イスラムアート紀行

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北斎、青で描く日本の自然美、そして生命

◆ 北斎の青 ◆

西アジア、中央アジアの装飾タイルや陶器の青の興味があります。けれども日本美術に疎いので、日本の絵画や版画での青の表現は知らないままです。

テレビでの青の番組がありました。「青の宇宙史〜フェルメールから北斎へ〜」(BSTBS)。フェルメールは日本で大人気ですが、私はあまり興味が湧きません。そんなわけで、あまり期待せず、いちおうチェックするというスタンス。「フェルメール・センター銀座」という施設があり、現在青を軸とした北斎の展示を開催中。その館長でもある生物学者・福岡伸一氏が番組のナビゲーターでした。

番組はすっきりとまとまっていて、浮世絵の知識のない私にも流れがよく理解できました。そして北斎の青と、青への思い、構図や表現の斬新さ、ベロ藍という当時の最先端の青のインパクト、そしてフェルメールブルーをイキイキと「動かした」北斎の力量の凄みに、心が動きました。

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(「青の宇宙史〜フェルメールから北斎へ〜」(BSTBS)、テレビ画面を撮影)

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<出演者のコメントなどをメモした中で、個人的に印象に残ったこと>
《北斎の青、日本の青》
・ 北斎の青の魅力は、白(〜余白)がきれいなこと。潔く身を引いている。藍色は白のためにあると思えるほど、白がより良く見える

・ 日本の色の感性は素晴らしい。日本ほど色の名前が多い国はない。それは日本の風土、花や海や空からきているのだろう。水や空など青が自然の中にある日本だから、様々な青に挑戦する。いろいろな青が出るように工夫する

《ベロ藍の使用、刷の技術》
・ ベロ藍はそれまでの日本になかった色。ハイカラで知的で品がいい。空気感、湿度感が違う。立体感、奥行が出てくる。自然の美しさがイキイキしている。これを使った北斎は、自分だけの色をだしたかったのだろう

・ 当時は長崎の出島にオランダの物産を売る場所があった。フェルメールともつながる。フェルメールは青に身も心も奪われているが、北斎はそうではない。突き放している

・ 北斎はこのベロ藍を使って「冨嶽三十六景」を描き、青の濃淡で名所の水や空を表現した。日本の刷師は、絵の具を紙の表面でなく芯に滲み込ませる。独自の高度な印刷術もあり、「冨嶽三十六景」は爆発的な人気となった

《青は生命の色、その青を動かすことで生命を描いた北斎》
・ 青は生命にとって大切な色。生物は海で生まれた。最初に見た色は青だったのではないか。生命の色である青には生命の美しさがある。大きなもの、母性、限りなく生命的なもの。雄大なすべてを包み込む色

・ 北斎は青と生命の関係に自覚的だった。生命は流れでありエネルギーである。北斎は晩年の傑作「怒涛図」の「男浪」「女浪」で青を動かした。止まっているが絵は動的であり動いているものとして表現している。青は動いているから美しい。あらゆるエネルギーのうねりが込められた、宇宙にまで届くかのような青。北斎は生命の色である青を使って、生命の存在を描いてみせた
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ベロ藍は、紺青(こんじょう、プルシアンブルー)。1700年頃、プロシア(当時)の都市ベルリンにおいて初めて合成に成功した人工顔料で、日本では、ベルリン藍がなまってベロ藍と呼ばれたそうです。

「冨嶽三十六景」の青の濃淡、互いに引き立て合う青と白、生きているかのような波、さらには晩年の螺旋状にうねる青。日本の青の表現、驚きでした。

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(日本の青を東博写真の中から探してみました。左は18世紀江戸時代の被衣。染分麻地松皮菱菊蕨模様。藍を基調にした染が人気/右は型染木綿地に刺し子を施した火事羽織です。粋ですね!)

