イスラムアート紀行

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「コーランは心のなかにある」(マルク・ヴァイル監督)

●先日の新聞(日経夕刊)のコラムの見出し、「ある中央アジア演劇人の死」。コラムを読むまで知りませんでした。ウズベキスタン・タシケントを中心に活躍する演出家マルク・ヴァイル氏が亡くなったことを。そしてその死が、何者かによってもたらされたものであったことを。

●犯人の動機については、わかっていないようです。いくつかの見方があるようですが、ここで書くことは控えます。
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(サマルカンド/レギスタン広場)

◆ ソ連時代〜ペレストロイカ期の演劇 ◆
●私は演劇に疎くて、見ることもあまりありません。でも、中央アジアのことをもっと知りたいという好奇心から、昨年10月、「中央アジアの現代演劇事情」(国際交流基金)というワークショップに行ってみました。

●そのワークショップは、日本で『コーランに倣(なら)いて』という演劇を上演(本年3月、東京と松本で上演されました)するマーク・ヴァイル氏を招き、お話を聞くというものでした。少人数だったためか参加者が机を囲む形で、氏を間近に見つつ、お話を聞くことができました。

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(イラン・タブリーズ/ブルーモスク 1465)

●中央アジアの現代演劇、、まったく知らなかった世界。でも闊達なお話から、ソ連時代のタシケントの様子や、氏が創設したイルホム劇場に集まった人たちの熱気を想像し、ソ連時代〜ペレストロイカ期のウズベキスタン、その後の変化などについて一端を知ることができました。

●そのときのことは、「中央アジアの映画や演劇、独特の世界が魅力」として書いたのですが、自分が演劇に詳しくないこともあって、かなり割愛しました。とくに独立後のウズベキスタンについては、政治的・宗教的なことも関わるので、書くのをためらいました。

●『コーランに倣(なら)いて』(原作・プーシキン)は、「イスラーム保守派からはコーランを舞台に乗せること自体を糾弾され、反イスラーム派からはテロと関連づけて批判されるという事態が起こりました」(国際交流基金・資料)という作品であり、物議をかもすことも多かったようです。

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(サマルカンド/グルエミル廟 1400)

◆ 演劇のテーマは地域文化へ ◆
●ヴァイル氏のお話のメモ(orientlibrary)から、少し書いてみます。(不明確な部分、微妙な部分を除いたので読みにくいです。すいません。メモなので完全な記録ではありません。ご了解ください)

・・・・・
・ 91年の独立からは存在論の危機の時代であり、問いが生じる状況だった
・ トルキスタンは大きな国だった。リトアニアもグルジアも同じ国の人と考えていた。知識人や文化人は新しい国にどのようなアイデンティティを作っていくかを求められた
・ ゆっくり考えることに政治家や権力者は耐えられない。即座のウズベキスタンというアイデンティティを打ち立てようとした。トルキスタン系の人が重要であり明るい未来を作っていく、というビジョンと構想だった。他の国との軋轢の元凶となった
・ 私の仕事は、ここ数年間は地域全体の文化に関わりを持つもの、根ざしたものを展開してきた。コーランやスーフィーに関わるものへと大きくシフトしている
・ 独立後、未来は明るいと楽観主義だった知識人・文化人だが、911でムスリムの問題が浮上した
・ 宗教対立、共産主義的な社会システムから宗教的な社会システムに代替されようとしていることに大きな危機感がある
・ 他宗教に寛容ではないこと、これは歴史的事実に反する。ウズベキスタンは基本的には寛容な地域だった。平和を好むのんびりした静かな地域だったが、、
・ コーランをどう扱うかは大きな問題だ。原理主義的な動きは90年代からあった。イスラムの問題に知らん顔はできない。演劇でやることは可能だと思った。完成までに2年半かかった。911の1ヶ月前に完成した。アメリカの劇場ではできないところもあった
・・・・・

●明確に、強い意志で自己の考えを述べた氏のことを書こうとしながら、私自身が「自己規制」してしまっています。私はウズベキスタンの人びとの寛容な宗教的態度が好きです。暮らしに根付いていて、やわらかで、、。でも、それだけではないことも、また事実でしょう。

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(シャフリサブス/アクサライ 1404)

●『コーランに倣(なら)いて』で何を伝えたいですか、と質問した私。氏の答えは、「コーランはそれぞれの人の心の中にある」でした。

●ヴァイル氏の仕事と死については、国際交流基金の「イルホム劇場芸術監督マルク・ヴァイル氏の逝去について」に書かれています。心より、ご冥福をお祈りいたします。

* 写真3、4番目は、『SAMARKAND,BUKHARA,KHIVA』(FLUMMARION)より引用しました。
by orientlibrary | 2007-10-08 21:59 | ウズベキスタンのタイルと陶芸