イスラムアート紀行

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洋館のヴィクトリアンタイルから もういちどムガルへ

e0063212_253240.gif●日本の近代化のお手本はイギリスであり、明治期の日本で西洋建築を建てた建築家も多くはイギリス人でした。そして、洋館建築の装飾として用いられたタイルの多くは、イギリスの「ヴィクトリアン・タイル」でした。

●洋館での重要な装飾部分、日本建築で言うと床の間的なところ、それは暖炉の回り。そこにヴィクトリアンスタイルの装飾タイルが貼られたのです。(*例として。写真1番目→が「旧第九十銀行本店」(明治43年)、2番目↓が「仁風閣」(明治39年))

●日本がお手本としていた時代のイギリスはヴィクトリア朝。18世紀に産業革命を達成して世界の最強国となったイギリスでは、19世紀には新しい機械の発明や技術の革新が相次ぎます。タイル産業においても技術、様式ともに多様に発展。量産可能な工業化に向かっていました。

●前回紹介した「ミントンタイルの秘密展」によると、日本で多数派だったイギリス製タイルのなかでも、その半数はミントン社製だったそうです。明治期洋館建築をリードした生粋のロンドンっ子であるコンドルがミントンを好んだこともあるといいます。

e0063212_255770.gif●前回の記事にも書きましたが、ミントンタイルの使用で私が疑問だったのは、旧岩崎邸のベランダの床のタイルが「インドを経由したイスラム建築の要素が見られる」という邸のパンフレットの記述です。

●インドを経由したイスラムの要素というと、ムガルインドのことを指すと思いますが、タイルの文様や色使いはイスラムやムガルとは重なるものはないというのが私の印象です。展覧会ではこの点きちんとしていました。・・・「ミントンのタイルとともにヴィクトリアン・ゴシックの建築様式は日本にまでやってきた」・・・

●前回のベランダのタイル写真を見て頂くと、それを感じられると思います。ミントンは建築家のピュージンと組んでゴシック建築の象徴的存在である床用の象眼タイル復興に精魂傾けたのです。

●・・・「ピュージンのデザインは三つ葉や四つ葉といったゴシックのモチーフをベースに赤青緑などの多彩な色を用いて一枚のタイルに花鳥の精神を表現しようと試みた」「岩崎邸のタイルは静謐な様式美をより特徴づけている」・・・

●何でこんなにこだわっているのか、、そう『イスラムアート偏愛紀行』なんですよね、、。ヴィクトリアンタイルはそれはそれでいいけど、イスラムタイルとひとくくりにしたくない。とくにゴシック〜ロココあたりが超苦手なのに、一緒にしないで欲しい。だいたい色のセンスが全然違うでしょう。

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(インド・ムガルの美意識/ラジャスターン・サマードパレス壁画)

●ヴィクトリアンタイル拒否反応には、もうひとつ大きな理由があるんです、多分、、。それは中世と近代。私が美しいと思うイスラムタイルとは中世のもの。伸びやかで優雅で手仕事がイキイキとしています。近世〜近代のものはイスラムでもゴテゴテと装飾過剰で生命力が失われていきます。

●岩崎邸の象嵌タイルは中世のリバイバルですから簡素な味わいがありますが、ヴィクトリアンタイル自体は近世〜近代であり「装飾」がキーワード。・・・「モチーフはイングリッシュデルフトタイルを受け継ぎ、いちじるしく多様。ロマネスク、ゴシックなど中世の動物、組紐、草花文様をはじめ、花、鳥、動物、人物等々、カテゴリー区分すれば、自然主義、ネオ・ゴシック、オリエンタリスム、アーツアンドクラフト運動の各様式である」(「イギリス・タイルの流れ 中世からヴィクトリア朝まで」/前田正明)ですから、もうよくわかりません、、

●わからなくなってきたので、ムガルインドの写真で、マアッサラアマ。きれいです〜☆

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(「タージマハル・大理石に貴石の象嵌/『TAJ MAHAL』/ABBEVILLEE PUBLISHING GROUPより引用)

*日本のヴィクトリアンタイル使用例/写真2点出典/=「旧第九十銀行本店」「仁風閣」はいずれも『ヴィクトリアンタイル 装飾芸術の華』(INAX出版)より引用。
by orientlibrary | 2006-10-29 02:16 | タイルのデザインと技法