イスラムアート紀行

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工芸の眼福、秋冬の美術館から

秋は力の入った展覧会が多いなあと思っているうちに、12月も後半に。あまり見ていませんが、このあたりで一度メモしてみたいと思います。

◆ 新根津美術館、茶と庭と ◆

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(展覧会チラシ)

まず、『根津青山の茶の湯 初代根津嘉一郎の人と茶と道具』(根津美術館)。久々の根津です。新装工事のため3年半の休館を経て、今年10月にオープン。都心の静かな庭のファンも多かったと思いますが、今回、新しい展示施設との融合で庭も開放感のある明るい印象になりました。丹精された樹木や折々に配置された美術品の枯淡な気配と、若々しい施設デザインやカフェが心地よく融和。美とともにある満たされた時空間を味わいました。

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(入り口から漂う自然感やもてなしの気)

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(施設へのアプローチ。竹の黄色と緑でおだやかな気持ちに)

入り口からのアプローチは竹と緑を用いて自然感の高いもの。隈研吾さんが手がけた外苑前の「梅窓院」を思い出しました。隈さん設計の和風の家屋を思わせる本館は、大屋根がどっしりとして平屋のように見えますが、地上2階地下1階建て。エントランスのホールには、仏頭や仏像が庭の緑を背景に展示されています。仏様たちも、なんだかのびのびと気持ち良さそうに見えます。

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(展示が茶道関連だったこともあるのか着物姿の方が多かった。庭に向かう小径)

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(ホールでの仏教彫刻展示。庭が見渡せる開放的な展示空間)

展示も見やすく、博物館独特の堅苦しさや見づらい感じがなく、快適でした。発光ダイオードやファイバースポットなど最新技術により作品の鑑賞に適した調光が可能になったそうです。「ガラスを通してとは思えないほど、間近に作品をご鑑賞いただけます」とガイドブックにありましたが、言われてみれば、ガラスがもたらす遠さ感が少なかったような気がします。

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(鼠志野茶碗/銘:山端、美濃、桃山時代/展覧会チラシより)

茶道具、好きでしたね〜。茶碗が良かったです。瀬戸や黄瀬戸、15〜16世紀の朝鮮のものが目につきましたが、素朴で洗練された落ち着きが、本当に好みでした。ベトナムなど東南アジアのものも取り入れられていましたが、茶の空間に合う色合いと形でとても魅力的でした。

メインの特別展の他、「雪見の茶」「仏教彫刻」「蒔絵」「古代中国青銅器」など、併設展示もそれぞれ見応えがありました。

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(併設展も見応えあり)

実業家の初代根津嘉一郎さん(東武鉄道などを経営)、金銭的な条件だけでなく、美術が好きで見る眼があったんですね。また「社会から得た利益は社会に還元する義務がある」という信念を持っていたそうです。さらに、ときには揶揄されることもあった大胆な蒐集行動の背景には、当時の日本工芸品の海外流出を少しでも阻止しようとの思いがあったとも。

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(庭に置かれた味わいのあるものたち。象?鼻は木製、鉄で留めてあった。塔をかついでいる?)

大原美術館、大倉集古館、三井記念館、五島美術館など政財界出身のコレクターによる施設、たくさんあります。大きく稼いで大きく使う、という感じでしょうか。一部の人のものだった文化やきれいなものを庶民にも見られるようにした、その心意気は粋。時代が違うのかもしれないけれど、今どきの富裕層もヒルズにこもらないでカッコいいお金の使い方をして欲しいと思ったりします。


◆ 和の大胆と繊細 展覧会いろいろ ◆

その他、このようなものも見ました。

『ユートピア 描かれし夢と楽園』(出光美術館)
*「日本美術を見渡してみると、夢や楽園を主題とする作品が大いに広がっていることに気づかされます。本展では日本美術の絵画・工芸において、“ユートピア”観が古来どのように享受されてきたかを探るべく、4つのテーマから企画構成しました」。
*鎌倉時代から江戸、近代に至る工芸、絵画の優品を紹介していました。花鳥の豪華絢爛な夢の園、気品ある色絵で描かれた吉祥文様、布袋さんが眠るユーモラスな絵画まで、人々の憧れの世界がありました。イスラム美術でのユートピアを調べようと思いつつ、そのままになっています。

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(展覧会チラシ)

『美しの和紙 天平の昔から未来へ』(サントリー美術館)
*「天平の昔から現代まで、和紙を媒介とした多岐に亘る表現の数々からは、人々の活動の足跡を知るとともに、日本人の美意識が見えてきます。
本展では、和紙の発展を促した写経をはじめ、今に伝わる伝統的な造形、暮しの身辺を潤した品々などを展示します」。
*いちばん興味深かったのが「造り花」。お寺などの行事の際に捧げられるもの。紙による花の表現は花の特徴をつかみ独特の魅力がありました。

『冷泉家 王朝の和歌守展』(東京都美術館)
*「冷泉家は、歴代が宮廷や武家の歌道師範をつとめた家柄です。現存最古の公家住宅である同家の蔵には、800年の伝統のなかで集積されてきた勅撰集、私家集(個人の歌集)、歌学書、古記録などが収められ、いまなお「歌の家」として尊崇を集めています。冷泉家が守り伝えてきた貴重な典籍や古文書類の精髄をお目にかけるのが本展です」。
*古今和歌集や名月記など、著名な歌の本、とにかく書が流麗で見事でした。ことば、うた、と美術が合わさって、和ってすばらしい!

『三井家のきものと下絵 円山派がもたらしたデザインの世界』(文化学園服飾博物館)
*「三井家旧蔵のきものと下絵は、(中略)、円山派の絵画理念である写生にもとづいた形体表現や、三次元的空間表現がデザインの随所に見られます。これらのデザインは、刺繍や絞り染、摺箔などの贅沢な染織技法によって表現され、服飾史においては裕福な町人階級の特別なきものとして位置づけられています」。
*着物の形の上に描かれた下絵は、もう一幅の絵画。その下絵をもとに、大胆な構図がバシッと決まった着物の染織技法は繊細で素晴らしく、うっとりと拝見しました。

日本の美術や工芸、その厚みと深みに惹かれます。私の場合、その入り口はイスラムの工芸や美術でした。巡り辿りしているうちに、日本の美と新たに出会った感じがします。


* 4年4か月続けてきた「イスラムアート紀行」、いろんな思いもあり、しばらくお休みしようと思います。イスラムタイルのこと、建築のこと、工芸のこと、これ書きたい!!言いたい!!とフツフツしてきたとき、リフレッシュして再開したいと思います。ジワジワ考えて、瞬間に決める私。今、瞬間に決めました。またお目にかかれる日も瞬間「書きたい!」であっという間の再開かもしれませんが、、こんなに気まぐれで本当に申し訳ありません。ブログを読んでくださった皆様には、心からのお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。またお会いできますように。どうぞお元気で。皆様、良いお年をお迎えくださいませ。ありがとうございました。

*もうひとつのブログ「美しい世界の手仕事プロジェクト」は、ゆるゆるぼちぼちとやっております。

by orientlibrary | 2009-12-16 23:38 | 日本のいいもの・光景