イスラムアート紀行

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いろいろあるからおもしろい、ブハラの不思議建築

●ウズベキスタン・ブハラといえば中世の風情漂う旧市街の街並が魅力。そんななかで異色なのが、ブハラ・ハーン国の離宮として1911年に建てられた「スィトライ・マヒ・ホサ宮殿」。ネット等で見てみると、「ロシア文化に心酔していたハーンの趣味で建物はブハラ・ロシア折衷方式で建てられています」とあります。

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(スィトライ・マヒ・ホサ宮殿)

●ティムール朝の装飾タイルやムガルの模様、イスラム建築の洗練された精緻な美しさが好きな私、この宮殿にはグッと惹かれるものはありません。でも興味は持ちます。どうしてこうなったのかな、という興味ですが。

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(スィトライ・マヒ・ホサ宮殿)

●ロシアの様式は疎くてわかりませんが、外観はそんな感じの部分もあります。またシャンデリアのある謁見の間はゴテゴテとしてロココ風の匂いもあります。でも、バロック、ロココ大の苦手の私ですが、そんなに拒否反応も出ませんでした。たぶん、模様のせいではないかと思います。

●この時代のロシアはヨーロッパ志向真っ盛りでしょうから、ロシア様式の中にはヨーロッパ趣味が入っているはず。しかし、そのヨーロッパ趣味の中にはヨーロッパ人が影響を受けたインドや中国などアジアのテイストが入っているはず。つまり回り回って、ブハラのこの宮殿は、アジアが色濃くあるのでは、と思いました。だから私も意外と大丈夫だったのでしょう。

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(スィトライ・マヒ・ホサ宮殿。ミヒラーブ形の上部はイスラム装飾の代表である「ムカルナス」(鍾乳石飾り)が)

●そして、具体的に言えば、そのアジアとは、、インド・ムガル朝(〜ムガルが影響を受けたペルシア)です。スィトライ・マヒ・ホサ宮殿の模様の中に、かなりムガル的なものを感じます。代表的なモチーフとしての花瓶に入った花、ミヒラーブ、パルメット、幾何学模様などです。ムガルの創始者バーブルはフェルガナ生まれ。インドに遠征し、ムガル帝国を建国しました。しかし生涯、中央アジアの地を懐かしんだと言われます。こういう形で影響を与えているとは、バーブルも意外かも。

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(スィトライ・マヒ・ホサ宮殿)」

●スィトライ・マヒ・ホサ宮殿の壁面には、イスラム建築に見られる漆喰装飾(ガンチ)の浮彫り、ニッチになったミヒラーブ形の装飾、花瓶に入った花束の絵などを見ることができます。最盛期ムガルのものと比較するからなのでしょうが、少し粗いと感じるのは仕方ないかも。

●おもしろいのは、花束の模様です。↓こんなの見たことありません。が、連想するものはあります。インド・カシミールのペーズリー模様です。ペーズリーはペルシアのボタ(花模様)から、次第に花が傾ぎ、まとまって塊になり、勾玉状に変化していったという見方があります。ヨーロッパで人気を博し、後の生産地であるイギリスの地名がつけられました。この模様、花の密度からいうと、強いて言えばカシミール風!?でも、赤と緑が多用され描き方は中国風な印象も。それともロシアのモチーフに、これに近いものがあるんでしょうか?謎です。

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(スィトライ・マヒ・ホサ宮殿)

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(ペーズリー〜花模様。カシミールショールのボーダー部分、18世紀/『MUGHAL DECORATION 』 より引用)


●ムガル的といえば、石のスクリーン「ジャーリー」(シンプルな模様ですが)もあります。

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(スィトライ・マヒ・ホサ宮殿)

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(itimid-ad daulas’s tomb。これぞムガルの美!壷や花瓶、花、糸杉のモチーフ、象嵌装飾、細やかな幾何学模様の石のスクリーン、繊細優美!/『MUGHAL DECORATION 』 より引用)

●また、八角星を中心においた幾何学模様もティムール朝やムガル朝をはじめイスラムの装飾でよく見られるものです。

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(スィトライ・マヒ・ホサ宮殿。ハーンの写真。重厚なカオスとでもというのか、、全体になんとも言えない空気感)

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(ラホールフォート、八角星と幾何学模様。ラホールフォートの黄色のタイルは独特。テラコッタに映えます/『MUGHAL DECORATION 』 より引用)

●結局、、この建物、わかりません。以前、南インドのマドゥライにあるパーンディヤ王国時代のティルマライ・ナーヤカ宮殿について書いたことがあります。「インド・サラセン様式」(ムガルのイスラム建築の要素を取り入れたコロニアル建築)の建物だそうなのですが、壮大かつコテコテとした不思議な、退廃的匂いの漂う宮殿でした。

●スィトライ・マヒ・ホサ宮殿は、もっとカラッとおおらかな感じ。深く考えず、好きなものをいろいろと取り入れてみた感じがします。そこがおもしろいし、興味の持てる点でした。

●しかし、ブハラも9世紀の端正なサーマーン廟から、中世建築物のタイル装飾の豊穣、そして20世紀初頭の不思議建築まで、いろいろあります。気候のいいときに、ゆっくりと滞在したい街です。


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(サマルカンド、グルエミル、天井の華麗な装飾。絢爛豪華だけどゴテゴテ感はない。洗練ってこういうものではないかなと思います)
by orientlibrary | 2009-08-05 14:14 | ウズベキスタンのタイルと陶芸