イスラムアート紀行

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タイル装飾は「簡単」だから発展した?!?

日本では、バブル期までにファッションやグルメは充分に満ち足りて、90年頃以降、「これからは住の時代」と言われてきました。実際にお洒落なインテリアショップも増え、感性のいい若い人たちは、自分の部屋を自分流に演出して楽しんでいるようです。

けれども、「日本のインテリア、充実してきたなあ!」と、手放しで喜べないこともあります。年初に、小さな勉強会ではありますが、「インテリアの歴史」についてのレクチャーを聞きました。講師は、インテリアについての本を上梓された方で、セミナーに引っ張りだこということでした。

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けれども、その方のお話で、唖然とする部分がありました。壁面装飾の歴史についてのくだりで、イスラム圏での展開について、タイルを例にして少し説明されたのですが、、、

内容は=「9世紀からイスラムでは壁面のタイル装飾が発展した」「大発展したその理由は・・・幾何学文様は繰り返しなので製作が簡単だから」「タイルは製作と施工が簡単だから」ということでした。幾何学文様が簡単!?モザイクが簡単!?さらに、トルコ・トプカプ宮殿の絵付けタイルと、「そこで見た」というモザイクタイルの製作例を紹介して「簡単」であることを例示されていました。絵付けタイルの本場であるトプカプでモザイクの実演をしていたというのも不思議な感じがしましたが、まあそのことは置いておいて、、。

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幾何学文様は繰り返しだから簡単、という見識は、インテリアのセミナーとしては、問題があるのではないかと思います。幾何学文様は、具象をおこなわないイスラム美術が生んだ美意識の結晶であり、高度な数学的応用の産物であることは専門書を見るまでもなく明らかではないでしょうか。

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モザイクの製作に関しては、これはもう途方もない時間と手間と技術と費用を要するものです。細密なデザインに合わせて、各色のタイルを焼き、模様をミリ単位に細かく正確に切り刻み、それを再度パズルのように集成し、漆喰でパネル状にして、壁面に張るのです。

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施工しているその場を見れば、事前に仕上げたパネルを貼っていくので、簡単に見えるかもしれませんが、それは現場での施工を簡易にする知恵であり、素晴らしい建築文化であると思います。ドームの場合は角度まで計算してプレでパネル化するのですから、すごい技術だと私などは感嘆してしまいます。

例題にあげられたトルコのタイルは、モザイク製作があまりにも大変ということもあって15世紀くらいから開発されてきた絵付けタイルが主流。華麗な絵柄に合わせて焼き分ける絵付けタイルも、高度な技術と美的感性と手間を要するものであるのは言うまでもないことです。

その一方で、講師の方は、ビザンチンのモザイク(人物の具象)を何度もアップにして映しながら、「大変な手間がかかっている。すごい」と絶賛していました。なぜビザンチンの具象が素晴らしく、イスラムの幾何学や植物文様が「簡単」なんでしょうか。
そこには、建築や美術において、いえそれだけでなく、全般にイスラム文化はヨーロッパの後じんを拝しているもの、という考えが底流にあるように思えてなりません。発想の背景、わかりやすすぎますよ!

なぜイスラム圏でタイル装飾が発展したのか・・・それは、タイル装飾が、かの地の「土の建築文化」の最高の美の表現であること。そして、モザイクタイルをはじめとして、タイルを壁面に使うことは贅沢このうえなく、費用が莫大にかかり、製作施工が大変だったから

つまり、権力の象徴であることが一目でわかる。だからこそ、権力者によって爆発的に使用されたのです。簡単だから、ではなく、逆に簡単ではなかったからこそ発展したのだと私は考えています。

もちろん青の輝きを愛した権力者もいたでしょうし、神のいる天国を思う人もいたでしょう。でも基本は王朝の、都市の文化の厚みと力を内外に示すものだったと思います。また、細かいことですが、「タイル装飾は9世紀から発展した」という認識も、やや注釈付きだと思います。「発展」ということになれば、やはりセルジューク朝を待って語りたいと、私は思います。

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(カラタイ・マドラサのモザイクタイル/ルーム・セルジューク朝時代、1251年/orientlibrary)

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(サマルカンド、シャーヒズインダ墓廟、浮彫り幾何学模様タイル/14世紀後半か/orientlibrary)


日本では、タイル=お風呂や水回り、というイメージが強く、装飾的に使われる機会が少ないため、絵画などに比して芸術的な意味では低く見られがちです。けれども、焼き物の国・日本でならば、きちんと情報が伝われば、陶が壁面に使われることの贅沢さ、アートとしての陶板という視点で、壁面タイルを見てもらえると確信します。くどいようですが、素晴らしい焼き物を壁一面に貼っているのです。

だから、「インテリアのセミナー」で「引っ張りだこの講師」さんが、「タイルは簡単」という自説を「講義」として披露されたのは、個人的に大変残念であり、「インテリアを専門とする方にも、そういう認識なのかなあ」と、ショックでした。「どんどん意見をください」とおっしゃっていたので、考えた末、2時間もかけてメール(上記の主旨)を書きましたが、半年たっても「メール着いた」メールも頂いていません。

*写真、上から4点は「TRADITIONAL ISLAMIC CRAFT IN MOROCCAN ARCHITECTURE」より引用。

** モザイクタイルについてのブログ内記事 **
「最も熟練した職人がおこなうモザイク作りのプロセスを見たい!」
「装飾タイルの施釉 輝く青はこうして作られる」
by orientlibrary | 2007-07-28 00:11 | タイルのデザインと技法