イスラムアート紀行

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ハーブ&ドロシー、ものを選ぶちから (movie:[herb&dorothy])

新しい年となりました。今年もどうぞよろしくおつきあいくださいませ。

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あるドキュメンタリー映画のお話から始めたいと思います。タイトルは、「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」。

数年前の「美しい世界の手仕事プロジェクト」以来、日本にも数多くの「コレクター」がいらっしゃることを知り、その情熱に触れる機会が増えてきました。そして市井のコレクターが長い年月をかけて蒐集されたコレクションの行方にも関心を持つようになりました。

コレクターの方々の子供世代孫世代にとって、思い入れの詰まった膨大なコレクションを引き継いでいくのは大変なことだと思います。博物館や美術館で保管されるのが最も良いのですが、館でも収蔵場所や予算に限界があり、運良く所蔵されても展示機会もそう多くはないでしょう。
遠い国々から日本にやってきた素晴らしい手仕事の数々を見せていただくにつけ、何かいい方法はないかなあと思いを巡らせるのですが、、。

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(公式サイトより)

「ハーブ&ドロシー」のヴォーゲルご夫妻〜ハーブさん(1922年生まれ)、ドロシーさん(1935年生まれ)〜は、ニューヨークに住む稀代の現代アートコレクターです。
現代アートというだけで少し引いてしまう私には、そのコレクターならば「お金持ちで、ちょっとスノッブ」というような先入観がありました。

ところが、このご夫妻は結婚以来住み続けている1LDKのアパート暮らし。ハーブは郵便局員を勤め上げ、ドロシーも図書館司書を定年退職。現在は年金で暮らしています。このお二人の行動がスゴいのです。

「二人は1962年に結婚。アートに関心の高かったハーブは独学で美術を学び、アートには興味がなかったドロシーも実務面でハーブをサポートしながら二人で共にミニマル、コンセプチュアリズムを中心とした現代アートの作品をコレクションしてきた。毎日、いくつもの展覧会に出かけては、アーティストと友人のように交流しながら、新しい作家を精力的に発掘。ドロシーの収入を生活費にあて、ハーブのお給料を全て使って作品を購入する生活を40年にわたって続けた」
「やがてマンハッタンの1LDKのアパートが“楊枝1本の隙もない”ほどとなり、最終的に4000点ものコレクションを築き上げる。1992年、コレクションの全てをアメリカ国立美術館ナショナルギャラリーに寄贈することを決意。1000点余りは同美術館の永久保存に、そして残りの作品群は、アメリカ史上でも最大規模のアート寄贈プロジェクト『ハーバート&ドロシー・ヴォーゲル・コレクション 50×50』として全米50州の美術館に50点ずつ、合計2500点寄贈された。その類まれなるコレクターとしての資質とアートに対する真摯な生き方は全世界で多くのメディアに紹介され、話題を呼んだ」(公式サイト)

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(公式サイトより)

とにかく仲の良い二人。コレクションが生活空間のほとんどを占める(本当に“楊枝1本の隙もない”ほどの空間!)アパートの小さなテーブルに向かい合って慎ましく暮らし、互いを尊敬し、慈しみ、高齢となった今は文字通り手を取り合い支え合い、なお精力的にギャラリーに足を運び、鋭い眼差しで作品を見つめ、作家と温かい交流を続けています。このお二人の様子、会話、笑顔が本当にいいのです。

「二人は狭いアパートに集めた4千数百点ものアートを売ったことがない。アートバブルも暴落も無縁だった。多くの美術館から譲渡の申し込みがあったコレクションを寄贈されたナショナルギャラリーは、“緊急時に二人が作品を売らなくてもいいように”謝礼を支払ったが、夫妻はギャラリーに還元すべくその金でも作品を買ったという」(朝日新聞)

コレクションを選ぶ基準はふたつ。「自分たちのお給料で買える値段であること」、「1LDKのアパートに収まるサイズであること」。地下鉄で持って帰れないものは買わない二人。
作家の内面や作品の変化に迫った膨大なコレクションは、ニューヨークの現代アートの歴史をつなぐ貴重な資料となっているそうです。

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(公式サイトより)

もうひとつの驚きは、この映画の監督が日本女性だということです。
「この現代のおとぎ話に衝撃を受けた佐々木芽生監督はふたりの姿を追ううちに、これは現代アートについての映画ではなく、豊かな人生を考える映画になると確信。ニューヨークでは口コミで感動が感動を呼び、17週のロングランを記録、その後、世界の映画祭で賞賛され大きな注目を集めた」(公式サイト)

