イスラムアート紀行

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装飾タイルの施釉 輝く青はこうして作られる

紀元前2650年のエジプト、ステップピラミッドの地下廊下で使用された世界最古のタイル、その色はきれいな青でした。すでに釉薬をかけて焼成されていました。青色釉薬の使用は、さらにさかのぼっておこなわれていたようです。紀元前3000年頃の青の釉薬がかけられた陶片も発見されています。

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紀元前16〜14世紀は陶芸も最高水準で、様々な色彩の釉薬が開発され、色彩に富んだ陶器が作られました。神殿や宮殿の壁や柱などの装飾に、色タイルを使用したモザイクが大規模に使われたと言われます。想像しただけでも、うっとりします。

その後、建築装飾としての使用機会がなくなり姿を消していたタイルは、9世紀頃のイスラム世界に再登場するのですが、当初は色が、ブルー、白など数種類しかありませんでした。しかも1枚のタイルは一つの色でした。

しかし、セルジューク朝時代になると、施釉タイルによる装飾が見られるようになり、イルハン朝、ティムール朝、サファビー朝へ、施釉タイルはモスクや宮殿などを飾る建築装飾の重要な素材として発展。聖なる青と言われるコバルトブルーやターコイズブルーを中心に、白、黄、赤、黒、茶など、鮮やかな色で見る人を魅了しました。

東アジアは、高温で陶磁器を焼くのが可能な粘土を手に入れやすい、高火度で焼ける釉薬が利用できた、など、白磁や青磁など単色釉の陶磁器を作る条件に恵まれていました。

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そんな東アジアに対して、西アジアは高い温度で焼くことのできる粘土が少なく、また高い温度に必要な脂の多い松などの燃料もなく、低い温度でしか焼けない土地。ゆえに、釉薬も低い温度で焼ける種類を利用しました。しかしそのことで、あの輝くような青や黄や緑が可能になったのです。 

久々に、イランの伝統工芸の技法について詳細に記した『ペルシアの伝統技術 風土・歴史・職人』(平凡社)を見てみました。「製陶技術」の「施釉」、なかでも装飾タイルのあたりをご紹介します。

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--- 「ほとんどの陶器は焼成は1度だけであるが、2度、3度焼成をするものもある」「たとえば装飾タイルは、まず最初に素焼きし、次に白色不透明の錫釉をかけて8時間焼き、2日間窯の中で冷ます」。詳細な記述が続きます。

--- 「そして絵付けのために絵付け職人(monaqes、naqqas)に渡す」「図柄の転写は目穴の開いた型紙と細かい石灰の粉が入っている小さな袋が用いられる」「型紙の目穴を通った石灰の粉がタイルに付着し、図柄が転写される」

--- 「絵付け職人は転写された図柄に沿って、細い毛筆で顔料を含んだ釉薬を施す」。そして「同じ釜で3度目の焼成をおこなうことによって、これらのいわゆる上絵が定着する」。

施釉の部分だけでこれだけの丹念な流れがあります。「釉薬作り」の説明もとても興味深いものです。先回のウズベキスタンの天然釉「イシクール」、聞いてもなかなか理解しにくかった作り方が整理されています。が、長くなるので次の機会に。

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(アフマド・ヤサヴィー廟、トルケスタン、建造は14世紀後半)

土の準備からタイル型作り、釉薬作り、完璧な発色で焼成し、デザインに合わせてミリ単位でカットして貼り合わせていくモザイク、、、装飾タイルで壁面を覆い尽くした建造物を考えると、その手間の膨大さに呆然としてきます。本当にすごいなあ。

*写真は、上から「世界最古のタイル〜エジプト」(『オリエントのやきもの』 INAX出版より引用)、「釉で装飾的な文様を描く」(『ペルシアの伝統技術』より引用)、「施釉タイル釜による焼成」(同)
by orientlibrary | 2006-12-08 01:10 | タイルのデザインと技法