イスラムアート紀行

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中央アジアの映画や演劇、独特の世界が魅力

先日、アジアの新進映画監督の作品を集めた映画祭「第7回>東京フィルメックス」で、「天国に行くにはまず死すべし」(タジキスタン/ジャムシェド・ウスモノフ監督)が最優秀作品賞になりました。受賞理由は、「その映画的な知性。登場人物と環境の流動的でダイナミックな関係性を捉える話法。監督自身の人間性に対する真摯で力強い視点を高く評価します」とのこと(同映画祭HP)。

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映画を見ていないので、新聞記事(日経)の表現を借りると「舞台は中央アジアのある都市だが、どこの国でも起こりうる普遍性のある作品」「男と女の不安、心の揺れが鮮明に伝わってくる」「現代人の目覚めを描く」などとあります。

以前見たタジク映画「ルナ・パパ」は、笑いや哀愁もある不思議系のストーリーで私は結構好きでした。キルギスの「あの娘と自転車に乗って」は青春映画という感じで中央アジアの景色を楽しみました。また、私は見ていないけど、ウズベキスタンの「UFO少年アブドラジャン」は、ある種有名ですよね。

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10月に、中央アジアの現代演劇事情についてのお話を聞く機会がありました。来年日本で「コーランに倣(なら)いて」という演劇を上演するマーク・ヴァイル氏を中心とするワークショップです。

タシケントにあるイルホム劇場の演出家であるヴァイル氏の活動は、とても興味深いものでした。日本ではなかなか聞けない内容であり、はじめて聞くことばかりで面白かったのですが、書きだすと長くなってしまうので、ほんのさわりだけご紹介したいと思います。

イルホムとはインスピレーションの意味。劇団はソ連における初の独立劇団として76年に開設されました。当時のソ連はブレジネフの「停滞の時代」。厳しい検閲があり、ソルジェニーツインなどの多くの優れた作家が追放されたり亡命が相次いだ時期でした。そうしたなかでの独立劇団の誕生は事件だったそうです。

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タイル好きの私にとって、タシケントはあまり惹かれる街ではありません。ロシア風の都会という印象です。けれども、70年代当時、タシケントは、モスクワ、レニングラード、キーロフに次ぐソ連邦第4の都市でモスクワと並ぶ演劇の中心地だったそうです。

ヴァイル氏は語ります。「70年代は興味深い時代でした。重要な文化はモスクワが中心でしたが、新しい動きはリトアニアやタシケントなど周縁からおきてきたのです。モスクワでは新しいものへの締めつけがありましたが、遠く離れているせいで大丈夫だったのです」。

政府お仕着せの演劇に飽き足らない俳優たちが、国営劇場の公演後、イルホム劇場に集まって自分たちの芝居を演じ、多くの観客が集まったそうです。俳優たちは10年間ほどは、まったく無給だったとか。

こうして、イルホムの名はタシケントのみならずソ連全土で知られるように。しかし初のモスクワ公演に千人もの観客が集まり警官が取り囲むなどの騒ぎになったあと、ウズベキスタン政府の締め付けがきびしくなり上演禁止なども。

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その後、ペレストロイカからウズベキスタンの独立へ。演劇も新しい国のアイデンティティを模索します。この数年は、イスラム原理主義など寛容さを失いつつある宗教に問題意識を持っているというヴァイル氏、新作のテーマは「コーランは各人の心の中にある、ということがメッセージ」と教えてくれました。

ビデオで見せてもらったいくつかの演劇作品は、どれも実験的でシュール。どういうわけか、中央アジアの映画や演劇って、私の知る限り、すっごい<超現実不思議系土着モダン難解もの>というか、、純朴という中央アジアのイメージをあっさり裏切られるもの、多いです。

*写真は、タシケント光景。
by orientlibrary | 2006-12-01 23:28 | 美術/音楽/映画