イスラムアート紀行

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望月真理さんのミラクル刺繍ワールド。眼福のカンタ、カシミール

刺繍家の望月真理さん、初めてお会いしたのは2004年の夏でした。手仕事好き仲間と訪ねた福島いわきにある真理さんの工房。広い縁側のある古民家、裏には竹林が。
先生のお弟子さんたちも集まってくださり、皆さん持ち寄りのいわきの海の幸を生かした郷土料理を美味しく頂き、会話も花咲き、夜は花火をして、、とても楽しい夏の旅でした。

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(望月真理さん作品)

そのとき拝見した真理さんのコレクションには圧倒されました。アジアの山岳民族、インド、バングラデシュの衣装や刺繍のすばらしさ。けれども拝見したのはごく一部。量もすごかった。
その後、「美しい世界の手仕事プロジェクト」(2008年7〜9月/4企画)という文化紹介プロジェクトをおこなうことになり、第1回に真理さんの「カンタ」コレクションと自作カンタを展示させて頂きました(2008年7月開催)。経緯を他のブログに書いています。

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(2008年7月/orientlibrary/ 「美しい世界の手仕事プロジェクト」より)
とても全部は見られず、一部だったのですが、拝見したもののなかにバングラデシュのカンタがありました。カンタ、、見たことはありました。素朴な民衆の刺繍という印象を持っていました。

望月さんのカンタも、同じように素朴で、手仕事のあたたかさがありました。でも、それだけではない、なにかとてものびのびしたものを感じたのです。どこか「突き抜けている」感じというか、、。

のびのびと描かれた自然や人々、ユーモラスでゆったりした感じ、チクチク刺繍を楽しんでいる様子。でも、そのおおらかさのなかに何か強いものがある。根本的な姿勢、視点のようなものがある。

とらわれず、ものごとを受容していく強さ、人生を肯定するたくましさ、否定しないあたたかさ、ユーモアで何かを乗り越えていく感じ。ほんわりしたテイストのなかに潜む駆動感や突き抜け感。自由、自由だと私は思いました。精神が自由なのだと思いました。

数あるカンタのなかから、望月さんが惹かれたもの、望月さんの眼が選んだもの。望月さんの個性、生き方と波動が重なり合うもの。セレクトされたカンタからあふれる、おおらかで自由な精神のありように、蒐集とはこういうことなのかと思いました。
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(真理さん作品のカンタ。大きな構図の中の小さな小さな動物たちですが、ついつい写真を撮ってしまいます)

真理さんは1926年生まれ、86歳。ヨーロッパ刺繍を学んだ後、カンタとの衝撃的な出会いがあり、東南アジアの山岳民族の刺繍に魅せられていきます。

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(真理さん文章 「カンタについて」)
インド、バングラデシュは、以前は国境がありませんでした。インドのウエストベンガル地方です。バングラデシュのジェソールあたりを中心として、カンタと呼ばれる刺し子が、かつて多くの家庭で作られていました。古くなって使用に耐えられなくなった木綿のサリーやドウティ(男性衣)を大切に保存しておき、目的に合わせて何枚か重ね、思い思いの図柄とそのまわりの空間も細かく刺し、ふとん、敷物、包む物等を作ったのです。これらは見事な民衆芸術の域にまで昇華しました。今ではこの仕事をする人もなく、この貴重な文化は途絶えてしまいました。

私が初めてカンタを知ったのは、1979年カルカッタの国立博物館で、その時の驚きと興奮は今も忘れられません。もちろん教科書もなく、作る人もいなくなり、十回に及ぶインド、バングラデシュの調査探訪が始まり、古いカンタを譲り受け、それを元に研究してまいりました。

