イスラムアート紀行

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レバノン「NEW WAR」と日本の私たち

●正直言って、私はレバノンのこと、あまり知りません。知っていることも断片的です。少し調べてみました。まず基本情報の一部。外務省の各国・地域情勢から基本情報(2006.02)抜粋です。全体詳細はこちら

・ 面積:10,452km2(岐阜県程度)
・ 人口:460万人
・ 首都:ベイルート
・ 人種・民族:アラブ人
・ 言語:アラビア語(フランス語及び英語が通用)
・ 宗教:キリスト教(マロン派、ギリシャ正教、ギリシャ・カトリック、ローマ・カトリック、アルメニア正教)、イスラム教(シーア派、スンニ派、ドルーズ派)等18宗教
・ 歴史:  
16世紀  オスマン・トルコの支配下に入る
1920年 仏の委託統治領となる
1943年 仏より独立
1975年 レバノン内戦始まる
1978年 イスラエルのレバノン侵攻
1989年 ターイフ合意(国民和解憲章)成立
1991年 内戦終結
2000年 イスラエル軍南レバノンから撤退
2005年 シリア軍レバノンから撤退
(インターネット上の百科事典「Wikipedia」では、すでに今回の空爆が掲載されています。)

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●7月21日現在の攻撃及び被害の状況は、「レバノン国連人道問題調整事務所(OCHA)は21日、イスラエル軍による攻撃が続くレバノンで、家屋を失うなどした被災者が計約50万人に上る可能性があるとの推計を発表した。このうち、学校などに設けられた仮設避難所で避難生活を送る人は約6万6500人。シリア国境のベカー高原では約3万人が家を追われ、多くは親類宅に身を寄せている。また、国境を越えてシリアに逃れたレバノン人は約14万人。うち約10万人が、食料や住居などの支援を必要としていると見られている」(読売新聞)等の報道がされています。

●7月21日おこなわれた緊急ワークショップ「中東戦争の深淵--イスラエルの対レバノン攻撃をめぐって」では、攻撃の2日前に国際交流基金フェローとして来日したレバノン大学教授のマスウード・ダーヘル氏のレクチャー、中東専門家によるコメントがあり、さらに来場した研究者からも多くのコメントが発表されました。そのなかで上にあるシリアへの脱出について、通常はタクシー料金が50ドルほどであるのに、すでに1000ドルと20倍にもなっており、資金力のない人たちは脱出もできない状況にあることが語られました。

●このワークショップは、主催者が準備を始めたのが今週の火曜。その後わずか3日間の告知期間、しかもインターネットと口コミのみでしたが、広いホールは満員。この問題への関心の高さ、逆に言えば、いかに深刻であるかが感じられました。中身が濃く、ブログですべてをご紹介できないのが残念です。要旨のみ、一部ご紹介します。

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●ダーヘル教授はレクチャーのなかで、イスラエルが兵士の誘拐を理由としつつ一般市民を巻き込む “NEW ISRAELI WAR AGAINEST LEBANON”=「新たな戦争」を引き起こした理由として次の5点をあげました。
1:ヒズボラを軍事力で壊滅させる計画を以前から持っていた
2:イスラエルの人々から、ガザからの撤退(2005)をもたらしたレバノンからの撤退(2000)という敗北の記憶をなくす
3:2010年以前に最終的なイスラエルの国境を宣言するというオルメルト首相の計画
4:イラクにおけるアメリカの政策のインパクト、広域中東地域策定を仕向けていくというアメリカ・イスラエル同盟
5:「軍事力だけが中東における闘争の解決方法である」というイスラエルの信念

●ダーヘル教授はまた、多くの一般市民の死傷者や難民、家屋の破壊、空港や発電所・橋梁など社会基盤の大規模な破壊、村落、学校、車両の破壊などの状況、わずか1週間の間に2800機もの戦闘機が襲来したこと等から、今回の攻撃はヒズボラによるイスラエル兵士の誘拐以前から準備されていたものという認識を示しました。実際に、兵士の誘拐に関しても外交的、政治的な努力は一切せずに攻撃を開始しています。

●どんな停戦要請をも拒否しているイスラエル首脳は、彼らの目標を達成するためには時間が必要であると語っていますが、それは「レバノンの完全な破壊」を意味するとダーヘル氏は危惧しています。さらにイスラエルによる軍事的占領、領土併合の可能性を示唆。いつ、どうやって終わるとも知れないこの戦争が、中東の和平プロセスを大きく阻害するものであると結論づけました。(以上、ダーヘル教授レクチャーについては頂いたレジュメをorientlibraryが訳したものです。100%正確ではないかもしれません。恐縮ですがご了解ください)

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●コメントで、イラクの専門家である酒井啓子さんは、今回の攻撃に対する国際社会のクールな反応、その背景にある「イスラエルVS周辺ゲリラ」という見方の危うさを指摘しました。マスメディアは常にヒズボラを「イスラム過激派集団」「ゲリラ」として描きますが、ヒズボラは「レバノンで民主的に選ばれ議会で2割弱の議席を持つ政党」です。

●アフガニスタンやイラクに見られるように、戦争や内戦の末に破綻した国家ではイスラム政権が伸びるという現状があります。酒井さんは、民兵を掲げた政治勢力も「政治参加していく。そのなかで武装解除していく」という根づきつつあった意識が、今回の攻撃で「合法的に選ばれたイスラム政党であるヒズボラが武力によってたたかれるのであれば、議会に参加しても何のメリットもない」という強烈なメッセージとして受け止められるであろうことへの強い懸念を示しました。

●また、常にイラン、シリアとの関係で語られるヒズボラですが、「シーア派のネットワークは国家間のものではなく住民間のもの。社会的共鳴性が大きい。シリアやイランは国家がその動きをコントロールできるが、問題は国家の体をなしていないイラクだ。イラクからレバノンに合流してもおかしくない」とイラク内シーア派の動きを警戒しています。

●視点を日本へ向けてみます。日本はレバノンで何が起きていようが、対岸の火事なのでしょうか。酒井さんは、日本からレバノンへの数多くのODAを紹介し、「現在壊されている橋も私たちの税金から出ているかもしれない」という面からも「無関係ではない」ことを紹介。さらに北朝鮮問題のある日本〜東アジアも「座して語り、武装解除をうながす」ことが必要な点では同じであることも強調しました。

●この他、シリア、イランへのアメリカの戦略、スンニ派が多いアラブ諸国の今回の攻撃への対応のクールさなどについても、多くのコメントがありましたが、ブログでのご紹介は上記までとします。

●所用で滞日中に攻撃が始まり帰国できなくなったSさんの財布の中には、あどけない子どもたちの写真がありました。国内のすべての空港を破壊されたレバノンに、彼がいつ帰れるかわかりません。ようやく安定してきた暮らしを根本から破壊するイスラエルの暴挙に怒りをおぼえます

*写真は、レバノンにあるローマ時代の神殿バールベックのレリーフ/周辺の光景/わずかな隙間に見事な花を咲かせる。バールベックにて
by orientlibrary | 2006-07-22 14:52 | 社会/文化/人