イスラムアート紀行

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「リッチスタン」から、富のゆくえを考える

●いくつになっても、素朴な疑問ってあります。そのひとつに「現代の超大国・アメリカを代表するモニュメンタルな建築物って何だろう。もしかして、ないのでは?」があります。摩天楼の超高層ビル群、工場やオフィスなど産業系の建築物、、建築史の中では意味があるのでしょうが、歴史に残るようなものとも思えません。

●歴史のなかで、繁栄を謳歌した王朝には、時代を代表するモニュメンタルな建造物(〜都市)があります。エジプト、ローマ、ティムール朝のサマルカンド、イスファハーンの王の広場、ムガルの美・タージマハル、オスマンの華・トプカプ宮殿、ルイ14世のヴェルサイユ宮殿等々、あげればきりがありません。帝国や王朝の権威を示し、外交の舞台にもなり、今もたくさんの観光客を集めています。でも、数百年後のアメリカを訪れた旅行者は、いったいどこへ行くんでしょうか

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(トプカプ宮殿)

◆ リッチスタンという国 ◆
●そんな疑問を通底音にしながら、最近読んだ本があります。面白くて一気読みした『ザ・ニューリッチ』(ロバート・フランク著/ダイヤモンド社)。原題は『Richstan』。そう、「〜スタン」を国という意味で使っているんです。イケてます〜!

●そしてこのRichstanは、カギを握る言葉でもあります。アメリカの新しい富裕層(ニューリッチ)は、「自分たちだけのバーチャル国家を形成している」と著者は指摘します。そして「事実、並の国より金持ちである」とも。

●景気減退が伝えられるアメリカ。ITバブル崩壊、不況、911などもありました。けれどもこの間もアメリカは百万長者を生み出し続けてきました。しかも、IT起業家や金融関係者だけでなく、「全国のあらゆる年齢層、ほとんどの全業種で資産は急増」していたのです。

資産100万ドル以上の世帯は、95年から2004年までに倍増し、なんと900万世帯を突破。歴史上初めてヨーロッパを上回りました。しかも、それより上の1000万ドル、2000万ドル、5000万ドルの数も軒並み倍増しているといいます。

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(インド・サマードパレス)

●「これほど多くのアメリカ人が、これほど短期間に、これほど豊かになったのは前代未聞」。背景として、筆者は「金融市場の上昇、新技術、製品・情報の国際的な流通の自由化の複合」をあげていますが、ここでは詳細を割愛します。

●著者(ウオールストリート・ジャーナル紙の記者)がリポートする金持ちの世界、その過剰な誇示的消費には、ただただ唖然とするばかりです。アメリカの豪邸というと、広い芝生の庭とプールくらいしか浮かんでいなかった私は、原始人でした。リッチスタンは、2桁〜3桁の数の寝室とバスルーム、ジム、テニスコート、美容室、屋内プール、スケートリンク、シアター、(買い漁った)美術品展示室、屋内プール、人を驚かす(バカバカしい)仕掛けなどを競っています。

●これじゃあ、京都議定書も渋るワケですよ。しかし、もともと中流出身者が多いため、執事のいる生活や大かがりで複雑化した豪邸の管理に疲れ果ててもいるようです

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(ウズベキスタンの古写真より)

◆ 贅沢と文化の差 ◆
●「アメリカにはあんなにお金があるのに歴史的な建造物がない。どうして?」、、この答えは、自分なりになんとなく見えてきました。ひとつは、お金を持っているのが、絶対的な権力を持つ王朝ではなく「庶民」だから。国家間の外交や軍事にお金を使う必要もなく、ひたすら「豪邸やクルーザーやジェット機や車や腕時計やパーティ」など、自分のために消費しています。

●ヴェルサイユ宮殿も顔負けの邸宅が、競うように立ち並ぶリッチスタン。でも、その100年後はどうなっているんでしょう。贅沢なだけで文化がなければ、消費された後の廃墟が残るだけ。

●歴史の中の王朝だって、贅沢でばかげた消費をし、権力を誇示するために建築したでしょう。でもそこには「文化も力」という矜持があったのではと思うのは、ひいきめなんでしょうか。そうでないと、たとえばイスファハーンなどの美しさは説明できない気がします。リッチスタンの中だけで完結していると、文化も建築も磨かれないのでは?

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(トルコ東部・アニ遺跡)

◆ 慈善競争、社会起業家 ◆
●「アメリカにはあんなにお金があるのに歴史的な建造物がない。どうして?」、、もうひとつ考えたのは、宇宙やエンタテイメント、情報など、いわゆる「ソフト」にお金をつぎ込んでいるから。そのあたりは、イマドキの「帝国」の姿かもしれません。

●興味深い動きもあります。史上最大規模の財団を作ったビル・ゲイツに象徴されるように、リッチスタンが「慈善」に向かっています。慈善競争も激化しており、「慈善でも一番になりたがる」のだとか。また、「ビジネス原則を用いて社会問題に取り組む」社会起業家と言われる人たちの活動では、エチオピアの貧困緩和など具体的な成果をあげているものもあるそうです。

●長短所ありつつ、アメリカはダイナミック。「少数の人びとの有り余る富が、人類の進歩にとってはるかに役立つような理想的状態」(カーネギー)という志向もあります。対イスラムという面が目立ちますが、大学などではイスラム建築や美術の研究もされており、私も時々ウエブサイトを参考にさせてもらっています。リッチスタン、せっかく「スタン」なんですから、仲良くしていきたいですね!(ヘンな締めです、、)
by orientlibrary | 2007-11-10 21:29 | 社会/文化/人