イスラムアート紀行

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月を愛でる日本の感性、そしてイスラムの月と星

「発掘!かっこいいニッポン」をテーマにする『COOL JAPAN』(NHK)という番組で、「月」を特集していました。月・・当たり前にあるもの、毎日何気なく見ているもの、、これが特別?と思い、見ていましたが、月に親しい感情を持ち美しさを愛でる日本独特の感性に気づき、また各国から来日して日本で暮らす人たちの視点がおもしろく、いろんな発見がありました。そして、月といえばイスラムだよね!日本と近い感覚なんだよね!と調べた結果、意外なことに、、

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(クニャウルゲンチ(現トルクメニスタン)・トラベクハニムモスク天井のタイル装飾。宇宙を表すと言われている)

◆ 月見、ウサギ、かぐや姫、月の砂漠、月光写真、、◆
番組は、<月にまつわる商品や習慣><日本建築の中の月><月光写真>の3部構成。「月は形が変わるからおもしろい」と言う男の子。「月に見守られているような気がする」という女性。連想するものとして「月の沙漠」「ウサギ」をあげる人等々。日本人は月について違和感なくスムーズに語ります。建築に月を取り入れる工夫にはびっくり。

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(月見に見立てた座敷。丸い部分が月を表す。富士山の掛け軸と。丸い部分には黒い絹布が貼ってあり夜には後ろにロウソクを灯して月らしさを演出するという懲りよう。この建物では月を庭の池に映しその光を反射させ天井に水のゆらぎを写すという工夫も。とことん月に魅せられたのかも/テレビ番組を撮影)

印象的だったのは、月についてのイメージの違い。日本では、月は身近な存在で親しまれており、良い印象。ところが欧米では、狼男、魔女を連想するなど、悪いイメージなのだそうです。たとえば、「不吉、孤独のイメージ。ネガティブで悪いイメージ」(スペイン)、「満月の夜には警察や病院が満員になると言われ悪いイメージ」(アメリカ)。

アジアでは違いました。インドネシアでは「女性を褒めるときや女性の名前に使う。たとえばチャンドラという名前は夜の月(暗闇を照らす美しいもの)という意味」。マケドニア(アジアではないけれど古代的センス)では、「古代マケドニアでは女性は月の形のイアリングをしていた。月は女性を守ってくれる」。なるほど、月が女性と関連するのは、なんとなくわかります。日本でも「かぐや姫」は月に帰っていきますし。

月見も日本だと当たり前の感覚ですが、月夜には「満月を照明として踊り明かすパーティ」(ニュージーランド)、「月と炎でキャンプファイアー」(ブラジル)、「満月の夜の闘牛」(スペイン)などアクティブ。「外を歩いていれば見えるのに、どうしてわざわざ月見をするの?」という率直な疑問も。

一方アジア組は、すんなりです。「庭で少人数で月を見ておしゃべりする」(マケドニア)、「バリヒンドゥーでは毎月、新月と満月の夜にお祭り。宇宙から良いエネルギーをもらう」(インドネシア)と、月への憧憬や親しみが感じられます。

日本の「月見そば」・・卵の黄味が月、白身がおぼろ、かまぼこが雲、海苔が大地等、絵画的な見立て。こういうの得意ですよね〜、日本って。在日外国人ゲストたちは、「普通は蕎麦と卵としか言わない」「ユニークな想像力」。さらに”月にはウサギ”を切り口にしたお菓子や雑貨については、「クールというよりキュート」「子どもっぽい」「かわいいものが好きな日本人らしい」と、繊細さに驚きながらも、少し引いてました。

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(月見そば。月や周囲の自然を表す日本的な見立ての世界/テレビ番組を撮影)
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(月から連想するのはウサギ。かわいさもあって人気のモチーフに/テレビ番組を撮影)

月見バーガーも日本独特。英語では目玉焼きは「sunny side up」。欧米は太陽が身近、日本〜アジアは月が暮らしの中では、より身近なのかも?「月は満ちたり欠けたり自然のリズムがある。魔法的な力があり昔はどんな国の人も惹かれていたはず。農耕民族の農業のリズムと関連があり、日本人は月との関係が深い」と番組の解説がありました。たしかに昔の暦も太陰暦で月の満ち欠けが基準。本来は月のリズムが人に合うのかもしれないと、ふと思いました。


◆ 月はイスラムのシンボル? ◆
月の番組を見て、よし!ブログのテーマは月!イスラムも月と星がシンボルだし、と考えた私。さっそくタイル装飾やイスラム美術の中の月のモチーフや表現を求めて、手持ちの写真集、本をどんどん見ていきました。

