イスラムアート紀行

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「職人とは、建造神ヴィシュヴァカルマーの継承者である」

●・・・「職人階層の崩壊は膨大な数の失業を生み出した。これまで製造業に従事してきたこれら何千万人もの人々は、いったいどうしたというのか?どこに行ったというのか?もちろん死んだのであろう。数千万人が死んだのだ。英国インド総督府は1834年に次のように報告した。『通商史上このような惨劇は類を見ない。木綿織工らの骨がインドの平原を白く染めつつある』」・・・

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●インド手工芸の復興を願うブリジ・ブーシャン・バシン氏は、『インド染織資料集成』(岩崎美術社/1997年)の序文「インドの職人」で、ネルー首相の上の言葉を引用し、「英国の工場を成長させるべく、多くのインドの手工芸が組織的に破壊され、何百万人もの職人が飢え死にした」凄惨な歴史を語ります。「ネルー首相は、『伝統的職人経済の意図的で計画的な破壊の結果こそがインドの人々の戦慄すべき貧困の真の根本的な理由』なのだと結論づけている」・・・

e0063212_0375576.gif●長く国家の手工芸振興のトップとして働いてきたバシン氏、多くの経験の中から絞り出すようにこう書きます。

●・・・「現代インドの指導者たちはガーンディーの経済理論を正しい試みだとは決して認めていない。(略)政府は手工芸品の生産や振興に多くのリップサービスをしているが、実際の政策は、その基礎を壊すのに熱心だ」・・・

●バシン氏は政府の立場を離れ94年にNGOを設立し、インドの職人が過去のものにならないように奮闘を始めました。

●・・・「インドにおける手工芸産業振興は製品に重点を置いている。しかしモノよりも職人なのだ。なんといってもまずは人間ではないか。職人は、熟練工であり、クリエーターであり、文化遺産の支持者であり、建造神ヴィシュヴァカルマーの継承者である」・・・

●・・・「モノは、それがどんなに美しかろうが、どんなに魂を揺さぶるものであろうが、あくまでモノであり続け、命を宿すことはできない。命を持つのは、これらのモノを作った人間の技術である」・・・

e0063212_0381885.gif●・・・しかし「どんな技術も使われなければ生き残ることはできない。芸術的な技術を生活の糧とする人々にとって、マーケットは不可欠だ。言い換えれば、技術には顧客やパトロンが必要なのだ」「手工芸の振興とは職人たちに新たなパトロンと市場を提供することだ」・・・

●職人たちの雇用と安全が保証された伝統的な制度の崩壊という現実を受け入れつつ、新たな市場形成に注力するバシン氏。

●それから十年余、インドの社会と経済は大きく変化発展し、新富裕層や広範な中間層も生まれていると聞きます。購買力を持ったそのような層が「最高峰のインド手工芸」の顧客やパトロンとなっているか、私にはわからないのですが、素晴らしい技術と伝統がこれからも維持されていくことを願っています。

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●上は私愛用のスカーフ(↑)です。サンガネールのもので、作者は当時70代だったキティさんという女性。自然をモチーフとした、おおらかで突き抜けた、粋な明るさ。白の地色に直接捺印するため柄とのコントラストが鮮やかで印象的です。

e0063212_039351.gif●まずアウトラインを捺印し、花部分、茎部分、陰影を表す色彩の部分というように版を捺印していきます。一枚の布を仕上げるのに5〜20版以上も用いて捺印します。

●おおらかな柄の中にも陰影が細かく表現され、イキイキした立体感を表しています。

●版木はチークなどの堅い木を彫りますが、色の分だけ必要なので製作も大変です。スカーフは十年以上愛用していて飽きることがありません。
by orientlibrary | 2006-08-19 00:49 | インド/パキスタン