イスラムアート紀行

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ラスター彩タイルの縁に書かれた銘文 

12〜14世紀頃、タイルの華は、やはりラスター彩でしょう。ラスター彩タイルは、9世紀にはすでにイラク、とくにバグダッドやサーマッラーで用いられていましたが、その後エジプトや北アフリカ、スペイン、イランなどに広まりました。12世紀頃にイランに登場したラスター彩は、陶都カーシャーンなどで製作され中近東にも輸出されたそうです。

ラスター彩タイルは、上絵付け(釉薬を施して一度焼成しその上にエナメルやその他の絵の具で図柄を描く)で着彩され、低温度還元焔で焼成されます。還元状態のなかで釉薬中のある種の金属の酸化物が金属の形で表面にとどまり、金属的光沢を持つラスター彩が生み出されるのです。

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(13世紀カーシャーンのラスター彩星形壁面タイル(415×1060)/『イスラームのタイル』(INAX)より引用)

ラスター彩タイルは、ミヒラーブなどモスクの中でも重要な場所の装飾に使われ、華麗な空間を演出しました。星形と十字形、六角形などを組み合わせて、壁面を埋め、星形の周縁部にはアラビア語やペルシア語の銘文(クルアーンや預言者のハディースなど)を含む枠が施されることもありました。

でも、直径20数センチのタイルの縁に書かれたアラビア語のカリグラフィーは、模様にしか見えません。内容や意味を知ることもできないだろうと思っていました。そこに現れたのが、書籍『夢の花園』。あったんですよ〜、日本語訳が!

*『夢の花園』の写真はモノクロで見にくいため、『イスラームのタイル』(INAX)から同種のタイルをイメージ的に掲載します。ゆえに銘文の内容は写真のものとは異なります。訳文は『夢の花園』より引用。

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(13世紀カーシャーンのラスター彩星形壁面タイル(205×210×14)/『イスラームのタイル』(INAX)より引用)

銘文の例であげるのは『夢の花園』に紹介されているゴムのアリー・エブネ・ジャイフルのイマームザーデ廟の柱脚の一部を飾っていたタイル(カーシャーン、14世紀)のもの。複数のタイルに連続するかたちでフェルドウスイーの「王の書」、「ロスタムとソフラープ」の物語からの数行がナスフ体で書かれているそうです。

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「思考がその上に出ることのない叡智あり、生ける神の御名において。
神名を持ち、高みにいます神。日々の糧を与え、導き下さる神。
神は人間の持つ言葉や賞賛や思惟を超越しており、気高い本質を持つ創造主である。
目で創造主を見ることは出来ない。無駄な努力をして両目に負担をかけるな。
現世と来世いずれも世界でも幸運は神の恵み。
正常な知性を持たない者は、あたかも足かせを嵌められているようなもの。
知識は力であり、知識によって老いた心は若返る。
あるだけ食べてしまえ。明日のために残すな。明日になれば明日の風が吹こう。
人間の思考は神に到達する道を見いだすことはない。
というのは、人間の言葉を超えており、陣地の及ばないところにいるから。
土星の運行を司り、天空を回転させる者。月、金星、太陽を輝かせる者。」
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ミヒラーブを飾る小さなタイルの縁にこんなにたくさんのことが書かれているとは・・・!至高の神への求心力の強さに圧倒されます。そしてその内容、深淵でありつつ、合理的、現実的な印象を受けます。なんというか、、あいまいなところがないと思いませんか!?強いです。

さらに銘文の最後に製作年や陶工名、画工名、製作地が書かれているそうです。例えば、「738年第2ラビーウ月10日(1337年11月5日)、カーシャーン在、セイエドッサーデ・ロクノッヂーン・モハンマドの工房にて、絵師ジャマール作」など。タイル職人の誇りが垣間見られます。
by orientlibrary | 2006-05-02 02:39 | 至高の美イランのタイル