イスラムアート紀行

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ちいさな瓦が伝える 16世紀モンゴルのこころとセンス

e0063212_1365433.gif●前回記事でデビューした “笑う瓦”(←)(@エルデニ・ゾー寺院(1586年建立)/モンゴル・カラコルム)。実際は瓦というよりも丸瓦列の先に置かれる装飾用の「軒丸瓦」、あるいはそれが変化して装飾的要素を増したもの、ではないかと思います。でも、この文様はいったいどこから??この意味するところは?

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16世紀後半ということで、タイル史的にも興味がわきます。でも、考える基礎になる当地域の歴史や美術史の知識があまりにない、エルデニ・ゾーの情報が少ない、自分自身記憶があいまい・・・という「三重苦」で引いていたのですが、、この際、感覚勝負で思い切ってトライ!(ご専門の方、間違いは覚悟のうえですので、違っていたら寛大に教えて下さい〜!)

モンゴル地域の仏教寺院は、中国様式、チベット様式、その折衷様式の3つに分類されるそうです。エルデニ・ゾーは勾配屋根(〜瓦的なもの)葺きなので中国様式、かと思いますが、壁面などの細部にチベット独特の文様がほどこされていますし、内部空間はみっちりとチベット仏教ですから、折衷式?

●エルデニ・ゾーを建立したハーンの名前も、資料によっていろんな名前が出てきて、どれが正解かわかりません。「アルタン・ハーン」「アフタイ・ハーン」「アバタイ・ハーン」、、、(記述を統一してほしいなあ)。どれですか〜?

●アルタン・ハーンだとすると、「アルタン・ハーンが1578年にチベット仏教ゲルク派の高僧ソナムギャムツォと会見し、この高僧にダライ・ラマの称号を贈った」ということで、このハーンは熱心なチベット仏教の支持者だったことがうかがわれます。つまり、細部には相当チベット的なものが入っている、と考えていいのではないでしょうか。

e0063212_1334789.gif中国の軒丸瓦は多くは蓮華文のようです(←)。これは焼成レンガですから、中国で「墫(せん)」と言われているものに入ると思います。無釉です。

●焼き物の盛んな中国ですが、中国では壁面をタイルで覆うという装飾技法は発達しませんでした。唐代には中国北部を中心に瑠璃釉瓦、墫が作られ、また15世紀の景徳鎮では白磁墫、青花タイルが発見されています。

●けれども実際には、タイル(陶)の装飾は寺院の塔にいくつかの事例が見られるだけです。一方で、瑠璃釉の墫や瓦は、床に敷く、屋根に葺くなど実用に使われました。モチーフは象、麒麟、獅子、鳳凰、天馬、巨龍など、いかにも中国という文様です。

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●もう一度エルデニ・ゾーに戻ると、瓦の色は、緑、褐色、瑠璃など中国の色(↑)と言ってもいいかもしれません。(敷地内にはいくつもの寺があり瓦の色もいろいろです)。けれども、軒丸瓦の文様はストレートに中国的なものではないと思います。

e0063212_12345615.gif一方、チベットには8つのラッキーサイン・「八吉祥(タシタゲ」という図像があります。(→)は多少関連がありそうです。=訂正:この文様は「ナムジュ・ワン・デン」というものだそうです。チベットの図像に詳しいDさんにご指摘頂きました。チベットの文様についてももっとスタディしていかないと、、。Dさん、どうもありがとうございました!(2007.1.18)

●でも、“笑う瓦”モチーフは八吉祥にもありません。中国でもないし、チベット的とも思えない。う〜ん、いったいどこから来たの?

●モンゴルというとチベット仏教という印象が強いですが、チンギス・ハーンはシャーマンを重用。伝来のシャーマニズムに加えて、さまざまな宗教・思想が流入していたそうです。オゴタイ・ハーン時代の活気あるモンゴル帝国の国際都市カラコルムには、イスラム教、キリスト教、仏教、ソロアスター教などの教会が渾然と同居していたといいます。

●そのような土壌の上に作られたエルデニ・ゾー。“笑う瓦”はシャーマニズムをも内包した自由でコスモポリタンなモンゴルの匂いがします。

●13世紀から16世紀、イスラム圏ではタイル装飾が成熟し、中国では元、明の時代に青花磁器が大ヒット。海外への輸出も盛んでした。ユーラシアの文化がモンゴル系の王朝によって撹拌されると同時に、全体が陶の時代ともいえる展開を見せます。自由闊達な“笑う瓦”は、そんな時代のひとつのシンボルのように思えてなりません。

*もしも典型的なチベットや中国の模様だったら、すいません〜! 発展途上人なので・・
*写真は、中国の軒丸瓦=『シルクロード 華麗なる植物文様の世界』より引用。他はorientlibrary

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追記1: 祝! オルハン・パムク氏 ノーベル文学賞受賞

追記2:パムク氏をアメリカのPBSがさっそく特集。02年のインタビューと受賞後のインタビューで構成。彼の「衝突ではなく対話」「小説はそれをなし得るもの」という考えが伝わります。
by orientlibrary | 2006-10-13 02:00 | モンゴル