イスラムアート紀行

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夏映画その2/「ペルシャ猫を誰も知らない」&ペルシャ工芸

前回「夏映画その1/「ソウル・パワー」&クバ王国の布」と一緒に書いていましたが、長くなったので分けました。だから、その2です!)

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(イラン・タブリーズ/ブルーモスクのタイル)


「酔っぱらった馬の時間」で泣き、「亀も空を飛ぶ」で泣きました。そのバフマン・ゴバディ監督の最新作「ペルシャ猫を誰も知らない」・・これがテヘラン?とびっくりするようなストリート感やスピード感があふれる映画なんですが、だからこそラストシーンが重い。声高に言わないからこそ、制作者や若者たちの思いに共振しました。

〜〜〜〜〜
あなたと歩いていきたい 霧の街を抜けて 緑の枯れない国へ
あなたと家にいたい そこには窓があって海が見えるの
庭には木を植えブランコを置きたい
大きな椅子に二人で座り 一緒にくだらない番組をテレビで見るの
ベッドでぐっすり眠りたい 太陽が出るまでもう一度
幸福がいっぱいのグラスに食べ物がいっぱいの皿
手巻きの時計は壊れて動かない 毎日が今日のままで明日が恐くないように
〜〜〜〜〜

最後に流れる歌です。若い女の子が夢見る光景。他愛もないようなささやかなシーンだからこそ、それがかなわない現実を思います。

「好きな音楽をやりたいだけ」。そんな若者たちが人目を避け、街の死角のような場所を必死で探しながら音楽を続けています。コンサートをおこなったりCDを出したりするには、「イスラム文化指導省」の許可が必要なのだそうです。

出演者の大半は実在のミュージシャン。彼らは何度も逮捕されながら音楽を続けています。といっても、反体制活動家といった気配はまったくなく、上流階級の育ちのいい若者たちといった感じ。たぶん音楽ってものが、とにかく好きなんです。
ストーリーもほとんど実際の経験に基づいており、主役の二人は撮影が終了した4時間後にイランを離れイギリスへ渡りました。

撮影自体、当局の許可がおりないなか、小さなカメラでゲリラ的に撮影。なんと17日間で撮影したといいます。(うち2日間は警察に連行され撮影できず)。小気味良いくらいのスピード感は、そのせいもありそうです。現実的にホントに必死だったんですね。
(*イランでは映画製作は指導省に脚本を提出して許可を得た後、当局帰属の35ミリカメラが使用できるという流れだそうです。ゲリラ的手法に至る経緯は傲慢な「ザ・コーブ」と根本的に違います)。

書きたいこと、たくさんあるんですが、、作品については公式サイトの「作品紹介」を。

ミュージシャンがたくさん登場。シンプルなロックからフュージョン、ラップまで多彩。イランの音楽シーン、アンダーグラウンドにありながらしっかりと息づいています。公式サイトの「キャスト」で出演ミュージシャンたちを紹介しています。
出演者中唯一のプロ俳優である「ナデル」役のハメッド、最高!映画のビートを刻んでます。
好きな音楽がたくさんありました!ナジャフィヤーン、ダールクープ、ミルザー、ヒッチキャス、so cool!!

ゴバディ監督は現在イランを離れており、6月の来日もかなわず

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(東京国立博物館展示品/イラン色絵人物文鉢/12〜13世紀/ミーナーイ手/楽器を演奏する人の姿)

音楽や踊りや人々の表現活動を規制しないで欲しい。
イスラムの名の下に、規制するのはやめて欲しい。

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(テヘランのガラス博物館展示品/12〜13世紀)

他国のことをとやかく言うべきではないかもしれませんが、イスラムの名の下にそれがなされていることは、イスラムのタイルや工芸に心底惹かれている私には、とてもとても残念だし、悲しい。音楽も好きだから、シンプルに「音楽したい!」という若者の気持ちもストレートに伝わる。

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(タブリーズにあるアゼルバイジャン博物館展示品/ラスター彩皿)

詩の国イラン、アートの感性が突き抜けて素晴らしいイラン。
イスラムと音楽は相反しないはず。
イスラムは個々人の表現を包容する大きなもののはず。
今はイランの悠久の歴史の中のひとつの時期なのかもしれないけれど、次のステージになりますように、と日本の片隅で願っています。かの地で、ゆたかで艶やかな芸術の花が咲き誇りますように。


*追記:主役の二人、アシュカンとネガルは、現在ロンドンで音楽活動をしているようです。彼らのfacebookには多くの人が訪れ、youtubeには演奏光景もアップされています。イラクのクルド人自治区にいるゴバディ監督はskypeでインタビューに答えています。止めようとしても止められないものがある、隠そうとしても情報を巡る環境が以前とは違う。そのことは確かだと思う。WikiLeaksなるものも登場しています。工夫と知恵とチャレンジで表現の自由がいい方向にいって欲しいなと思うし、自分も情報への理解力やスキルを高めなくてはと思う2010年の夏なのでした。
by orientlibrary | 2010-08-10 12:16 | 美術/音楽/映画