イスラムアート紀行

orientlib.exblog.jp

パンジャーブに咲く ムガルの花々

[タイルフォト・ギャラリー(15)「ラホール・フォート」(ラホール)]

ナマステ!インド・パキスタン編です。スタートは“カッワーリ”。カッワーリは、私がイスラム圏に興味を持ち始めたきっかけとしてはずせません。あれは92年の春のこと。友だちが「絶対いいから。とにかくチケット買っとくね」と強烈リコメンドしたのが「ヌスラット・ファテ・アリー・ハーン」のコンサート。パキスタンだけでなくヨーロッパなどでも熱狂的な支持を得ていたカッワーリの名手、2度目の来日、ということは後で知りました。

e0063212_2504395.gif


カッワーリとは、イスラム神秘主義(スーフィズム)と関連する宗教音楽。(今ネットで調べていて「スーフィー族の宗教音楽」と説明しているものがあったけど・・・族って言うかあ?!)。宗教的陶酔の中て神との一体感を感じるというはじめて聴く未知の音楽世界。戸惑う間もなく、最初からガツーンと衝撃、あとはひたすら浸り感じるのみ。パンフレットには「聴衆を10分で金縛り状態にした」とあったけど、まさにそんな感じでした。

ヌスラットは97年8月に亡くなったんだけど、そのとき私はデリーのあるお家にステイしていて、新聞でその記事を発見。驚いていると、パンジャーブ(現在のパキスタン、カッワーリの盛んな地域)出身のお母さんは、私がヌスラットを知っていることが意外そう&少し嬉しそうでした。

印パ分離独立のとき、大変な思いをして逃げてきた世代だけに、あまり語らないけれど故郷への思いは強いのかもしれません。そのあと買い物に出かけたお母さんは、なんとヌスラットのCDをプレゼントしてくれました。当時、インドではCDはすごく高かった。そしてそのCD、じつは私は持っていた。でも本当にうれしくありがたかった。

e0063212_250941.jpg


そんなこともあって、パンジャーブということばを聞いただけで、心が動きます。その州都がラホール。12世紀にはアフガニスタン・カズニ朝の都として、16〜17世紀にはムガル帝国の首都として様々な建築物が作られた街。

ラホール・フォートは、ムガルの歴代皇帝が増築を重ね拡大。1631年に完成。全体はレンガ造で、外の壁にはカラフルなタイル装飾があります。石がメインのインドでは見られない貴重なタイル装飾です。けれども他のイスラム圏のタイルとは、ずいぶん雰囲気が違います。地域的に近いムルタンのタイルとも全然違います。まぎれもない「ムガル・テイスト」なのです。

建築大好き皇帝シャー・ジャハーンはあのタージ・マハルを建てた人。彼の時代に、やはりラホール・フォートも拡充されています。モザイクタイル装飾もその時代のもの。テーマはムガルらしい可憐な植物や宮廷の暮らし、軍隊の行進や象の戦い、ポロの試合など。これらは当時絶頂期にあった宮殿の壁画絵画のタイル装飾版といえるのですが、色の種類が絵画と比べて限定的であり、それが非現実的な印象を与えています。

e0063212_2514041.jpg


タイルはイスラム美術の華であり、ムガル皇帝が始祖と仰ぐティムールの時代に花開いた建築文化。建築オタクのシャー・ジャハーンももちろんがんばったのでしょうが、やはりインドは他の建材が豊富なので土ものが盛んではなく、タイルには彼のオタクぶりが発揮されていないように見えます。

華やかだけど、なんかちぐはぐな感じもあって、あのタージ・マハルの完璧な美と比べると、ちょっとラフ?どちらかというと象嵌に近い感じ?それでも、タイルとイスラムアートと、そしてインドが好きな私には貴重な例。ユニークだな、と思いながら見ています。

*写真は、(上)宗教的雰囲気のあるラホールの街と人、(中)ラホール・フォート外壁面モザイクタイル装飾ディテール、(下)同、ムガルテイストの花模様。西洋のハーブの雰囲気を漂わす
by orientlibrary | 2005-12-13 02:53 | ムルタン・蒼のタイル