イスラムアート紀行

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きらめくタイルが映す天空への憧れ 聖なる青

イスラム圏の装飾タイル、とくに西アジアから中央アジアのタイルは、輝くような青い色が特徴です。イスファハーン、イスタンブール、サマルカンドからパキスタンのムルターンまで、建築物の壁面を彩る青が人びとを魅了します。

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(orientlibrary)

とりわけティムール期のタイルは青の割合が多く、しかも最高度の発色を実現した、まさにきらめきの青。「聖なる青」ともいわれ、ティムールが首都としたサマルカンドは数々の建造物を覆うタイルの色から「青の都」として有名です。

イスラム美術の泰斗・杉村棟さんは、「ティムールとその時代の美意識をうかがわせるのは、当時のタイルの基調をなす青色で、それもコバルトとトルクワーズの二種の組み合わせが絶妙に調和のとれたものである」と評価します。

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(シャーヒズインダ墓廟のモザイクタイル/orientlibrary)

焼き物の色は、生産地の土質、成分、焼成温度の違いなどに左右されます。これまでに何度か記しているように、西アジアあたりは高い温度で焼くことのできる粘土や、高火度焼成に必要な油の多い木材に恵まれませんでした。釉薬も低い温度で焼ける種類を利用することになり、青、黄、緑が多くなったようです。

加えて、釉薬の原料として、濃い青に必要なコバルト酸化物が豊富に入手できたことも、青の多用につながりました。また淡青色に使われる銅系の釉薬に鉄分が加わると呈色は青緑色になりますが、これも原料が豊富だった、、というように、青のタイルは土や釉薬などに限定された側面があることは確かなようです。

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(ドームの青。遠くからも目を引く/orientlibrary)

けれども、中央アジアや西アジアを旅行すると、やはり青というのは、何か特別な色であることを感じます。そして、何よりも青が似合う土地だと思うのです。紺碧の空の下に広がる土色の世界、土の家々。「アナトリアやイラン高原で好まれた古来の伝統、イスラーム的世界観、そして色彩感に乏しい乾燥地帯の自然環境や景観が強かな感性を育み、それが独特の美意識を形成した」(杉村棟さん)。

さらに杉村さんは、民間信仰で青が邪視など悪霊を排除する力を持っていると考えられていたことを、青の多用の最大の背景としてあげています。

またタイル装飾に詳しい深見奈緒子さんの次の一文には、共感し触発されました。「イスラーム建築の中でタイルに求められたものは何だったのだろうか。彼らは時代を超えて青の彩色を好んだ」「無論、比較的低温で青が発色するという製作上の理由もあろうが、青色にはおそらく空の色の魅力、ひいては天国への憧憬が潜んでいたと考えたい」「多くの宗教建築においてムハンマドの色とされる緑よりはるかに青が多いのはこのためではないか」。

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(サマルカンド/シャーヒズインダ墓廟群/orientlibrary)

土を焼成したレンガを被膜材とした乾燥地域の建造物。凹凸の陰影で繊細な美を表現した時代から、より美しい被膜をめざして色の時代へ。壁面を彩るレンガに釉薬をかけたとき、選ばれたのは天空の色である青。さらにレンガからより優美なタイルへの展開。輝く青のタイルには、当時の人びとの美意識や思いが凝縮しているように思えます。
by orientlibrary | 2007-01-17 01:55 | ウズベキスタンのタイルと陶芸