イスラムアート紀行

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<タイル人 ・1> タイルは華。イスタンブルで暮らし描き発信するトルコタイルの魅力

タイルがご縁をつないでくれた鬼頭さんは、トルコのイスタンブル在住のタイル絵付け作家。タイル、なかでもイスラムの装飾タイルへの熱い思いを共有できる貴重で大切なタイル友です。

日本ではタイルが工芸文化の面から語られることが少ないだけでなく、残念なのはイスラムのタイルの存在感があまりにも薄いことです。タイルはヨーロッパで生まれたと書かれたタイル関連サイトを見たときは驚愕しました。日本にもタイルの書籍はあるし、英語に広げればインターネット時代の今では膨大な情報に触れることが可能です。

このブログは2005年9月スタート。中央アジアを主体に、イスラム圏のタイルについて素人の実感で書いてきました。が、あまりに非力。けれども、心強くうれしく頼もしいのは、ネットや生産地で出会ったタイルに関わる人たち、そしてタイルを愛する人たちの存在です。以前とは違う!<タイル人>、始めます。

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(「青の魅惑」展@INAXライブミュージアム、2011年11月〜12年3月。鬼頭さんにトルコ作家のコーディネートと情報監修をお願いしました/左:アディル・ジャン・ギュヴェン氏展示と作品/右:メフメット・コチェル氏展示とタイル作品部分=後半に出てくる「サズ様式」)

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<タイル人 ・1> 
「いつまでも色褪せない艶やかさがタイルの魅力」鬼頭立子さん(アトリエ・チニチニ)


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(チニリ・キョシュキュ。トルコ装飾タイル博物館にて)

—— タイルの絵付けをトルコで専門的に学んだ、そのきっかけ、経緯を教えてください。
日本の大学では、アジア・オセアニア文化コースでインド思想哲学を専攻していました。中でもイスラム神秘主義哲学に興味を持つようになりました。そして、文献の挿絵として使われていたテズヒップ(書や写本の彩飾)や細密画に深く魅せられ、細密画を学びたいという気持ちが高まりました。細密画を大学で学べる国としては、トルコ、インド、イランなどがありましたが、自分にとって暮らしやすいところ、という面でトルコを選んだのです。

—— 最初は細密画だったのですか?それがタイルに変わったのは、なぜ?
トルコへ渡り、イスタンブルで細密画を学び始めました。ミマルシナン芸術大学へ入学してからも細密画を続けていましたが、次第に細密画のスケールが自分に合っていないことに気がつきました。細密画は小さすぎる。ものすごく細かい。やってみて初めてわかりました。そして、タイルの迫力とスケール感が自分にぴったりだと気づきました。ルールに基づきながら構図を考えたり、モチーフを描き込んでゆくのが自分に合っていると思ったのです。細密画に比べてタイル画では、モチーフ一つ一つが大きい分、そのモチーフの中に色々模様を盛り込み描くことが可能です。それが楽しくて、魅力です。

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(鬼頭さんとトルコのタイル作家を訪ねる旅、イズニックへ。歴史的建造物と湖のある静かで心地良い街)
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(アディル・ジャンさんのアトリエにて。家族全員がタイル作家。形成、絵付け、焼成をこなす。トルコタイル談義。右下はイズニック湖の夕暮れ)

—— ミマルシナン芸術大学は国立の芸術大学ですね。どのようなことを学ぶのですか?
私が入ったのは、トルコ伝統芸術学科です。装飾タイル、アラビア書道、製本、写本装飾、絨毯織やキリム織などを学びます。1年生はすべての工芸に共通するデザインを学びます。デザインを起こすのです。2年生から専攻を選択します。私はチニ(タイル)を選びました。チニ専攻の同級生は3人でした。

—— チニ専攻では、どのようなことを学ぶのか興味津々です。
テュルク系(トルコ民族)全体の美術史から、トルコ(現在のアナトリア)におけるチニの歴史〜セルジューク朝、ベイリク(君候国)、オスマン帝国〜を学びます。その中で、圧倒的に時間が多いのは、16世紀(オスマン朝古典期)のタイルについてでした。オスマン帝国のシリアやエジプトまで広範囲に渡る技法や色彩の特徴なども丹念に学びました。実技では、主にデザイン画を描きます。土を練ったり、形成したりはせず、デザインのみです。ナッカシュ(デザイナー)としてのデザイン起こしを、しっかりと学ぶのです。

—— 日本だと土から始まるような気がしますが、デザインが主なのですね。
伝統工芸学科のチニ専攻は仰る通り、デザインが主で、材料、土捏ねからの工程は知識として学ぶのみで、実技はセラミック学科で学ばれます。オスマン朝の職種で言い置けば、チニ学科=デザインを描くナッカシュを養成、セラミック学科=土から絵付けまでの実技を学ぶ学科になります。ただ、これはミマルシナン芸術大学だけに当てはまることで、他の大学ではチニ学科でも実技を学んでいるところもあります。

