イスラムアート紀行

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中央アジアバス停/フンフルトゥ/古武雄/火の誓い/夏俳句

重厚なセルジュークの装飾タイルが続きました。今回は小さな話題をいくつか。夏休み気分で。

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ついに「SOVIET BUS STOP」


「中央アジアのバス停留所」、これもまた、えらくマニアックなテーマでした。中央アジアを旅行していると、道沿いにポツポツ、不思議な小さな建物があることに気づきます。なんだろう。どうもバス停らしいけれど、地元の人はそれほど関心をはらっているようにもみえない。でも、その手作り感、愛らしさ、奇妙さ、存在感、おもしろさ。誰かバス停の写真集を作ってくれないものかと、長い間思っていました。

そんな奇特な人いないよな、、それがいたんです!中央アジアバス停に強烈にハマってしまった人が。クラウドファンディングで写真集プロジェクトを実施、完売!タイトルは「SOVIET BUS STOP」。出たー!

中央アジア各所にあるということは、ソ連時代のものだろうと想像していました。バス停作り、競争意識があったのか、作りながら楽しかったのかどうか、それはわからない。でも、とにかく、ここまでやるか状態のものもあります。写真を引用するわけにいかないので、ご興味ある方、クリックで飛んでみてください。魅せてくれますよ。again! → http://herwigphoto.com/bs/


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南シベリアからの風  HuunHuurTu 来日公演


南シベリア・トゥバ共和国の生んだ世界的ホーメイグループ「HYH-XYPTY(または HuunHuurTu)フンフルトゥ」、フジロック・フェスティバルのための来日。1回のみのホール公演に行くことができました。生の音楽との出会いに感謝です。

来日公演のWEBサイトより抜粋=「トゥバ人に最も愛され、尊敬されるホーメイグループ。ソ連邦崩壊後間もなく結成され、伝統の中に新しい音楽の要素を折り込んだ洗練されたスタイルが大きな話題に。長らくトゥバ民族とその周辺地域のみで伝えられていた伝統歌唱ホーメイを、世界に知らしめ、発展させた。驚異的なテクニックと懐かしさあふれるメロディーによるオリジナルなアンサンブル」。

オーディエンスもノリノリで3回のアンコール。それに応えてくれたHuunHuurTu。アンコールのラストは、寺田亮平さん(トゥバ音楽演奏家。「中央アジア人3」参照)推選の「チュラー・ホール」でした。「ある男が風に吹かれながら馬と一緒に旅し、ある土地で暮らし始めた。その美しい土地で相棒のチュラー・ホールと競馬に勝ち、美しい恋人から隠れて泣いた」。YouTubeで聴いていたこともあって思い入れがあり、これをラストで聴かせてくれたことに感激!


Huun Huur Tu - Chiraa-Khoor





声そのもののゆたかさ、声の重なりから生み出される透明な音世界、声や楽器による自然の描写、イギルやドシュプールなどシンプルな楽器が織りなす豊穣。4人それぞれが高い演奏技術と歌唱力を持ちつつ、個性をユニットとしてのハーモニーに昇華している。その素晴らしさに浸りました。


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豪快で技法さまざま 魅力の古武雄


「古武雄 やきもの王国九州から 江戸陶磁のモダニズム」展@町田市立博物館へ。九州国立博物館(「古武雄 まぼろしの九州のやきもの 江戸のモダニズム」、愛知県陶磁美術館(「桃山・江戸の華やぎ 古唐津・古武雄」)などと、北上してきた展覧会のようです。チラシの豪快な陶味に惹かれて、猛暑のなか、町田に行ってきました。

佐賀県立九州陶磁文化館開催の「古武雄 江戸のモダニズム」のチラシ。クリックで画像

それにしても、古唐津なら聞いたことがありますが、古武雄とは?

*(古武雄を)分からないのも当然と言えば当然なのです。この「古武雄」という名称は近年生まれたものだからです。「古武雄」は、かつては「二彩唐津」、「武雄唐津」、「弓野」、「二川」などと呼ばれていました。(九州国立博物館HP)

* 江戸時代前期(17世紀前半)から19世紀にかけて武雄地域で「古武雄」というやきものが誕生しました。生き物のように躍動する松、今にも飛び立とうとする鶴、釉を掛け流しただけの力強い文様・・・器をキャンバスに、様々な技法を用いて、大胆な文様を絵画のごとく描いたこれらの陶器は、現在、その魅力と重要性が再評価されています。(
愛知県陶磁美術館HP)

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(鉄絵緑彩松樹文大平鉢 江戸時代・17世紀前半 肥前・武雄/九州国立博物館HP)

* 古武雄は、多彩な文様表現に魅力があります。古武雄の作品で基本的におこなわれる装飾技法の基本は、褐色の胎土の上を白く塗ることに大きな進歩がありました。この白いキャンパスを得られたことにより褐色の胎土という、絵付けにはある意味で言えば不利な条件を克服し、新たな文様表現の土台を得ました。そして、そこに緑や褐色で絵を描いたり、緑や褐色の釉をかけ流して文様にしたり、スタンプで文様を押し、その部分に白い土を埋める象嵌、白い土を刷毛で打ち付ける文様などなど多彩な文様が生み出されました。このような多彩な文様こそ「古武雄」の見所です。(
愛知県陶磁美術館HP)

