イスラムアート紀行

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イスラムタイル、青の二重奏

うすもも色の桜の花びらがひらひらと舞い散る様は、まさに日本の春。でも、「イスラムアート紀行」ですから、少しイスラム風の香りが出せないか、試みてみました。ミフラーブ風の装飾がほどこされたガラス戸超しの桜です。

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桜色からパープルへのグラデーション、好きな色です。夕暮れのブルーグレーも好き。でもやはり、色として強く迫るのは私にとってはブルーです。イスラムタイルに惹かれる理由のひとつは、青という色の魅力であることは確かです。

世界最古のタイルと言われるエジプト第3王朝(BC2650年頃)のファイアンス(石英の粉を練り固めた胎土に天然ソーダと酸化銅を混ぜて施釉したもの)は、トルコ石のようなターコイズブルー。

メソポタミアでは、紀元前1700年頃の文書に、高度に発達した釉薬の知識があったことが記されているそうです。バビロニアやアッシリアでは、緑釉や青釉が彩釉レンガや飾り釘などに使用されました。バビロニアのイシュタール門(BC1000年頃)はコバルトブルーの彩釉浮彫レンガが強烈な印象です。

その後長い時をおいて、11世紀のセルジューク朝頃からしだいにターコイズブルーのタイルが建築装飾に使われるようになります。13世紀中頃からのイルハーン朝ではラピスラズリの意味を持つコバルトブルーの「ラジュバルディナ手」の技法が開発されました。陶器にも装飾タイルにも、青が使われるようになっていきます。

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(イラン国立博物館にて撮影。詳細不明。浮彫り、ラスター彩に見える地模様、カリグラフィー、二つの青のミックスなどがきれい。惹かれます)

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(イラン国立博物館にて撮影。詳細不明。大胆な二つの青使い)

もともと、西アジアでは、高い温度で焼くことのできる粘土や燃料となる脂分の多い木材が少なく、低い温度で焼ける釉薬を利用していたことが青、緑、黄色などの色遣いにつながったと言われ、材料の制約から青が多用された面はあると思います。けれども11世紀頃から、より積極的に青が選ばれ始めたような気がします。

その背景として、空や水の色、そして聖なる色である青を愛好するイスラムの影響はあるように思います。(「イスラムと青」については文末の過去記事をご参照ください)。

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(空、水。深々と清冽な青の魅力。キルギスのイシククル湖。向こうに見えるのは白き天山山脈の連なり)

さらに「美の流行」が背景にあると想像します。イルハーン朝の頃、イランのカシャーン付近ではコバルト顔料が採掘され、白磁藍彩陶器が作られます。そして、このコバルト顔料は中国に輸出され、中国では鮮やかな染付(青花)が作られて世界に輸出されます。世界は染付に熱狂。このグローバルな美のトレンドが、もともとあったイスラムの青への嗜好を、さらに強く刺激したのではないかというのが、タイル好きの私の想像です。

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(ホラズム王国のタイル。トラベク・ハニム廟。1370年。赤茶色や黄色も印象的ですが青も強いです)

ティムール時代の都サマルカンドは「青の都」と呼ばれ、その後のイスファハーンで、イスタンブールで、青のタイルが建物の外部、内部を埋め尽くすようになりました。(イスラムの色、シンボルカラーは、本来は緑です)。

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(ティムール期のタイル。アフマドヤサヴィー廟。二つの青のバランスがよく安定)

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(ティムール期のタイル。アフマドヤサヴィー廟。二つの青を使ってかわいらしい花模様)

そんなイスラムタイルの青を見ていて、気になることがあります。ターコイズブルーとコバルトブルーの勢力図です。妙な言い方ですが、時代と地域による両者の比率の変化に興味があります。初期のタイル装飾はターコイズブルーが多く、おおらかで素朴な印象。でもある時期からラピスラズリのような強い美しさを持つコバルトブルーが増えてくるように思います。

専門的なことはわからないのですが、染付の世界的な流行以降、陶器の世界でコバルトブルーの人気、価値が高まっていったのでは?イルハーン朝頃からその兆しがあり、ティムール期では両者がほど良いバランスになり、その後コバルトブルーが拡大していくのでは?、、そんなイメージを楽しんでいる私です。

さらに、次のような個人的な印象があります。<ターコイズブルー=素朴で質実な美=遊牧民的感性/コバルトブルー=華やかで高貴な美=王朝的感性>。コバルトブルーはヨーロッパでは「ロイヤルブルー」とも言われます。バロック的な16、17世紀にはふさわしい色でしょう。

さらに、より個人的な感覚では、<ターコイズブルー=チュルク的/コバルトブルー=ペルシア的>とも感じます。ただし時間軸は重要で、タイル装飾初期から発展期という流れをかけ合わせて考える必要があり、やはり時代の美意識の方が動機としては大きいのでは、と思っています。

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(ヒヴァ陶器。ヒヴァタイルの模様を思わせる。二つの青と白で軽快な印象。各産地とも陶器とタイルは共通項が多い)

今回は、このふたつの青が使われているタイルや陶器の写真を選んでみました。いろんな想像を楽しみましたが、ふたつの青は、いつの時代も、良きライバルであり、良き友だちである、そんな気がします。

<ブログ内関連記事>
  「イスラムの青。コバルトとターコイズ」
  「きらめくタイルが映す天空への憧れ 聖なる青」
  「紀元前13世紀の施釉レンガ@チョガ・ザンビル」
by orientlibrary | 2009-04-10 21:42 | タイルのデザインと技法