イスラムアート紀行

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ムルタンとモロッコをつなぐか!?パルメットふう文様

●急な寒さで不覚にも数日前から風邪に。モコモコに着込みながらの更新です。さて、パキスタン・ムルタン地方のタイルが気になっていることは、これまでも何度か書いてきました。気になるポイントはいくつかあります。

e0063212_20475899.gif●廟建築の八角の形や小塔のデザイン、レンガに青と白のタイルの組み合わせという色使い、そしてシンプルで力強い文様。これらがどこからもたらされ、またムルタンの独自性はどこにあるのか

●建築デザインについては、イランや中央アジアとの関連が何となくわかってきました。先進的なイスラム世界からの職人の移動もあったことでしょう。

●タイルの色は、青と白の施釉タイルと焼成レンガを組み合わせた「バンナーイ」技法が、ティムール朝などで盛んだったことと関連があるかもしれません。レンガ部分が多くてタイル比率が他の地域よりも少ないのは、やはりタイル製作というのが大変な手間と費用のかかるものだったからではないかと思います。



e0063212_20265046.gif●一方、まったくわからないのが文様です。全体に幾何学紋様が多いのですが、そのなかに特徴的な「かたち」が混じっているのです。

●キノコのような傘のような、左右対称のかたち。これが様々に変形したり上下逆になったり、中に文字や模様が描かれたりしながら、印象的な部分に配されているのです。これって何!?

●以前何かで読んだ記憶があるのは「パルメット」文様だということ。でも出典が思い出せません。そこでパルメットについて調べてみると、これまた複雑、、。


●まず多いのは、<シュロ (ヤシ科の常緑高木)の葉をかたどった先端が扇形に開いた文様><椰子の葉をベースにした植物性文様の一つ。2本に分かれた渦巻きの分岐点を中心に扇形に開いた形を言う。エジプトや古代ギリシアの文様によく見られる>などの「椰子説」

●ところが、<ロゼットは蓮の断面でパルメットは蓮の正面>という「蓮正面説」があったかと思うと、<パルメットの起源は蓮の花の側面形といわれ、古代エジプトやペルシアのスーサ出土の遺物にパルメットの原形らしき装飾が用いられている>というような「蓮側面説」ありで、素人は大混乱!


e0063212_20292239.gif●う〜ん、、と、この文様をよく見てみると、あれ?どこかで見た記憶、、それも結構好きだったはず。ということで思い出したのが、モロッコのタイルです。

●いいでしょう!この文様。いろんな建造物にありました。とても好きでたくさん写真を撮りました。新しいカラフルなのもいいけれど、古いナスル期やマリーン朝あたりのものが、いちばん味わいがあってすてきでした。
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●そこで本棚から取り出したのが、普段は重くて開くことのない(!?)『TRADITIONAL ISLAMIC CRAFT IN MOROCCAN ARCHITECTURE』(モロッコ建築における伝統的イスラム工芸)。片手で持てません。しかも2冊セット。

e0063212_20312156.gif●とにかく中身が濃く、タイルの製作過程も丹念に紹介されています。すごいのは、モロッコで見られる代表的な文様すべてについて、詳細な幾何学の図解説明と具体的な写真例があること。

e0063212_20323043.gif●そのなかに、もちろん上の「パルメット(仮)」もありました。しかし葉の文様群ではなく幾何学紋様群に入っており、名前は「SHOULDER AND STEP」(肩と踏み段?)。

●「花模様の骨格(スケルトン)として、またムカルナスの基本的な構成要素として、頻繁に使われてきたもの」「大理石、タイル、木、漆喰など、すべての工芸技法に用いられてきた」という、とてもポピュラーな文様のようです。

●名前は想像を広げるものではありませんでしたが、このかたち、似てませんか?ムルタンのタイルに、、。そして文様、私は、「椰子説」です。理由は、モロッコでもムルタンでも椰子の木が多かったから。蓮は結びつきません。

●それにしても、イスラム世界の西端と東端、タイル界でもマイナーな地域で目立つこの文様、他ではどうなっているのか、と見てみたら、近いものがありました。でも、、すごすぎる、王のモスク(イスファハーン)礼拝室丸天井のモザイク(↓)。これがモザイクだなんて、、。こんなにも細密な世界。文様はそのいち構成要素になっていました。

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e0063212_205096.gif●で、またムルタンの青のタイルを見てみると、、マイナー好みの私としては、イスラム世界の末端で、一生懸命作られた素朴なパルメット風の文様が、とても愛おしく見えてくるのでした

*写真は、orientlibrary+『TRADITIONAL ISLAMIC CRAFT IN MOROCCAN ARCHITECTURE』+『THE ART OF THE ISLAMIC TILE』『COLOUR AND SYMBOLISM IN ISLAMIC ARCHITECTURE』より引用
by orientlibrary | 2006-09-15 21:04 | タイルのデザインと技法