イスラムアート紀行

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日差しを遮り風を通す 実用と装飾の美 ムガルの透かし彫り

スティーヴン・ホールというアメリカの建築家を特集した「Luminosity/Porosity」(光/孔=あな)という展覧会(ギャラリー間)をチラッと見てきました。個人的な感想ですが、素晴らしいかもしれないけどワクワクしない。どこかで見た感じ、それももっとすごいものを見たはず、、というような、何かもどかしい気持ちになりました。

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(「MITシモンズホール」/スティーヴン・ホール/展覧会チラシより引用)

光と影の建築は、イスラム圏でしばしば見ることができます。イランなどの計算されたレンガ積みの陰影やレンガの隙間。あるいは石や大理石で細工された幾何学模様の透かし彫り。隙間から透過する光、隙間から透視する外部の光景の美しさ。

しかし、じつは私にとって、そんなイスラム建築愛好への橋渡しとなった建物は、パリにある「アラブ世界研究所」でした。1991年、バブル崩壊の兆しもほのかに見えていた頃、私は建築についてもっと知りたいと、ヨーロッパの建築をひたすら見る3週間のスタディツアーに参加しました。

結果的には、威圧的なゴシックや装飾過多のバロック、ロココに辟易。私はこの系統が苦手なんだ、と気づいたのです。そして、その前後から次第にイスラムに惹かれていったのですが、ヨーロッパでも好きなものもありました。そのひとつがジャン・ヌーヴェルのアラブ世界研究所でした。

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(「アラブ世界研究所」/発行所フランス語のため不明、より引用)

写真1点くらいでは、まったく伝わらないと思うのですが、この建物は壁面に設置された大中小3種類、1600枚もの幾何学模様のダイヤグラムが、外光によって動き絞られたり解放されたりするのです。光と影が映像のように変化して、とてもきれいでした。またダイヤグラム自体の幾何学模様が神秘的で美しい。まだ知らぬアラブ文化の奥行きを、そのときどこかで感じていたと思います。アラブって美しい、、イスラム建築に興味を持つきっかけのひとつであったことは確かです。

光と影が幻想的な透かし彫り。これはインド・イスラム、ムガル時代のものが素晴らしいと思います。インドの石造技術の高さには驚くばかりです。石がまるでレースか紙のようです。

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(『Mughal India』 より引用)

神谷武夫さんの『インド建築案内』の用語解説には、「ジャーリー jali/石の格子細工の壁面や開口部。外部からの視線や日差しを遮りながら風を通す。石の厚さは3〜5cmあり、格子はアラベスクや幾何学的なパターンを描く」と、あります。

ムガル帝国といえば、初代バーブルは、ウズベキスタンのタイルで何度も登場しているティムールの5代目の直系子孫。何度もサマルカンドを奪回しようとして失敗し、インドでムガル朝を築きます。ムガル帝国は300年以上続いた「インドのティムール朝」でもあります。私にはとても気になる時代であり、木版捺染や細密画など好きなものがたくさんあります。

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(多分「サマードパレス」/orientlibrary)

ムガル時代の建築は、ティムール朝の影響を受けながらインドの地方様式を融合させています。土の建築の伝統のないインドでは、タイル装飾はパッとしませんが、タージマハルに見られるような貴石の象嵌や、透かし彫りの繊細さにイスラムの美を感じます

アメリカの建築から、パリへ、そしてムガル・インドへ飛び、ようやく「これが好き」と気分が落ち着いた週末でした。
by orientlibrary | 2006-07-10 00:25 | インド/パキスタン