ところが、、ない、、ないのです。タイル〜建築関係でも、トルコのモスクなどの尖塔に三日月があるのを見るくらいです。タイルにはなくても細密画にはあるよね?ない。布や衣装は?ない。壁画は、ミラーワークは、漆喰装飾は、庭のデザインは?金属器や現代のアートまで見ましたが、少なくとも私の持っている本では、月は発見できなかったのです。月はイスラムのシンボリックなモチーフではないのかも、、。むしろ、中央アジアの刺繍やタイル等では、太陽モチーフの方が例があります。 (miriyunさんのブログで、以前東京モスクのカリグラフィーの中の三日月が紹介されていました。貴重な例に感謝)。

では、どうしてイスラムって「月と星」というイメージがあるのかな。 ・・・「イスラム教のシンボルは、三日月と星、緑と赤である。イスラム国家40カ国の内、18カ国の国旗は三日月と星を使っている。月は満月ではなく、必ず三日月である。三日月は発展を表し、星は知識を表す」、「国旗に三日月と月をデザインしているのは、トルコ、アルジェリア、チュニジア、シンガポール、マレーシアなどのイスラム国である。これらのもとになったのは、トルコの旗である」。そうか、国旗でした

さらに、「イスラム諸国は国際赤十字の十字のデザインの旗を嫌い、1876年にトルコの提案で別の旗として赤新月を作った。赤十字加盟178ヵ国のうち30ヵ国がこちらを使用している」。ニュースなどで見る「赤新月」。国旗と赤新月、、なるほど。、、ということは、わりと新しい概念なのかも?

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(トルコ国旗。三日月と星の組み合わせ。その後のイスラム国の国旗に影響)
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(トプカプ宮殿(イスタンブール)内壁面・イズニクタイルのパネル。聖なる巡礼地を描き巡礼を促す。尖塔に三日月/『THE ART OF ISLAMIC TILE』より引用)

こうなったら、もとになったというトルコ国旗になぜ月と星がシンボルとして使われ始めたか調べようと思ったのですが、諸説あってよくわかりません。(なんだか後からつけたような感じが、、)。
・「三日月と星の組み合わせはオスマン・トルコ帝国を築いたオスマンベイが見たという“三日月と星が空に大きく広がる夢”からきている」
・「1448年のコソボの戦いで流された血の海に三日月と水星が映って見えたとされ、それを皇帝が国旗とした」
・「三日月と星は古代ギリシャの都市ビザンチンのシンボルとして使われていた。1453年オスマン帝国に滅ぼされたが、月と星のシンボルだけは命脈を保ち、オスマン帝国のシンボルとして採用された」
・「オスマン帝国初代皇帝の夢の中で彼の胸から出てきた三日月と星が拡大し、オスマン帝国のコンスタンチノーブル征服の予言を知らせた」
・「三日月と星の組み合わせはイスラム教のシンボルとされるが、小アジアではイスラム教の普及以前から使用されていた」  、、う〜ん。

イスラム美術の中の月と星を探した私が気づいたこと、「イスラムって科学なんだ」。天文学へのあくなき追求や成果への言及、天文学をテーマとした細密画のゆたかな創造性、天文台や天球儀の美しさ、、イスラムは月を淡く情緒的に愛でるよりも、天体を探求し、それを美しく表すことに情熱を傾けたのでは?

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(16世紀オスマン朝の細密画。解説をみると、実際におこなっていた天文学実験の様子のようです/『THE WORLD OF ISLAM』(THAMES&HUDSON)より引用 )

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(左上=9世紀の天体観測儀、右上=サマルカンドにあるウルグベクの天文台、下3点=星座の本のイラスト、10世紀/『THE WORLD OF ISLAM』(THAMES&HUDSON)より引用 )

その意味では、月への愛好も充分にあり得るのでしょう。でも、国旗等ではアンチ欧米が前面に出ている気がして、どうも引いてしまいます。「日差しが強烈なので太陽を嫌う、だから月なのだ」という見解も、どうもピンときません。

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(ブハラタイル。八角星。レンガの中の青が印象的!)

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(シャーヒズインダ(サマルカンド)。星の形がクリアなタイル装飾。星はけっこうあるが月は見ない)

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(ブハラのウルグベクマドラサのタイル装飾。太陽と人面が有名。月ではない)

月光写真の石川賢治さんが、「月の見え方は国によって違う。日本では少し黄色くてやさしいイメージ」と語っていました。月、月とイスラム美術、、まだまだわからないことが多いですが、、ひとまずは、きれいな月でも見ましょうか!
by orientlibrary | 2009-09-30 16:52 | 社会/文化/人