イスラムアート紀行

orientlib.exblog.jp

手工芸への熱き思い 「インドの職人」

「私にとってインドの伝統的手工芸技術とは何だろう」。長年インドの手工芸振興に貢献してきたブリジ・ブーシャン・バシン氏は、『インド染織資料集成』(岩崎美術社/1997年)の序文「インドの職人」で語り始めます。

e0063212_13244885.gif


●・・・「それは農業を基本とした生活形態の中で代々受け継がれてきた職人たちの技術であり、同様の文化を持つ共同体内で活用されるものである。そして何よりも人間の手を動かすことで表現される創造活動であり、伝統的な共同体における重要な暮らしの糧である」「伝統的手工芸を考えるにあたって、重要なのは手工芸品そのものではなく、それを作り出す伝統職人の技術のほうなのだ」・・・

●この熱い序文を久々に読み返しました。バシン氏とインド・サンガネールの布に最初に出会った十年前の私は、いったい何を見ていたんだろう。本当に表層的にしか、そして自分勝手にしか、ものごとを見ていなかった。サンガネールの布復興の意味を、あと少しでも大きな視点から見ることができていたら、、。静かなお盆の休日です。しばらくバシンさんの文章を引用させて頂き、ご紹介していきたいと思います。

e0063212_13243843.gif


●・・・「欧米世界が産業革命を迎える以前、庶民に生活必需品を供給したのは職人たちだった。手工芸品と日常生活は、機の折り目のように密接な関わりを持っていた。(略)・・しかし産業革命が到来し、いわゆる“産業国家”が世界の多くの国々を植民地化していった。それらの国々の手工業をつぶしていったのだった。(略)・・インドもそうだった」

●・・・「工業化された世界においても、手工芸品は暮らしの手段とはなりえるだろう。全体から見ればごくわずかなものにすぎないとしても。しかしインドでは、手工芸品は何百万もの庶民の生計手段となっている。伝統的なインドのライフスタイルでは、手工芸品の清算はジャジマーニー制度すなわちパトロン-クライアント関係から始まった、だが、工業化された現代のライフスタイルにおける市場は、ますます欧米化され都市化され、消費者の顔は見えない。生産者と消費者は、別々の世界に属している。インドから輸出される手工芸品もそうであり、インド国内の市場もそうなりつつある」

e0063212_13251036.gif


●・・・「工業化によって伝統的手工芸が没落するのは歴史的必然だ。欧米及びインド両方での経験から私はそう思い知らされた。プラスティックのポットが素焼きの水瓶にとって変わった。欧米では、伝統的手工芸の技法は、ここのアーティストの工房でしか存続していない。インドでは、統計によれば10年あたり約10%もの職人が減っている

●・・・「こうした衰退は、英国支配時代に始まったものだ。それ以前は、ムガル朝の頃をピークとして手工芸はインド人の暮らしの根幹だった。インドは史上最も偉大な染織品輸出国であり、文明世界のほとんどすべての市場に浸透した、などと伝えられたものだ。事実、手作りの染織品は経済の根幹であり、ムガルインドは18世紀に至るまで、この優れた産業によって最も裕福な世界の大国となったのだ」(続く)
by orientlibrary | 2006-08-13 13:27 | インド/パキスタン