カルカッタのグルサディミュージアム、アストッシュミュージアム、デリーの国立博物館は素晴らしいカンタがありますが、バングラデシュのダッカの国立博物館は数も質も見事な物ばかりです。この文化の途絶えるのを惜しみ、シルクロードの終点である日本で受け継いでいきたいと願っております。
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(2012年10月、4日間だけの開催だったコレクション&作品展。作品も多彩でアップしきれません。各地の技法の組合せ、日本の古布とのコラボ、韓国のポジャギ作品なども素敵です/上中右=家族四代の記憶と題された作品。真理さんのお母様の大島に真理さんが刺繍。絵はお孫さんが描いた絵を娘さんが拾い集めて保存したもの/下左は藍の古布、モン族の継ぎ合わせ)

真理さん、カンタとの出会い、53歳のとき、、それからの展開、すごい!
インドの雄大な絵を描いた画家の秋野不矩さんも、初インドは54歳。インドに魅せられ風景や自然、寺院などをモチーフに作品を制作。そしてインドにとどまらず、ネパール、アフガニスタン、カンボジアなどを旅した日々は、真理さんと重なります。インドからの刺激、大きいものがあるのですね。

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(真理さん作品カンタの細部)

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(柳宗玄さんの文章より)
家族のために心をこめて針を刺す。手間のかかる程愛情が布に移り、こうして作られた布は例外なしに見事である。
見方によれば雑巾の一種であるが、また見方を変えれば最高級の芸術品なのである。しかしカンタの時代はもう終わった。今も作ってはいるが、市販のけばけばしい色糸を用い、手間を出来るだけ省こうとする土産物である。
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柳さんの言葉、各地の手工芸全般に共通する部分もありますね。家族のためにコツコツと作っていたものに宿る美しさ。それが製品になったときにはどうしても効率が求められ変容していく。でも、土産物としての販売は貴重な現金収入になります。
またむしろカラフルで楽しく、期待される(わかりやすい)土地のイメージシンボルが入っている図柄の方が、旅行客に人気があるかもしれません。カンタだけではなく、伝統を今に生かす道として一つの流れになっているように思います。

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(真理さんコレクションより/上中はピーニャ(パイナップル繊維布)/上右はヨルダン/中左は透ける刺繍/中中はカシミール/帽子やミラー刺繍等)

サービス精神旺盛な真理さん、いろんな話をしてくださいます。
「(山岳の部族では)刺繍のできる女が敬われるのよ。刺繍の上手な順にお嫁に行く。なぜかというと、刺繍が上手ということは、根性がある、創造性がある、時間管理ができる、というその土地で暮らしていくのに大事な才覚があると考えられているから」

「刺繍は針と糸と布があれば、いつでもどこでもできる。手を動かすことに没頭できるって大事なこと。老後の趣味にはカンタが一番いいわよ」

「10年後にはどんなことをしてるかしらね」

わ〜、、 まいりました。日々老化を感じて溜息、、なんてついてる場合じゃないです、、ガツンです。

そして、じつは話が盛り上がって、、「仕方ないわね、秘蔵のものを見せてあげるわ」とバックヤードから出してきてくださったもの。ガツーン!カシミールの刺繍です〜!!!元々、こちら系が好きなうえに、素晴らしい逸品で、、先日のトルクメンのフラグメントに引き続き狂っちゃいました。。

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(カシミールショール。ペイズリーの刺繍が群生する植物のよう。藍色一色、凛と潔い作品)

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(カシミールショール。これ、熱狂しました。品の良い色合い、愛らしい花模様。洗練)

また袋に入れて封をして仕舞われました。ひとときの眼福眼福。

じつはこのショールに負けないくらい惹かれたのが、ボロボロになったカンタ。真理さんが「これを見て研究した」というカンタ。写真アップしようか迷いましたが、あまりに個人的な趣味なのでやめておきます。が、野趣ともいえるような強烈なパワー。まいりました。

アフガニスタンのことを書こうと思っているのですが、素晴らしいものを見るとついそちらが先になり、なかなか書けません。アフガンもウズも、もうかなり寒いでしょうね。日本も秋深まってきました。
by orientlibrary | 2012-10-28 23:29 | 絨緞/天幕/布/衣装