—— 授業はきびしかったですか。
単位を取るために課題は多かったですね。週に数日は徹夜していました。4年で卒業するには、そのくらいしないとダメ。学費が安いこともあり、7〜8年かけて卒業する人が多いのです。トプカプ宮殿やアヤソフィアのタイル、ステンドグラスの修復や天井部の金箔張りもやらせてもらいました。炎天下で大汗かいて、もう修行でしたね。でも楽しい経験でした。昔のタイルは違います。

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(イズニック。タイルと陶のある光景。上段は陶芸の職業訓練を終えた女性たち専門のショッピングセンターにて。多彩な商品作りに感心。「自信」で突き進むパワーを感じました。下段:トルコは食も魅力)

—— トルコの学生気質について印象は。日本人の学生気質と違いや共通点はありますか。
トルコの学生は完璧を求めます。まずは完璧さの印象が強いです。集中力はすばらしい。また自己表現欲求が強い。そのぶん自信も強い。伸びる原動力は自信だと感じました。でも、時間は守らない、ルーズというかいい加減。日本だと、課題は必ず締め切りに間に合うように仕上げますよね。トルコの学生は締め切りを延ばす。でも良いものを作ってくるんです。こちらは締め切りを守っていますから、そんなあ、と思いました。が、期限を守ると小さくまとまるのかも、とも思ったり。日本人学生との共通点はない、ですねえ。

—— 自信と集中力。熱いですね。
自信を持って突き進む。トルコではそれが一番大事と考えられている。表情にも出てくるような気がします。

—— チニを学んで、その後はどのような活動をする人が多いのですか。
就職先として多いのは、講師でしょうか。絨毯のデザインをする人もいるし、グラフィック方面や美術系に行く人もいますね。基本的にお金持ちの人が多いので、ゆとりがある感じ。私は2010年2月に卒業。ミマルシナン芸術大学大学院でトルコタイルを専門に学んだ窪田さんといっしょにイスタンブルの新市街に工房を開き、タイル画を制作しています。絵付け教室もやっていますが、日本人の生徒さんが多く、皆さんとても上手ですよ。

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(トルコのタイル作家を訪ねる旅、キュタヘヤへ。メフメット・コチェルさんのデザイン室と工房にて。宝物のようなデザイン帳を見せて頂き、タイル製造工程を見学)
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(キュタヘヤの博物館にて。タイルと陶器の展示)

—— 個人的な好みでは、どんなタイルがお好きですか。
サズ様式が好きです。サズ様式タイルの傑作と言えばトプカプ宮殿にある5枚のパネル。宮殿の一番奥にある割礼の間前壁にある、麒麟が描かれた4枚のパネルと、花瓶から溢れ出す植物が描かれた1枚。素晴らしいです。

—— トルコのタイル、ここは見たほうがいいという場所を教えてください。
セルジューク朝のタイルはコンヤ。コンヤではすべて見て欲しいですね。ベイリック時代とオスマン朝はブルサ。エディルネは、ムラディエモスクの他、すべておすすめです。イスタンブルは、まずトプカプ宮殿を押さえて、次はリステムパシャでしょうか。

—— トルコの工芸で、おすすめのものは。
細密画、オヤ(刺繍)、絨毯やキリムですね。

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(キュタヘヤにて。青の館と青の陶芸家。下段はハーブティー、キョフテ、お家訪問での手作りお菓子とチャイ)

—— おいしいものがたくさんありそう。
まずエフェスビール!食べ物は絞れませんが、、ビールやラクを飲みながらの、メロンとチーズ、トピック(玉ねぎを炒めたものをゴマ+ひよこ豆のペーストで包んだもの)。マントゥ(ラビオリに似たもの)、クルファスリエ(白インゲン豆の煮込み)といったトルコのお母さんの味がおすすめです。

—— 今後の活動、イメージを教えてください。
しばらく大きなタイルを作っていなかったので、大きなパネルを数枚描きたいです。目標として、イスタンブルで作品展を開きたいと思っています。

—— 鬼頭さんにとってタイルの魅力、存在とは。
着物で言えば振り袖のような美しさ、いつまでも色褪せない艶やかさ。それが好き。華やかさ。花ですね、タイルは、やっぱり。

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この夏、多治見旅をご一緒した鬼頭さん。二人で多治見の熱い方々にお会いしてお話を聞き、たくさんの美しいタイルとやきものに出会いました。さらに鬼頭さんには、朝の喫茶店、夜の居酒屋でもノートPCを開いて、お話を聞いてメモ(それがこの「タイル人」)。無粋でゴメンナサイ。

鬼頭さんは、ミマルシナン芸術大学チニ専攻を主席で卒業。2010年には「サークップ・サバンジュ芸術賞」(サバンジュ財団による芸術賞。1994年より毎年ミマルシナン芸術大学の絵画、彫刻、伝統トルコ芸術、3学科の卒業生上位3名に授与)を受賞。タイルの本場で日本女性が、技術と感性を発揮して活躍。なんてうれしいことでしょう。温かく謙虚でちょっとお茶目な人柄も大好きです。どうぞこれからも、タイルの魅力を伝えてくださいね!

<鬼頭さんのブログ> 「—イスタンブル発— トルコタイル通信
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by orientlibrary | 2013-11-05 22:13 | タイル人