イスラムアート紀行

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ペルシア、ムガルの草花愛好から生まれた「ペイズリー」

ペイズリー、あの先方がちょこっと傾いだ感じに惹きつけられます。ずっと気になる存在。
装飾タイルや中東、中央ユーラシアあたりが、気になりかけていた頃、松濤美術館(東京・渋谷)で見た「ペイズリー模様の展開 ーカシミアショールを中心に」(1993年)。自分が「このあたり」のものに惹かれる傾向があることを自覚しました。

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(「ペイズリー模様の展開 ーカシミアショールを中心に」図録より引用/カシミールショールの裾に施された草花模様、17世紀後半、綾地絹織)

とくに、ペルシアの花模様「ボテ」、インド・ムガル朝の花模様「ブータ」の神秘的な清楚さに魅了され、ブータからカシミールショールにあらわれたペイズリー模様への変化にドキドキしました。
けれども、(時代の美意識もあるのでしょうけれど)19世紀中頃からの過剰なまでに濃密になったペイズリーは苦手。ヨーロッパの洗練されつつも濃厚なタイプも苦手。
装飾タイルと同じで、生命力があり、生き生きして、ピュアで、どこかかわいいものが好きです。それが自分にとっての「きれい」。

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(文化学園服飾博物館ホームページより)

文化学園服飾博物館(東京・新宿)で、「ペイズリー文様 発生と展開」が開催中(3月14日まで)。
ペルシア、ムガルから中央アジアや日本、ヨーロッパなど、世界のペイズリーが一気に見られてペイズリー好きには、とてもうれしい展覧会でしたが、残念ながら図録がないので、記憶にとどめるのみ。

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(左:掛布(部分)インド、19世紀末/右:ショール(部分)インド・カシミール地方、19世紀初期/文化学園服飾博物館ホームページより引用)

まだ少し展示の記憶があるうちに、自分の手持ちの写真や布で<ペイズリー讃歌>を。

と、その前に少しだけ。起源は、イラン・サファヴィー朝の花模様にあると言われます。それがインドのムガル朝に伝わり、宮殿などに描かれた花模様が王侯貴族のショールにも。当初は、大地に根を張り風にそよぐ一輪の花、それが次第に花が密集した灌木の姿になり、根の代わりに花瓶が描かれるなどしていきます。

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(タージマハルの大理石レリーフ。固い石とは思えないほど優美に花模様を表す。しっかりと大地に根ざしている。17世紀頃)

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(ムガルの花模様。根が描かれている。たぶんジャイプールのアンバー城?)

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(ムガルインドの花模様を再現したサンガネールのブロックプリント(木版捺染)。固い木に細密な線を彫り出し精密に捺していく。一本の清楚な花、大地を感じさせる根がついている/orientlibrary)

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(カシミールショールの17世紀頃の花模様を思わせるサンガネールのブロックプリント。風に揺れるように少し傾いでいる/orientlibrary)

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(糸杉、生命の樹?ペイズリー的にも見える。透ける白地が涼しげ。orientlibrary)

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(サンガネールのブロックプリント。花や灌木が一つにまとまり少し傾いだり壺に入るなどしてくる/orientlibrary)

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(インド更紗、型/18〜19世紀/鳥のような動物に襲いかかるライオンと孔雀。その周りには大小の花をつけた花唐草が隙間なく配され、両端にはペイズリー模様をあらわす/東博にて撮影)

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(肩掛け/赤紫地ペイズリー花文様絞り/インドネシアスマトラ島バレンバン/20世紀初頭/インドネシアのペイズリーはインドのものとは逆さまに描かれる/東博にて撮影)

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(イランで購入した飾り布。草花がびっしりぎっしり詰まったペイズリーがぎっしり並び重量感大。orientlibrary)

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(オスマントルコの女性の衣装。バックルがペイズリー。重厚カワイイ)

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(オスマントルコの女性の衣装とバックル。少しペイズリー入ってる?きっと世界中で流行したんでしょうね!)

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(バングラデシュの刺繍布カンタ/望月コレクションより/自由でノビノビした模様。色もカラフル)

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(同上。愛らしさや動きからミジンコを連想!?)

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(タイルではペイズリーはこれまで見た経験がないのですが、、滴形が近いかな。滴形はタイルの模様にたくさんあり!)

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(ウズベキスタン・リシタンの青の陶器。これはペイズリーというより唐辛子だと思いますが、、)

中央アジアでは、この傾いだ水滴状の模様は、アーモンド、唐辛子などとも言われます。ウズベキスタンの織物「アトラス」「アドラス」にも多数登場。
ヨーロッパでは、球果や松かさ(多産や豊穣の象徴)とも。日本では、勾玉模様とも呼びますよね。

なぜ、ペイズリーと呼ばれるか、は、産業革命期のイギリスのペイズリー市で機械織りのカシミール風のショールが大量生産されたため。
ペルシア生まれ、ムガル育ちの模様なのに、ヨーロッパの地名がついても意外と違和感がないのは、(個人的な見解ですが)ペルシアのPが入っていること、ムガルなどのLが入っていることで、オリエンタルなニュアンスがあるからだと思います。^^

ペルシア、ムガルの植物愛好、自然観、生き生きと描く美的感性、それを「根」として花開き、世界で愛されるようになったペイズリー。あらためて、いいなあと思いました。
寒さは続きますが、立春頃らしく花のトピックでした!
by orientlibrary | 2012-02-05 19:18 | 絨緞/天幕/布/衣装