イスラムアート紀行

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装飾タイルの「8」〜“慈悲深き神々の呼吸”

「6」のデザイン 天地創造の6日間の理想表現」に続いて、今回は「8」です。が、建築の8(八角形、八角柱、八角堂等)や象徴としての8(宇宙のかたち、無限等)まで調べるのは力不足。イスラームの装飾タイル中心にみていこうと思います。

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八角星と十字のパターン

水平線上の円からスタートし、弧を2本描き、斜めの線を定義、4個の円に、さらに4個で8個の円。この円によるマトリックスを無限に続ける。正方形内で反復させると基本的な星と十字のパターンに。

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(基本的な星と十字のパターンを示したページ一部=『イスラム芸術の幾何学 天上の図形を描く』(創元社)と『イスラームのタイル 聖なる青』)

「斜め正方形のうち半数でそれと接する正方形の部分ではそのぶんへこませたと考えるのである。このため、近年これは“慈悲深き神々の呼吸”とも呼ばれている。この表現は、創造の源として火・空気・水・土の四大元素の可能性を発現させるのは神の呼吸であると説くイスラムの偉大な思想家イブン・アル=アラビーの教えに由来する」(『イスラム芸術の幾何学 天上の図形を描く』より)

「世界のタイル博物館」にこのタイルの収蔵が多く書籍でも紹介されていることから、タイルのイメージが「十字と八角星」という方もあるのでは。私もこのかたちと組合せに魅せられた一人です。

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(ラスター彩星形壁面タイル、カシャーン、13世紀/『イスラームのタイル 聖なる青』(INAXブックレット)より)

重要なモスクの、その中でも重要な部分(ミヒラーブ等)を飾ったといわれるこの組合せ、ラスター彩釉のものが多いことも、装飾タイルならではの精緻な魅力にあふれています。当時の壁面そのままの姿を見ることができないため、ますます想像は広がります。細密な絵付けやカリグラフィーが描かれた八角形と浮彫りなどが施された十字が組合わさった大きな壁面、どんなに煌めいていたことでしょう。

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(シャーヒズインダ墓廟にて。廟外部壁面装飾タイル。よく見ると、八角星と十字のパターンの一部を大きく使ったものですね。八角星の中にまた八角星、そのなかにカリグラフィー〜聖典の言葉が記されていると思われます。帯状のラインにもアラビア文字。強い青で、まさに圧巻)

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(星と十字が連続する上に絵付けしたラスター彩。ラスター彩陶壁部分、「オリエント幻想」、七代・加藤幸兵衛 作、イラン大使館ファルドーシホール壁面)

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(ビビハニム廟入口、大理石とタイルでしょうか。キリッとして目立ちます。大きな面積はこのような素材とやり方がベターなのかも)

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(憧れの星と十字を制作した時の写真。それぞれの形に土を真っすぐにカットするだけでも一苦労。側面がデコボコに。花模様のものは地色を塗らず素焼きのままに。和な感じの星&十字になりました)


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八角星一つ、またはいくつか

八角星はバランスが良く安定しています。内部に文様も描きやすいのではないかと思います。そのせいか、一点のタイルとして、それこそスターのように目立ったところに飾られているものを見ることがあります。また、いくつかの中にあっても、ひとつひとつの存在感の強いものも見かけます。

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(シャーヒ・ズィンダ墓廟にて。カリグラフィーを書き込んだ八角星の大きなタイル。レンガの茶色と青と紺はよく似合う組合せだと思う)

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(ブハラにて。モザイクではなく絵付けでカリグラフィーを描く。周辺の青もまた星空のよう)

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(タシケントの博物館展示品。雫状のものと花びら。おおらかな文様と青の発色が好みです。タイルの聖地を多数擁するウズベキスタンの博物館でもタイルの展示品は数が少なく、古いタイルは貴重なものであることがわかります。ソ連時代やその後の混乱で、散逸してしまったものがたくさんあるのでしょうね、、、)

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青のfacebookでも支持が高かったブハラ、ナディルディバンベギマドラサ、渡り廊下天井のタイル。5つの八角星で星空のようでした。青好きにはたまらない青の組合せ)

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(変わりバージョン。ブハラのストライ・マヒ・ホサ宮殿にて。横長の八角星)

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(シャーヒ・ズィンダ墓廟群にて。盛り上がった白の縁取りと青だけの文様が目を引くタイル。 “タイル装飾の博物館”とも言われるシャーヒズインダだけに、様々な技法が見られます)


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丸みのある8

まず手持ちの写真から8に関わるものをピックアップし、なんとなく特徴が似ているものを分けていたのですが、丸い花びらのようなもの、まだ他にもあるかもしれないけれど、シャーヒ・ズィンダの浮彫りのもの2点です。

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この他、「連続して描かれているもの」「建築での8」「壁面幾何学」「布や陶器での8」などを少々ピックアップしました。次の機会にご紹介したいと思います。

最後に、『イスラム芸術の幾何学 天上の図形を描く』の「むすび さらなる可能性」より一部引用します。

「伝統的なイスラムの装飾は、際立って機能的であるーただし、ここで機能的というのは単に実用的という意味ではない。イスラムのデザインは文明化とひきかえに失われた霊的な感覚を、無垢の自然が持つ原初的な美しさを再構築することで補完し、俗世にどっぷり浸かった人間を真剣な熟考へいざなおうとする。イスラムのデザインは、一種の“目に見える音楽”だと言ってもよい。モチーフの反復とリズムが内なるバランス感覚を目覚めさせ、神への祈りや神についての思弁を視覚的に展開する役目を果たすのである」
by orientlibrary | 2013-07-15 17:02 | タイルのデザインと技法