イスラムアート紀行

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モンゴル系・イル・ハーン朝で萌芽したタイル装飾の美

先日『天上の草原のナンサ』を見たこともあり、モンゴルモードが入っています。『らくだの涙』を撮ったモンゴル出身のビャンバスレン・ダバー監督が、モンゴルで語り継がれる伝説を下敷きに、草原の暮らしや遊牧民の精神世界を臨場感豊かに描いています。

この物語にふさわしい家族を捜し求めて3人の子供のいる若い遊牧民夫婦と出会い、生活をともにしながら撮影。基本は物語なのですが、乳製品作りやゲルの解体など、ドキュメンタリー的な要素もたっぷりで、みずみずしく魅力的な映画でした。

e0063212_041377.gif映画では、邪気のない子供たちの表情や仕草がなんともいえずかわいいんですが、末っ子の男の子は、一見女の子のような髪型。そういえばモンゴル旅行のときに南ゴビでこんな髪型の男の子に会ってびっくりしたな、と思い出しました←。

モンゴルの子供たちは、最初はむっつりして警戒されているのかなとも思いますが、だんだんとほぐれてきたときの笑顔はとびきりいいなと思いました。今時の日本の子供は、みな整ってきれいだな、と思いますが、草原の子供たち、ちょっと前の日本の子供の味のある愛らしい顔立ちに似ていると思いません?↓

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イランに行って感じたのは、タイル装飾や土の建築の発展におけるモンゴルの役割の大きさでした。ユーラシアの覇者、モンゴル系の王朝がユーラシアの文化を攪拌し、イスラム建築やタイル装飾を西へ東へと拡大していったことは、なかなか実感としてコクッとこなかったのですが、今回のイル・ハーン朝のタイルで、ああそうか、と体感した気がします。

「この時代、モンゴルと中国の文化交流が盛んで、天文学や絵付けの技法を中国に伝える一方、中国の影響を受けて色タイルなどの製造技術やミニアチュールが高度に発達、ティムール朝の文化に受け継がれていった」(『中央ユーラシアを知る事典』/平凡社)。タイル装飾の萌芽期として、トルコ系のセルジューク朝とともに大変重要なのが、このイル・ハーン朝なのです。

「東西交流の活発化は、イル・ハーン朝の文化にも大きな影響をもたらした。それは中国文化の影響が強く見られるのが特徴であり、陶器の文様などにも中国的な文様が取り入れられた。モンゴル人や中国人のような服装をした人物表現、龍や鳳凰、蓮弁などの中国的な要素が見られる」(『タイルの美 イスラーム編』/TOTO出版)。

あのコバルトブルーと金の龍のタイル(数回前のもの)は象徴的であり、偶然とはいえ、すごいものを間近に見られたことにゾクッとします。タイル好きの執念か?!?

「チンギス・ハーンによってユーラシアに出現した巨大な遊牧帝国は、彼の4人の子供たちに引き継がれる。大元帝国は別として、ほかの3つの国、チャガタイ・ハーン、イル・ハーン、キプチャク・ハーンはイスラム教との関係が色濃い。

中央アジアのオアシス部分を領有したチャガタイ・ハーンの末裔が14世紀末のユーラシアの覇者ティムール、ヤサヴィー廟のパトロンである。西のイランを領有したイル・ハーンはイランの成熟した建築文化を継承し、気前の良いパトロンとして都市や建築を構築した」(『世界のイスラーム建築』/深見奈緒子/講談社現代新書)。

タイル装飾が最も花開いた中央アジアのティムール朝(1370〜1507)もモンゴル系であり、この時代にさまざまに試みられた装飾技法が、やがて洗練されたイラン・サファビー朝(1501~1736)のタイルにつながります。

「本来草原に住んでいるときには、土に根づいた建築文化をもっていたわけではなかったけれど、都市を支配するようになると、建築文化に心酔し、都市に住まう人々のために偉大な建設者へと転身したのである。土の建築文化の根強いイラン世界を制覇したモンゴル族、イル・ハーン朝は決して破壊者であったわけではなく、数多くの遺構を残している」(『世界のイスラーム建築』)。

アレクサンダーは東西文明をつないだ英雄としても語られますが、モンゴルは文化を破壊しつくしたという逸話が強烈であり、文化とは対極にあるイメージがあると思います。私もタイルを知るまではそう思っていました。そして知っていくにつれて、モンゴルの存在の大きさに驚いているのです。

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素人の推測ですが、アレクサンダーは日本人に馴染み深いガンダーラ仏像に関与していることや、遠い土地の出来事なので歴史的ロマンとしてとらえられるのかも?これに対して、モンゴルは「元寇」というのが尾を引いているのでは? では、イル・ハーン朝期の墓廟「ソルタニエ・ドーム」(1307〜13)のタイル装飾(↑)をひとつ、どうぞ↑。
by orientlibrary | 2006-01-23 00:01 | 至高の美イランのタイル