イスラムアート紀行

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磁器製人形に見る中央アジアの民族の衣装や暮らし

バロック、ロココあたりが苦手な自分の嗜好、よくわかっています。ひどいときには、気分が悪くなってきます。ヴェルサイユ宮殿などヨーロッパに輸出された蒔絵の展覧会(サントリー美術館)も、蒔絵だからと油断したら、ゴテゴテのクネクネに、5分も持たずに外に出る有様。

そんな私なので、不安を抱きつつ、でも磁器を見てみたいという気持ちで思い切って出かけたのが、『エカテリーナ2世の四大ディナーセット 〜ヨーロッパ磁器に見る宮廷晩餐会〜』(東京都庭園美術館)。これが、良かったんです。

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(展覧会チラシより)

私にとってロシアといえば、中央アジアに進出してきた帝国であり、ソ連邦として中央アジアを組み込んでしまった社会主義国であり、トルコを脅かし、シベリアの少数民族のロシア化を進め、アフガニスタンに侵攻し、、私に親しみのある国や民族の歴史を思うと微妙な感情も。

しかもエカテリーナさんの頃の歴史的背景には無知。でも、、展覧会は十分に楽しめました。ひとつには、民族的な要素が混ざっていたことがあると思います。展示の主役は四大ディナーセットですが、多彩な磁器製彫像があり、ロシア周辺諸民族の男性、女性が細密に表現されていました。

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(シリーズ<ロシアの諸民族>/カザンのタタール人の男、女/展覧会図録より引用)

「シリーズ<ロシアの諸民族>」は、18世紀末ロシアにおける様々な民族を代表する人々の職業の特徴と生活様式をリアルに表現した磁器製彫像(高さ20㎝前後)。<カザンのタタール人><カムチャッカ原住民><フィンランド人><エストニア北部の女>など、色鮮やかな磁器の人形に目を奪われました。

このシリーズはサンクトペテルブルグ帝室磁器製作所で制作されましたが、その元になったのが、『ロシア帝国に住む諸民族、さらにその生活儀礼、信仰、習慣、住居、衣装など記憶に値する諸事の記録』(1776-1777)という本。その中の色刷りの挿絵(著名で専門的な旅行家や学者の写生スケッチに基づき描かれていた)を立体的に表現したものなのだそうです。

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(シリーズ<ロシアの諸民族>/左=エストニア北部の女、中=ロシア人の農婦、右=キルギス人の女/展覧会図録より引用)

図録の解説には、「小さな丸い台座に立つ男や女の彫像に塗られた様々な色は、民族衣装の色に忠実な色合いであった」 「この磁器製の「人形」を詳しく見ていくと、各彫像の諸要素を入念に具体化しているのが明らかになる。例えば、<エストニア北部の女>におけるかぶり物の飾り紐の綿密な型どり、<カザンのタタール人の女>の衣装のビーズの細かい仕上げ、<カムチャッカ原住民の女>における毛皮外套の毛皮の入念な点描などがそうである」と記されています。

この丹念さを見ていて、キルギスのイシククル湖近くの博物館で見た陶製地図と現地の人を描いたと思われる絵付け陶板を思い出しました。名前は忘れましたが、ロシアの探検家を記念した博物館。記録という面では、探検や調査は功績がありますよね。

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(キルギスの博物館にて。探検ルートと年代が一目でわかる陶製地図。列強諸国の秘境探検が盛んだった頃ですね)
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(キルギスの博物館にて。探検家によるスケッチから制作されたと思われる絵付け陶板。上の地図の回りにあるもの。ラクダなどの動物や光景も。全部撮ってくればよかった、、!)

「シリーズ<もの売りと職人>」も魅力的でした。当時の様子を彷彿とさせるような、臨場感のある人形です。このシリーズは特別な人気を博したそうです。そして、「ロシアの諸民族シリーズ」と並んで、外交的な贈り物として後の時代にも繰り返し生産し続けられたとのこと。ロシアが大国であることを誇示するために、民族が利用されているのではありますが、、そこは複雑な気持ちになりますが、、

もの売りと職人シリーズでは、民族衣装に加え、それぞれの職業上の特徴が描かれています。図録の解説から引用すると、「例えば、<アイスクリーム売りの男>は左肩の後ろに桶を持ち、<ミルク売りの女>は右手に水差しを持ち、<ケシの実売りの女>はベルトに木箱をつけ、<エゾライチョウ売りの男>は背中に籠を背負い左手に野鳥を持っている」。図鑑みたいです。

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(シリーズ<もの売りと職人>/左=アイスクリーム売りの男、右=エゾライチョウ売りの男/展覧会図録より引用)

また、「この彫像のシリーズのテーマは18世紀における民衆向けのマジョリカ焼き(軟質磁器)の小像に近く、同時に民衆用の陶器製の玩具を作ってきたロシアの陶工たちの伝統を受け継ぐものであった」(図録解説より)。なるほど、陶製の玩具という伝統があったんですね。

「彫像の素地はマジョリカ焼きの地色に似せて黄緑色や褐色に塗られている。彫像の背後には、焼成時に像がへたらぬように支えの役割をする岩の塊が実物に似せて色づけされておかれている」「入念な仕上げにも注目すべき。小さく切り抜かれ濃茶色に塗られた口はあたかも彼らが呼び声を発しているかのよう」。20センチくらいの小さな人形なのに、存在感がありました。

この展覧会の主役はディナーセット。私が疎いこの時代、この地域ですが、図録の解説を読むうちに興味がわいてきました。磁器を見て、「これは粘土だ。我々は粘土には関心がない」と言っていたロシアが、ヨーロッパの生活様式を取り入れる努力を重ねるうちに、磁器に熱中していくのです!できれば次回書いてみたいです。
by orientlibrary | 2009-06-22 23:18 | 美術/音楽/映画