支援。イランもダム建設など支援。アメリカ、EU、日本も支援しています。

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(道で絨毯を洗う女性たち)

◆ タジクとウズベク ◆
タジク、、、ウズベキスタンではちょっと微妙なニュアンスを感じます。「ロシア革命後の民族共和国境界策定の結果、その領土は東ブハラの山岳地帯周辺に限定された。タジク人が数多く居住するブハラ、サマルカンドはウズベキスタンとなり、タジク人はいわば歴史的領域の重要部分を失った」(『中央ユーラシアを知る事典』)。一方、「1929年にウズベキスタンからホージェンド一帯を編入」。入り組んでますよね。

サマルカンドなどにはタジク人が多いし、フェルガナも共通の文化基盤があるし、「タジク」には親しみがあるんですが、「タジキスタン」はまだまだ未知の国。小さな国がどうやって市場経済化の波のなかで生きていくのか。これからも関心を持っていきたいと思いました。

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(リンゴを売る少女)
by orientlibrary | 2007-12-22 13:37 | 中央アジア5カ国