イスラムアート紀行

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「ヴィクトリアンタイル〜イスラム〜日本」、、疑問です@旧岩崎邸

美術館も大学も、国公立だったところが、独立採算のせいか、いろんな面で集客〜ブランディングに注力しているようです。その流れは公園も同じのようで、コンサートやライトアップなど都立の公園・庭園の取り組みも活性化している印象を受けます。

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そのひとつ「旧岩崎邸庭園」で開催中なのが「ミントンタイルの秘密展」。今年で110周年となる洋館の南側ベランダ。そこに使われているのは、今も陶器で名高いミントンのタイルです。

ヴィクトリアンタイルの代表的ブランドのひとつでもあるミントン。その歴史や技術、日本との関わりなどをみる展覧会となっています。

タイルということでもちろん見に行ったわけですが、気持ちは少々複雑。やはりというか、正直言って、惹かれないのです。ヴィクトリアンタイルというものは、タイル好きの聖地「世界のタイル博物館」にもかなりの数のコレクションがあって見ていました。同博物館のサイトには「ヴィクトリアンタイルの図柄の特徴」というレポートもあります。さらに、『ヴィクトリアンタイル 装飾芸術の華』(INAX出版)という内容の濃い本も出版されています。

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ヴィクトリアンタイルは日本のタイルのお手本となったもので、タイル史的にも重要。でも、良い悪いとかレベルの高低ではなく、惹かれる惹かれないという個人の趣味として、私は苦手。そのことはさておいて、まずはこの建物とタイルの概観を見てみましょう。

旧岩崎邸は、1896年(明治29年)に三菱の創設者・岩崎家本邸として建てられました。設計はイギリス人のジョサイア・コンドル。現存するのは洋館・撞球室・和館の3棟です。なかでも木造2階建・地下室付きの洋館は、本格的なヨーロッパ式邸宅です。

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館のパンフレットには次のような説明がありました。

*「様式は17世紀初頭の英国のジャコビアン様式を基調にし、ルネサンスやイスラム風のモティーフなど複数の様式を折衷しながらも整然としたデザインになっています」。(ジャコビアンはクラシックとゴシックの中間にあたる様式で17世紀初頭に英国で流行)

気になるタイルの部分を見ると、

*「ベランダ=コロニアル調の大規模な2層に構成されたベランダには、インドを経由したイスラム建築の要素が見られます。1階部分の床には、草花をモチーフにしたエキゾチックなタイルが敷かれています」
*「玄関タイル=コンドルの設計にはイスラム建築の要素が多く見られますが、本邸のタイルや暖炉などにもその意匠が巧みに採り入れられています」。

インドを経由したイスラム建築の要素??イスラム建築の意匠が採り入れられている?そうかな?何をもって、館のパンフレットが「イスラムの要素」としているのかはわかりません。幾何学文様であることと草花がモチーフに入っていることでしょうか。イスラムのタイルとは稠密度がまったく違うと感じます。だいたいが、ベランダのタイルは違う色の粘土を練りこんで製作する「象嵌タイル」であり、イスラム的な優雅な美の表現には適していないと思います。

イスラムタイルは青色が多く使われ、植物文様や幾何学文が、繊細で凝縮力のあるデザインで描かれています。そして主に、床には使われず壁面や屋根を彩っています。部位が違うということは目的、用途が違うのでは。壁は装飾のためのものですが、床は実用。タイルとして必要な要素が違ってくると思います。

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(参考<イラン・イスファハン・金曜モスク>のタイル。『THE ART OF THE ISLAMIC TILE』より引用)

その意味では、展覧会の主旨とされる方の記載は明快でした。

「中世以来途絶えていた象眼タイルの再生に建築家のピュージンとともに取り組んだハーバート・ミントン」
「ヴィクトリアン・ゴシックの様式美を効果的に高めるものとしての装飾タイル」
「カトリック精神を普遍化するものとしての図像の意味」

これらに焦点が絞られています。ヴィクトリアン・ゴシックなら話はわかります。パンフレットは情報面で微妙に違いがある印象。

ヴィクトリアンタイルとイスラムの関係については、『ヴィクトリアンタイル 装飾芸術の華』のなかでも、「象嵌タイルもタイルモザイクと同様に、舗床の大理石のモザイクの影響から創造されたのであり、これをヨーロッパに先んじてタイル文化を築いたオリエントの影響とみなすのは誤りである」と記しています。(「イギリス・タイルの流れ 中世からヴィクトリア朝まで」/前田正明)

ヴィクトリアンタイルについては、日本のタイルとの関連や象嵌タイルについてなど、もう少し書きたいこともあるので、次回に続けようと思います。
by orientlibrary | 2006-10-24 23:40 | タイルのデザインと技法