イスラムアート紀行

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桃山の御殿建築を彩った漆、同時代のイスラムタイル

漆(うるし)で塗装した車やデジカメなど、漆を工業製品に取り入れる動きがあります。モダンなフォルムに施された美しい光沢は、粋な豪華感を醸し出します。

「ジャパン」と呼ばれ世界にその名を知られる日本の代表的な美術工芸品である漆は、一方で中世以来、庶民が暮らしの器として愛用してきました。けれども現在では、簡便なプラスチックに置き換わり、お正月の重箱など儀礼用什器としての印象が強くなっています。

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縄文時代の漆
そんな漆の文化を歴史から深めるセミナーがありました(「漆の文化と日本の歴史」・国立歴史民族博物館主催フォーラム)。漆は中国からの渡来として紹介されることが多いと思うのですが、じつは函館で9000年前の縄文時代の漆が出土しており、これは中国よりも2千年もさかのぼるもの。技術は今と変わらない高度なものだったそうです。さらに朱とベンガラを区別するなど色への感性も大変優れていたといいます。けれどもなぜか弥生時代には、漆は衰退してしまったそうです、

日本の漆が中国より古い!?縄文で発達し弥生で衰退した!?・・・目からウロコの縄文・弥生から始まって、古代・中世、近世、さらに西洋へ渡った日本漆器まで、興味の尽きないセミナーでした。そのなかでも、イスラム圏のタイルを愛する私の好奇心を触発したのが、近世の建築装飾としての漆塗装です。

土の建築文化・西アジア
私が愛する装飾タイルのある地域、西アジアから中央アジアあたりは、乾燥した気候が特徴で、建築材料としての石材や木材が乏しいところです。だからこそ、土の建築文化が発展したのであり、限られた材料を極限まで生かして、あの美しいタイルに結晶させた、私はそのことを尊敬しています。

木の建築文化・日本
一方、日本は木の建築文化。木造建築は日本が世界に誇れるものだと思います。そんな日本の木の文化のひとつが、ウルシノキから採取される樹液を加工した漆。これを木地に塗って漆器にするのですから、まさに木の特性を生かし切ったものと言えますよね。

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木という素材を生かし切った漆、土という素材から生み出した最高の美タイル、、、と、感慨に浸っていた私に、さらにドキドキのお話。桃山文化期(北野信彦さんの定義では、信長による安土城築城から日光東照宮造営、鎖国の発令に至る“黄金の日々”)には、漆器以外にも漆が多用され、その最大の需要は御殿建築だったということ。

桃山文化期の建築装飾漆
安土城、聚楽第、伏見城、大阪城、二条城、名古屋城、江戸城、日光東照宮など建築ラッシュのこの時代こそ、日本の歴史上で最も漆塗料が必要となった時代だというのです。集大成は二条城の二の丸御殿、日光東照宮など。また方広寺や豊国廟社殿の漆塗装、南禅寺小方丈の漆塗り廊下、三千院金地院などの漆も美しく、さらに金箔瓦の接着にも漆が使われたとか。

日本の歴史、疎いのですが、安土桃山時代から江戸初期のテイストは、絢爛豪華という印象があります。そしてこの時代、日本だけでなく世界的に装飾的で豪華絢爛なものが好まれたように思います。安土城築城から鎖国まで(1576〜1640頃)を桃山期として、同時代の他の地域をみてみましょう。

同時代・ヨーロッパ
ヨーロッパでは、バロック建築盛んになっていました。彫刻や絵画、家具などが一体となった装飾的な様式ですよね。

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同時代・インド・ムガル朝
インドはムガル帝国、アクバルが活躍し、建築大好き皇帝ジャハンギールがタージマハルなどを作った最盛期です。インドは石の建築文化が主流であり、タイルはあまり発達しませんでしたが、タイルと共通する植物文様などの美しさは圧巻です。

同時代・イラン・サファビー朝
イランはサファビー朝。アッバース1世による最盛期であり、イスファハーンに都を移し王の広場や王のモスクなどが建設されました。この時代のタイルの流麗優美な見事さは、今なお人びとを魅了してやみません。
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同時代・トルコ・オスマン朝
トルコ・オスマン朝では、スレイマン1世時代による最盛期は過ぎていましたが、ブルーモスク、トプカプ宮殿のバグダッドキヨシュクが作られるなど、オスマンのタイル文化が優雅に花咲いていた時期です。
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漆とタイル
ティムール時代に爆発的に発達し、建築装飾として確固たる地位を確立したタイル装飾は、この時代にはまさに成熟の境地に入り、建築物の皮膜材として絢爛豪華な美を誇りました。その頃、日本では縄文時代からの歴史を持つ漆による塗装が建築物の表面を彩っていました。

土の文化と木の文化、素材は違うけれども、素材の魅力を最大限に生かした美の世界を同時代に実現していた、そのことに共時性や文化の共振性を感じると同時に、愛おしさともいえるものを感じるのです。

* 写真は、上から順に、「漆器を作る〜洛中洛外図屏風」、「豊国神社塗装の漆塗装〜洛中洛外図屏風」(以上、「漆の文化と日本の歴史 フォーラム資料」より引用)/「タージマハル 植物文様 貴石象嵌」(『TAJ MAHAL』 ABBVILLE PUBLISHING GROUPより引用)/「イスファハーン ルトファッラーモスク 天井部分」(『THE ART OF THE ISLAMIC TILE』FLAMMARIONより引用)/「トプカプ宮殿 イズニークタイル 16世紀」(『COLOUR AND SYMBOLIZM IN ISLAMIC ARCHITECTURE』より引用)
by orientlibrary | 2007-03-24 22:56 | 日本のいいもの・光景