「彼らのもとには、それまでに何人もの著名な監督が訪ねていた。「二人はいちども撮影依頼を断ってないそうです。でも『お金ができたらまた来る』と言って、戻ってきた人がいなかった。私はまったくの素人だから、お金を作ってから撮るという発想がなかっただけ」」「制作途中でハーブの健康状態が悪化、助成金や個人の寄付のほか制作費の足りないぶんは自宅を抵当に借り4年かけて完成させた」(朝日新聞)

佐々木監督、素晴らしい!!純粋に好きなことをやり通すハーブとドロシー、そして細やかで大胆な仕事を成し遂げた日本人女性・佐々木さんに大きな大きな拍手を贈りたいです。新年にこの映画と出会えたことに感謝します。

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(ウズベキスタンの刺繍布スザニ。力強い構成と明るさ。今年も元気にいきたいですね!)

自分ではうまく書けないので、長いですが松浦弥太郎
さんのメッセージ(公式サイト)を引用したいと思います。この映画の本質が伝わる骨太のメッセージだと感じました。↓

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「ニューヨークで暮らすには、何が必要ですか?」
ある日の朗読会にて、絵本作家のジェイムズ・スティーブンソンに、こう訊いたことがあります。
すると、「ニューヨークでは、お金が絶対に必要と言う人がたくさんいるけれど、決してそうではない。この街で必要なのは、何よりも友だちを作るちから。友だちを作るちからがあれば、世界中どこに暮らしても、きっとしあわせになれるだろう」と答えてくれました。

友だちを作るちから。
『ハーブ&ドロシー』を観て、僕はこの忘れかけていた言葉を思い出しました。そう、暮らしに大切なのは、何よりも友だちを作るちからだと。
友だちを作るちからとは、よいところを見つけるちからです。ここで言う友だちとは、人だけではなく、動物や植物はもちろんのこと、道具やモノ、自然など、身の回りにあるものすべてです。

よいところを見つけたとき、人は誰でも感動をする。感動すれば、人はそれを隠すことはできません。言葉や表情、行動で、その嬉しさが湧いて出る。湧いて出るものは、言葉で表すことのできない魔法のような、まわりをしあわせにするあたたかい何か。
たとえば、人と出会ったとき、相手のよいところを見つけることができれば、よいところは自分の好きでもあるから、そんな魔法があれこれと作用して、きっとすぐに仲良くなれるでしょう。人間でも動物でも植物でも、コップでもやかんでも、シャツでも帽子でも、毎日、それらのよいところを見つけてあげれば、そのすべては自分にとってのよき友だちになるでしょう。

よいところを見つけるちからとは、ものを選ぶちからでもあります。
現代の情報化社会にて、すでに誰かが選んだもののなかから何かを選ぶのではなく、それこそ自分だけの友だちをつくるように、自分の目で、本質を見極めて、ほんとうによいものを選ぶこと。そのためには、どんなものでも食い入るように、しっかりと見ることが必要であり、よいところの最初の発見者でありたい。そうして友だちへの道はできるのです。

ハーブとドロシーの暮らしは、アーティストとその作品という、友だちとの強いきずなで作られています。
毎日のように、よいところを見つけ、選び、彼らはどんどん友だちを増やしていきます。あるときは喧嘩もするでしょうし、失敗もあるでしょう。そうやって、お互いの成長を分かち合っていく。また、友だちだからこそ、よくないところはきちんと言葉にし、よいところは褒める。あるときは欲張りにもなる。そのかわり一度友だちになったら、自分がされて嫌なことや、裏切ることは決してせず、一生、友だちでいつづける。それがほんとうの友だちです。

幼いころ、初めて子どもたちの集団のなかに入っていったとき、胸をどきどきさせながら、その誰かを選んで、お互いの心を少しずつ開きながら、友だちになっていったわくわくした気分を思い出します。僕はあの頃の友だちを作るちからという魔法を今でも忘れられません。
しあわせで豊かな暮らしとは、お金が必要なのではなく、友だちを作るちからが授けてくれるもの。
『ハーブ&ドロシー』は、ニューヨークで暮らす夫婦の、一生をかけた友だち作りの記録です。
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今年も、タイル、青、陶器、中央アジアの人と暮らしなどについて書いていきたいと思います。
よろしければまたお立ち寄りくださいませ!^^

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(タイル教室、さぶ先生が六角形タイル絵付け&カリグラフィーの試作を制作中。私も今年は多角星と十字の絵付けからスタートです☆)
by orientlibrary | 2011-01-04 23:06 | 美術/音楽/映画