イスラムアート紀行

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世界のタイル、日本のものづくり

●97年の開館から10周年を迎えた「世界のタイル博物館」(愛知県常滑市/運営(株)INAX/INAXライブミュージアムの中の施設。ライブミュージアムには、他に「窯のある広場」「土・どろんこ館」「陶楽工房」「ものづくり工房」がある)。これを記念して展示内容の大幅なリニューアルをおこない、今月よりリフレッシュ・オープンしました。

●タイルを核とした博物館というのは、世界でも稀なのでは?「タイルオタクの土族」にとっては、まさにタイル界のメッカ。これまでに何回か訪問していますが、今回のリニューアルでは大変身した1階部分が印象的でした。

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◆ メソポタミアのクレイペグ◆
●タイル装飾の大きなゲートから中に入ると、まず出会うのは「クレイペグの壁」です。紀元前35世紀、メソポタミアのウルクの神殿を飾ったクレイペグは粘土を円錐形にして焼いたもの。壁に嵌め込むと、モザイクのような模様を表現できます。
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(館のメーキングビデオより)
●このクレイペグは、モザイク文様の起源ともいわれ、タイルや壁面装飾の原点です。展示にも力が入りますよね。忠実に複刻しようと制作したクレイペグの数は6万本。すべて手作り。社員の家族や地元の子どもたちも参加して一本一本作りました。そしてこれをコツコツと積み上げていったのです。ほの暗い照明のなかで、ふっと古代メソポタミアの神殿にいるような気分になる空間です。
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(館のメーキングビデオより)

◆ エジプトの青のタイル ◆
●「世界最古のタイル」として知られるタイルは、エジプトのサッカラにある「ジェセル王のステップピラミッド」の地下廊下のファイアンス(粘土ではなく石英を原料とする/紀元前2650年頃)です。神秘的な青が魅力的。「ものづくり工房」で制作しました。
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◆ イスラムのドーム ◆
●タイル装飾の精華といえば、中世イスラムのタイルです。栄えなるイスラム代表に選ばれたのは、、イランをイメージさせるモスクのドーム。実際の3分の2の縮尺で作っています。光を重視するイスラムの精神から、24時間の光の変化を照明を使って表現しているのも見所です。
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●青いタイルと幾何学模様が綺麗。タイルのドーム制作の歴史のない日本で、これを制作施工されることは、相当に大変だったと思います。そしてあらためて、イスラム建築を飾るタイル装飾というものが、並大抵の時間と費用と技術ではできないこと、ものすごいものなんだということを感じました。

◆ ヨーロッパのタイル ◆
●舞台は近世ヨーロッパに移ります。古代王族の神殿などを飾ったタイル装飾は、中世イスラム王朝において権力と文化力の象徴となり、宗教施設や宮殿をきらびやかに彩りました。その後、ヨーロッパでは住まいや商業施設にタイルを使用するようになります。タイルは、市民にも身近な素材になってきました。

●館内で再現されているのは、17-18世紀、オランダの商人の館。白地にコバルトブルーで花や風景を描いたタイルが異国情緒のある軽やかな空間を作っています。
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イギリスの空間は、なんとパブ。アールヌーボー様式を取り入れた図柄のタイルが壁を演出。バーカウンターのある洒落た一室です。使われているタイルは、鉛含有の釉薬が日本では使えない関係で、イギリスで作られた複刻品を輸入。飴色や深緑のしっとりとした色合い。イギリスだなあと感じます。床はINAXのタイル。
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◆ 現代日本のタイル ◆
●タイルを巡る旅(タイル・トラベラー!?)のラストシーンは、日本のタイルです。日本でタイルというと風呂場などの水回りを連想する人が多く、タイルが好きというと怪訝な顔をされてきましたが、イマドキの日本のタイル、素敵です!
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●10ミリ角のタイルを、色、形、自在にデザインして、模様を描きます。ここでは桜など日本の四季を表現。色のグラデュエーションが自然で、着物を見ているようです。大きな絵から小さな模様まで描けて、しかも絵画とは違う趣のある質感を愉しむことができます。施工もスムーズにできるようです。タイル、進化してるなあ!!

◆ ものづくりの現場から ◆
2階は、常設のタイル展示室になっています。オリエント、イスラム、スペイン、オランダ、イギリス、中国、日本など多彩。リニューアルを機に、中央アジア・ウズベキスタンのタイルも公開展示されています。2階もスッキリとした見やすい展示に変化していますので、二度目三度目の方も、ぜひどうぞ!

●今回のリニューアルで最も強く感じたのは、「タイルとものづくりの融合」です。私のようなタイルオタクは、タイルの「かけら」で狂喜乱舞してしまいますが、「世界のタイル博物館」の白眉は<タイルを自分たちで作ってしまう>ことにあると思います。

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(「ものづくり工房」)

●古いタイルには時を経た味わいがあり、他に置き換えられない美の世界を有しています。でも、それをそのまま再現複刻することはできません。博物館は、「本物の古いかけら」から想像力を働かせて愉しむこと、そこに魅力があると思います。

●けれども、博物館も今を生きています。ましてや、ものづくりに精魂傾けているメーカーが運営している施設であれば、展示の核であるタイルを「今に生きる」かたちで展示することこそ、本懐でしょう。そしてこのようなことは長く土に関わってきたメーカーにしかできないのです。

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(「土・どろんこ館」のトイレ。モザイクタイルを貼り込んでいる)

●時間が限られるリニューアル工事であり、まだ100%とは言えない部分もあるかもしれません。個人的には、イスラムの多彩なタイルの美をもう少し見せて欲しかったという思いはあります。(モザイクは実際のものを写真などで補足した方がいいと思います。アップにしないとあの凄さは伝わりにくいのです)。でも大丈夫。きっとどんどん「ライブ」に変化していくんだと思います。

●今の日本で作られたクレイペグやタイルから、私は、焼き物としてのタイルの美、建築素材としての素晴らしさ、高度な技術を要する制作工程や施工法を実感し、数千年の歴史に思いを馳せました。そして、そこに生きた人びとを思いました。タイルが、土が、時を超え地を超えて、私たちの美感、共感をつなぎます。
by orientlibrary | 2007-11-06 22:40 | タイルのデザインと技法