イスラムアート紀行

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イラク現代演劇4本&トークで4時間 濃い〜・・・

ときはバレンタインデー、ところは新宿の小劇場。挫折中のアラビア語クラスの課外授業編でイラクの現代演劇を見てきました。イラクは古代メソポタミア文明の地。サーマッラー(アッバース朝の都城址)も見たいし、行きたい国のひとつですが、タイル・建築も含めてあまり知識なし。おまけに演劇自体に疎いので、まったく予備知識なし。そんな私の見たまま感じたままの観劇メモですが、イラクの演劇公演自体が稀少でもあり、思うこともあったので、書いてみることにしました。(以下、少し長いので適当に、お好みで?・・

e0063212_23223973.gif●劇場は満員。床に座る形式のため、一番前の席に座った私の目の前に役者さん。構成は、イラク人劇作家のドラマを日本人役者が読むドラマリーディング(朗読)3本、イラク人の構成・演出・出演によるパントマイム、イラクと日本の関係者によるシンポジウム

● “ゴドーを待ちながら”のイラク受容だという抽象的な作品、国境線での逃走劇を描いた作品は、内容が理解できないわりには、日本人の役者さんたちの熱演のせいで最後まで目が離せませんでした。

●ドラマ朗読の『戦争時代のお父さん』は、誘拐され乞食として商売道具にされた年老いたお父さんを子供たちが奪い返すお話。なんと現実にあった出来事。大きなニュースにもなったそう。無法がまかり通り、人間さえ商品にされる社会、家族の裏切りや愛情。戦時下のイラクの話なんだけど、日本にもつながるような普遍性も。観客の反応も良。

●そしてパントマイム『バグダッドのオテロー僕たちには時間がない』は、正直、不可解(もとのヴェルディの「オテロ」自体を知らないし)。彫りの深い役者さんの真摯な表情がライティングで陰影を増し、鏡を手で割って血も出たりして・・。隣の女性はチラシで顔を隠してしまって泣きそう。その隣の人は役者さんが口から吹き上げた水を浴びてました。あの席でなくてよかったわ〜・・。

●シンポジウム(というより会場からの質疑応答が主)では、演劇関係者が多かったのか、イラクでの劇団運営をめぐる具体的な(生々しい)展開に。ただしイラクからの皆さんは、政治、宗教、社会の話は、慎重かつ断固として基本的に拒否。芸術の話のみ。

●たしかに、演劇という専門分野で来ているのに、どこへ行っても政治のことばかり聞かれるのもうんざでしょう。でも、あまりの素っ気なさに、いろいろ事情もあるのではないかと思いましたが・・。以下に、そのスケッチを少し。

* イラクには現在、伝統劇から現代劇まで合わせて25ほどの劇団がある。劇団員数は5名から20名など、いろいろ
* 劇団員には国から給料が支払われる(会場=「全員に?!」、、ため息)
* 劇場のキャパシティは500-600名。入場料はすべて無料(会場=「おお・・」)
* 概して善悪のはっきりした伝統劇の方が人気。現代劇を見る層はまだ少ない。しかし観客が一人でも意に介さない。メッセージを伝えたい
公演期間は観客数次第。人気があれば何ヶ月も続くし人が入らなければ3日で終わることもある。しかし終了を決定するのは監督で国ではない
* フセインの時代は検閲などもあったが、現在では自由に作ることができる
* 劇団員がどの宗派だろうと関係ない。実際、ここに座っているもの同士もスンニかシーアかとか互いに知らない

●会場に一人、「今日は観てないんだけどさあ」と言いながら、やたらと「需要」だとか「観客数」ばかり聞くオヤジがいて、「結局、市場は小さいんだな」とわかったようなことを言っているので、、、キレた。小さいから、どうなのさ。尊大な態度で浅薄なことを言う、すごいイヤだ。ずっと戦争や経済制裁が続いてきてさ、今も強い緊張状態なのに、演劇の市場の大小もないでしょうよ。何が言いたいの?!単に見下したいの?

●「今のイラクでは盛んではなくても、アラブ世界全体では演劇の歴史がありますよ」「イラクは芸術文化の長い歴史のあるところですよ」「この脚本は層が厚くないと書けないレベルのものですよ」・・・会場や役者さんからも声が出始めて、オヤジは「アフリカの演劇なんかも観てみたいね」と引っ込んだ。行ってこい、アフリカに。で、終了したのが23時でした(疲)。

●私には内容はよくわからなかったけど、人間について何か表現したい人たちが真摯にやっていることは伝わった。イラクの人を間近で初めて見て、話すのを初めて聞いた。アラビア語がきれいだった。ホームシックになったり喜怒哀楽を表わしたり、同じ人間なんだなあ、それがコクッとわかってよかった。全体はゴツゴツとした違和感があったけど、体験型の私にはいい機会だった。

e0063212_2326129.jpg●イラクの作家や俳優さんが伝えたかったのは、「イラクだからではなく、普遍的なこと」。ただし、チラシなどを見たら「バグダッドからの証言者、来たる。イラクで何が起きているのか」とか「未曾有の史的体験を伝えにやってくる」などと書かれており、そのへんについて質問し拒否された人たちの気持ちも複雑ではないか、とは思いました。  

*写真は(上)「タイニイアリス・イラクNOW・プロジェクト」チラシ、(下)東トルコの老夫婦
by orientlibrary | 2006-02-15 23:40 | 美術/音楽/映画