イスラムアート紀行

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1990年代、ウズ陶芸激動の時代を支えた「平山郁夫ウズベキスタン陶器コレクション」

昨年秋、横浜のシルク博物館で「平山郁夫シルクロード美術館コレクション 豊穣なる色彩 ウズベキスタンの布と器」を見ました。とても充実した展示で、見応えがありました。
とくに、シルクロード染織の代表ともいえる「経絣」の衣装や布が見事。華やかな色彩と大胆な文様を存分に楽しみました。

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(展覧会チラシ)

陶器展示は、自分にとって馴染み深いリシタンの作家の作品の他、タシケント、サマルカンド、ホラズム、キジュドワン、アンディジャンの皿や壺が展示されていました。クレジットには「20世紀」とあります。

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(リシタンの彩画文皿/図録より引用)

これまでウズベキスタンの陶器を見てきていながら、知らなかったことがありました。今回、図録を読み、知りました。まだまだ、です、私。

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<ウズベキスタンの陶芸の現在、そして平山郁夫コレクショ>(「ウズベキスタンの歴史と文化」/元ウズベキスタン共和国大使 孫崎亨氏/図録〜発行は2009年3月〜より引用、一部要約)

(孫崎氏が赴任された1993年頃、ソ連から独立したばかりのウズベキスタンの経済・社会は大変に混乱し、人々の収入も10分の1になるほどに激減。陶芸等の美術品を買う人がまったくいなくなり、これが陶芸家を直撃した。次々に窯が閉鎖されていた。ちょうどこの頃、平山郁夫先生がウズベキスタンを訪問された)

私から平山先生に、ウズベキスタンの美術界が困っていること、特に伝統ある陶芸が消滅しつつあることを伝えた。

平山先生から即座に資金を渡された。その資金で購入したのが、今日平山郁夫コレクションに加わったウズベキスタン陶器である。

今回のウズベキスタン陶器のコレクションは、平山先生の他のコレクションと少し趣を異にする。それは美術品の収集だけではない。ギジュドワン、タシケント、リシタンと、まさに崩壊しつつある陶芸活動を支えたという点がある。


その後、援助を得て、九谷焼の陶作家とリシタンの陶作家が互いの窯を訪問するなど、平山郁夫先生団長の政府文化派遣団の影響は続いた。こうして、九谷焼の技法がリシタンの作家に影響を与え、ウズベキスタンの風土が九谷焼の作家に影響を与えるという双方向の交流が実現したのである。

中央アジアの陶芸は長い伝統の上に、色、文様の面で多様性を有している。多くの人が中央アジアの陶芸に関心を持ち、それが伝統文化の維持に貢献することを強く期待している。

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じつは以前、他の博物館で、平山さんのウズ陶器コレクションを見たとき、複雑な気持ちでした。「もっといいものがあるのでは?」との疑問があったのです。「コレクションなのに、なんで20世紀とか1990年代のもの?それなら平山さんでなくても、一般人でもできるのでは?」とも思っていました。
上の事情や背景を、まったく知らず、想像さえしていませんでした。恥ずかしいです。

90年代の半ばから、平山さんと同じように、陶芸産地や作家を支えた方がありました。大崎重勝さん、紀子さんご夫妻です。(詳細はここでは記さないことにします。ご関心がある方はこちらをごらんください。)現在友人のT氏が所蔵管理されているコレクションから、数点をご紹介します。

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(1990年代と思われるリシタン陶器。カリグラフィー主体ですが、色合いも良く、スッキリしたいい作品だと思います。大崎氏が蒐集されたものを、現在T氏が保存管理されています。大崎さんは陶芸コレクターということではなく、支援の気持ちでたくさんの作品を買い、当時の産地や作家を支えた方です)

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(1990年代と思われるリシタン陶器。大崎氏蒐集。素朴な印象ですが、上の図録の作品と似たニュアンス。この後、破竹の勢いでリシタン陶器が進化していきます)

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(リシタン陶器、Tさん所蔵。2000年代でしょうか。中国風の魚と藻、花が渋い!絵付けが細かく、深くなってきているように感じます)

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(この青の色合いやザクッとした絵付けも大好きです!!リシタンのウスマノフ工房内私設ミュージアムにて。陶芸家による蒐集品)

孫崎さんの文章に、九谷との交流のエピソードがありました。リシタンの陶芸家アリシェル・ナジロフ氏は1994年に九谷の工房で、九谷の絵付けを学び、相互の技術やデザインの交流がありました。

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(アリシェル氏が九谷で制作した染付皿。ウズ風でもあり、生き生きとした魅力ある作品です)

平山先生、孫崎さん、どうもありがとうございました。今、リシタン陶器の工房では、盛んに美しい青の陶器が作られ、ウズ国内はもちろん、中央アジアのミュージアムショップや土産物店で見るのもリシタン陶器。ヨーロッパや日本からの観光客もリシタンを訪れます。

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(リシタンの工房にて。絵付け場の光景)

青の魅惑 イラン・トルコ・ウズベキスタンのやきもの」でも、ウズベキスタンの陶芸作品、好評です。

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(「青の魅惑」ウスマノフ工房展示作品)

やきものは、美術品であり日用品なのですが、歴史や社会、経済と切り離せないもの。そのなかで発展し、停滞し、消滅の危機に陥ることもあり、また新たな舞台を得て飛躍していきます。

日本とウズベキスタンの交流は、初代ウズベク大使以降歴代大使がやきものを愛好されたこともあり(このあたり、日本ですね〜!)、陶芸を一つの契機にして深まってきた面があると感じています。
美しいもの、手仕事の技、美的感性の交感などを通じて、人と人が、国と国が、良き交流を続けていければと思います。

陶芸の写真ばかりだったので、最後に元気な光景を一枚。葡萄棚と少女です。

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by orientlibrary | 2012-01-21 23:24 | ウズベキスタンのタイルと陶芸