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(緑釉唐花唐草文五耳壺 江戸時代・17世紀中頃 肥前・武雄/九州国立博物館HP)

* 江戸時代のさまざまな遺跡が調査された結果、公家も武士も、大名も庶民も「古武雄」を愛用していたことがわかってきました。(町田市HP)

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(展覧会図録より/刷毛目打ち刷毛目白泥〜刷毛や筆を用いた白化粧の文様・象嵌〜埋め込まれた白土の模様・鉄絵緑彩〜緑と褐色の絵付け文様)

江戸時代には、参勤交代で江戸でのつきあいが必要な日本各地の有力者たちの「宴会需要」があったそうです。しかし磁器はまだまだ高価。そこで古武雄の大皿が活躍したのだとか。絵柄も作風も大胆で奔放。多彩な技法に触れることもでき、行った甲斐がありました。


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偉大な設計者


新聞の読書欄、(はずれることが多くて)あまり見なくなりました。が、今朝、『白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか』についての隈研吾氏の評(朝日新聞8月10日付)を読んでいるうちに、昨日読んだ河井寛次郎さんの文章が浮かんできました。

『火の誓い』(河井寛次郎/講談社文芸文庫)の第一話「部落の総体」(昭和19年7月)。

「自分はいつも部落に這入る前に、その部落全体の組合せについて驚くべき事を見せられる。その部落を見上げたり見下ろしたりする位置にあればあるだけ、この組合せの魔術にかけられる。森に囲まれた平野の村は這入って見なければ解らないが、これはこれで、思わぬ処で、思わぬ素晴らしさに出喰わして驚かされる事がある。いずれにしても、此等の村と家と家との地形に応ずる巧妙な配置については、見ても見ても見つくす事が出来ない。自分はいつも誰がこんな素晴らしい大きな構図を設計したのかと聞きたくなる」

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(福井県池田町)

「家と家とはーどうしてこんな美しい間隔と均衡を保って隣り合わされたのか。相隔たる甲と丁とはどうしてこんな美しい比率で隔離されたのか。瓦と草屋根を誰がこうもたくみに配分したのか。それぞれの家の持つ力を、時には複雑極まるでこぼこの丘地や山の傾斜面に、誰が一体こんなに見事に配置し組み合わせたのか。自分はいつもこの偉大な設計者の前に立って驚かない訳にはゆかない」

「どんな農家でもーどんなにみすぼらしくってもーこれは真当の住居だという気がする。安心するに足る家だという気がする。喜んで生命を託するに足る気がする。永遠な住居だという気がする。これこそ日本の姿だという気がする」

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(越中和紙の桂樹舍/富山県八尾)

この文章からちょうど70年後出版の、『これからの日本に都市計画は必要ですか』(蓑原敬、藤村龍至、響庭伸、姥浦道生ほか。大御所蓑原敬氏と70年代生まれの若手による論議の記録)。本書は日本の都市計画のつまらなさとその理由を明かしているといいます。

「一言でいえば、日本的縦割りが、本来諸分野を串刺しすべき都市計画をつまらないものにし、機能不全に陥れていたのである。様々な縦割りのひどさに唖然とした。(中略)実際の計画は道路団子とか公園団子などのジューシーで利権だっぷりの団子に委ねられていたのが、戦後日本の寒い姿だった」

天候のせいか今ひとつ調子が悪く読書の日とした昨日、河井さん著書(『火の誓い』『蝶が飛ぶ 葉っぱが飛ぶ』)の気迫ある文章、凛とした姿勢の強さが滲みました。

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日本の自然や工芸について読んでいると、昔は当たり前だった普通の光景の、普通だからこそ輝く姿が愛おしく思えてきます。十七音でその情緒をうたう俳句、夏の情景、昔日の景を選びました。

  金魚売りの声昔は涼しかりし  正宗白鳥
  うちの子でない子がいてる昼寝覚め   桂米朝

  
  セルの袖煙草の箱の軽さあり  波多野爽波
  ワイシャツは白くサイダー溢るゝ卓  三島由紀夫(中等科時代か)
  

 
 口開けて金魚のやうな浴衣の子   三吉みどり
  
  夕顔やろじそれぞれの物がたり   小沢昭一

  
  バリカンに無口となって雲の峰  辻憲

  

  心太足遊ばせて食べにけり   佐藤ゆき子
  
  たつぷりとたゆたふ蚊帳の中たるみ  瀧井孝作
 

  湯上りや世界の夏の先走り  平賀源内   
  美しき緑はしれり夏料理  星野立子    
  麦の穂を描きて白き団扇かな  後藤夜半  
  稲づまや浪もてゆへる秋津しま  与謝蕪村
  うつくしや雲一つなき土用空  小林一茶  

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(江戸東京たてもの園&多治見の光景)

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(瀬戸焼きの生産の場や道具を展示している瀬戸蔵/瀬戸市)

夏生まれだからかもしれませんが、夏だけは、昔の夏が好きです。青空とプールだけの、あっけらかんとした夏が。
by orientlibrary | 2014-08-10 21:30 | 日本のいいもの・光景