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◆ パキスタン映画「BOL~声をあげる~」 ◆

パキスタン映画「BOL~声をあげる~」、2011年にパキスタンで公開。2012年に福岡での「アジアフォーカス・福岡映画祭2012」で上映され観客賞を受賞。その後、映画祭等で上映されましたが、すべて合わせても計6回と、観る機会がとても少ない映画でした。

「BOL」の監督であるショエーブ・マンスール氏は、2007年に公開された「Khuda Kay Liye/神に誓って」で世界的に高い評価を受けています。「神に誓って」は9.11後のアメリカでのイスラーム諸国出身者への非道、厳格なイスラム教徒の結婚観、過激派に引込まれて行く若者の心理などを丹念かつ重厚に描き、圧倒的。主人公がミュージシャンの兄弟という設定もあり、音楽も素晴らしい。上映会は08年でしたが、今も強く心に残っている映画です。

そんなマンスール監督の「BOL」ですから、観られる機会を待望していました。そして先日、ついに観ることができました!しかも、日本語字幕付きで。さらに当日は、日本語字幕の監修をされた麻田豊先生から、映画の背景となる考え方、風土、慣習などについての解説がありました!

ストーリーが複雑というよりも、登場人物たちの考え方や行動に「どうして?」という疑問符でいっぱい。観る前に解説頂いたおかげで、なんとか話についていけました。わかりやすく具体的なお話が聞けたこと、とても有り難かったです。

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(HP「アジアフォーカス・福岡映画祭2012」等から引用/妻と7人の娘たちは家に幽閉状態。お隣さんはシーア派、リベラル家庭。隣の長男役がcoke studioにも出演するアーティフ・アスラム:伝統医療は衰退し収入は減るばかり。売春地帯の親分がコーランの先生の話を持ちかけ、なんと親分の孫娘〜高級娼婦〜とこの厳格親爺が結婚することに!やがて女の子が生まれます:両性具有の末息子。純真)

父親を殺害した罪で死刑を宣告された伝統医療医の長女。最期の望みとして絞首台で記者会見を行うことを要求。自分の身の上を語り出すところから始まります。

インド・パキスタン分離独立、衰退する伝統医療、父親の圧倒的な権力、男性が女性を養うという考え方、男児願望、両性具有、女子に教育は不要という考え、外に働く場がない女性、警察の汚職と賄賂、パキスタンの売春地帯、教養があり礼儀正しい高級売春婦タワーイフ、スンニ派とシーア派の対立、宗教への妄信など、様々な問題が2時間半の中に盛り込まれていますが、最も大きいのは女性の生き方、人権ということかと思います。長女は「産む罪」を問いかけました。

家族に暴力をふるい恐怖支配する父親ですが、俳優の演技があまりに秀逸なせいか、感情移入してしまう面も。ラホールのモスク、古い住居が美しく、農村の風景も憧れます。パキスタン女性はクラクラするくらいの美しさ!世界一綺麗では?また、パキスタンの福山雅治とも言われるアーティフ・アスラムのシーンは明るく、音楽もいい感じでした。

(重厚で様々なテーマが織り込まれた映画。感想を書くのが難しく、なかなか書けません。日を改めて書ければ、、と思っています)

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◆ 青のfacebook、サマリー ◆

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<リシタン古皿 ウズベキスタン〜フェルガナ郷土史博物館展示品> <仁清が描く波の青 日本 色絵波に三日月文椀〜仁清/江戸時代、17世紀東京国立博物館所蔵品> <イズニック陶器 トルコ〜赤い素地の上に白い化粧土を掛け、コバルトブルーを主に、ターコイズブルーを効果的に用いながら、蓮、三つ葉模様、螺旋状の花模様等を描く> <フダーヤール・ハン宮殿のタイル ウズベキスタン>

今回写真が少ないので、フダーヤール・ハン宮殿のタイルをこちらでご紹介!

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<フダーヤール・ハン宮殿のタイル ウズベキスタン/コーカンド・ハン国は、18世紀後半から19世紀前半にかけてフェルガナ盆地を中心に栄えたチュルク系王朝。最盛期には清朝、ロシアと通商関係を結び、中央アジア最大の交易国に。しかし19世紀半ば過ぎにロシアが侵攻、やがてロシアの属国に。君主フダーヤール・ハンはロシア様式を取り入れた新宮殿を造営し国の再建と専制の増強をはかりますが、ほどなくして国は滅びました。14世紀から続く中央アジアの装飾タイルの伝統ですが、19世紀も後半になると周辺地域の色やデザインの嗜好が入り交じり、青よりも多彩色のインパクトが大。宮殿内のタイルの中にはロシア正教を思わせるモチーフもあり独特/mosaic tile on the gate of Khan's Palace=the Palace of Khudoyar Khan, built between 1863 and 1874/ Kokand is a city in Fergana Province in eastern Uzbekistan>
by orientlibrary | 2013-02-03 23:05 | 美術/音楽/映画