イスラムアート紀行

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イスラムの美・幾何学模様。タイルのティムール朝、石のムガル朝

ムガル建築、装飾、とくに初期は、ティムール朝中央アジアのタイル装飾や建築様式の影響を感じます。インドと中央アジアの模様について、自分なりにスタディできればと思います。今回は第1回として、幾何学模様、八角星のあたりの写真を探して比較してみました。


◆ ムガル朝、石の幾何学模様 ◆
インド・ムガル朝・・・出自としての中央アジア(〜モンゴル)、舞台としてのインド、文化的な憧れであったペルシア。私の好きな世界が3つも重なった王朝。その植物愛好趣味、建築への傾倒、優美で多彩な染織、庭園、細密画など、惹かれるものがたくさんあります。

でも建造物となると、微妙です。建造物の主要な素材である赤砂岩を重暑く感じてしまうのです。(白い宝石箱のようなタージ・マハルは素晴らしいですし、石造建築の力強さには感嘆しますが、、)。石がメインですから、私の大好きなタイル装飾も一部をのぞきほとんど見られません。

なのに、何かアピールしてくるものがあります。模様です。建築物は、イスラムの美を体現する幾何学模様、そしていかにもインドらしい生命力あふれる植物文様に覆い尽くされています。石の重さや赤色の暑苦しさを緩和するような端正な模様、まさに「インド・イスラム」。独特です。

インド全土の建築を、豊富な写真とともに丹念に紹介した名著『インド建築案内』(神谷武夫さん/TOTO出版)。どうやってこんな詳細に、と圧倒されます。同書より、中央アジアからの影響、イスラムとヒンドウーの融合などについて、部分的に引用させていただきたいと思います。


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(シカンドラ/アクバル廟/1613年/以下3点も同じくシカンドラ)


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・・・  「インド亜大陸のほとんどを制したムガル帝国は、その首都をアーグラとデリーに置いた。(諸宗教の融和を図った第3代のアクバル帝は)、建築においても、イスラムとヒンドゥの美学の総合を意図し、ヒンドゥ的な柱・梁構造に基づいた独特のイスラム建築を造り上げた」 (『インド建築案内』・ウッタル・プラディーシュ州の項)

・・・  「ムガル朝で最も発達した造営物は、広大な四分庭園(チャハル・バーグ)の中央に墓廟の建つ庭園である。それはしばしば王の存命中に造営が始められ、完成すると一般に公開されて公園となるのだった。(フマユーン廟は)高さ38mのドーム屋根を戴き、赤砂岩と白大理石の組み合わせで仕上げられた。これが以後のムガル朝の廟建築のプロトタイプとなる」

・・・  「ムガル朝はモンゴル出身であるから(中央の広間に模棺が置かれ、本当の棺は地下にある)墓形式も中央アジアから伝えられたのである。屋根と天井を別にする二重ドームもまた、サマルカンドやブハラなどの中央アジア起源であるが、こうすることによって外観がより立体的、彫刻的となる。これは絵画よりも彫刻を好み、建築も彫刻のように造りたがるインド人の民族性にマッチした」 (『インド建築案内』・フマユーン廟の項)


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・・・  「シカンドラ/アクバル廟/1613年=石を木のように用いる石造建築こそが、ヒンドゥ寺院をはじめとするインドの伝統的な石造建築の技法であった。アクバルはこれを積極的に採り入れて、インド以外のイスラム世界では見ることのできない様式で、自身の廟とファティプル・シークリーの都市を建設したのである」 (『インド建築案内』・シカンドラの項)

・・・  「インドにとってイスラムは、外来の進んだ文明ではあったが、それに匹敵する伝統文明をすでにもっていたからこそ、イスラム支配の時代にも伝統宗教や芸術が生き延びることができたのである。そして両者の融合としての建築様式を発展させたアクバルは、まさに文化の擁護者であった」 (『インド建築案内』・ファティプル・シークリーの項)


◆ ティムール朝、タイルの幾何学模様 ◆
ティムール朝のタイル装飾は、流麗で優美な幾何学模様や植物模様で、見るものを魅了します。モザイクタイルの精度はミリ単位。緻密な仕上げの構成単位が反復することにより、無限の広がりを感じさせます。


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(アフマドヤサヴィー廟/初期建造は1374年。ティムール朝初期の建造物として名高く、現在中央アジアに残っている歴史建造物の中で最大級。高さ44メートル、ドームの直径は22メートル/壁面モザイクタイル装飾、幾何学模様)


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(ブハラ/モザイクタイル、幾何学模様ディテール。デザインの複雑さ、細密さ、クリアな発色、バランスなど、見とれます)


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(マゴキアッタリモスク/ブハラ/初期建造は10世紀とも言われる古いモスク。ファサード壁面(制作年代はわかりません)。タイルはありませんが、構成が見えやすいと思います)

焼き物を刻んで集成するタイルモザイクは、想像を絶する手間ひまがかかるはず。それを軽々と見せるティムール朝のタイルには感嘆します。やはりタイルはすばらしい。しかし、石の象嵌というのもすごい。やがて色石による見事な象嵌が、タージマハルを華麗に彩ることになります。
by orientlibrary | 2009-05-27 00:47 | タイルのデザインと技法